（焼）

少し遅れてテニスに行くと、ボクらのコートに見知らぬオジさんの姿があった。

おっ！
誰かが新しい人を連れてきたんだな。
人数が少ないので新しい人は大歓迎だよ。

でも…

見た瞬間に分かったんだけど、随分と本格的な人なんだよね！
ウォームアップの動きや道具の多さから、明らかに本気でやっている人だ。
どうやらメンバーの１人が他でやっている本格的なテニスの人らしい。
何故か今日はこっちに参加するようだ。

いやぁ。
別に拒絶する気はないんだけどさぁ。
うちのテニスには合わないと思うなぁ。

基礎なんて知ったこっちゃなく、フォームなんてどうだっていいっていう我々とは明らかに違うもん。

天下一武道会にミスターサタンが出場するようなもんだよ。

あ、違うか。
逆だ。

いまいちヤル気も実力もないチームに入部したキャプテン翼みたいなものだよ。

プレーを見ると、やっぱり明らかに上手い。

そして、初心者のＳ氏に軽くアドバイスをしてくれだした。
初心者じゃないけどあまり上手くない愚妻も自ら加わって、いつしか熱血指導。
ついでにボクもチラッと教わる。

そんな事もあって、今日はついつい最後まで真剣にやってしまったよ。
飛び抜けて上手い人が１人いると、全体的にも場が引き締まるね。
真剣って言ったってボクらの真剣なんだから、たかが知れてるけど、でも汗だくになっちゃった。

まだまだ汗はかくものの、さすがにこの時期に着替えが必要なくらい汗をかくとは思わなかったなぁ。
途中、一度車に戻って着替えた。

う～ん。
これしかないか。



真っ黒な中に（焼）とだけ書かれた謎のＴシャツ。
前にも後ろも（焼）だけ。
昔、誰かに貰ったんだけど普段はあまり着たくないので、テニスの時専用にしてるんだよね。
そんなＴシャツが何枚かあるので、これを着るのは久々だな。

（焼）を着たままコートに戻る。
と、さっそくＨ氏が絡んできた。

「前が（焼）で…あれ？後ろも（焼）？ふ～ん、なんか意味分かんない中途半端なＴシャツですなぁ」

なんてバカにしてくる。

いいんだいいんだ。
そりゃこんなの着てりゃ、何も言わずにいられないよな。
再びガッツリテニスをして、最後まで終了。
ふぅ。
疲れた。

こんな普通のサークルみたいな雰囲気は我々の望むものじゃないけど、まあたまにはいいかもね。
なんて言いながら車に戻っている時。

「その焼酎Ｔシャツ、久しぶりに着てるなぁ」

と愚妻。

え？
焼酎？

この（焼）って焼酎の焼だったの？
焼肉とか焼きソバとかかじゃなくて？

「だって、焼酎好きのＨ氏がお土産でくれたやつだもん」

と言う。

え～！

あの人、自分がくれたのに忘れてたのかよ！
その上、変なＴシャツとまで言ってやがったよ。
まあ、こっちも忘れてたけどさ。

そういえば一時期、どこかに行くたびに変なＴシャツをお土産で買って来てた時期があったな。
その時のやつだったんだろう。

せっかく貰ったんだからと、せめてテニスの時に着ている変なＴシャツ達だけど、この分じゃ無理に着なくても大丈夫そうだな。
今度からはあまり着ないようにしよっと。