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小説「ゆれる」~ ともに優秀な双子

2006年08月07日 | 音楽・演劇・美術・文学
 話題の映画と対を成す作品。

 映画より先ならば「原作」、映画のほうが先なら「ノベライズ」だが、あえて原作と呼ぶものがあるとすれば、それは著者である映画監督・西川美和の「夢」であるらしい。
 そこから二つの作品が、一つは映画、一つは小説という形式で生まれた、というべきではないだろうか。
 
 単なるノベライズではない、というのは小説の形式からも明らかである。8章に分けられた構成はそれぞれ、登場人物、誰か一人の主観で叙述される「かたり」となっている。
 しかし、読んでいて映画との違和感はまったくない。逆にいえば映画のカメラも完全な第三者の視点ではなかったということだ。その事が物語にミステリー的な要素を生んでいたとも言える。

 では映画と小説は同じかというと、これが微妙に違う。たとえば、主人公兄弟とその父親の兄弟関係がダブってくるところは、映画では比較的あっさりと表現されている。

 小説では映画が説明しないディテールが明らかとなる。逆に映画は、小説では言葉に乗らない世界(画面)の隅々にまで実際の物理的な形を与える。
 
 それは両者の表現の特質に起因するものだが、ある事実が逆に描かれていることもあるのだ。したがってどちらがニワトリでも卵でもない、両者は「対を成す」双子のようなものだ、という理解にたどり着くわけである。

 しかし、映画も小説も半端な出来ではない。なんという才能だろう。
 そして、それに見事に息吹を与えたオダギリジョーや香川照之という役者もまた、たいしたものだと驚き入ってしまう。


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