息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

良子皇太后

2012-01-20 10:59:19 | 著者名 か行
河原敏明 著

昭和天皇の妹君』の著者による良子(ながこ)さま─香淳皇太后の素顔。

指折りの皇室ジャーナリストと言われた著者だけあり、多くの人に取材を重ね、
長い時間をかけてまとめられたと感じさせる作品だ。

皇統の危機と言われ、女性宮家の設立や女性天皇の是非などが騒がれるこのごろであるが、
ごくごく一般的な人の感覚としてはそのような大きな問題である以前に感情が先に立つ。
つまり、皇室は“日本人のシンボル”そのものであり、そこに自身の家庭や生き方や時代を
無意識のうちに反映させ、さらに理想を求めているのだと思う。
だからこそ、お世継ぎだのご結婚だの進学先だのお仕事だのが話題になるだけの価値をもつ。

というわけで、私が子供の頃はこの方は“うるさい姑”の代表格であった。
空港でのお見送りの際、美智子さまを無視されたシーンがテレビで流れたこともあり、
ほらやっぱり!的な興味を集めてしまったらしい。←子供だったのでよくわからない。
まあメディアがここまで大きな力をもつということに気付かなかったのんきな時代である。

伝統を守る家へ嫁ぐとは大変なことなのだ。生まれながらにしてお姫様で、それなりの教育を
下地にしていることを当然として、良子さまは14歳でお妃内定後、6年にもおよぶお妃教育を
受けられている。間に「宮中某重大事件」「関東大震災」などの思いがけないことが
続いたとはいえ、身に着けるべき知識がどれほどのものだったかはかりがたい。
この一点だけをとっても、まったくの民間の家からくる嫁が形ばかりのお妃教育を受けて
皇太子妃になりもてはやされる、ということへの複雑な思いが想像できる。

これは時代の違いや求められるものへの違い、孤高ではいられなくなった皇室の在り方など
さまざまな理由があるし、美智子さまはそれにこたえてあまりある能力と努力する力を
おもちの素晴らしい女性だった。

しかし理屈だけでは片づけられない気持ち、これは皇太后さま本人というよりは、まわりで
お仕えしている方々の忠誠心あってこその複雑な思いが、さまざまな摩擦へとつながって
いたようだ。
“人を使うは苦を使う”という言葉をみたことがある。
多くの人にかしづかれて暮らすのは、自ら何もしないですむ分苦労も多い。
実際、晩年の体調不良の大きな原因であった腰椎骨折は、周囲の人間の複雑な思いのせいで
決して適切な治療を受けられたとは言い難いらしい。

お立場上の遠慮もあったろうし、お子様が多かったせいもあるだろう。
しかしもともとの性格がどちらかというと内向きな家庭的な方だったのかなあと思う。
菊と葵のものがたり』の高松宮妃喜久子さまのような行動力や豪胆さは感じない。
しかし、一挙一動がもたらす影響とそれを人のために役立てようとする想いは強く感じられる。