オールドゲーマーの、アーケードゲームとその周辺の記憶

コインマシンやギャンブルゲームやカジノの歴史的エピソードとか、時々カジノ旅行記とか、たまにスポーツやマンガとか。

「ファロ(FARO)」シリーズの記録(1) NEW FAROとFARO II

2023年05月28日 23時56分16秒 | スロットマシン/メダルゲーム

前回、前々回で、「拙ブログでは従来より初の国産メダルゲーム機は「ファロ」と述べてきたが、それは誤りで、『シルバーフォールズ』が正しい」と訂正いたしました。この結論に至るきっかけとなった情報を下さった方は、同じ時期にまた別の写真も送って下さっていて、それは私が国産初と思い込んでいた「ファロ」とはまた別の「ファロ」でした。

「ファロ」は1974年に初代が発売されて以降、80年代までにいくつもの後継機が作られているのですが、ワタシの記憶ではどんな機種がいつ発売されたかが極めてあやふやになってしまっています。ちょうどいい機会なので、今回と次回の2回に分けて、「ファロ」シリーズについて記録しておこうと思います。

まず、先述の送っていただいた写真を見てみます。

「シルバーフォールズ」が国産初のメダルゲーム機である証拠を見せてくださった方から同じ時期に送られてきた写真。大型ゲーム機の部品に見える。

この写真にはセガの大型メダルゲーム機の部品と思しきもの二点が写っており、そのうち手前の方の左上には「NEW FARO」と書かれています。

この画像を送ってきてくださった方は、「『ファロ』の次は『ファロ II』だと思っていた。自分の持つ資料には『NEW FARO』は見当たらないのだが、何か心当たりはないか」とおっしゃっていました。しかし残念なことに、ワタシもこれまで「NEW FARO」の名を見聞した覚えがありません。

ワタシもこの方と同様、セガが1977年夏に売り出した「ファロ II (FARO II)」が「ファロ」の二代目と認識していました。初代は、(表面上は)機械動作のない「電光ルーレット」だったのに対し、「ファロ II」は大きな円盤を回転させて目を決定します。また初代は筐体の背面を壁に向ける前提の構造で5席でしたが、「FARO II」は回転盤を表裏両面から見えるようにして、片面に3席、合計6席のセンターピース(フロアの中央に置ける)構造でした。さらに、初代の盤面は36分割で最大倍率は30倍だったところが、「FARO II」の盤面は72分割で最大倍率は60倍にパワーアップしていました。

ファロIIのフライヤー。

手持ちの資料を調べてみると、セガが1977年5月に発行した価格表には「ファロ」のみ掲載され、翌1978年5月発行の価格表では「ファロ」と「ファロ II」が掲載されています。と言うことは、「NEW FARO」は「ファロ II」よりも遅い時期の製品と考えられそうです。そうとなれば当たるべき資料は1978年以降に絞られ、さらに後継機が出るまでには少なくとも1年くらいは間隔が空くだろうと推察して、ゲームマシン紙の1979年7月1日号から順にゲームマシンアーカイブで虱潰しに追っていったところ、1980年9月1日号のセガの広告に「ニュー・ファロ」を発見しました。

ゲームマシン1980年9月1日号に掲載されたセガの広告から、「ニュー・ファロ」の部分。

これを見ると、頂いた写真ではわからなかった筐体は「FARO II」の使いまわしのようです。広告には「3人用」とあります。実は「FARO II」も片面のみ3席バージョンは用意されていたので、「NEW FARO」は、おそらく売価を抑えるために、その3席仕様で作られたものと思われます。

そしてゲームマシン紙の次の10月15日号では第18回AMショウの特集記事があり、その「各社出展内容一覧」にも「ニューファロ」の名前がありました。

ゲームマシン1980年10月15日号の「各社出展内容一覧」から、セガの部分。「④メダルマシン」の中に「セガ・ニューファロ」の名が挙がっている。

時期が特定できれば他の資料でも見つけることは簡単で、「'80遊戯機械総合年鑑」にも収録されていることを発見しました。この年鑑は、冒頭で「79年10月から80年8月までの間に製造、販売、あるいは発表された機種を収録(要旨)」としており、「ニューファロ」のゲームマシン紙の広告が80年9月1日号であったことを考えると、ギリギリ滑り込みでの収録であったようです。

「NEW FARO」がお蔵入りとならず世に出たことは確かなようですが、やはりワタシは見た記憶がありません。1980年と言えば、スペースインベーダーに端を発するビデオゲームブームによりメダルゲームの営業面積の縮小傾向がまだ続いていた時期だったので、3席限定で売価を抑えてもなお、普及する余地がなかったのかもしれません。その結果、当時現役だった我々マニアですら知るチャンスがなかったのだと思われます。

(つづく)


1976年の業界誌から、謎のメダルゲーム機4つ

2023年02月12日 19時10分51秒 | スロットマシン/メダルゲーム

ワタシは、戦後以降の日本のゲーム場に設置されていたゲーム機であれば、たいていは実際に遊んだか、もしくは見た記憶があるか、最低でも何かの資料で知見を得ていると思っていたのですが、ときどき古い資料に全く知らないゲーム機が出てくることがあります。

未知のゲーム機があること自体はさほど驚くものではありませんが、その素性が何もわからないのが癪で、少なくともそれがいつ、誰が作ったのかだけでも知りたくなります。

今回は、アミューズメント産業76年4月号に掲載されていた写真から、そのような謎のメダルゲーム機を4機種をとり上げます。もし、ご高覧くださっている方々の中でこれらについて何かご存じのことがございましたら、コメント欄にてご教示いただけますと大変ありがたく存じます。

その1:ヤッジィ(YATZY)

日比谷のセガロケ「ゲームスポット日比谷」の店内とされる写真に写る「ヤッジィ(YATZY)」。アミューズメント産業76年4月号10ページより。

「ヤッジィ」は、6個のダイスを使ったゲームのようです。似たようなゲームに「ヤッツィー(Yahtzee)」があるので、てっきりその商標逃れのネーミングかと思いましたが、念のため調べたところ、ウィキペディア英語版に「(ヤッジィは)ヤッツィーとは似ているが異なるゲームなので混同しないように」と述べられていました。同記事の他言語版にはデンマーク語、ノルウェー語、フィンランド語、スウェーデン語と北欧の言語ばかりが並んでいるので、この機械はヨーロッパ製なのかもしれません。

ウィキペディア英語版の遊び方の説明を読むと、ゲームの進行はヤッツィーと良く似ており、これをエレメカで実現するのは結構大変そうです。1976年ともなればゲームの電子化が進んでいるので、この「ヤッジィ」もおそらくSS機なのだとは思います。思考と運のゲームとして「COOL 104」のような楽しみ方ができそうで、やってみたかったゲームではありますが、ワタシはこの機械をロケで見たことが無いし、他の資料でも見たことがありません。どなたかこの機械にご記憶のある方はいらっしゃいませんでしょうか。

【2023年2月14日追記】セシリアさんよりコメント欄にてYoutubeにプレイ動画があるとの情報をいただき、これにより「ヤッジィ」はデンマークの「CompuGame」というメーカーによるものであることが判明しました! セシリアさん、本当にありがとうございました!!


その2:DOUBLE OR NOTHING

こちらも前述ヤッジィと同じく日比谷のセガロケ「ゲームスポット日比谷」の店内とされる写真に写る「DOUBLE OR NOTHING」。アミューズメント産業76年4月号11ページより。

ゲームのタイトルとゲームの面から、ゲーム性自体は1975年にセガがリリースした「マッチマップ」(関連記事:初期の国産メダルゲーム機(1) マッチマップ(Match'em Up, SEGA, 1975))と同様のものに見受けられます。

ゲーム面の拡大図。明るさとコントラストを調整すると、かろうじて「64、32、16、8、4」と描かれていることがわかる(赤枠内)。

「マッチマップ」が出た後、その類似品として「ビッグチャンス」というゲーム機も出ましたが、どちらも1人用のアップライト筐体でした。しかし「DOUBLE OR NOTHING」は3席が繋がっており、しかもプレイヤーは椅子に座ってプレイする筐体になっています。このゲームは「マッチマップ」の影響を受けて作られたのか、はたまたまさかマッチマップの元ネタだったりするのでしょうか。一体誰がいつ作ったのでしょうか。

【2023年2月14日追記】kt2さんよりSNSにて「Double or Nothingは1975年のセガ製で、同年のMatch'em Upよりは後発みたい」との情報をいただきました。1977年のセガのプライスリストを確認すると、「SEGA Double Up セガ・ダブルアップ」の記載がありました。画像はなく、人数の記述もありませんが、ゲームスポット日比谷がセガロケであることや、マーキーのデザインがいかにも日本的であるところから、これでおそらく間違いなかろろうと思われます。本当にありがとうございました!!

1977年に頒布されたセガのプライスリストに「SEGA Double Up」が掲載されている。

【2023年2月15日訂正】14日の追記で示しているのは、「DOUBLE OR NOTHING」ではなく、「Double Up」でした。「Double Up」については、2018年3月21日にアップした記事「初期の国産メダルゲーム機(2) ダブルアップ / スピナコイン」で触れておりますので、「DOUBLE OR NOTHING」とは異なるものであることをご確認いただければ幸甚です。つきましては、Double Upに関する部分を削除して訂正いたします。つい焦って混同してしまいました。申し訳ありませんでした。

その3:SUPER TROPICANA

池袋のタイトーロケ「ラッキープラザ ロサ」の店内とされる写真に写る「SUPER TROPICANA」。アミューズメント産業76年4月号18ページより。

一見したところ、米国Bally社の「Super Continental」に見えます。しかし、フロントドアのリールウィンドウ左右の部分に曲線が用いられており、異なる筐体です。

Ballyの「Super Continental」。フロントドアのリールのウィンドウを取り巻く部分は直線で構成されている。

「SUPER TROPICANA」のアートワークはBallyの「Super Continental」とはずいぶん異なりますが、この部分は後から交換することは容易です。しかし、フロントドアはそうはいきません。つまりこの「SUPER TROPICANA」は、誰かがBallyの機械をコピーしたものと強く推察できます。ただ、だれがそれをやったのかと言うと、これが全然見当が付きません。

Ballyのコピーと言えば、セガが1974年前後に何機種か作っていますが、そのフロントドアも「SUPER TROPICANA」とは異なっており、セガ製ではなさそうです。

セガのBally製品のコピーのひとつ。フロントドアの、リール窓下部分のデザインは、Ballyのものとも「Super Continental」とも異なる。

そもそも、タイトーのロケにライバルのセガ製品が設置されるとも考えにくいです。とすると、「SUPER TROPICANA」はタイトーが作ったのかと考えたくもなりますが、この頃のタイトーのフライヤーや業界紙の記事、広告でこのようなスロットマシンが掲載されているものを見たことがありません。一体、どこのだれが作ったのでしょうか。

なお、この「SUPER TROPICANA」は、1976年1月20日に放映されたTVドラマ「大都会 -闘いの日々- 第3話「身がわり」」の一シーンに登場していたとTwitterで教えてくださる方がいらっしゃいました。こちらでは部分的ですがカラーで見ることができます。

その4:SUPER BINGO

SUPER TROPICANAに続き、こちらも池袋のタイトーロケ「ラッキープラザ ロサ」の店内とされる写真に写る「SUPER BINGO」。アミューズメント産業76年4月号17ページより。

これもBallyの筐体のようにも見えますが、これまでに見聞したBallyのスロットマシンでこのようなものはありません。Ballyの「Bingo Continental」(関連記事:「Continental Bingo」(Bally, 1972) 」の検証(1))もビンゴをテーマとしますが、それとは全く異なるゲームのようです。日本のメーカーがコピー機にこれだけオリジナリティを持たせるとも考えにくく、おそらくは海外の製品だと思うのですが、それ以上は全く見当が付きません。どなたかご存じありませんでしょうか。


SEGA MAD MONEYがやって来た!(6):MAD MONEYの解剖その5 ペイアウト率の検証

2022年12月31日 18時50分08秒 | スロットマシン/メダルゲーム

「SEGA MAD MONEYがやって来た!」シリーズも今回が最終回です。これまではその知識などろくにないワタシが当てずっぽうや知ったかぶりを交えて大汗をかきながらメカ(ハードウェア)を見てまいりましたが、最後はペイアウト率(ソフトウェア)について検証していこうと思います。

MAD MONEYには3本のリールがあり、それぞれが20個のストップ(stop=停止位置)を持っているので、この機械で発生しうる事象は20の3乗=8000通りになります。

リールには、リールの各ストップに対応した20個のシンボルが描かれている帯(リールストリップ=reel strip)が巻き付けられています。シンボルはレモン、チェリー、オレンジ、プラム、ベル、スイカ、BAR、MAD(アルフレッド. E. ニューマン)の8種類があり、その個数や配置はリールごとに異なります。


左列から順に第1リール、第2リール、第3リールのストリップのシンボルの配置。gooブログの推奨サイズでなるべく大きく表示するため、前半10段と後半10段の二分割としている。

ペイアウト率を検証するには、それぞれのリールに何のシンボルが何個配置されているかを把握しておく必要があるので、数えて整理しました。

各リールに何のシンボルが何個配置されているかを調べた結果。

各リールには「」シンボルが1個ずつ配されていますが、第1リールはレモン、第2リールは4個のオレンジのうちのひとつ、第3リールはBARに重ねられているので、リールのストップ数20は変わりません。

なお、シンボルがペイラインに並ぶと、スイカやBARと同じジャックポットの扱いとなります。ジャックポットでは、機械が自動的に払い出すコイン20枚の他に、ハンドペイで150枚のコインが支払われるので、合計で170枚のコインが払い出されることになります。

さて、これで当たり役のそれぞれが発生する確率とペイアウト率を導き出すことができるようになりました。その計算結果を整理した図がこちらです。

当たり役が発生する回数とそれによる払出し及びペイアウト率をまとめた図。

上図の「払出し」は、そのゲーム結果で払い出されるコイン数です。「組合せ数」は、8000通りの事象のうち、そのゲーム結果が何通りあるかを数えたものです。「総払出し数」は、そのゲーム結果の「払出し」と「組合せ数」を掛けたもので、最後の「Contribution」は、そのゲーム結果による払い出し数が払い出し全体に占める割合です。

以上の結果から、このMAD MONEYのペイアウト率は82.1%、ヒット率は17.5%であることが判明しました。ペイアウト率は現代の感覚からするとずいぶんと低い印象を受けますが、この当時の水準から言えば、標準的であったのだろうと思います。また、5.7ゲームに1回の割合で当たるヒット率は、当たれば必ずコインが増えるゲーム性を考えればわりと満足のいく数字ではないかと思います。古いタイプのスロットマシンのペイアウト率は長年の関心だったので、ここまで知れたことは大変に目出度く、ここで大団円としたいところ

なのですが、

ワタシのMAD MONEYは、チェリー2個では1コイン、オレンジ以上の当たりでは2コインを、規定よりも多く払い出すのです(実はスイカ、BAR、では確認できていないけれども、状況からおそらくそうなるものと思われる)。

ミルズのサービスマニュアルやオリンピアのサービスマニュアルを見ると、予期し得るトラブルとして「規定数以上のコインを払い出す」という項目があって、そうなる原因として、サイズが適正でないコインが混入しているか、またはペイアウトスライドの不具合が挙げられています。

サイズについては、確かにワタシの機械で使用している10円硬貨は、アメリカの25セント硬貨よりも0.25mm薄い(直径は0.76mm小さい)ですが、これはどうしようもありません。そしてペイアウトスライドの問題だとすると交換部品が必要となり、これもお手上げです。

現状を変えることができないのであれば、現状でのペイアウト率を別途算出するしかありません。その結果が次の図になります。

現状でのペイアウト率計算。チェリー2個の払出しを規定+1、オレンジ以上での払出しを規定+2で計算している。

オリジナルでは82.1%だったペイアウト率は、現状だと91.5%に跳ね上がりました。これは昔の水準からすればけっこうな「優良機」ではあったかもしれません。とは言え、現在のラスベガスにおけるスロットマシンのペイアウト率とほぼ同じ水準(地域やデノミにもよるが、概ね88%前後から93%前後くらいであることが多い)であり、営業に全く使えないというほどでもなさそうです。

さて、これにて「MAD MONEYがやって来た!」シリーズは終了です。これまでお付き合いくださったみなさま、ありがとうございました。今後何か新たな発見がありましたら改めてこちらでご紹介することもあるかもしれませんが、その時はまたご笑覧いただければ幸いです。

いよいよ今年も終わりです。皆様におかれましては、良いお年をお迎えされますように。来年もよろしくお願いいたします。


SEGA MAD MONEYがやって来た!(5):MAD MONEYの解剖その4

2022年12月25日 20時08分22秒 | スロットマシン/メダルゲーム

これまでリールユニットの背面及び両側面と見てまいりましたが、今回はいよいよ正面から見てみます。

リールユニットを正面から見たところ。

上図で青矢印で示しているのは、リールストップレバー(前回参照)と、これを保持する「リールストップレバーシャフト(Reel Stop Lever Shaft)」です。しかし、クロックファンがこれらにどのように作用しているのかはいまだに謎です。

赤矢印で示している黄銅色の筒は「コイン・チューブ(Coin Tube)」で、この中に今後払い出されるコインが積み重なっています。投入されたコインはこのコイン・チューブに入りますが、コインチューブが一杯で収納しきれず溢れたコインは、コイン・チューブの前を袈裟に横切っている「コイン・オーバーフロー・チューブ(Coin Overflow Tube)」を通じて「キャッシュ・ボックス(Cash Box)」に落ちて行きます。

コインチューブの下端は、6個の「スライド(Slide)」という部品を積み上げて構成される「ペイアウト・スライド(Pay Out Slide)」に繋がっています(右下の赤色に着色している部分)。ここにはコイン・チューブから続く20枚のコインが収納されており、6個の各スライドは下から順に2枚、3枚、5枚、4枚、4枚、2枚のコインを収納する厚みがあります。機械が自動的に払い出すコイン数は、チェリー1個の2枚から、5枚、10枚、14枚、18枚、20枚の6種類があるので、何番目以下のスライドを引くかを制御することによって、目的のコイン数を払い出せるようになっています。

ペイアウト・スライド部分の拡大図。上は平常時で、全てのスライドが定位置に収まっている状態。矢印と数字は、それぞれのスライドが払い出すコインの枚数を示している。下はチェリーが2個出現して5枚のコインを払い出したときのペイアウト・スライドの状態。最下段のコイン2枚と、その一つ上のコイン3枚を収納するスライドが引かれており、合計5枚のコインが払い出されている。もしオレンジ(コイン10枚)が揃った場合は、更に一つ上の5枚を収納するスライドも引かれて、2+3+5=10枚のコインが払い出される。

ペイアウトスライドでスライスされたコインは、リールユニットの基部である「ベース(Base)」の穴を通って「マネー・ボウル(Money Bowl)」に落ち、プレイヤーの手に渡ります。

リールユニットのベースの、コインが払い出される穴を底面から見たところ。次に払い出されるコインの一部が見えている。この状態からペイアウトスライドが右(この図で)に引かれると、コインは穴の位置まで運ばれて落ちてくる。

さて、これまでMAD MONEYの構造をざっと見てきたわけですが、コイン周りの機構は見なかったことにして無視してきました。と言うのは、昔のスロットマシンは、現代では電気的に行っているコイン周り部分をすべてメカ的に行っているので、現代の機械には無い概念の理解が必要です。しかしそれが、ワタシにはまるっきりちんぷんかんぷんだったのです。

とは言うものの、まるっきり触れずにいるのも気持ちが悪いので、一応こんなものもあるというメモとして残しておこうと思います。

コイン周りのメカ部分を水平方向から見たところ(上)と、やや上アングルから見たところ(下)。

両図の①は「チェック・ディテクター・レバー(Check Detector Lever)」と言い、リールユニットの①’「チェック・ディテクター・オペレーターレバー(Coin Detector  Operator Lever)」に作用します。また、①’’「チェック・ディテクター・ピン(Check Detector Pin)」が①と連動して動作します。

両図の②は「コイン・ディテクター・レバー(Coin Detector Lever)」と言い、リールユニットの②’「コイン・ディテクター・オペレーター・レバー(Check Detector Operator Lever)」に作用します。

と、このくらいまでは見ればわかりますが、ワタシがこれから先を理解するには特別な勉強が必要です。

謎の部分はまだ多く残っています。例えば今回も言及していますが、クロック・ファンがリールストップレバーにどう作用しているかは謎のままですし、そもそもリールがどうやって回転しているのかさえ突き止められておりません。そればかりか、前回で「ペイアウトディスクにはシンボルごとに割り当てられた同心円状に穴が開いている」と述べていた理解は、その後の調査でどうも正しくなく、ディスクの同心円はペイアウト・スライドに対応しているのではないかと言う疑念も出てきました。

今のワタシにはこれらの謎を独力で解くのは極めて困難ですが、いつの日か、少しずつでも理解を深めていきたいと思っています。

(次回・「リールストリップとペイアウト率の解剖」につづく)


SEGA MAD MONEYがやって来た!(4):MAD MONEYの解剖その3

2022年12月18日 22時11分38秒 | スロットマシン/メダルゲーム

今回はリールユニットの側面を見ていきます。便宜上、正面から見た左側を左側面、右側(ハンドルが付いている方)を右側面と呼ぶことにします。まずは左側面から。

リールユニットの左側面。

左側面はメカっぽいものが少ないですが、第1リールの「リールストップレバー(Reel Stop Lever・赤く着色している部品)」と「リールストップスター(Reel stop Star・緑に着色している部品)」が見えます。リールストップレバーはクロックファンの回転でゆっくりと起き上がり、最終的に先端に付いている「リールストップレバーブロック(Reel Stop Lever Block)」がリールストップスターの歯に嵌まってリールの回転が停止します。

リールストップレバーの先端にあるリールストップレバーブロックがリールストップスターに嵌まっている部分の拡大図。①=リールストップレバー ②リールストップレバーブロック ③リールストップスター。

リールストップレバーブロックの取り付けにはいくらか遊びがあり、回転しているリールストップスターに触れても浅い段階では嵌まらずに逃がします。その間、リールはパチスロで言う「スベリ」に似た挙動を見せます。

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次にリールユニットの右側面を見ることにします。こちら側には、コインの投入を感知してレバーを引けなくしているロックを外し、レバーが引かれることでリールを回転させる機構が見えています。それらの部品の名称はサービスマニュアルを調べればわかるのですが、ただ、それらの部品がどこにどのように作用しているのかが全然見当が付かず、単に「こういうものがあるのだなあ」と思う事しかできません。

リールユニットの右側面。

しかし、ゲーム結果を検知して払い出しを行うメカニズムについては、かすかに見当が付かないこともありません。まず上図の赤く着色している円盤(の一部)ですが、なぜかサービスマニュアルには名称が記載されていません。ネット上を検索すると、「リールディスク(Reel Disc)」とか「ペイアウトディスク(Pay Out Disc)、あるいは単に「ディスク(Disc)」などと呼ばれています。拙ブログでは文字数が少なく済む「ディスク」と呼ぶことにします。このディスクには、シンボルごとペイアウトレバーごとに割り当てられていると思しき(緑文字部分は2022.12.17に修正)同心円上の然るべき場所に穴が開いています。

ディスクの模式図。一つの同心円が一つのシンボルに割り当てられているが、どの同心円がどのシンボルに割り当てられているかまでは究明できていない

ディスクは3枚が重なるように並んでおり、外側から順に第1リール、第2リール、第3リールに同期して回転します。全てのリール(とディスク)の回転が停止すると、次に7個の「ペイアウトレバー(Pay Out Lever)」が一斉にディスク向かって倒れていきます。この時、ディスクに穴が開いていると、そこに対応するペイアウトレバーはより深く倒れます。

後方上から見た、7個のペイアウトレバーと3枚のディスク。

さて、この次がよくわからないのですが、ペイアウトレバーの動きが、フレームの下の方に見える水平のレバーにどうにかして作用します。この水平のレバーの名称もサービスマニュアルではよくわからず、ネット上では「ホライゾンタル・ペイアウトレバー(Horizontal Pay Out Lever)」としているサイトを発見したので、拙ブログでもそう呼ぶことにします。

ホライゾンタル・ペイアウトレバー(赤く着色した部分)。

このホライゾンタル・ペイアウトレバーの動きがどうにかなって6段に重なっている「ペイアウト・スライド(Pay Out Slide)」のうち適正な段を引くことで「ペイアウトチューブ(Pay Out Tube)」内のコインが払い出されるのですが、その詳しい仕組みはまだよくわかりません。

ペイアウトスライドもペイアウトチューブも前面からでないと見えませんので、続きは次回といたしますが、最後にオマケ情報を一つ。マーシャル・フェイ(Marshall Fay)氏の著書で、6版まで重版している「Slot Machine America's Favorite Gaming Device」には、マーシャルの祖父、チャールズが19世紀末に開発し現代スロットマシンの原型となった「リバティ・ベル(Liberty Bell)」機の構造略図が各版を通じて掲載されています。それを見ると、このセガ(Mills)の払い出し機構の基本的な構造は、リバティ・ベルからほとんど変わっておらず、改めてチャールズの発明の偉大さに驚かされます。

「Slot Machine America's Favorite Gaming Device」に掲載されている、リバティ・ベル機の機構の概念図。この図は第5版の45ページより。

((次回・「リールユニット前面」につづく)