Syrup16g全曲レビューその49「汚れたいだけ」です。
日常生活でダウナーな気分になった時に本気で自分を救ってくれるのって
同じくダウナーな表現なんだなって最近より強く思うようになった今日この頃です。
人間性の問題でもあるとは思うんですが
そういう時って楽観的な思想や言葉を一切受け付けたくなくなる節があったりして・・・
そんな時じゃなくても五十嵐さんの歌って云うのは自分の心に澱みなく届いてくれるもんなんですけどね。
Syrup16gの楽曲の中でも半ば決定打的な印象のある楽曲です。
汚れたいだけ アルバム「coup d'Etat」収録
楽曲のテンポとしてはそこまでスピードのある曲ではないんですけど
不思議と聴く度に性急さを感じるっていうか
密度の濃い詞がどんどん溢れ出す様に流れてくるので、それもあって速い曲のような錯覚を受けてしまう。
それはきっとこの曲で歌われている内容に心からシンパシーを感じてしまうからなんでしょうけど
ワンフレーズワンフレーズ毎に核心を突く言葉が並んでる上に、
サビに於ける虚脱感もかなりのもので
そのどこを切ってもピリピリするようなシリアスな空気感の妙は
ここまで真剣に人生や音楽と向き合ってる、その全身全霊って言葉が似合うような気合の程に
何度聴いても心動かされるような・・・私にとってはそういう曲ですね。
無関心で通り過ぎる事の出来ない、そんな曲だとも思います。
汚れたいだけ、っていうのは自虐的で退廃的な意味合いや要素を感じさせるタイトルですけど
それはつまりは素直なまんま、純粋なままでいることを拒むって云うか
他人と違う事を余儀なくされても
自分の気持ちの赴くままに生きていたい、他人の色に美しく染まる事を拒む
多少無様でも惨めでも、汚れててもどうしようもない自分を保っていたい
そう考えると実は普遍的なタイトルでもあるなあ、とか個人的には思えるのと同時に
本当にそのまんまの、退廃的な、陰に隠れて生きていたいって意味合いや
誰もが思い描くような幸せから反れていたいだとか
様々な意味合いを想像出来たりもして
或いはやさぐれだったり、強がりだったり、本音の裏返しなんじゃないか、とも思えたり
もしくはその全てが含まれてたり?とか思えたりもして、めちゃくちゃ秀逸なタイトルだなあ、と。
例えば「死にたい」って言葉一つ取っても本当にそう考えて言ってる人あんまいなくて
ただ単純にフラストレーションを吐き出すって目的が主だとしたら
これ以上に真っ当な事なんて実はないのかも、ですね。
【友好的なのは心の奥に本当の事を隠すから】
真理と言えば真理なんですけど
ある種身も蓋もない歌詞である事もまた否定のしようがない
けど、誰もが目を背けてる事をこうやって歌にしてくれる事は嬉しかったりして・・・。
誰もが本音の本音は絶対に隠して仮面をつけたままの関係を余儀なくされる
その過程で受けるストレスも半端なものではなくて
だからこそ汚れたくなる
純粋でいる事を拒みたくなる節も絶対にあって。言いたくても言えない本音の数々
偽らずに生きることは確実に無理で偽る事を強いられてる現状に嫌気が差すことばっかりで
その内に中々他人の事を信じれなくなる感情も強くなったりして
でも、そんな中で必死に生きていかなきゃ、って現実もこの曲では歌われているとは感じます。
【無力をなげいては誰に言い訳したいんだろう 卑怯な奴だな】
無力であれば未熟であれば他人から許される
それが免罪符になるなんて考えは愚かでしかなくて
逃げてるだけに過ぎなくて
本当は他人よりも頑張れない人間っていう事実からは目を背ける事なんて出来ない
自分を卑下する事によって「しょうがないです」なんてアピールをしてる暇があったら
少しでも努力しろよ、っていう
厳しくも身に沁みるメッセージ・・・じゃなくてこの場合は歌い手本人に向けられている言葉なのか。
でも、彼自身に向けて自戒の念を感じさせる歌詞だからこそ、
押し付けがましさがなくこっちにも突き刺さる感覚は必ずある、とは思います。
【心のスピードに振り回されっぱなしだよ 大人になれなかった】
人間、自分の心をコントロールする事が一番難しい。
何度言い聞かせても
納得させようとしても
無理なものは無理だし、最も振り回される確率が高いのは間違いなく自分の心であって
だからこそ過去の曲で「広い普通の心をくれないか」って歌ったんだろうなあ・・・って思います。
「これはダメだよ」って自分の中で認識してたとしても、
結局は大人になれずに
子供のようなワガママばかりが噴出して
また振り出しに戻ったり、自ら振り回して誰かとの関係が終わったり
大人になることもまた大人になってからも延々と悩まされるハードルの一つである事も確か。
そんな現実を確認させるようなフレーズが個人的に一種の救いになったりもします。
【脳が思考の停止を始めたらそこから何か落とした】
ただ、やっぱりこの曲もペーソスに浸らせるだけの甘い曲ではなくて
そうやって考える事を止めて
自分の殻の中に逃げ込んでる内に
大事なものを落としていく
気付かない内に大切なものを失っていっている、って体験談のようなフレーズを交えながら
実直に歌っている、それは一種の反面教師的なフレーズにも感じられて
そうやって言い訳だったり自分に溺れる事に慣れていくのは危険だし人間としての死を意味する
精一杯の嘆きの裏で本当にこの曲で歌いたいことっていうのはそんな警告っていうか
リアルなサインなのかもしれません。
要するに考えたり、悩む事を忘れたら本当に失くしてくだけ、っていう。
そんな自身の痛みも迷いも失敗も、そしてクタクタになった希望も込められている
真摯に鳴らされている逆説的アジテーション・ソングって最終的にはそんな印象に変化する曲ですね。
いずれにせよ、心のド真ん中に触れられるだけのポテンシャルは十二分に感じられる
そんな曲だとも私的には思える。隠れた名曲です。世間的には、って意味で。
【小学5年から 人生なめくさってるんだ】
美談も、嘘も、まやかしも一切この曲には存在していない
本当の事が本当の言葉で歌われてるだけの、人間らしいシンプルな一曲。
でも、含みが一切ないからこそ楽曲だけは純粋に聴ける。
そのコントラストもまた素晴らしいですよね。