山の紅葉は最後の時を迎えて一瞬の輝きを放つ。今日の登山で、まさにその一瞬に会えた。幸運の一語に尽きる。標高500mまで、その輝きを放つがその上に行くと、もう枯葉の様相である。霧の中の山頂では、木々はすでに葉を落し、冬の眠りにつく準備を初めていた。一日を過ぎてブログを書き継ぐことになったが、台風の影響で朝から雨。もし、昨日のチャンスを逃せば、この素晴らしい景色を見ることはできないと思えば、一期一会という言葉の響きが胸をうつ。
秋田県境の神室連峰を北から辿ると、神室山、天狗森、小又山、火打岳と1300m級の山が続き、縦走コースが登山家に親しまれている。その南端にあるのが標高1098mの八森山である。最上町鵜杉集落からほど近い距離にある。神室山を奥の院とし、集落の人々信仰の対象となったのが八森山である。雨乞いの祈りと同様に、日和乞いの祈りがこの山で行われてきた。渓流から流れ出る水は、刀場川となって周辺の農地を潤し、人々の生活を支えてきた。
登山道には、一合目から九合目までの標識がある。歩行距離6・3㌔、標高差820mは穏やかな山容にもかかわらず、急勾配の登山道になっている。登山口で小さな渓流を渡ると、スギの植林が続く。二合目からはブナなどの広葉樹が混じる。登山道の下から渓流にかけて、スギ林と広葉樹林の紅葉が鮮やかなコントラストをなしている。900mをこえるところには霧が立ち込めている。予報では晴れであるが、空は雲が立ち込めている。青空のなかで見る紅葉というわけにはいかない。時おり明るくなれば、写真映りはピリカンよりいいのかも知れない。
秋の山登りのもう一つの魅力は、秋の味覚との出会いである。三合目のブナ林で、ムキタケ、ナメコ、ブナシメジなどがたくさん出ている。倒木にびっしりと出ているナメコが見つかると、仲間たちの喜びの声が山中に響く。登山口では、熊は大丈夫か、という不安の声があったが、紅葉と珍しいキノコとの出会いに不安は消し飛んでいる。
紅葉が美しくなる条件がある。猛暑の夏、猛暑から急降下した気温のまま秋を迎えること、そして台風で木々があらされない。この夏は冷夏といってよく猛暑は少ないのでややこの条件を満たしていない。更に上に昇ると、道の左手が切れ落ち、八森山の裾が絵のような紅葉に染まっている。最高の条件を満たしていないとはいえ、まじかで見る紅葉の美しさは格別だ。高度を上げるにしたがって、葉の色は茶色になり、山道は落葉がうず高い。頂上付近は霧に隠れて、秋の気配が急速に失われていく。標高800m市町境に出る急登には、ロープが付けられている。
市町境の尾根道は標高900m、鞍部を目がけて吹きつける風が身をきるように冷たい。すでに木々の葉は落ち、ここにはもう秋はない。登山口からここまでの所要時間は凡そ1時間40分。たったこれだけの時間、高度を650mかせいだだけで、舞台は秋から冬への大転換をなしている。後約200mのなだらかな尾根道を行くと頂上のつく。雲が厚くなり、急にあたりが暗くなる。霧がすっぽりと山を覆い、夕方のように薄暗い。急登でかいた汗が冷やされて、体温が奪われるのを体感する。この時からわずか丸一日後には、台風が東の海洋に抜け、蔵王など高い山は雪になった。西吾妻山で登山した人が吹雪にあって下山できず、捜索隊が山に入っている。季節の変わり目の山の天気の急変は怖い。