まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

BLはディナーの後で

2012-12-23 | イギリス、アイルランド映画
 「召使」
 ロンドンに新居を構えたブルジョア青年トニーは、バレットという男を召使として雇う。有能なバレットにトニーは満足するが、しだいにバレットの存在はトニーの生活と恋人との関係を歪め壊し始めるのだった…
 「エヴァの匂い」「恋」などの名匠ジョゼフ・ロージー監督作品。
 ご主人さまと召使が、お互いに独占欲や嫉妬、痛めつけたい痛めつけられたいという精神的SM感情を募らせ、そして主従逆転…という、イビツで妖しい関係に陥っていく展開が、ミステリアスにクールに描かれていて、すごく引き込まれました。主役二人がフツーに男女だったら、陳腐な話になっていたかもしれません。危ない関係に堕ちるのが男同士ってのが、ミソで魅惑なのです。肉体的なラブシーンはないのですが、トニーとバレットの交わす会話や視線からは、曖昧かつドロドロした想いや欲情がにじみ出ていて、腐心を大いに刺激し期待を抱かせます。
 前半は、バレットの攻めがメイン。完璧な仕事ぶりでトニーの信頼を得て、静かに巧妙に自分なしではもう生活できないトニーにしてしまう。バレットのトニーへの尽くしぶりは、まさに人間の自立心を奪ってダメにしてしまう毒のようです。この献身的な召使バレットが、ほんと何を考えてるのか分からないところが、怖くて面白いのです。まず、トニーの恋人との冷ややかで熱いバトルが、腐ったYAOI心をくすぐります。慇懃に振る舞いながらも、彼女を邪魔者扱い&敵視して、さりげなく彼女をトニーから遠ざけようとしたり、彼女に関わるものをトニーの生活から消そうとしたりするバレット。彼女が動かした花瓶を元の場所に戻す、彼女が帰ったら消臭剤をスプレーするなどの行為を、コッソリやるのではなく露骨にやるわけでもなく、遠回しに確実に彼女に自分とトニーとの親密感を誇示し、彼女への反発を表明するバレット、そんな彼にイラっ&ムカっな彼女。いや~男をめぐって女と男がバトる三角関係って、やっぱ楽しいですね(笑)。でもあーいう関係の男女って、けっこういますよね。彼氏とその親友の仲のよさに腹を立てたり嫉妬したりする女とか、親友の彼女をウザがって意図的に男同士の友情を強調する男とか。反撃に出る彼女の、女としてではなく身分が上な者としてバレットを打ち負かす高慢さと冷酷さに、やっぱ女ってキツい!怖い!と、ビクビクタジタジだったバレットを見てて同情を禁じ得ませんでした。でも、そんな女の狭量さや意地悪に白旗を上げるバレットではありません。

 バレットの言動が曖昧で不可解すぎて、いろんな腐的想像妄想を掻き立てるんですよねえ。いったい彼は、何を企んでるのか。何を意図してるのか。トニーをどうしたいのか。トニーに忠実に仕えながらも、自分の情婦を妹と偽ってメイドとしてトニーの家に入れ、トニーを誘惑させたり。トニーを蔑み弄んでるのか?格差社会、階級の怨念も根底にはあったとは思いますが。一人の女を同じ家で男二人が共有してるインモラルなシチュエーションを、トニーが楽しんでる様子が不気味でした。さんざんトニーを傷つけて出て行ったくせに、泣きながら復縁を求めてくるバレットも怖かった。それを拒めないトニーも。ああ、もうこの二人、逃げられない悪縁で結ばれちゃったんだなと戦慄しつつ、二人が堕ちていく甘い暗闇を早く覗き込みたくてドキドキしてきます。
 後半は、トニーのバレットの主従逆転SMゲームがメイン。仕事もやめて引きこもりニートと化したトニーは、バレットなしでは何もできないダメ男に。バレットももう仮面は脱ぎ捨てて、トニーを世話の焼けるぺット扱いし、ドSな本性丸出しで言いたい放題ヤリたい放題。日がな一日、薄汚くなった暗い屋敷内で、二人だけの遊興に耽るバレット&トニーが、隠微で狂ってます。ほんともう生きながらに腐ってしまってる二人ですが…破滅しか待っていないと分かっていても、二人だけの世界でどっぷり溺れられるのは、愚かだけど幸せなのかもしれない、なんて思ってしまいました。

 黒執事バレット役は、ヴィスコンティ監督の「ベニスに死す」や「地獄に堕ちた勇者ども」などの名優ダーク・ボガード。御名前にぴったりなダークすぎる役でした。ほんと何もかもが黒いって感じ。黒髪も黒い瞳も、どこか悪魔の化身のよう。あの高貴な感じのする不吉さ暗さ、謎めいた知的さは、現代の俳優にはない魅力です。ちょっとキャマっぽい仕草や表情は、あながち役だけのせいとは言えないリアルさが。生涯独身だったダーク・ボガードには、ゲイだという噂が根強くあったとか。
 トニー役は、最近ではジョニー・デップの「チャーリーとチョコレート工場」で元気な姿を見せたエドワード・フォックス。ブサイクではないのですが、ワタシ好みのイケメンではなかったので、いまいちBL萌えできなかった。そこが残念な映画でした。日本でリメイクするとしたら、誰がええじゃろ。バレットは竹野内豊、トニーは向井理、とかがええのお。
 退廃的な内容なのにクールな印象になっていたのは、モノクロの成せる技でしょうか。雨や夜の冷たさとかは、モノクロだとすごく伝わってきますよね。
 

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