”KE I FADASTIKI TIS FILI”by CRISANTHI BARELI
彼女はギリシャの新人シンガー・ソングライターらしい。まあ、毎度アレで申し訳ないですが、まるで資料もない、というかあってもギリシャ語なんで読めない状態で進行してゆきます、よくわかってないです、ご容赦を。
アタマの曲から、スィンギーなアコギのコードストロークも軽快に、粋なジプシー・ジャズもどきの楽しい演奏が始まり、そいつに導かれてCRISANTHI 嬢のヴォーカルが入ってくる。心のおおらかな人なんでしょうな、あんまり細かいこと気にしない感じの豪快なノリが嬉しい歌声だ。
その後の曲たちも、ジャズやブルースの影響下にあるものが目に付く。アメリカの黒人音楽に、もう真正面から影響を受けてきたのでしょうな、CRISANTHI 嬢は。しかも、そう見えて音楽の芯の部分からは、例の濃厚なギリシャ味が香ってくるんだから、たまらないじゃないか。
曲目が進行するたびに、そのギリシャ味は濃くなってゆき、アルバムの中ほどではついに、ほとんど正統派ライカといいたいような歌と演奏が始まってみたりする。明るいアメリカ娘みたいにドライに響いていたCRISANTHI 嬢の歌声なんだけど、ここで急にグッと湿り気を増し、情念、地の上を這いまわる様相を呈する。やっぱり彼女もギリシャ人だねえ。
ここで私は、ギリシャ音楽を聴き始めたばかりの頃に手に入れたギリシャのアイドル歌手(であろうと思われる)のCDなど思い出したのです。そのアルバム、冒頭にこそ世界各地でアイドル歌手が歌っているような曲調の楽曲が収められているけど、もうその次の曲には岩のごとく頑固なギリシャ歌謡が鎮座ましましていて、以後はもう、そればっかりの世界。あの頃は結構、そんなのに出会ったような気がするな、ギリシャ・ポップス。
しかしCRISANTHI 嬢は、もうそんな時代のコではありません。ライカの沼からはすぐに這い出て、彼女風ブラックミュージックの旅を再開してみせる。
ディズニー風(?)童謡ポップスでおどけてみたり、スローなファンクナンバーで凄んでみたリ。黒いなりにカラフルな(?)展開なのであります。そしてラストは、語り物調ブルースで、底冷えのする深夜のアテネの街角を吹きすぎる風の噂話を呟いてみたり。いや、なかなかかっこ良いではないか。
なんかね、全編にみなぎる彼女の自由な発想にすごく好感を持てたんで、これは次作にも期待したいなあ、などと楽しみになってきたところなんです。
あ、どうでもいい話だが、内ジャケの彼女の写真は、黒木メイサに似ているような気がする。いや、ほんとにどうでもいいな、これは。