”ROAD MOVIE ”by Zi-A
「顔のない歌手」なんて妙な話題で注目されちゃった歌手、韓国のジーア(Zi-A)嬢のお話でございます。
1986年生まれの彼女は2003年、新人スカウトのためのコンテストで優勝し、歌手となります。その音楽性と歌唱力は早くから評価され、あちこちのイベントやレコーディングにゲスト参加の後、2007年に発表したデビューシングル、”Voice of Heaven”は、文字通り天国へ導いてくれるような美しさ、と評価も高かったんですが。
そんな彼女は、”鋭敏過ぎる自意識”という、困ったものを内に飼っている人だったんですね。
まあ、そのようなものは適度に存在していればむしろ、表現者には有利に働く属性とも考えられるんですが、「人前に私の顔を晒したくない、人に見られたくない」ってんじゃ、なかなか厳しいものがあります。実に彼女、そういう人だったんですね。まあ、よくそんなんで芸能界に入ろうなんて気を起こしたものだという気もしますが。
ともあれ、そんな事情から、彼女はその素顔を明かさない歌手としてデビューすることとなったのであります。
彼女のCDはこうして発売され、そして次々にヒットしちゃったんだから面白いもので。「顔が秘密の歌手」ってのも、むしろ人々の好奇心をくすぐる結果となっていたようですね。
もちろん、売れたからってライブなんか出来やしないんですよ、人前に顔を出したくないんですから。まあ、それでも売れたから良かったものの。
そうこうするうち。心無い噂、なんてのも立つことになります。まあ、話はシンプル。「覆面歌手のZi-Aって、なんかすげえブスらしいぜ」「だから顔を出さないのかあ。やっぱりなあ」なんて話がネットで花盛りとなる。それに心を痛めたZi-A嬢はついに失踪騒ぎまで起こすこととなります。あちらのネットは、なんか凄いらしいですねえ。
さて、その後、彼女はどのような運命を辿ったか?まあ、それに関してはいずれ気が向きましたら、ということで。
とりあえず今回は、彼女が人々に顔を見せない歌手であった時代に出したヒット曲を集めた、このデビュー・アルバムをご紹介。
これは私も大好きなアルバムですね。Zi-A嬢の良く伸びる高音を生かした美しいバラードばかりが満載の一枚。聴いていると、彼女のガラス細工のように壊れ易い感性が、その底で震えているのが見えてくるようです。
ピアノのアルペジオや揺れ動くストリングの流れの中で、スッと糸を引いて流れて行く透明な哀しみの感情。切々と想いを伝える歌唱は、なんだか痛々しく聴こえもします。
なんたって、下に貼った彼女の最大のヒット曲のタイトルが「愛してる、ごめんね」ですからねえ。「私なんかが愛しちゃってごめんね」いいから。そういうことまで気を使わなくて、いいから。