ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

メンゲルベルグが降る日

2010-02-03 00:24:40 | ジャズ喫茶マリーナ
 ”Who's Bridge”by Misha Mengelberg

 諸事情ありまして、なんか世界の俺に対する扱い、妙に悪くね?と斜めに世の中を見る気分になっている冬の夜である。そんな時に心のギザギザをいくらかでも平静に近付けるために取り出したりする一枚がこれ。
 某音楽雑誌には「落ち込んでいるときには向いていないかも」なんて書かれていたが、何を言っておるのかね。落ち込んでいるときにこれを聴かずしてどうする。
 あのエリック・ドルフィ最後のレコーディングに参加したことで、というかそればかりで話題になってしまう、ヨーロッパ前衛ジャズ界の大物ピアニストのリリースした、異形のスイング・ピアノのアルバムである。

 冒頭、メンゲルベルグは、いかにも前衛派のピアニストらしいフリーフォームで音塊をグシャグシャに叩きつけて来るから、その方向に戦闘態勢を固めるのだが、すぐにベースとドラムスが至極まともな(?)フォービートを刻みながら入ってきて、一見、普通のジャズであるかのような演奏が始まる。が、それはあくまで見せかけであって、気が付くととんでもないところに連れて行かれてしまうのだ。ほの暗い風刺と諧謔となにやら分らん遠い美学の世界に。

 このアルバムでメンゲルベルグは終始、一見普通のスゥインギーなジャズかと見まがう演奏を聞かせる。それは演奏が成立すると同時に演奏者自身によって揶揄され、崩れ去るような代物であるのだが。繰り出されるのが妙に物分りの良い、親しみ易いメロディである分、込められた皮肉は濃厚と言うべきか。
 ブルージーなフレーズなども頻発する。が、それはブルースではない。ポピュラーソングやクラシックなどの、おそらくは演奏者の日常からやってきたのであろう音楽の断片も、それらはみなパロディ、あるいはふと気が向いたから行なってみた単なる引用なのであって、深い意味があるわけではない。

 ピアニストは人間の湿った感情のことごとくを軽く蹴り飛ばして進撃を続け、空中に何ごとか美しげな曲線を描いてみせる。それは芸術なのかもしれないし、ただの茶番かもしれない。どうでもいいことなのだ、それは。
 こいつを聴いていると私は、親しい、皮肉屋の友人と気ままな世間話をしているような気分になれる。彼はこの世のどんな権威にも価値を認めないし、お涙頂戴の感傷にも付き合う気はない。そこにはただ乾ききった哄笑が響くだけだ。
 うん、それでいいんだよ、たとえ世界が破滅したって、こちらの魂が生き残れねば仕方がないと私は勝手に納得し、また退屈な日常へ帰って行くのである。

 このアルバムの試聴は残念ながらYou-tubeでは見つからなかったので、同じメンゲルベルグが、やや近い演奏を聞かせている”NO IDEA”というアルバムにおける演奏を貼っておく。アバウトな処置だが、まあ、ないんだから仕方がない。





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