ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

ガイジン稼業(後編)

2005-10-26 03:13:22 | 音楽論など

(前回より続く・終章)

 ”ニューヨーク在住”

 郷ひろみの”高須クリニック”のコマーシャルに、こんなのがありましたね。郷が国際派ビジネスマン(?)に扮して、ヘリコプターやら飛行機やらで、おそらくはニューヨークあたりであろう場所を飛び回るって趣向の奴。まあしかし、いかにも有能そうに振舞っている彼、何の仕事をしているようにも見えません。ただ郷ひろみがそこにいるってだけの話で。
 そういえば郷が二谷英明のムスメと結婚していた頃、「ニューヨークに住む」とか言ってませんでしたっけ?いや、実際にニューヨークで生活したんだっけ、一時期?私は、その話を聞いたときに不思議でねえ。郷がニューヨークに住むのは勝手だが、何のために?かの地に郷のファンとかが営業が成り立つほど住んでいる訳じゃなし、そんな場所に住んで、どうするんだよ?

 まあ、なんのことはない、”ニューヨークに住む”そのこと自体が、彼の”一味違う芸能人”としてのステイタスを形成するわけでね、彼はその作業をやっていたわけだ。別に、かの土地で何もしていなくても良いわけですよ。ただ住んでいるだけでオッケー。日本において彼への評価は勝手に上昇してゆく。「ニューヨークに住んでいるんだってよ」と、この一言で。
 坂本龍一なんかもそうでしょう?彼も、「ニューヨーク在住の国際派ミュージシャン」みたいな固定観念(?)を大衆に植え付けちゃっているけど、一体彼がニューヨークで何をやっているのか、本当のところを知る人は、そんなにはいないと思う。私も知りません。が、おそらくは。まあ、どうしてもニューヨークに住まなくっちゃ可能ではない、なんて仕事じゃないと思いますよ、やっているのは。にもかかわらず、無理やりニューヨークに住む。それだけで、一流アーティストとしての評価、確固たるものとなる。不思議な稼業じゃありませんか。

 このあたりも”ガイジン稼業”の一典型でしょう。”ニューヨークに住む”これです。別に、何もしていなくってもいいんだ。ただ住んでいるだけで”何ものか”になれる。それが日本の芸能界だ。いや、日本人の価値観である、て言ってもいいのかもしれない。
 なんなんでしょうね、ニューヨークってのは?これがサッカー選手ならセリエAに移籍してイタリアに住むって評価の上げ方もあるんですが、こと芸能関係となると、パリやローマじゃ箔が付きません。ニューヨークでなくてはならない。

 そもそも現在、おそらくは全世界の若者の抱えるもっとも大きな命題は、”アメリカ人になる”これでありましょう。行動的な奴になると、本当にアメリカに行ってしまったりするんですが、誰もがそうできるわけじゃない。それにまあ、行ってみたところで多くの場合、”アメリカ在住の非アメリカ人”にしかなれなかったりします。いや、これは国籍とか、そういう問題じゃなくて。
 で、しょうがないから今いるその場で、日本人なら日本人のまま、アメリカ人の如きものになろうとする。と言っても、なんだか訳の分からん話ですがね。その矛盾に満ちたありようを生まれながらに実現してしまっているのが、例の帰国子女って奴で、それゆえ、彼等彼女等はイジメに遭ってみたり持て囃されたりするんですが。

 かってはねえ、ミーハー・シーンを支える意識としての”ヨーロッパへの憧れ”なんてのもあったんですが、今はブランド志向と海外旅行にその片鱗をとどめるのみ。いまや、流行の洋楽といえばアメリカ音楽を指し、憧れの”洋画”の俳優はアメリカ人、そして住むべきアートな都はニューヨーク。いつの間に、こんなことになってしまったんだ?

 これもアメリカの世界戦略の成功の結果?いや、ほんとにそうなんでしょうね、きっと。

 ”ジープの上からの視線”

 あれは安岡章太郎だったかなあ、老大家が終戦直後の思い出話として語っていたのですが、駐留軍相手の売春婦たちが米兵のジープに乗せてもらい、街を走り回っているのを良く見かけた、と。彼女等は、安岡たち男どもが食うや食わずで地べたを這いずり回って暮らしているのを車上から、汚いものを見る視線、まさに”蔑視”をしていた。その視線がたまらなく不快だったそうな。

 この辺が”ガイジン稼業”の源流かとも思ったりします。「あんたたち、汚いかっこして、腹減らして、ブザマったらないわ。あんたたちはアタイらを汚れた商売をしていると非難するんだろうけど、でも現実に、アタイらは良いもの食って良いもの着て、こうして車に乗って楽しい思いをしている。要するに勝ち組。あんた等は今日、寝る場所もない負け組。きれい事言ったって、この現実はどうにもならないじゃん?」とね。この論理が源流となって、今日まで連綿と続くガイジン稼業の繁栄がある。

 擦り寄る。勝ち組たらんとアメリカに。アメリカ人としてこの世に生まれなかった現実はいかんともしがたいんだけど、次善の策(?)として”ガイジン”たらんとする。いろいろ口実を設けて。
 外人と友達だからガイジン。英語の歌のCDを出したからガイジン。外人とセックスしたからガイジン。外人がよく来るクラブで”顔”だからガイジン。3日前からニューヨークに住んでるからガイジン。日本在住の外国人のコが通う学校に行ってるから、日本人だけどガイジン。などなど。
 そんな願望が銭儲けのためにシステム化されたものがガイジン稼業である、と。まあ、こんなところでしょうか。

 かってはこの構造、”白人対有色人種”とか”いわゆる先進国対第三世界”なんて形になっていたんですが、アメリカの世界戦略が拡大するに伴い、もはや”アメリカ対それに服従するその他の全世界”と変化しております。そいつに本気で疑問を持ったりすると、その先には、たとえば今日の、アフガニスタンやらイラクやらの現実が待っていたりするのでありますが。というか、これらは”アメリカの裏庭”たる中南米諸国では、もう何十年も前から普通に行われている乱行でありますが。

 さて。そして、いずれ全世界はガイジンだらけとなって行くのでありましょうか?なんか、ゾクゾクしますねえ。





最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (komta)
2005-10-27 15:12:01
お話は楽しく読む事が出来ました。ただ、どうコメント付けようか、難しいです。

裏から攻めるか、いや正攻法がいいかと。。。



読んでいて思い出すのは、プロレス稼業!?

現在では、総合格闘技とかまでありますが、昔の力道山の時代から、その後の、馬場の全日本、猪木の新日とあの頃。。所謂ショー・プロレスですから、早い話、ヤラセだった訳で。。

いや、ヤラセはダメダメ!と言うんじゃないです。よく“ヤラレの美学”って言いましたっけ、その昔の吉村道明、その後の藤原義明と、新ガイジンレスラーが来日するや、相手になってボコボコにされて、そのガイジン・レスラーの商品価値を高める役柄のレスラー。居ましたよね。イや、話はそっちじゃないんだ。。。それを見ている観客側の話です。“ダマサレの美学”とでも言えるかな。。客は要は騙されていたんですよね。だけど、騙されたと認識するようになったのは、そのずっーと後の話で、はじめの頃は皆、そんな事知らないで毎週、すごーく熱くなって大興奮だった訳で、まぁ、幸せな!日々だったと私なんかは思っています。

例えば、さらにその後、前田日明とかが『あんなのみんなヤラセで。。』と言っちゃったりして、純粋な客は『アキラ!お前こそがヒーロー。。』と叫び、そしてヤラセのテクニックは新たな時代に突入して行ったと。。。(強引な引用、お許し下さい。)



何時も在るのは観客側の”ダマサレの美学”ナンじゃないでしょうか。



『何も知らないまま、騙され続けて居たかた。』(所詮、娯楽デスカラ!)



こんなんも、またアリかなと。。。
返信する
すいません、明日、ちゃんと・・・ (マリーナ号)
2005-10-29 04:22:38
komtaさま



どうも、ご感想ありがとうございます。

ただ私、今日の記事、「あなたはアフリカ音楽を本当に聴いた事があるのか」の対象者に大変腹を立てておりまして、頭がカッカしてまともに働きません。明日、きちんとレスしますんで、お許しを。むむ・・・
返信する
密林から出るを得ず・・・ (マリーナ号)
2005-10-30 04:21:15
どうも、昨日は失礼。と、レスを返そうとするも。いや、これは難しいですよ、プロレス話ですか(笑)



私も、そういえば力道山の頃は本気で熱狂してプロレスを見てましたね。毎回の悪逆非道の外人レスラーへの逆転勝ちパターンに、まったく疑いも持たずに。いや、今振り返っても、確かに騙されていたとは思いませんね。あれはあれで一つの真実だったと思える。

けど、力道山の死後、私はプロレスへの興味はまったく失せてしまいました。彼の後を継ぐ者として登場してきた連中が、どうも私としては物足りないヒーロー像しか提示してくれなかったんで。以後、全然見ていないんで、良く分からず申し訳ないんですが。



私はどちらかというと心理学者の岸田秀氏が唱える、「人は自分に都合のいい幻想を現実と思い込んで日々を生きている」との、史的唯幻論を信じている者でありまして。たとえ人に騙されずとも、人はオノレ自身を騙し続けて生きている。騙されの美学というか、むしろその密林から出る道を見つけ得ずにいるんではないか。

なんか、訳の分からない方向に行ってしまいましたか。すみません。いやあ、難しいですね。

返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。