ラジオにテレフォン人生相談という番組がある。仕事で車に乗って出かけているとき、11時になると流れてくるこの番組を聞くのが好きで、面白いと道路脇に駐車して聞いたこともある。この番組のパーソナリティーは心理学者の加藤諦三教授で、この人の話が面白かった。氏には『アメリカインディアンの教え』という著書もあり、素朴に生きるインディアンの生きかたを述べて、相談者を力づけていたような記憶がある。相談者は、生きる上での弱点を放送のなかで晒すので、見えない人の内面を覗くのが面白いという、あまり人に誇れないことのうような気もしないではない。
今般、総裁候補に名のり出た菅義偉氏の人生相談が話題になっている。菅氏は新聞の人生相談を、自分の仕事の一部のように読んでいたという。国民の悩みはどこにあるかを知りたい、というのが動機らしい。何か、庶民の趣味と、あまり変わりない情報集法で、親しみやすい面もあるが、時の宰相候補がこんなのでいいのか、という疑問がわかないでもない。菅氏の人生相談は、経済誌「プレジデント」に「菅義偉の戦略的人生相談」というタイトルで、見開き2頁という分量だ。留学して身につけた英語を武器に就職した女性の悩みには、「学生生活と社会人生活は別。」自身の経験を語りながら「せっかく入社したのだから社内に自分を生かせる仕事を探してみては」と提案している。
作家の村上春樹氏が17日間という期限を設けて、ウエブ上でメールのやりとりする企画があった。『村上さんのところ』という本は、この膨大メールのから473通を選んで紹介したq&aで、村上版人生相談といった一面もある。「人は何故物語を欲するのか?」という問いに、村上氏の答えは含蓄に富んでいる。「人は何かに属して生きている。家族、社会、時代など。しかし問題はその属し方。その属し方を納得するために必要なのが物語。物語は僕らがどのようにしてそれらに属しているか、なぜ属さなければならないかを意識下で疑似体験させる。そして他者との共感という作用を通して、結合部分の軋轢を緩和している。そのようにして今あるポジションに納得していける。
加藤諦三氏の『アメリカインディアンの教え』に、注目すべき部分がある。「歩くことは最高の薬」という章で、歩くことの大切さを説いている。「よく、疲れるから歩かない、疲れるから走らないといいますが、それは逆のことともいえます。つまり歩かないから疲れる、走らないから疲れるのです。毎日少しでも歩きはじめてみれば、自分がどんどん疲れなくことが分かります。」
菅氏の日課は毎朝のウォーキングだという。これは、この社会の大きな危機的な状況を乗り切るために、リーダーが必要する、健康と体力を維持してくれる。