息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

2012-01-25 10:39:50 | 宮尾登美子
  


宮尾登美子 著

雪深い新潟県亀田町を舞台に銘酒『冬麗』の蔵元・田乃内家の跡取り娘烈とそのまわりの
人々を描く。
厳しい自然とそこから生まれる素晴らしい酒。
豊かな蔵元の家では子どもができても無事に生まれなかった。
実に8人の子を失った悲しみのあと、美しい女の子が誕生する。
豪雪にも運命にも負けない強い子にと願い“烈”と名付けられたその子は
小学校入学を前に失明の宣告を受ける。

出産で病を得た母の代わりに母の妹・佐穂が烈を育てる。
母は病弱でありながら烈の眼の完治を願う巡礼の旅に出、「万一のときは佐穂を後添えに」と
言い残して世を去る。
しかし父・意造は、芸妓であるせきを後妻に迎えてしまう。
生まれた跡取りの男の子は死亡、せきも家を出る。意蔵は病に倒れ酒蔵は危機となる。

あらゆる運命に翻弄される烈。彼女は自らの障害を乗り越える強さをもっていた。
女性には許されないとされていた酒造りの仕事をしようと決意した烈は、立派な経営者と
なっていくばかりか、蔵人の涼太との許されない恋までも掴み取る。
激しく強い意思をもつ烈だが、押しつけがましさやずうずうしさは感じない。
ひとつのしぐさにも他人の何倍もの心遣いが必要なだけに、雰囲気や人の心を読む力は
素晴らしいものがある。
そして自分への厳しさも。

のちに息子が「母の目が見えないことを知らなかったんです」と語るが、わが子にさえ
隙を感じさせない凛とした姿勢と、親としての行き届いた目線を象徴している。

時代、性別、障害、母の早世、あらゆる壁と困難を乗り越えるたくましさには
ただ感嘆するのみ。
その陰にある佐穂の献身にも胸をうたれる。
そして、どうしても幸せになれなかったせきの苦しみも。

これほどに重厚で長い物語なのに、すっと心に入る美しい文章は宮尾登美子ならではだ。