まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

あんたの最期、看取ってあげる

2016-08-26 | 日本映画
 「後妻業の女」
 結婚相談所社長の柏木と組み、資産家の老人と結婚しては殺害して遺産を相続する“後妻業”の女・小夜子。父の死に疑惑を抱く朋美と、弁護士に雇われた探偵の本多は、小夜子の正体を暴くべく調査に乗り出すが…
 久々の試写会。数々の秀作ドラマを演出した名匠、鶴橋康夫監督作品。
 面白かったです!笑えた!最近の邦画には珍しい、大人向けのブラックコメディでした。
 直木賞作家である黒川博行の小説、実際に起きた京都連続不審死事件との酷似が話題になった「後妻業」の映画化。原作にかなり忠実ながら、バッサリ切るところは切ったり(探偵の綿密かつ執拗な調査の過程とか)、キャラ設定の変更(主要登場人物の年齢はかなり若くなってたり、小夜子の弟は息子になってたり)。そして仰天のラスト。あれ、下手すりゃ原作を改悪!と謗られかねませんが、ワタシ的には成功してたように思われました。かなり笑えたし、インパクトあったし。悪いことをしたら、きっと因果応報なバチが当たる、というありきたりさを吹き飛ばすような痛快ささえありました。

 それにしても。高齢者の方々にとっては、見るに聞くに耐えないシーンや台詞のオンパレード。なまじ元気でお金があると、危険で不幸な人生の終焉を迎えてしまうハメに陥るのですね~。老いても色と欲にまみれてしまうなんて、醜悪で悲惨だよな~と心の底から思いました。被害者の老人たちの愚かで悲しいところは、小夜子がヤバい女と薄々わかってても、孤独よりは危険のほうがいいと覚悟してたような節。遺族と違い、被害者の老人たちは小夜子を恨んでなかったのでは。小夜子が罪悪感のかけらも抱いてなかったのも、だからこそ何となく解かるような。殺されるよりも恐ろしいのは、誰にも顧みられぬ必要とされぬ孤独な老境…ああ長生きって、ほんとに幸せなことなのかな~…

 後妻業…古来からあり、どんどん巧妙に進化していく古くて新しい稼業。まるで後妻業になるために生まれたような小夜子って、最悪に卑劣で非道な犯罪者だけど、こんな生き方ができるなんて羨ましいかも…と、誤った憧れを抱いてしまいました
 寂しい老人の心のスキに付け入る小夜子の手練手管に驚嘆。後妻業って、ものすごい度胸とバイタリティ、頭の良さ、そして女の魅力がないとできない仕事です。貪婪な欲望こそ、女を最も強く魅力的にするのですね。今の映画やドラマに氾濫してる、カッコつけたキャリアウーマンや女刑事など足元にも及ばないほど、小夜子はイキイキとチャーミングなヒロインだった。そのイビツな何だかな~さが、この映画の面白さなのでは。この映画を見て触発され、私も後妻業やってみたい!なんて、間違ったポジティブさを発動させちゃう未亡人が現れやしないかと、ちょっと心配
 この映画、とにもかくにも、小夜子役の大竹しのぶに尽きます。

 そのふてぶてしい毒婦っぷりときたら!人を食ったシャアシャアとした表情や喋り方が、くわー腹立つ~!けど笑える!モンスターをサイコチックに熱演してるのではなく、飄々と楽しそうに演じてるのが素晴らしいです。下品さも卑猥さも生臭さくて、こんな図々しい性悪おばはんいるよな~と、イヤな親近感を抱かせてくれます。きれいに見せようなんてコレっぽっちも思ってなさげな、中年女の汚さ醜さ全開の演技、見た目にも好感。ノーテンキだけど、たまに心の闇を表す虚ろな目つきとかがヤバすぎたり、大竹しのぶの他女優の追随を許さぬ個性、演技力が炸裂してる映画です。そして、同性には理解できない大竹しのぶの魔性も、存分に活かされています。頭が良い男とか才能ある男って、美女とは上手に遊べるのに大竹しのぶみたいな女には我を忘れてハマってしまい、いいように翻弄されちゃうんですよね~。男が近づきやすい雰囲気や隙は、天然なのか擬態なのか。その不可解さ、怖さも大竹しのぶ独特の魅力。小夜子はまさに、大竹しのぶのために用意されたようなヒロインです。冒頭の、ウィッグと白いワンピースで若作りした大竹しのぶは、おばはんなのにすごく可愛かった。
 小夜子の共犯者、柏木役の豊川悦司も強烈!

 大竹しのぶと互角に渡り合える俳優ってなかなかいないけど、豊川さんは大竹しのぶに食われることなく、W主演の座を保ってました。まず、顔が怖い!ゴム製の鬼瓦みたいだった。恰幅のいい長身は、今でもカッコいい。立て板に水なしゃべくりが圧巻。豊川さん、シリアスよりもコメディのほうがイケてるのでは?悪辣さ、うさん臭さをエネルギッシュに滑稽に熱演してました。彼と大竹しのぶのエゲツない極悪コンビの、毒々しくも愉快な丁々発止の応酬は、ほとんど漫才です。
 原作の柏木は、40歳ぐらいの男前、という設定だったので、意表を突いてキムタクに演じてほしかったかも!役者としてすごい挑戦になるし、意外とハマって一皮剥けて脱アイドルできるはず!TVドラマ化の際は、ぜひキムタクで!って、絶対やらないでしょうけど美味しい役だと思うけどな~。
 他の出演者も、いい味出してました。尾野真知子と余貴美子以上に、苦手だった水川あさみの好演が予想外でした。パンチラシーンとか、なかなか頑張ってました。津川雅彦、伊武雅刀、六平直政、森本レオなど、色ボケ老人役にピッタリすぎる絶妙な配役。小夜子の息子役、ジャニーズの風間俊介のイカレポンチな珍演も笑えました。顔も若い頃の小沢健二似で可愛かった。概ね原作のイメージを損なわないキャスティングでしたが、個人的にちょっと???だったのは、探偵の本多役の永瀬正敏と、新ターゲットになる老資産家役の笑福亭鶴瓶。キョンキョンの元夫だけ何か棒読みだった。鶴瓶のケツとか見たくなかったわ。キョンキョン元夫は堤真一、鶴瓶は渡瀬恒彦、がmy理想かも♪
 原作者の黒川先生が映画化の際に最もこだわり、おん自ら監修したというキャストの関西弁も、映画の大きな魅力になってます。やってることはエグくて浅ましくて非情なのに、新喜劇調の関西弁のおかげで何やっても言っても珍妙に。

 男たちを騙して金を巻き上げ、邪魔になったら殺す悪女たち…日本中を震撼とさせた筧千佐子(↑左)も木嶋佳苗(↑右)も、何でこんなオバハン、デブスに?!と、誰もが首を傾げたものですが。男を破滅させる女の魔性って、やっぱ見た目じゃないんだな~。まさに、現実は小説や映画より奇なり、ですよね~…
 
コメント (8)
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