ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

東欧の幻灯機

2008-10-27 22:06:48 | ヨーロッパ


 ”kytytsi”by SVITLANA NIANIO

 そもそも紙ジャケ嫌いの私なのだが、こんなのを作られると許しそうになってしまうのだなあ。かなり”粗末”と言っていい段ボールを3つ折りにしたものに、子供の頃の駄菓子のパッケージがこんなだったよなあ、なんて言いたくなるレトロな雰囲気の彩色でジャケ写真が印刷されている。
 そこに同じ色彩感覚の、これは歌手本人が描いたのだろうなあ、民俗調のイラスト・カードが何枚か封入され、どうやら低予算を逆手にとって何とか楽しいビジュアルにしてしまおうとする製作者側の心意気が嬉しくなってくるのだった。

 というわけで、女性シンガー・ソングライターのSVITLANA NIANIO が1999年にリリースしたこのアルバム。
 困惑してしまうのは、このCDをリリースしているKokaレコードというのは、旧ソ連のウクライナの大衆音楽を扱うレーベルらしいのだが、ジャケに記されたデータでは録音はポーランドで行なわれ、”ポーランド語の翻訳担当は”なんて記述もあり、この女性歌手、SVITLANA NIANIO はポーランドのアーティストなのかウクライナの人なのか、どっちだ?
 まあ、ポーランドの歌手が、なぜかウクライナのローカル・レーベルでCDをリリースした、と考えるのが正しいような気がするが、そうするにいたった事情などまったく分からず。まあ、この種のものを聴いている場合、わけ分からん部分が出てくるのは、もうしょうがないと諦めるしかないんですが。

 SVITLANAは英国の女性トラッド・シンガーみたいな繊細なソプラノで、どこかに干し草の香りのする、民謡調の素朴な歌声を響かせる。東欧と言うよりはむしろ北欧の民謡っぽい、涼やかなメロディラインが特徴的だ。民謡調と、現代音楽の影響下にもあると思われる無調っぽさとの奇妙な同居。
 涼やかで、なんだか子供の頃の記憶を追いつつ歌っているような、不思議な懐かしさを秘めた音楽。ピン・ホール写真機の向こうに浮かび上がった映像、あるいは昔、幻灯機で見た映像の記憶、そんなものが連想される。あるいはNHKの”みんなの歌”なんて番組で子供の頃聴いた歌なんかが思い出されたり。
 どこから来るんだろうなあ、この懐かしさは?

 あるときはアコーディオンだけの伴奏で、またあるときはハープを中心としたギター系民俗弦楽器群の流麗なアンサンブルを、さらにはクラシックの弦楽四重奏、はたまた、電気ピアノやエレキ・ギターも聴こえる、というと賑やかな作品か思われてしまうか。むしろ逆で、どの曲も音は最小限にとどめ、モノクロームな印象。あくまでも室内楽的な展開をみせて、終始内省的なSVITLANA NIANIO の歌の世界を静かにサポートしている。

 もちろん当方には彼女が何を歌っているのか一言も分からないのだが、おそらく子供の頃に見た、曇り空の下、風吹く寂しい野原でひっそりと公演を行い、いつの間にかいなくなっていた謎のサーカス団の消息に関して、とかそんな事を歌っているに違いない。としておこう。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。