ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

ラ・ビオレテラ

2006-09-26 01:58:49 | 北アメリカ


 ”街の灯”の一場面

 楽器店の店頭で楽器の試し弾きなどする際に、なんとなく弾いてしまう曲というのがあって、その一つが、”ラ・ビオレテラ( La violetera )”である。あの歴史上のコメディアン、チャップリンが1931年に作った映画、”街の灯”の挿入曲として世に知られている。

 貧しく盲目の花売り娘に大金持ちの紳士と誤解されたチャップリン扮する浮浪者が、彼女が視力を取り戻す手術を受ける費用を捻出するために悪戦苦闘する、その辺りで大いに笑ってもらう仕組みである。不況下にあるアメリカの矛盾を大いに突きまくりつつ。

 で、手術が成功し、明日は娘の目が見えるようになるという日に、惨めな文無しの失業者である自分を知られたくないがために、急な用事が出来たとチャップリン扮する浮浪者は娘の元から立ち去る。後世、有名となるセリフ、「大丈夫、世の中は勇気と希望と、少しのお金があれば生きて行けるのだから」を言い残して。

 「勇気と希望と」で、美しい話と見せかけて、「少しのお金」も必要であるという認識も滑り込ませる、その苦さがあなどれない感触を残す。

 チャップリンの感傷過多な世界ってのは好みではないが、このような作品に”街の灯”と名付ける感覚は好ましく思う。
 
 始めてこの映画を見たときは、「ははあ。これが名画と言われる、けど毎度おなじみのチャップリンの浮浪者ものコメディなんだな」くらいの認識しかしていなかったのだが、このような内容の映画がニューヨークで金融大恐慌が起こり、世界が激震しているまさにさなかに作られたという事実は、今、この日本の世情の中で思うと、ますます深いものに感ぜられてくる。

 ”ラ・ビオレテラ”は、その盲目の花売り娘のテーマソングとして奏される美しいメロディである。

 1920年代のスペインにおけるヒット曲との事。先の見えない不況の底辺で出会った不遇な二人の間に通い合う、宝石のような感傷を歌い上げるに十分な、逆にゴージャスに浮世離れした美しさが零れるメロディである。

 ラテンの血の生み出すメロディって、ときに”それゆえに罪悪”と判決を下したくなるほど美しかったりするのだなあ。





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2 コメント

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ヴァージニア・チェリルについて (アロー)
2007-10-05 21:24:31
(マリーナ号)さんへ
「ユエの流れ」に続いて二回目の書き込みです。
チャップリン映画が大好きで、若い時から「街の灯」は回数を忘れたくらい見ています。
この挿入歌〝ラ・ビオレテラ〟も懐かしい曲ですね。
 余談ですが、〈アイス・スケート〉のフリーで、この曲をBGMとして滑る選手が出てきたら、思わず感激してしまうでしょう。
 「街の灯」のラスト・シーンで、眼が治った娘が働いている(花屋)の傍を、あてども無く歩くチャップリン、みすぼらしい格好を見て思わず笑ってしまう花売り娘と、お金を恵んであげようとチャップリンの手を握った瞬間、かつての恩人と知って恥らう花売り娘!!
この対比と残酷なラストに、若い時は随分涙腺が緩みました。
50代の半ばになった今、こんなことはありませんが
とても美しい曲です。
 これとは別にもうひとつラストシーンが用意されてた事ご存知ですか。
放浪紳士がトボトボ大通りをあるいていると、そこには大きな人垣が、後ろから背伸びして覗いて見ると、そこには眼の治った花売り娘がハンサムな大富豪と結婚式の真っ最中。

 この結末、チャップリンならどんな風に描いたでしょう。
 長くなって申し訳ありませんが、
この主演女優〈ヴァージニア・チェリル〉は〈ケーリー・グラント〉とわずかの間結婚生活を送った事でも有名です。
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遥かなるメロディ (マリーナ号)
2007-10-06 02:01:19
アローさん、久しぶりの書き込み、ありがとうございました。
ビオレテラなんて曲をいまどき話題に出来るなんてのはネットあればこその奇跡、といってはオーバーになりましょうか。
あのようなメロディはもう今日では書くことあたわずで、それを耳にすることは過去からの贈り物みたいに思われたりします。
街の灯のもう一つのラストは知りませんでした。そちらは撮影はされなかったのでしょうね。でも、そのようなラストシーンだったと言われたら、そういわれるとそんなラストシーンを見たかもしれない、なんて思い込んでしまうかも知れません。何もかもを曖昧にする時の流れの驚異かな、であります。
私、”街の灯”をもの凄く古い作品のようにイメージしていたので、その主演女優とケーリー・グラントが同時代人だった、という時点でもう驚いてしまったり(笑)
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