まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

清らかな牢獄

2014-07-22 | フランス、ベルギー映画
 お松の独りイザベル・ユペール映画祭②
 「La Religieuse」
 18世紀のフランス。ブルジョア家庭に育った16歳のシュザンヌは、両親の意向により修道院に入れられる。尼僧としての生活になじめず、いったんは家に戻ったシュザンヌだったが、彼女の母は不義によって娘を産んだことを告白。母の罪を贖うことを強いられ、再び修道院に送り戻されるシュザンヌを待ち受けていたのは、屈辱的で残酷な日々であった…
 日本未公開の2013年の作品。1961年のジャック・リヴェット監督、アンナ・カリーナ主演の問題作「修道女」のリメイクだそうです。英語字幕、今回は宗教的な専門用語とか表現が多かったので、難しかったでも、映画の内容はいたってシンプル、決して難解ではありません。おおざっぱにまとめれば、非人間的な因習に苦しみながらも、人間らしい生き方を求め続ける女性の物語、です。結婚とか男社会の職場で、いわれない理不尽、不公平に悩み抗う現代女性にも通じるテーマと言えましょう。
 洋画も邦画も、尼さんものと女囚ものって似てますよね~。扇情的に毒々しく描かれる、陰湿で残酷な女だけの世界。いじめとレズは、もはや欠かせない要素。この映画でも、ばっちり描かれてます
 心も体も清らかに、静かに暮らしているはずの尼さんたちなのに…その精神にも肉体にも、醜い悲しい煩悩がトグロを巻いてます。俗世と隔てを置き、厳しいライフスタイルを貫いてる彼女たちの抑圧された感情や欲望は、かなり狂気的で悲痛です。どれだけ神さまにすがっても、救われることがない業深き女たち。そのはけ口のように、はみだし者を寄ってたかって攻撃する姿が、おどろおどろしい。彼女たちにとっては、いじめでも虐待でもなく、すべて神の名のもとに行われている聖なる行為。ほんと宗教って怖いなあ~と戦慄を禁じえません。

 尼さんなんかになりたくない!帰りたい!とダダをこね、言うことを聞かないシュザンヌへの罰地獄!地下牢に閉じ込められ、食事もろくに与えられず、糞尿まみれ。ボディチェックで素っ裸にひん剥かれたり、裸足で引きずられていく階段にガラス瓶を巻き散らかされてたり、ツバひっかけ、掃除してるところを故意に汚されたりetc.犯罪レベルから小学生のいじめレベルまで、女の陰険さや冷酷さがコレデモカ!と。信仰の果てが、あれなのか~。思いやりのかけらもない、冷たく悪意に満ちた修道院は、俗世よりも病んだ醜悪世界に映りました。天使にラブソングなんか歌ってない、抑圧された行き場のない閉塞感、狂気に蝕まれてる尼さんたちの、声にならない断末魔の叫びが聞こえてきます。ほんとはこんなことない!と、尼さん協会(そんなんあるのか知らんが)からクレームとかこないのかしらん?
 それにしても…自分の意志でならいざ知らず、シュザンヌのように無理やり尼僧にさせられるなんて、そんなことがまかり通ってしまう社会って、怖すぎます。刑務所なら、まだ仕方がないなという諦めとか、刑期をまっとうすりゃシャバに出られるしという希望が抱けるけど…シュザンヌを見てたら、懐かしの戸塚ヨットスクールを思い出してしまった私なら確実に発狂するか、謎の不審死だわ。狂いもせず死にもせず、非道い目に遭っても耐えぬいて自由を手にすることを諦めないシュザンヌの強さが驚異的でした。シュザンヌの静かでしぶとい受け身な抵抗は、ただ暴れて反逆すればいいってもんじゃないのかも、と考えさせられるものでした。
 おぞましい狂った話なのですが、冷ややかで美しい映像のおかげで、不思議と気持ち悪さとかおどろおどろしさを感じません。清らかで気品ある僧衣とか、着てみたい~とコスプレ心をくすぐります。修道院の厳しくも静かな清貧生活も、2、3日なら経験してみたいと思った。新人シスターたちの出家の儀式?も、厳かに壮麗です。
 シュザンヌ役は、ベルギー人女優のポーリーヌ・エティエンヌ。若い頃のヘレナ・ボナム・カーター似?清楚で可憐だけど、世の悲運を一身にまとってるかのような不幸顔。大胆なオールヌードも強烈でした。ショートカットがよく似合ってて可愛かった。
 映画の後半、何とか恐怖の体罰修道院を出て、アットホームな明るい修道院へ移るシュザンヌですが…そこで次に彼女を待っていたのは、これまた悪夢のレズ地獄シュザンヌを見初め、モーションをかけてくるビアン修道院長役が、イザベル・ユペールです。

 今回のユペりんも、かなりヤバいです。はじめは、気さくで慈愛に満ちた徳のある女性だったのに、だんだんシュザンヌに対してストーカーちっくな言動を始め、どんどん物狂おしくなってく危険なおばさんに変貌。夜中、シュザンヌの寝室に来てベッドにもぐりこみ、わけのわからないことを言いながらハアハアな姿は、もう醜悪すぎて滑稽でもあった。迫られてる時のシュザンヌの表情が、心底ウザそうで笑えます。しまいにゃ人前で乱心する、困ったちゃんな院長。抑圧された中年女の崩壊って怖いわ~と、怖気をふるいました。

 表面的には誰よりもクールでエレガントな女性、実は猛毒と狂気を秘めたヤバい女の役、というのはユペりんのオハコです。ビアン院長のユペりん、まとも→狂気スイッチ入る、の繰り返しが、何かルナティック雑技団のマダムゆり子みたいで笑えた。彼女の冷厳な雰囲気は、尼僧役に合ってました。インパクトはありますが、出番はそんなに多くないです。

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