常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

老いのくりごと

2013年10月31日 | 日記


山登りの仲間にも、詩吟の仲間にも耳が遠くなったり、目が見えにくくなった人が多い。かくいう私も、手元を見るのに老眼鏡が手放せない。買い物をする際、商品の説明書きを見るにはメガネ無しではほとんど不可能である。外出にはメガネを持たないことが多いので、商品の小さな説明書きを見る羽目になると、もう購入をあきらめてしまう。

谷崎潤一郎の随筆に「老いのくりごと」というのがあって、これを読むと文豪の世界が急に身近なものに感じられて嬉しくなる。谷崎は永井荷風が気に入った映画を必ず二度見る、という噂があることに関して、それは老人の眼には兎角見落としがあって、面白味が十分に呑み込めないのではないかと推測している。

谷崎自身の映画を見るときのことを、細かく書いている。
「私の諸器官がすっかり緩んでしまったのか、今年になってから覗きに行って見ると、発病以前に比較して、一層見おとしや聞きおとしすることが多い。事件の発展に極めて重要な関係のある動作が、ほんの一とコマしか写らなかったりすると、つい気付かないで見過ごしてしまい二度繰り返し見て始めて理解する。昔は英語の字幕でもゆっくり読めたのに、今では日本文でも、大概は全部読み終わらないうちに消えてしまふ」

映画の俳優や女優の名も顔は覚えているのに、名前がどうしても思い出せない。ついいらいらしてしまい、ネットを開いて名前を確認することもしばしばである。その時は、そうだこの名だと気付いて安心するが、一週間もするともう忘れてしまっている。本を読むときも、少し疲れてくると同じ行を何度も繰り返してしまう。それこそ、筋書きを辿るのに大切な行を飛ばしてしまっていることも一度や二度ではない。

この間、義母の家の不要品を片付けていると、『吉川英治全集』全34巻が出てきた。「三国志」や「水滸伝」、「新平家物語」、「太平記」などの長編ばかりだが、吉川英治の筆の運びは、読んでいて同じ行にとどまったり、飛ばして読むことはない。それだけ、物語の面白さにテンポがあり、老いてもなをそのテンポについていくことに喜びを感じることができるからかも知れない。

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四面楚歌

2013年10月30日 | 日記


民主党の海江田代表が自らのFBに四面楚歌という4字熟語を紹介して憶測を呼んでいる。漢の劉邦と楚の項羽の覇権をめぐる争いで、垓下のたてこもる項羽を包囲した漢軍から楚の歌が聞こえてきた。これを聞いた項羽は、自分が率いてきた楚の軍が漢の軍に寝返ってともに包囲していることに気づいた。

最も信頼を寄せている者たちが、敵の軍門に下っている。もはやこれまでと思わざるを得ない。自信のかたまりのような項羽も、この事態にがっくりときてしまった。もはや、一筋の光明さえもない、絶望的な状況を「四面楚歌」というのは、このエピソードがあるからだ。すると海江田代表をとりまく議員が敵の軍門にくだったのでは、との憶測をよんだのだ。

海江田さんは、後日そのような心配はありませんとFBに書き込んだそうだが、なぜこの時期に紛らわしい話題を選んだのだろうか。理解に苦しむ。項羽の置かれていた状況は、最愛の虞美人も自らも死を覚悟しなければならい極限に至っていた。項羽は虞美人と最後の別れの杯を交わしながら、一編の詩を歌った。

力山を抜き 気は世を蓋う

時に利あらず 騅ゆかず

騅ゆかざるを 奈何せん

虞や虞や なんじを奈何せん

その場で虞美人は自刃し、項羽は包囲軍と血戦を交え、力尽きて自刎したというのは歴史物語の伝えるところだ。
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大源太山の紅葉

2013年10月26日 | 登山
日程を一日ずらして明日、大源太山の登山に向かう。昨年挑戦して、雨で断念した山だ。台風が去って、今回は成功できるか。山形でも、近辺の緑が見事な紅葉を始めたので、この山の紅葉が楽しみである。一夜明けて、日本海側に雨が残っている。8時50分に自宅を出て、一路越後路に向かう。山登りは、天気によってその楽しさは左右される。ただ、天候の回復を祈るのみ。



10月28日、昨夜まで降り続いた雨が嘘のように上がり、晴天無風の登山日和となった。昨夜の天気祭りの効果が現れたのか。むしろ天気予報に基づいた行動が功を奏したというべきか。旭原からの林道終点にある駐車場にはすでに10台ほどの車が置かれていた。大半が関東方面で、地元の車2台、岐阜ナンバー1台に我がチーム1台で満杯である。登山口からしばらく杉林をいく。渓流を渡ると山中の足元は多少濡れてはいたがほとんど登るのを妨げるものではなかった。2ヶ所ほどの渓流の渡渉があり、靴を脱いで裸足で水に足を入れたが、身を切るような冷たさであった。

渓流を渡るとすぐにロープを張った急登りに出る。山中では車を置いて登っている登山者に行き会う。滅多に会わない若者グループに会う。何時に登ったのを聞くと、「8時半ごろですね。登り2時間ちょっとかな。」いとも簡単に答えが返ってきた。7分目当たりで3時間を経過している我々から見ると、若さが輝いて見える。最高齢者82歳を擁しているので、早くは登れない。「沢はどうしました」と、反対に聞かれた。「靴を脱いだね。」と答えると、「それが一番ですよ。」と言った。後で見ると、大半の登山者がスパッツを付けて靴を脱がずに渡っているらしい。



上越のマッターホルンと呼ばれるだけに山容は険しい。尾根道に出てからは、左右が切立つ痩せ尾根だ。青空のもと岩肌にしがみつくように生える木々の紅葉は黄色を主体にまさに黄金の輝きを見せる。

すゝきより低き雑木の紅葉あり 高木 晴子

頂上からはまさに360度の山々が一望である。岩につかまり、ストックの力を借りながらきつい思いの後に味わう至福の光景である。かつて滑落遭難で多くの死者を出した谷川岳は指呼の間である。

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鈴木牧之

2013年10月26日 | 


鈴木牧之は明和7年1月7日、雪深い越後の国塩沢に生まれた。今の南魚沼市塩沢である。父はこの塩沢の特産品である縮布の仲買と質屋を営んでいた。父は商いのかたわら俳諧を趣味とし、周月庵牧水という俳号であった。牧之は父の俳号の一字を採って付けられた。牧之も父の影響で経書を学び、詩や画も幼児から師について学び、その腕前は師と並ぶほどであった。名高い著書『北越雪譜』は雪国塩沢の民族を活写しているが、その挿絵は自らの筆で原図を描いた。

『北越雪譜』のなかにこの地方特産である「白ちヾみ」を晒すことについての記述がある。「白ちヾみ」は田などの平地に雪高さ3尺、幅と長さはちヾみと同じ面積の雪の台を作る。この台は手ごろの板に柄をつけて真平らにならしておく。織りあげたちヾみを灰汁に浸しては幾日も同じようにして晒し続ける。

「やがてさらしをわらんとする白ちヾみをさらすおりから、朝日のあかあかと昇りて玉屑平上に列ねたる水晶白布に紅映したる景色、ものにたとえがたし」

この雪国の景色を、暖国の人に人目でも見せたいものと、牧之は書いている。牧之は諸芸百般に通じていたから、その芸術家との交流は驚くほど広かった。文士では馬琴、蜀山人、京伝、一九など。画人では文晁、北斎、漢学では鵬斎などと交わった。いずれも家業で江戸に上る寸暇をさいて、これらの諸家を訪れたのである。

明日、大源太山を登るため湯沢温泉に行く。できれば、このついでに塩沢にある鈴木牧之記念館を訪ねてみたい。
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藤原の効果

2013年10月25日 | 日記


台風が多い年だ。停滞気味の27号は今日あたりから方向を北東に変え、速度を増すらしい。それと前後して発生した28号は、27号の進行に影響を与えているらしい。二つの台風が相互に影響するのを藤原の効果と言う。テレビや新聞の天気予報でこの言葉多く使われた。戦前に中央気象台の台長を勤めた藤原咲平の研究による用語だ。

藤原咲平は1884年長野県に生まれ、東京帝大を卒業後欧州に留学した。そのとき見たグライダーを日本に紹介したので、「日本グライダーの父」とも言われている。その藤原が、二つの台風が接近した場合にお互いに影響しあって起きる複雑な動きを分析し、その動きを類型化して、1921年に発表したのが「藤原の効果」である。

その類型には六つのパターンがある。①相寄り方「弱い台風が強い台風に巻き込まれて衰え一つに融合」②指向型「一個がもう一個の動きを支配した後に衰える」③追従型「東西に並んだ二個のうち一個が先行、もう一個がその経路をたどる」④時間待ち型「東側の台風が北西に進むのを待ち、西側の台風も北上する」⑤同行型「2個が並行してどう方向に進む」⑥離反型「同程度の強さの二個うち一個加速して北東へ、一個は減速して西へ進む」

今回の台風はパターン③か④に該当するよう見える。台風と海面の温度との関係は深い。ことし多く台風が発生するのは海面の温度の上昇に原因がある。ひいては地球の温暖化の傾向がこの台風発生や竜巻、夏の異常高温などの根底にある。
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