”Ask Kac Beden Giyer?”by Hadise
ブログ仲間のころんさんが先日、”2011年上半期ベスト10?”という記事を書いておられた。なるほど途中経過というのも面白いかもなあと、私も真似して選出しかけたのだが、どうもまだ、その歳の”肝心の盤”が聴けていない感じで、気が入らない。
そんなわけで今年前半ベストは中止、代わりに今年前半を軽く浅く振りかえってみることにした。と簡単に書いてギョッとしたのだが、そうかあ、もう一年の半分が過ぎてしまったのか。
今年は例年になく心切り刻まれる按配で過ぎていった日々だった。原因は、言わずと知れた東日本大地震だ。(不思議に思うのだが、昔起こった神戸あたりの大地震は”阪神淡路大震災”とか、細部に渡った命名が成されているのに、なんで今回のは”東日本”って大掴みなんだ?)
で、これはいろいろな人が同じ様な感想を述べておられるので私が詳しく触れるまでもないのだが、たとえば私などは音楽を聴いてももう一つ楽しみきれず、酒を飲んでもさっぱり美味くなかった。
それは、もたらされた被害の大きさや、原発事故への恐怖、ついであからさまになってきた、原発のシステムのもたらす大きな利権と、そんなシステムを守るために国民の健康や生命さえも考慮もせずに足蹴にする、という政府や大企業のやり口への怒りなどなど。さまざまな思いが絡み合い、なんとも納得できない青白いマグマみたいなものがこちらの心中にそのまま燃え残っているからなんじゃないかと思う。
そんなルサンチマンにグダグダとなって日々を送るうち、気がつけば、妙にトルコの女性ボーカルというものに惹かれている自分に気がついた。
ある面ではアラブ世界でもっともテンションが高いともいえそうなトルコ歌謡を、独特の喉を詰めた発声法でいかにも性格きつそうに歌い上げて行くトルコの女性ボーカル。どちらかと言えばこれまで、「うっとうしいもの」として遠ざけて来ていた音楽だった。それが震災以後、妙に聴きたくなっている。どころではない、なんか”渇望する”みたいな気分になってきて、気がつけばトルコからの輸入盤が手元にゴロゴロ積み上げられているのだった。
この辺の趣向の変化、多分後になって、「ああ、そうだったのか」なんて、その理由が自覚できたりするのだろうが、今は真っ只中、トルコ女性のシャウトに翻弄されるばかりである。
そんな次第で、今年上半期のベストを選べば当然、トルコの女性ボーカルだらけとなってしまう。暫定ベスト1とするなら、この辺だろうか。
歌手はHadise嬢。1985年生まれ、ヨーロッパのオーディション番組などに出るうち注目され、05年にデビュー、09年にはユーロビジョン・ソングコンテストのトルコ代表となり、本選で2位となったそうな。
そんな彼女の、これは今年出たばかりの手の切れそうな(?)一枚だ。バッチリ遊び人メイクで豹柄のドレスに身を包み、こちらを睨んでいる。夜の最前線における戦闘態勢に完全に入っているハディセ嬢のジャケ写真。もうこれですべて語り終えているみたいな一枚だ。裏ジャケを見ればスーパーマンやらハラキリやらと、すでに尋常でない曲名が並ぶ。
盤をまわすと飛び出してくるのは、電子楽器主体のR&B調。
無機的なリズムがすべてを支配し、ハディセ嬢のクールなシャウトが闇に木霊する。ときおり打ち込みのリズムの上をサズのソロが駆け巡り、イスタンブールの血の脈動を描いてみせる。
都会の夜の最前線を彩る冷ややかな艶やかさとでもいうのか、ブラックライトの輝きに照らし出された、けだるい情熱の発露が脈打っている。
打ち込まれる刹那的なマシン・ビートと、その裏に巧妙に隠された民衆の汗と埃が染み付いた歌謡曲メロディの土俗が、暗い情熱を孕みながら闇に堕ちて行く恐怖と悦楽を歌う。
そして何度も聴くうちに気がつけば、なにやらコワモテの暗く荒い声でシャウトするハディセ嬢のその声の裏側に、実は可憐なアイドル声が透けて見えたりもするのだった。
それにしてもかっこいい盤だね、これは。