まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

息子の恋人

2015-08-05 | イギリス、アイルランド映画
 「追憶と、踊りながら」
 ロンドンの介護ホームで暮らすカンボジア系中国人のジュンのもとに、事故死した息子カイの恋人リチャードが訪ねてくる。ジュンはリチャードを嫌っていたが、リチャードはカイに代わってジュンを支えたいと願っていた…
 地味ながら、なかなか心の琴線に触れる佳作でした。息子を失った母親、恋人を失った男。それぞれの喪失感や空虚感、孤独が切なく優しく描かれています。愛について考えさせられました。リチャードの優しさ、ジュンの強さは、本当の悲しみと痛みを知った人じゃないと得られないものなのかもしれません。カイを追慕するリチャードとジュンの悲しみと苦しみは、深く悲痛なのですが…そんな彼らが私は羨ましくなってしまいまった。悲しみも苦しみも、それだけ誰かを深く強く愛した証のように思えて。今までも、そしてこれからも、愛に心が乱れることも沈むこともなく生きていくに違いないLOVELESSな自分自身が、あらためて心底イヤになりました。

 亡きカイをめぐって、リチャードとジュンが燻らせる愛の残り火が、痛ましくも切ないです。カイに代わってジュンを支えようとするリチャードですが。異国に溶け込むことを頑なに拒み、息子に依存し彼を苦しめていたジュンを、本当は憎んでもいる。ジュンも、自分と息子を引き離したのはリチャードだと恨んでいる。ラスト近く、互いの本音がはからずもぶつかってしまうシーンが、愛を争っているかのような不毛さ、そして悲痛さでした。愛って深ければ深いほど、美しいだけのものではいられなくなるのですね。愛って怖いですね。愛を知らない私は不幸だけど、同時に幸せなのかも?本当にカイを愛していたリチャードとジュン、あそこまで愛されたカイも、幸せで不幸な人のように思えました。
 リチャード役のベン・ウィショーが、素晴らしいの一言です。

 007のQ役で知られる英国イケメンのベン。リチャードの優しさ、悲しみが胸に痛いほど伝わってくるガラス細工な繊細さに惹きこまれずにはいられませんでした。すごい不幸顔なんですよ。不幸が似合う男って美しいですよね~。寂しそうな笑顔、潤んだ遠い瞳も、捨てられ子犬系の胸キュンな可愛さ。
 実際にもカミングアウトし、同性婚もしているベンがゲイの役を演じるのって、きっと簡単なことではなかったはず。彼の果敢な役者魂は賞賛に値します。ラブシーンも、美しく優しく切なかった。最近見た同性愛シーンではベストかも。かけがえのない、あまりにもソウルフルな愛だったからこそ、神さまって残酷だな~と溜息が出てしまいました。生涯に一度、いや、ほとんどの人にとっては一度もないような愛に出会えた二人を引き裂くなんて…カイへの消えない愛執のせいでジュンに執着するチャードの不安定さも、ベンの思いつめた翳りのある表情から伝わってきました。

 ゲイだけど全然キャマキャマしくないリチャード。通訳を引き受けてくれた女の子と仲良くしてるシーンは、ごくフツーのカップルにしか見えない。女の子がリチャードに好意を寄せるのも、当然の成り行きです。あんなに優しくて傷ついてて、しかも料理上手なイケメン、惚れてまうわな。ゲイに恋してしまう女も、切ないですよね。実際のベンも、カミングアウト前は女の子にモテて、さぞや困ってたことでしょう。

 カイ役のアンドリュー・レオンもイケメンでした。ちょっとウェンツ似?ウェンツを男らしくした感じ?リアルすぎる描写やブサイクを嫌悪する筋金入りの腐も満足する、ベンとの美カップルぶりでした。ジュン役のチェン・ペイペイは、ちょっと愛川キンキン似?あまりにも頑固で狭量だと、彼女みたいに老人ホームに入れられちゃうので要注意あの性格では、いくら愛があっても一緒には暮らせません。盲愛は害悪です。カイとは恋人同士だったというリチャードの告白にも、今さら何?そんなこととっくに気づいてた、と言わんばかりの冷静さが印象的でした。悲嘆に暮れ心揺れてばかりだったリチャードに比べ、最後まで一滴も涙を流すことも動揺もしなかったジュン。男は優しくて弱い、女は厳しくて強い…
 これが長編デビューというカンボジア出身のホン・カウ監督の、ゲイならではのきめ細やかな感受性も秀逸です。次回作が楽しみな監督です。ちなみにオリジナルタイトルの“Lilting”とは、リズミカルに軽やかに何かを動かす、という意味なんだとか。素敵なタイトルですね。

 ↑メルヴィル・プポーを地味にした感じのイケメン、ベン・ウィショー。007の最新作「スペクター」の他、ロン・ハワード監督の新作「白鯨のいた海」、エディ・レッドメインの“The Danish Girl”や、コリン・ファレルの“The Lobster”にも出演してる彼は、躍進著しい英国俳優のひとりです
コメント (4)
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