ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

聖トノレクの受肉

2011-06-16 00:37:24 | 南アメリカ

 ”Los Pasos Labrados”by Tonolec Folk

 しばらく前からちょっと面白い試みに取り組んでいるアルゼンチンのユニットの最新作が届いた。
 アルゼンチン北部に住み、文明と隔絶した暮らしの中で独自の文化に生きるアメリカ大陸先住民、トバ族の音楽を独特のアプローチで取り入れた音楽をやっているのだ。ちなみに男女二人のメンバーは白人系のアルゼンチン人で、直系のトバ民族というわけではない。ただ、トバ族の文化に惹かれ、彼らのコミュニティと深い交流を行なって来た、とのこと。

 彼らの前作(あれが多分2ndアルバム?)は以前、この場でも取り上げたが、打ち込みやらサンプリングやらというエレクトロニックの要素と、トバの民俗楽器を含むアコースティックな楽器の響きの取り合わせで、トバ族の音楽の今日的展開とも言うべき作業を行なっていた。その音楽志向は今回も同じ。
 ただ、前作までは純文学的というのか、誠実に異文化と向き合おうというメンバー二人の生真面目な姿勢が正面に出た、ある種生硬なサウンドだった。それが今回、吹っ切れたと言うのか、ずいぶんと生き生きしたものに変わっている。

 ボーカル担当の女性メンバーは独特の脱力感漂うコミカルな歌唱法をものにし、ずいぶんと自由奔放な歌声を聴かせてくれるようになったし、音作り担当の男性メンバーも、電子音楽と民俗音楽の混交の中から独特のグルーブ感を生み出しかけているようだ。
 頭でっかちで理論先行のバンドのサウンドに血肉が通った、とでも言えばいいんだろうか。
 これは良い知らせと思う。今後、彼らは”興味深い動きを見せる連中”から、”次作が非常に楽しみなバンド”へと、私の内では格上げとさせてもらった。面白くなってきたところで解散、とかありがちなボケをかますことのないよう、くれぐれもお願いしたい。