息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

被差別部落の青春

2012-01-26 07:23:58 | 著者名 か行
角岡伸彦 著

これはいいなあと思った。
なんだか怖い、わからないけど避けたい、巻き込まれたくない……、
とにかく目をそらしがちな“差別”を明るくはっきり描き出す。
言葉にできない違和感をかたちにして見せてくれることで、
“”に限らずそこここにある差別を考える機会になる。

著者は出身でそれを表に出すかどうか悩んだという。
そうだろうな、と思う。
そしてきっとインタビューされる側もみんなそうなのだと思っていた。

ところが現実には実名OKの人も多いし、別に隠さない人も多いという。
それどころか、で生まれ育ったこと自体をあまり意識していないという。
これは長い間の教育や運動の成果ともいえるし、人が流れていく時代だから
ともいえる。

教育や運動は不可欠だった。しかしそれがかえって逆差別を生み、
その結束の固さが周りから恐れられる結果になったという事実は大きい。
そしていまだにそれを利用している人も双方にいる。
これはお互いに不幸なことだ。

本書の中でとてもわかりやすいと思ったのが、教育や子育て、生活習慣についてだ。
狭い家で両親が喧嘩する。子どもはいづらくて外に出る。落ち着いて勉強する習慣も
生活をきちんと整える習慣も身に付きにくい。
だから非行が多く、進学率が低く、差別と知識のなさから職業が選べず収入も安定しないし、
子どもへの接し方もわからないまま親になり、それが繰り返されてきた。
そこには住宅問題、不安定な雇用、子育てへの意識の低さなどが絡み合っている。
しかし、保育園、児童館などが整えられ、学習習慣が身に付き進学率も上がるにつれ、
外の世界への眼が広がり格差も小さくなっていく。
その一方で地元に暮らし地元で働き、ずっとその恩恵に預かる人もいる。
特有の職業とされたものも次第に敷居が低くなり、外部からその仕事に就く人が増える。

その食肉産業についても、著者自身が実際に体験させてもらいインタビューしたものが
まとめられている。体当たりのルポは貴重なものだと思う。

そうなってもなお、結婚においては絶対反対という人がいたり、禁じられているはずの
調査が半ば公然と行われていたりという差別は残っているし、就職などでいまだに
悲しい想いをしている人もいるのだ。
差別はある、しかしだけではなく在日外国人であったり、女性であったり、
そこには少しでも差を探して相手をおとしめようとする意識がある。
感情である以上すべてをなくすのは難しい。

それでも、こんな形でというものを読むことができて、差別について
明るく考えることができて本当によかったと思う。

2012-01-25 10:39:50 | 宮尾登美子
  


宮尾登美子 著

雪深い新潟県亀田町を舞台に銘酒『冬麗』の蔵元・田乃内家の跡取り娘烈とそのまわりの
人々を描く。
厳しい自然とそこから生まれる素晴らしい酒。
豊かな蔵元の家では子どもができても無事に生まれなかった。
実に8人の子を失った悲しみのあと、美しい女の子が誕生する。
豪雪にも運命にも負けない強い子にと願い“烈”と名付けられたその子は
小学校入学を前に失明の宣告を受ける。

出産で病を得た母の代わりに母の妹・佐穂が烈を育てる。
母は病弱でありながら烈の眼の完治を願う巡礼の旅に出、「万一のときは佐穂を後添えに」と
言い残して世を去る。
しかし父・意造は、芸妓であるせきを後妻に迎えてしまう。
生まれた跡取りの男の子は死亡、せきも家を出る。意蔵は病に倒れ酒蔵は危機となる。

あらゆる運命に翻弄される烈。彼女は自らの障害を乗り越える強さをもっていた。
女性には許されないとされていた酒造りの仕事をしようと決意した烈は、立派な経営者と
なっていくばかりか、蔵人の涼太との許されない恋までも掴み取る。
激しく強い意思をもつ烈だが、押しつけがましさやずうずうしさは感じない。
ひとつのしぐさにも他人の何倍もの心遣いが必要なだけに、雰囲気や人の心を読む力は
素晴らしいものがある。
そして自分への厳しさも。

のちに息子が「母の目が見えないことを知らなかったんです」と語るが、わが子にさえ
隙を感じさせない凛とした姿勢と、親としての行き届いた目線を象徴している。

時代、性別、障害、母の早世、あらゆる壁と困難を乗り越えるたくましさには
ただ感嘆するのみ。
その陰にある佐穂の献身にも胸をうたれる。
そして、どうしても幸せになれなかったせきの苦しみも。

これほどに重厚で長い物語なのに、すっと心に入る美しい文章は宮尾登美子ならではだ。

またまた申込み……

2012-01-24 10:25:29 | 基本情報技術者受験
しつこくてすみません。
また申込みしたよ。

今度こそ今度こそ、合格したいものだ。
アルゴリズムは相変わらずよくわからないし、表計算に関してはもう一冊本を買うべきか
迷い中。
しかし、午前問題はかなり手ごたえを感じてきた。
問題は午後。あれ?半年前にもそう言っていた気がする。

さてさて怖くて避けて暮らしていた過去問に向き合ってみるかねえ。

太陽の塔

2012-01-23 11:41:43 | 著者名 ま行
森見登美彦 著

2003年日本ファンタジーノベル大賞受賞。

きつねのはなし』で知った著者。京都を知り尽くした人だからこその独特の世界観にひかれた。

これも悪くはない。共通する世界観がないわけでは、ない。
しかし、なんだか違うんだよなあ。

面白くないわけではないし、ハチャメチャな独自のポリシーの中で生きる大学生たちが
繰り広げるドタバタ劇はからまわりな感じがまたよかったりする。
でも、面白さのツボとか、羽目をはずす基準とかがちょっとずれていると、
うわぁ~という“ひく”感じが先に立つ。

そして女性にあまり素敵さを感じない。
登場する女性たちは行動がやや意味不明で、ワガママのポイントが普通と違う。
きっと登場人物たちをとりこにする魅力があるのだろうが、どうもわからない。
単に私が愚か者だからなのかもしれないが、う~ん。

幸いというかこのバカばかりする大学生たちは、根本が賢い。
まあ、モデルが京大生であるから当然といえば当然なのだが、そういうことではない部分も
ぎりぎり踏みとどまっている。
社会復帰ができるかどうかは微妙だけどね。

そんなこんなで読んでも損はない。
わりと面白い。
しかし、大成功というわけではなかったなあというのが感想。

かもめ食堂

2012-01-22 10:56:44 | 著者名 ま行
群ようこ 著

ヘルシンキで食堂を営むことにしたサチエ。
早くに母を亡くし、武道家の父とともに暮らしてきた彼女は、
料理のもつ力に気付き、それを学びやがて仕事にする。
それが理想とは程遠いことに気付いた彼女が出した結論は
日本じゃないところで料理をすること。

そのための費用をねん出するのが宝くじというのが
何ともご都合主義であるが、そこを除けばすごく好感が持てる。

そして出したい料理の筆頭がおにぎり。
どんなときもこれだけは用意する。たとえ現地で無視され続けても。

そこにミドリとマサコという日本人女性がやってくる。
ふたりとも地味でまじめ。じょうずに生きられないタイプだ。
一生懸命人のために尽くしてきたのに、いつの間にか年齢を重ねて
居場所を失ってしまった。
同世代としてこの感覚、ひとごとではない。

おかしな三人組がのどかな街で綴る物語は、心地よく楽しい。
日本ファンのトンミ君や、夫との関係に苦しむリーサおばさんなど
脇役たちのスパイスもいい感じ。

ただ、これは映画のほうがいいかもしれない。
ほのぼの楽しい物語なんだけど、淡々としすぎて退屈に思う人もいそう。
きれいなヘルシンキを舞台にした映像のほうが見応えがありそうだ。
とはいえ、映画から入ったけれど本を読んで初めて3人のキャラを
理解した、という人もいるようなので「合わせてお楽しみください」
っていうところが正解か。