CABEZA DEL REY DON PEDRO ~ドン・ペドロの首~
←08:セビリア街歩き サンフスタ駅から旧市街へからの続き
明るい午後の陽射しが差すセビリアの旧市街。
本当に雲ひとつ無く晴れ渡りました。
セビリアの旧市街に並ぶ建物は、南欧らしくカラフルな装い。
晴れ渡った地中海性気候の青空に映えて、よく似合います。
進むに連れて路地は細くなり、枝分かれした迷路のようになっていきます。
旧市街の狭い路地をあてもなく彷徨い歩くのも楽しいものですが、今日は行きたい場所があるのです。
迷子にならないように、路地の標識を確認しながら慎重に進んでいきます。
道すがら、塔を備えた教会のような立派な建物を発見。
でも、特に案内看板も見当たらず、正体不明。
一体何の建物なのか…
聖堂のような立派な玄関もありますが、扉は堅く閉ざされています。
誰でも入れる神の家ではないのか…
建屋の奥には塔も見えます。それにしても、何とも派手で綺羅びやかな装飾!それがまた、青空によく映えますねぇ!
でも結局、ここが何の建物なのかはよく分からなかった。やれやれ。。。
謎の教会を後に、目指す目的地へ…
陽射しが強いので、日なたを歩いてるとなんだか暑くなってきたよ。
ホテルでもらった冷たいミネラルウォーターを持ってきてよかった。
さて、僕はこんなに一生懸命に一体どこへ向かっているのかというと、今から王様の首を見に行こうとしているのです!
明るい南欧セビリアの街に似つかわしくもない、恐ろしげな「王様の首」とは一体何…?
それについては、これから一席語る昔話に少々お付き合い下さいませ!
…時は14世紀。
イベリア半島が群雄割拠の戦国の世だったこの時代、セビリアに王城を置くカスティリア王国の若き王ドン・ペドロ1世はその勇猛果敢さと治世における非情なまでの冷酷さで“残酷王”(エル・クルエル)と呼ばれ怖れられた一方、常に公平で峻厳に自らを律し、戦乱で荒廃し混沌とした中世社会を法と秩序をもって正しく導こうともした為“正義王”“審判王”とも讃えられた。
ある時、セビリアの街の治安の悪さを嘆いた王は、とうとう「殺人を犯した者は直ちに捕えて首をはね、見せしめのために殺人現場にその首を晒すこととする」 と命じた。
だがしかし、それから暫く経ったある夜、お忍びで街を見回り歩いていた王はとある街路で、王の素性を知らぬ若い貴族と諍いとなり、これをつい斬り捨ててしまう。
慌てて立ち去る王、しかし街路に面した民家の窓から、老婆がろうそくの灯をかざして一部始終を目撃していた…
怯えた老婆の通報で、事の次第は王にまで伝えられた。
思わぬ王自身の狼藉に驚くセビリア市民たちの前で彼は潔く罪を認め、何と自らの首を現場に晒すことを命じる。
「さあ、これが殺人犯の首だ!国王でさえも法を犯せば首を晒されるのだ!!」
果たして王が殺人を犯した街路には、何と彼の顔を模した石像の首が晒されたのである!
常に公平で自らに対しても厳しい心を持つ王は、自らをも晒し首の刑に処したのだ。ああ王の何という公明正大さと気転と臨機応変さであろう…!!
さすがは正義王、審判王!!セビリア市民は王を讃え、いつしか彼の石像の首が晒された街路はカンディレホ(ろうそくの灯)通りと呼ばれるようになり、セビリアの街の名所となったという…
…いかがでしたか?
現代の考え方からするとちょっと強引というか、かなり突っ込みどころのある話ではありますが、このような説話がセビリアに伝えられているらしいのです。そして、歴史書では“残酷王”扱いのドン・ペドロ1世はセビリアでは“正義王”で、「おらが町の立派な王様」として今なお人気者の地元の歴史ヒーローなんだとか。
僕はこの王様の首の話を、ドン・ペドロ1世の波乱の生涯を描いた青池保子先生の大河歴史漫画「アルカサル-王城-」 を読んで知ったのですが、何とこの「ドン・ペドロの首」の石像は今でもセビリア旧市街の建物の壁に埋め込まれて現存しているとのこと。
これは青池先生のファンとしては是非見たい、見に行かねば!!
…ええ、そうです。
今回はるばるスペインのセビリアまで来たのも、青池先生の「アルカサル-王城-」の作品聖地巡礼が目的の一つだったりするんですよ、実は!(笑)
さて、事前に調べたところ、王様の首があるというカンディレホ通りはどうやら今では「アルファルファ通り」と名を変えているらしい(何で600年経つと「ろうそく」が「もやしサラダ」みたいな名前に変わるのだ…?ホント、歴史はミステリー…)。
という訳で、Google Mapsでセビリアのアルファルファ通りを探し出して、周辺の拡大地図をプリントアウト。この地図を見ながら、とにかくアルファルファ通りの周辺を歩き回って見つけてみよう!
王様の首はどこだ~!?
王様の首が埋め込まれていそうな建物の壁を探して、街路を見上げながらアルファルファ通りを歩きまわっていると…こんなものを発見!
シャッターの降りた建物の壁にCABEZA DEL REY DON PEDROと書かれています。
直訳すると、何とそのまんま「ドン・ペドロの首通り」!これは、目指す王様の首は近いぞ!どこにいる、残酷王の正義王!?
ふり返ると…
王様がいた~!!これぞ紛れも無く王様の首!!ドン・ペドロの首、発見!!
…それにしても、王様の言わば苦肉の策で作られた石像なので、やっぱりなんだか困ったような顔をしてるね(笑)
ドン・ペドロは何百年間もここで「やれやれ、困ったもんだね」って顔でセビリアの街角を見つめ続けてきたんだなぁ…
この「ドン・ペドロの首」の石像は、17世紀に胸像に復元されたものだそうですが、
紛れも無くこの場所にドン・ペドロ1世その人が立ち、事件を巻き起こしたのだ…と思うとそれだけで心が14世紀のカスティリア王国の都セビリアにタイムスリップしてしまったような気分になります。
感慨無量…ああ、来てよかった。まさに歴史ロマン!そして無事に王様に会えたことに、旅の幸運に感謝!
…そうそう、カンディレホ通りはカルメンとドン・ホセの最初の逢瀬の舞台 ともなっているそうです。
ドン・ペドロはカルメン達の悲恋の始まりをも、この場所で見守っていたのですね…
街角のちょっとした路地にも、歴史のロマンと愛憎劇が渦巻くセビリア旧市街。
もう午後も遅い時間ですが、夏至も近づく初夏の太陽は、なかなか傾きそうにもありません。
シエスタから目覚めてますます活気づいたような魅惑的な旧市街を、ドン・ペドロに別れを告げてもっと歩いてみることにしましょう。
→10:セビリア街歩き サルバドール教会からセビリア大聖堂へに続く
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