報道ステーション・スタジオ
(ナレーター:仮屋昌伸・柳沢真由美)
古舘アナウンサー:
3.11、5年目の今日です。
私たちが今日、一点に絞ってお届けをしたいと思っているテーマに関して、今日、厚労大臣が、それに関連する発言をされました。
ちょっとそれを見てください。
記者:
福島県の調査で、子供の甲状腺がん(確定)が、116人見つかっています。
震災の前は、100万人に1人から3人とも言われていましたが、これだけ見つかっていることに関しまして、見解をお聞かせください。
塩崎厚労大臣:
この問題は、委員会でもだいぶ取り上げられておりましたが、ご指摘のデータと言うのは、福島県で行った県民健康調査の結果によるものでございます。
福島県における放射線によります健康被害健康影響の問題につきましては、環境省の所管でございますので、
厚労省としてのコメントをする立場にはないというふうに思います。
記者:
国民の健康と言う側面から、厚労省としての見解はどうなのか、お聞かせください。
塩崎厚労大臣:
あの、今申し上げたように、この放射線による健康影響の対応については、環境省が担当ということでございます。
古館アナウンサー:
まぁあの、これは、紙に書かれている簡略化された組織図のご説明、と言うふうに感じます。
私どもが、聞きたいなと勝手ながら思っていたのは、やはり厚労大臣としてのご見解、お考えはどうかということを、率直に聞きたかったところであります。
さて、今日のテーマですけれども、
18歳以下、小さなお子さん、あるいは若い方の甲状腺がんは、原発の事故、及び放射線との因果関係はあるのかないのか、
このテーマで、今日は進めてまいりたいと思います。
もちろんですね、福島の方々の中には、いろんなご意見があることは承知しています。
しかし、我々取材をしていく中で、実際に甲状腺癌になってしまった若い方に、お話を聞くことができました。
それから、それとはまた別に、自分のお子さんががんになった、甲状腺がんになったと。
その苦悩を抱えている親御さんに、お話を聞くこともできた。
そういう取材を通じて、問題提起をさせていただこうという、結論に至ったわけであります。
さて、福島におきましては、2011年から、一巡目と言われますけれども、若い方の徹底した検査が始まっていた。
そして、一巡目の検査が2014年に終わった。
その時に、甲状腺がん、及びがんの疑いの方は、後ろに出ておりますように、115人と出ました。
そして、2014年から、二巡目と言う形で、検査がまた行われていった。
すると、まだ途中段階にありますが、二巡目は、現段階において、がん、あるいはがんの疑いの方が、51人という数字が出てきて、
合わせますと、166人の方がそうだ、ということになったわけです。
一般的に、18歳以下の甲状腺ガンの方の発症率、というものを見てみますと、100万人に1人から2人と言われています。
2人で多い方をとっても、5年経過しておりますから、100万分の10人ということになります。
それと比べますと、166人というのは、異常に多い数字ということが言えます。
いくつかの角度から、われわれは取材を進めました。
甲状腺がんの手術をした女性:
「なんで私なんだろう」、というのは思ったことあるんですけど。
ナレーション:
福島の検査で分かった甲状腺癌。
手術を受けた女性が語った苦悩。
原発事故との関係はあるのか。
あれから5年。
子供の甲状腺がんが増え続けている。
福島・検討委座長:
放射線の影響とは考えにくいという見解を…、
それは本当なのか。
答えを求めて、取材班は、事故から30年目のチェルノブイリへ。
甲状腺がんの手術をした直美さん(仮名):
やっぱりその、手術の後の1週間が、すごい辛かったです。
何回も吐いちゃうので、まず気持ち悪くて、
ご飯とかも全然、喉が痛くて食べられなかったので、お腹空いたんですけど、でも食べられないのが辛かった。
ナレーション:
福島県中通り地方に住む直美さん。
高校生の時、甲状腺がんと分かり、甲状腺を摘出する手術を受けた。
年齢や手術の時期など、具体的な事は、本人の特定につながるため、お伝えできない。
直美さん:
手術に対する不安とかが一番大きくて、だからあんまり考えないようにしてて、手術で治るなら手術はしようとは思いました。
ナレーション:
首元には、今も手術の跡が残る。
直美さん:
やっぱり傷があるので、ちょっと傷を隠す服とかばっかり選んじゃうので、あんまりお洋服が選べないのがちょっと今辛いです。
すごい自分でも気にしちゃうので、「どうしたの」とかあまり聞かれたくないので、やっぱりできるだけ隠すようにはしています。
ナレーション:
甲状腺に異常が見つかったのは、福島県が震災から7ヶ月後に始めた、甲状腺検査だった。
一時検査で、甲状腺に異常がなければA判定となるが、甲状腺がんの可能性がある場合にはB判定、C判定となり、より詳しい二時検査を受けなければならない。
喉仏の下にある小さな臓器が甲状腺だ。
海藻などに含まれるヨウ素を取り込んで、甲状腺ホルモンを作り、全身に送り出す。
子供の発育や成長を促したり、新陳代謝を高めたりする、身体に欠かせないホルモンだ。
甲状腺を手術で全て摘出すると、ホルモン剤を毎日、それも一生飲み続けなければならない。
問題なのは、甲状腺が、原発事故で放出された、放射性ヨウ素も取り込んでしまうことだ。
甲状腺に放射性ヨウ素が集まると、その放射線によって内部被爆し、がんになるリスクが高まる。
特に子供は、大人より放射線の影響を受けやすい。
原発事故の後、福島県が、子供の甲状腺検査を続けているのも、そのためだ。
これは、甲状腺にできたしこりに針を刺し、細胞を取ってがんかどうかを調べる様子。
直美さんもこの検査を受けた。
検査から1週間後、医師からこう告げられた。
直美さん:
甲状腺のがんていうか、「腫瘍があります」と言われて。
「手術したほうがいいですよ」とか、結構大きくなっていたので、「手術しましょう」という感じで言われました。
ナレーション:
甲状腺がんにはいくつか種類があるが、中でも最も多い甲状腺乳頭がんは、体の他のがんに比べて、命に関わることは少ないとされる。
日本医科大学付属病院内分泌外科杉谷巌教授:
治療は手術が基本で、甲状腺の切り取り方は、病気の広がりだとか病気がどの程度危そうかとかいうところに応じて、決めていくんですけれども、
手術によって九分九厘治る、というものが大半です。
ナレーション:
一方で、子供の場合は、首のリンパ節への転移が激しい、という特徴がある。
また、治療後の再発も多く、肺に転移する頻度も高いとされている。
ただ、比較的珍しい疾患で、まだわかっていないことが多い。
これは、摘出された、9歳の子供の甲状腺とリンパ節だ。
下の部分が甲状腺。
周りにあるリンパ節は、がんが転移したために大きく膨らんでいる。
福島県による検査でも、手術を行った子どものうち、実に74%がリンパ節に転移していた。
直子さん:
腫瘍を取って、あとちょっとリンパ節とかにも転移してたので、周りのも取って手術して、
3ヶ月ぐらいは声がかすれちゃって、声が出ないのが1番辛かったかなと思います。
ナレーション:
福島県の甲状腺検査で、がん、またはがんの疑いと診断されたのは、
2011年から行われた先行検査、いわゆる一巡目では115人。
そして、2014年から、同じ子供たちを対象に行われた本格検査、二順目では、去年末の時点で51人。
合わせて166人だ。
166人の患者。
平野貴人取材ディレクター:
みなさん、今日は集まっていただいて、ありがとうございます。
ナレーション:
悩んでいるのは、患者だけではなく、家族も同じだ。
ある3人の親に、話を聞いた。
Aさん(息子が甲状腺がん):
私らもまさか、そういった検査でひっかかるなんて言うのは、ほんと夢にも思ってなかったもんですから、まさかね。
ナレーション:
Aさんは、当時10代の息子が、甲状腺がんと宣告されるとは、全く思っていなかった。
Aさん:
ダイレクトに、私と息子の前で、「息子さんはがんです」と、ストレートに言われました。
質問:
息子さんはどうでしたですか。
Aさん:
いやあもう、ほんとにあの、顔面蒼白っていますか、血の気が引いちゃって、
私も当然びっくりしましたけども、息子も相当なショックを受けていました。
ナレーション:
事故当時、娘が10代だった母親のBさん。
Bさん:
娘もやっぱり、(甲状腺癌と)聞いた瞬間は、え、なんで?っていう感じで、顔色は青ざめて、ぼろぼろ涙を流しました。
私もそれを見て、こられなければいけないんですけども、ぽろっと涙を流しました。
ナレーション:
やはり1番心配なのは、「子供の今後」の事。
Cさんは、娘のがんが将来再発しないか、心配していた。
Cさん:
今後、ちょっと具合が悪くなって働けないとか、そういった場合、まだ親が元気なうちはいいんですけど、再発する事は無いと祈るしかないです。
Aさん:
親としてみれば、悪いものは取っていただきたい。
それは確かに当たり前の話なんですけれども、取ったから、じゃあもうがんはなくなったのかっていうと、それはまた別の話じゃないか。
ナレーション:
県の部会が出した報告書に、こう書かれている。
「甲状腺がん(乳頭がん)は、発見時点での病態が、必ずしも生命に影響を与えるものではない(生命予後の良い)がんであることを、県民にはわかりやすく説明し」
治療をすれば、命に関わることはあまりない、ということだ。
Bさん:
やっぱり女の子なので、いずれは結婚して出産を考えてるとは思います。
自分はがんになってしまったんだからっていう、そういう負い目はあると思うんですね。
それを考えたときに、親として辛い面はあります。
ナレーション:
親はみな、「死なないならたいしたことはない」と、思ってほしくないのだ。
手術を受けた直美さん。
その後体調が悪くなり、進学した学校を辞めざるをえなかった。
直美さん:
進学していた時に夢があったので、本当は夢を追いかけて、それを仕事にしたかったんですけど、それを諦めてしまったことが1番辛いです。
治療に専念しなきゃいけないのかなってのは薄々思っていて、なんか人生を左右じゃないですけど、やっぱ大きく変わっちゃうのかな、と思いました。
ナレーション:
人生大きく変えてしまった甲状腺がん。
原発事故との因果関係はあるのか。
枝野幸男官房長官(当時):
直ちに、人体に影響を及ぼすような数値ではない。
ナレーション:
これは、2011年4月1日時点で、放射性ヨウ素がどのように広がったのかを示した地図。
「SPEEDI」を基に推定したものだ。
福島県に、広く、放射性ヨウ素が拡散したことがわかる。
当時直美さんは、通学や体育の授業、買い物など、日常生活で外にいる時間も多かったという。
直美さん:
マスクしてるとなんかその、潔癖症とかじゃないけど、なんか変わってるんだなとか思われたくなかったので、
みんなと一緒に、マスクはあまりつけずに、ずっと生活をしていました。
今も全然、自分がどのくらい被ばくしてるんだろうというのは、わかってないです。
ナレーション:
今も、がんの再発や転移に怯える日々が続いている。
直美さん:
「なんで私なんだろう」っていうのは思ったことあるんですけど、
でももしかしたら、誰かがなんなきゃいけないのかなと思ったり、
やっぱでも、なったからには、がんと闘っていくしかないのかなとは思います。
多分、これからずっと向き合っていかなきゃいけないのかなと思っています。
ナレーション:
「なぜ甲状腺がんになったのか」
「被曝の影響はあるのか」
息子が甲状腺がんになったAさんも、医師に何度も尋ねた。
Aさん:
「今回の原発事故との関連性は高いんですか」っていうふうに、私は、素朴な疑問ですけれども、先生の方にお伺いしたらば、
「原発とは関係はございません」。何回聞いてもそうですね。
質問:
「あるかどうかわからない」ではなくて「無い」と言うんですか?
Aさん:
「(被ばくの影響は)無い」ですね。
ナレーション:
今回の3人を含めて、多くの家族を取材するなかで、さまざまな悩みを聞いた。
「医師とコミュ二ケーションがうまくいかない」
「いわれなき差別を受けた」
「(他の病院での)セカンドオピニオンの受け方がわからない」
しかし、その悩みを相談する相手がいない。
Bさん:
周りに、自分から、「家の子はがんだよ」なんて言うものでもないし、やっぱり本当に、ごくごく身内の人にしか話はしなかったし。
Aさん:
人に話をしてみたところで、それが発端で話が大きくなって広がっていくのが、本当に嫌だし。
ナレーション:
孤立していた家族。
彼らが中心となって、会を作ることになった。
会の名前は『311甲状腺がん家族の会』。
地元の方などが世話人となり、原発事故後に甲状腺がんと診断された子供らの家族に、会への参加を呼びかけると言う。
武本泰さん・会の世話人:
(県の)健康調査を見ていますとどんどん患者数が増えてくるわけですね。
その中でやはり、その患者、あるいは保護者同士が、繋がらなきゃいけないんじゃないかと。
ナレーション:
現在参加家族は、福島県中通り地方の4家族と、浜通り地方の1家族、合わせて5家族だ。
家族会で見えてきた問題を解決するため、県や国などに働きかけるという。
明日12日(3/11現在)に、記者会見を行う。
Cさん:
自分と思っていたことが同じで、涙を流してね、話されたお母さんもいたりして、ためていたものを人に言えたということが、1番大きいのかなと思います。
スタジオ
古館アナウンサー:
いろいろな辛さを分かち合うことの大事さっていうものがね、今後、ご家族の方々に出てくるんだと思うんですけど、
ここから先のVTRについて、ちょっと説明をしたいんですが、
原発事故と甲状腺がんの因果関係は無いであろうという、この考え方に関して、ま、いくつかの疑問にぶつかっていっております。
一つは、例えば単純な話、チェルノブイリの放射線量に比べて福島はぐーっと低いからと。
だから因果関係は無いであろうと言うのには、甚だ疑問があるということ。
そしてもう一つなんですけども、チェルノブイリの場合にですね、あの原発事故当時、チェルノブイリ周辺で、0歳から5歳までの小さなお子さんに、甲状腺がんが多発したんだと。
福島の場合は、原発事故時、0歳から5歳までの小さなお子さんには、今のところ発症が一例も見られていない。
したがって、因果関係は無いであろうというこの考え方に関しても、やはり甚だ疑問です。
と言いますのは、調べてみればすぐわかることですが、
チェルノブイリの場合は、0歳から5歳の時、事故当時、そのお子さんが発症せずに成長していって、思春期に入り、例えば15歳になった、
この辺で甲状腺がんが多発しているという事実が、はっきりとわかっているからです。
ナレーション:
甲状腺がん増加の理由をめぐって割れる、専門家の意見。
ミハイル・バロノフ氏(国連科学委員会専門家):
甲状腺がんのリスクに影響する、3つの重要な要素があります。
それは線量、年齢、そして時間です。
ナレーション:
先月9日、福島原発事故での被ばくの実態などを調査した、国連科学委員会(UNSCEAR)が、福島の住民に向けて行った説明会。
ある男性が手を挙げた。
荒川秀則氏(狩野小(浪江町)元校長:
狩野小の子供たちは、公表されていなかった「SPEEDI」の中の、真っ赤な放射性物質が降り注ぐところを避難してきたんだなーっていうふうに、全員が心配し、
スピーディーの真っ赤なところを逃げた私たち、子供たちは、本当に大丈夫なんでしょうか?
ナレーション:
震災当時、浪江町の小学校の校長だった男性。
児童たちとともに、津島地区から川俣町へと避難した。
後に、そのルートが、放射性物質が大量に流れた方向と一致することを知った。
マルコム・クリック氏(国連科学委員会事務局長):
確かにそれは最も線量の高いルートです。
ナレーション:
今のところ、当時の子供たちから、甲状腺がんは見つかっていないと言う。
だが、放射性物質の中を逃げた、という不安は消えない。
荒川氏:
今後、もっともっと(甲状腺がんが)でできそうな雰囲気はあるな、と思うんですね。
どうしても、説明会に出たりすると、「さほど心配することないですよ」っていうことの方が多く広まっていて、
でも、果たしてそうなんだろうかっていう疑問を持っていますね。
ナレーション:
福島県の甲状腺検査では、一巡目で115人、二巡目で51人ががん、またはがんの疑いとされた。
原発事故の影響なのか。
津田敏秀教授(岡山大学大学院・環境疫学):
日本全国と比べまして、最も高いところで、約50倍の甲状腺がんの多発が起こっている、ということが推定されました。
ナレーション:
岡山大学の津田敏秀教授は、原発事故前の日本全体と比べ、事故後の福島県内の子供の甲状腺がんの発生率は、20倍から50倍になっている、とする論文を発表。
こう主張した。
津田教授:
福島県内において、放射線の影響による、著しい甲状腺がんの多発が起こっている。
ナレーション:
福島の住民も、疑問と不安を抱いている。
質問:
県の発表では、放射線の影響は考えにくいという見解があるんですけれど。
住民:
素直にそうとは受け取れないですね。
何かあるかもしれないという不安は常に持っているので。
星座長(福島・検討委):
放射線の影響と考えにくいという表現を、改める必要はないだろう。
原発の影響とは考えにくい。
住民:
じゃぁ何が原因なんだと。
お医者さん、それならば調べてくださいよと。
ナレーション:
有識者による福島県の検討委員会は、事故から5年を機に、中間報告をまとめようとしている。
その最終案では、一巡目で発見された甲状腺がんについて、
放射線の影響が完全には否定できないとしながら、4つの項目を理由に挙げて、こう結論付けた。
福島・検討委「中間報告」最終案。
◆被曝線量が少ない
◆がん発見までの期間が短い
◆事故当時5歳以下からの発見はない
◆地域別の発見率に大きな差がない
『放射線の影響とは考えにくいと評価する』
4つの理由の内、事故当時の年齢について、検討委員会のメンバーでチェルノブイリを何度も訪れたことがある、長崎大学の高村昇教授が解説する。
高村教授(長崎大学・原爆後障害医療研究所):
福島で、これまで、事故当時0歳から5歳の人で、甲状腺がんを発症した方はいらっしゃいません。
特にチェルノブイリでは、事故当時0歳から3歳、0歳から5歳といった、非常に若い世代で、甲状腺がんが多発したと。
ナレーション:
チェルノブイリで多発した年齢で、発症していない。
被曝線量が低い。
そうかもしれない。
だから放射線の影響は考えにくい。
そうなのか
我々には、納得できない思いが残る。
かつて、100万人に1人か2人と言われた子供の甲状腺がんが、なぜこれほど見つかるのか。
津金昌一郎氏(国立がん研究センター・福島検討委):
決して、要するに、臨床症状をもたらさない、あるいは死には至らしめないような甲状腺がんを、多数診断してる、
いわゆる「過剰診断」である、というふうに考えるのが妥当である。
ナレーション:
検討委員会のメンバーの1人、国立がん研究センターの、津金昌一郎氏。
彼が指摘する過剰診断とは、こういうことだ。
これまで、子供の甲状腺がんは、症状が現れ治療を受けることで、初めて見つかっていた。
これが、100万人に1人や2人、という割合だった。
津金氏は、現在の甲状腺検査が、県民全体を積極的に調べることで、それまで見つけていなかったがんを拾い上げているのだ、と説明する。
ここで問題になるのが、甲状腺がん独特の特徴なのだと言う。
津金氏:
いわゆる普通のがんのように、どんどん大きくなって、リンパ節転移を起こして、やがて遠隔転移を起こして、人を死に至らしめるという、
普通のがんの想定のシナリオで考えると、やはりこの状況考えるのは、ちょっと難しいと思います。
ナレーション:
津金氏は、甲状腺がんの多くが、極端に成長速度が遅く、長期間症状として出ないものもあると考える。
それらを、子供の頃の検査で発見している、というのが過剰な診断。
見つける必要のないものを、見つけていると言うのだ。
だが、そうだとすると、大きな疑問が生じる。
これまで、甲状腺癌で手術を受けたのは、既に116人。
この中に、必要ないものが含まれていた、と言うのか。
ほとんどの手術が行われている、福島県立医科大学。
そして、そのすべてに携わるのが、鈴木真一教授だ。
過剰診断なのかどうか聞いた。
鈴木真一主任教授(福島県立医科大学):
今回見つけてあるものは、もう既にリンパ節に転移したり、甲状腺外に出ていたり、またそれが強く疑われるものに対して治療しています。
ナレーション:
鈴木教授は、摘出手術を行った甲状腺がんの、およそ75パーセントに、リンパ節への転移があったことなどから過剰診断では無いと強調した。
一方で、放射線の影響は考えにくい、という立場だ。
とすると、手術が必要なこれだけの数の甲状腺がんが、潜在的に存在していたと言うのか?
鈴木教授:
そうだと思います。
質問:
逆に、(これまで)手術しなければいけない症例が、ほったらかしにされていたというふうに思っちゃうんですよね。
結果的には今、みんな手術してるわけじゃないですか?
鈴木教授:
難しい問題があります。
(子供の甲状腺がんは)、転移までは早いかもしれませんけど、その後、進行して多臓器に転移をするとか、後は、命に関わるというのは、非常にゆっくりしているがんなんですね。
ナレーション:
リンパ節などへ転移しても、今は症状がないが、将来発症し、しかも重い症状になるかもしれない甲状腺がんを、検査で発見しているのだと説明する。
一方で、それらが実際にいつ発症するかについて、確証は持てないと言う。
鈴木氏:
それは誰もわからないことなので、
我々が治療させていただいたものでも、多分すぐにでも見つかったであろうものもあれば、しばらく見つからないもの見つけている可能性もあると。
ただ、それが、この先急に大きくなるのかならないのかっていうのは、我々予測をして治療はしません。
ナレーション:
多くの甲状腺がんを手術した医師すら、その正体をつかめないということなのか。
論争は、福島県の検討委員会内部でも、激しくなっている。
先月15日、被ばく医療の専門家、弘前大学の床次眞司教授が、福島の住民の被ばく状況について説明した。
事故直後の混乱などのため、被曝線量のデータは極めて少ないが、床次教授のグループは、事故の翌月に調査を行っている。
沿岸部から避難した住民62人の、甲状腺被曝線量測定。
内部被曝の線量が、最も高かった子供で、23ミリシーベルトだったと言う。
床次眞司教授(弘前大学 被ばく医療総合研究所・福島検討委委員):
不確かさが常に付きまとっているという理解のもとで、ただ総じて言えば、
この福島の事故における甲状腺被曝線量というものは、チェルノブイリ事故に比べて小さいという事は言えるだろう、という風には考えます。
ナレーション:
床次氏の説明を受け、福島での被曝線量は、チェルノブイリと比べて極めて低い、とまとめた星北斗座長。
増加している甲状腺癌について。
星座長:
今回も説明ございましたが、チェルノブイリとの比較の線量の話、あるいは当時の年齢など、被爆当時の年齢などから考えて、
これらのがんにつきましては、放射線の影響とは考えにくいという見解を、このまま継続する形に。
ナレーション:
被ばく線量が低いから、甲状腺がんへの影響は考えにくい。
本当にそれでいいのか?
床次氏に真意を質した。
すると、意外な答えが返ってきたのである。
床次氏:
「(星座長は) はるかに低いから考えにくい〝なんですよ〟」みたいな感じで言ってるから、それだったら私の説明がいらないじゃないと思ったわけです。
今回私が説明したのは、あくまでも集団として捉えた場合に、チェルノブイリ事故の線量と福島県発事故の線量、グループとして、集団として捉えたときの線量を比較したわけで、
個人のその、がんになった人たちがどうのこうのという議論じゃないですから。
ナレーション:
住民全体の被ばく線量を比較して、甲状腺がんと放射線科の因果関係に直接結びつけるのは乱暴だ、と言う床次氏。
検討委員会の中間報告最終案に、放射線の影響が考えにくいという見解が、盛り込まれていることも批判した。
床次氏:
「放射線の影響の可能性は小さいとはいえ、現段階ではまだ完全には否定できず」って書いてあるから、
だから、そう書いてあるんだったら、考えにくいって書かないほうがいいですよね。
(最終案を)今の額面通りに受け入れるというのは、難しいですよね。
先ほども言っているように、まだ段階…端緒を開いたばかりですよ。
~次の記事につづく~