台風24号が、強い勢力を保ったまま近畿地方
に上陸し、その後、列島を縦断する進路が予
報されている。つい半月前、大阪や関空に大
きな被害ををもたらし、その復興もままなら
い状況で、また同じような勢力の台風が、日
本列島に不気味に迫っている。この自然の巨
大な力の前に、人間の力、その存在の小ささ
を思い知るばかりだ。被害が小さくて過ぎ去
ることを祈るばかりである。
シェイクスピア劇には、二つの嵐の場面が登
場する。『リア王』と『テンペスト』である。
この劇のセリフを読むと、シェイクスピアが
生きた1600年代の、嵐も今に劣らぬ威力があ
ったものと想像できる。
リア王 吹け、風よ、お前の頬を吹き千切れ!
あばれまわれ!吹け!
汝、天よりの豪雨よ、地におこる竜
巻よ、ありったけの水を押し流せ、
高い塔も水浸しになり、風見車も溺
れ沈むまで!
そして、『テンペスト』では、孤島で暮らす
少女ミランダが嵐で、航海する船が沈んで行
くシーンから劇が始まる。
ミランダ お父様。お父様の魔術で海があん
なに荒れ狂っているのでしたら、
鎮めてくださいませ。ああ、あの
苦しむ人たちを見て、私も苦しく
なりました。見事な船が、きっと
どなたか立派なおかたをお乗せし
ていたでしょうに。すっかりこな
ごなになってしまった。
「われらが小さき生」これこそが、シェイク
スピアが遺したかったメッセージである。夢
と同じくはかない身、そしてわれらが小さき
生は眠りによって幕を閉じる。