常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

猿の恩返し

2015年12月31日 | 民話


昔あるところに子のないお爺さんとお婆さんがいた。お爺さんが山仕事をしていると、子猿が泣いている。訳を聞くと、親が死んで独りぼっちになって泣いているという。可哀そうになって家に連れて帰り、子猿を我が子のように育てた。猿が大きくなって、家の手伝いができるようになった、お婆さんに子どもが生まれた。お爺さんとお婆さんは、猿に子守をさせながら、山仕事に出かけうるようになった。

ある日のこと、猿は赤ん坊が遊んでいるそばで、夜に使う湯を沸かしていた。元気な赤ん坊が湯をひっくり返して湯をかぶり、やけとをしてしまった。赤ん坊は泣きだすやら、帰ってきた爺、婆が騒ぎ出すやらで、猿はどうしていいか分からずしょんぼりしていた。夜になって、お爺さんが寝ながら話をするのを、猿は別の部屋で聞いてしまった。「猿など育てるんじゃなかったなあ。おかげで子どもがひどいやけとをしてしまった。」

赤ん坊の火傷が、すっかり自分のせいになっていることを知って、猿は夜中、お爺さんたちが寝ているすきに赤ん坊を抱いて連れ出した。朝になって、赤ん坊も猿もいなくなっているのが分かり、さらに大騒ぎになった。「猿め、恩を忘れて、赤ん坊をさらっていくとは許せん」と怒り、山中を探し回った。探せど探せど、猿も赤ん坊もみつからなかった。2ヶ月も経ったころ、沢に湯気が立っているのが見えた。そこにはたくさんの猿が湯に浸かっていた。

お爺さんが行くと、猿たちはびっくりして逃げ去った。だが、一匹だけ逃げずにじっとしている猿がいる。よくみると、赤ん坊を抱いて湯に浸かっていた。お爺さんが、探していた赤ん坊である。猿は黙って赤ん坊を返すと、どこえともなく去っていった。赤ん坊の火傷はすっかり治り、元通り元気な様子だったので、お爺さんは安心して家に連れ帰った。ここは「やげぱずの湯」と言って、火傷を直す温泉だった。

この民話は、東根温泉に伝わるものである。もう一夜が明けると、新しい年が来る。干支は申年である。東根から尾花沢にかけて、猿の集団が出没して、果樹や野菜に被害が出ている。民話のような猿と人の関係は、すでに崩れさってしまったが、申年にはその関係が修復されるような対策を期待したい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

一陽来復

2015年12月30日 | 漢詩


青空の歳末となった。冬至を過ぎて心なし、陽ざしが強くなったような気がする。雪が多かった昨年に比べると、朝屋根にうっすらと雪を見るぐらいの冬景色だ。滝山の雪が、やっと青空とのコントラストをなしている。一陽来復とは、易で陰暦10月に陰気が最大になり、冬至に至って陽気が生じ始めること言う、と漢和辞典が説明している。今年は、ことの他の暖冬で、この言葉がぴったりの季節の巡りである。

中国には古い言い伝えがある。水の神に不才の子があった。この子が冬至の日に死んで疫病神になったが、なぜか赤い豆を恐れたという。そこで、人々は小豆の入った粥を炊いてお祓いをするようになった。こんな言い伝えが、日本にも入って来て、冬至には小豆カボチャを炊く風習が生まれたのかも知れない。だが、小寒から大寒を過ぎ、立春に至るのはまだまだ先である。

 内に示す  沈受宏

歎ずる莫れ貧家歳を卒うるの難きを

北風曾て過ぐ幾番の寒

明年桃柳堂前の樹

汝に還さん春光満眼の看

清の詩人沈が、歳末に旅先で妻に送った詩である。貧しい家で、歳末に夫の帰りを待つ妻に、詩のなかで、春光のなかに咲く、桃や柳の花の景色をプレゼントした。「北風 幾番の寒」と「春風 満目の看」との対比、明暗を強く打ち出したところがこの詩の眼目である。 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

夢十夜

2015年12月29日 | 読書


夏目漱石に『夢十夜』という小品がある。何かの拍子に思い出すのは、決まって背中に負ぶった子が、急に石のように重くなる夢である。本箱の奥の方から引っ張り出して読んでみると、その内容にはほとんど、記憶のかけらさえもない。第一夜では、女が、(夢を見ている本人とどんな関係があるのか分からないが)登場する。そして「私は死にます。」と告白する。病気をしたようでもないし、血色もいい。寝床に横たわっている女に、「死ななくといいじゃないか。」というが「やっぱり死にます。死んだら真珠貝の貝殻で穴を掘って埋めてください。そして天から落ちてくる星のかけらを墓標にしてください。」「その墓の前で待っていてください。きっと会いに来ます。百年待てますか。」と言い残して女は死んでしまった。

女に言われた通り、墓をつくり、星のかけらで墓標をたてて、墓の前に座った。東から太陽が出て、西に太陽が沈む。最初は、太陽を沈むのが何回か、数えていた。夢の中では現実より、太陽の回るのは早い。けれども、百年とは、気の遠くなる長さだ。そのうち、回数を数える意識が薄れて、何回になるのかが分からなくなった。まだ百年は来ない。女は自分を騙したのだろうと思い始めた。そうすると、墓のある地面から青い茎がするすると伸びてきて、自分の胸のあたりまできた。その茎の先端にある蕾がふっくらと花びらを開いた。それは、真っ白いユリで、花の先で堪えられぬような芳香を放った。目の前でユリは、重みでゆらゆらと揺れた。ユリの花には冷たい露が滴っていた。自分はその白い花びらに接吻した。百年が経って、女が自分に会いにきたのが、はっきりと分かった。

ここを読んで、そのシーンが玄関に飾ったカサブランカの花に重なった。読書とは、読んだものの大半を記憶の外においやってしまい、その断片だけがわずかに、脳裏にかかっている。そのかけらの所在から、手にいれてものを再び探しもとめて、昔の本を手にするという、長く果てしない営為である。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

千夜一夜物語

2015年12月28日 | 読書


千夜一夜物語には、魔神や王様、美女や奴隷、商人や漁師、およそこの世のものとは思われない不思議な存在が登場してくる。物語を紡ぐシャーラザットは、アラブの国のシャーリヤル王に使える大臣の娘である。そのシャーラザットがなぜこの物語を、国王のために千夜ものあいだ語ったのか。シャ-リヤル王は、妃の裏切りに会い、魔神が自分の女に裏切られたのを見て、女は不倫をするものであると、女性不信の権化となり、国中の処女を一夜の慰みものして切り殺すといことを繰り返した。大臣の諫めにも耳を貸さず、国には若い女性はいなくなってしまうという危機であった。

シャーラザットは自分の語る物語で、処女の夜伽を止めさせることを決意したのである。その物語が、王様の興味を引かなければ、自分はもちろんのこと、この世の若い女たちの命がなくなってしまう。この物語には多くの命がかかっていることが、その特徴である。そして王の女不信とはうらはらに、女性の美しさへの賛美が、随所に散りばめらていることも、またこの物語の魅力のひとつである。

宮居の〈月〉と〈日輪〉に
瞳をそそぎ、とくと見よ、
花の顔(かんばせ)、かぐわしき
光に、心をなぐさめよ。
いと清らかな純白の
額をかざりし黒髪を
ふたたび君は目にすまじ。
たたえてやまぬ美女の名は
たとえはかなく消えるとも、
ばらさながらの赤き頬
これぞ女の身上ぞ。
足どり軽く身をゆれば、
太き臀にわれは笑み、
臀をささうややさ腰に
涙流してわれは泣く。

そして、その食べ物や香水の絢爛さが、読むものを魅惑の世界へと誘いこんでいく。「やがて女は果物屋の店先に立ちどまって、シャムの林檎、オスマンのまるめろ、オマンの桃、ナイル産の胡瓜、エジプトのライム果、スルタンの蜜柑とシトロン、そのほかアレッポのジャスミン、香り高い天人花の実、ダマスクスの白睡蓮・・・」こんなふうに、世界中の果物、花、香水、肉、酒など市場にある、ありとあらゆるものを、軽子が背負いきれないほど買いこんでいく。買い物の場面ひとつが、これほど華やかに面白く展開される。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

カサブランカ2

2015年12月27日 | 


きのうより5mmほど開いた。暖かいともっと早く開くはずだが、今日の気温は3℃前後、カサブランカは、ほんとうにゆっくりと花弁を開いている。外に出るのが億劫になるような気温だ。雪はチラチラと舞っているが、一向に積もる気配はない。それでもカサブランカの発する芳香は、きのうに増して一段と強くなっている。

カサブランカという花に愛着を感じるのは、アフリカにあるモロッコの都市の名であるからであろうか。ハンフリー・ボガードとイングッリット・バーグマンが演じた映画『カサブランカ』の記憶があるせいかも知れない。カサブランカという言葉は、スペイン語で白い館という意味である。花を見ていると、この花に命名した人の気持ちがわかる。映画「カサブランカ」では、愛し合う二人が別かれる空港の別れのシーンが印象的だ。

カサブランカでの夜の想い出を胸に男は、女を生かすために別れを言う「君の瞳に乾杯」。女を生かすために、恋敵に女を託して、厳しい戦いの場へ男は戻っていった。バーグマンもボガードも、その姿は理想的な男と女に見えた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする