
四月逝く百花騒然たるなかに 相馬遷子
春らしい気候が続くことなく逝こうとしている。草花の生命は力づよく季節をたくましく乗り切っていく。それに比べると人間の生命力はか細いものだ。春の花に力をもらって夏を迎えるほかはない。一夜明けて新しい月、朝、イワシの煮つけにベランダのサンショウの葉を手で叩いて乗せる。五月の香りが食卓から漂ってきた。
四月の終りに観たアマプラの映画は「情熱大陸土井善晴」だ。一昨年テレビで放映された情熱大陸に手を加えて映画化したのもだ。すでに『一汁一菜でよいという提案』という本を書いた土井だ。映画の冒頭のシーンで椀に具材をカットして入れるところがいい。彩りを考えた具材が無造作にカットされて椀いっぱいになる。加えるのは椀に入るだけの水。鍋でグツグツと煮立てて、カボチャに箸が入るようになってから、ほどよい量の味噌をとく。具材は季節の旬に合わせて選ばれる。土井は料理することは思いだ、と説く。おじいちゃんが食べるから少し味噌を控えるという思いやり。卵を落とせば、味噌汁は味がよくなり、必要とされる栄養が補給される。
毎日の食卓を手間や時間をかけずに手作りする。高齢になった我が家では、実の参考にすべき提案だ。土井には娘さんがいるが、父の食の考えに共感して理料理店を開いた。キッチンでの父娘の会話が楽しい。何種類もあるキノコを指して「きのこお願い」と娘が言う。小さく刻んだキノコを混ぜ合わせて作る土井のキノコ炊き。二人が訪れるフランスのリヨンの食品店の映像もいい。フランスのキノコが棚に無造作に置かれている。日本食とフランス料理に共通点がある。かって料理人を目指して留学した街の大学で、若い学生を前に日本食について講演した。娘を連れてのフランス旅行。手足が不自由な高齢者でも、参考になる家庭料理のあり方が示される映画だ。
