”Song for the Journey”by Annmarie O'Riordan
彼女、アイルランドのトラッド歌手だそうな。私にははじめて聴く人なのだが、これが4枚目のアルバムとの事。だが、もう2~30枚は出しているんじゃないかと思うような貫禄だ。太い声質の悠揚迫らざる歌唱で、私などは、はじめてドロレス・ケーンを聴いた時など思い出したのだった。
歌われているのはアイルランドの伝承曲、および新作のフォーク曲など。すべて、しみじみとした味わいのある美しいメロディのスロー曲ばかり。伴奏陣は品の良いトラッド演奏のマナーで、必要最低限の音数で彼女の歌を支える。
”アメイジング・グレイス”とか”オールド・ラギッド・クロス”といったアメリカの古謡がアイリッシュの癖の強いコブシ付き歌唱法で歌われると、開拓時代の北アメリカ大陸で焚き火を囲む移民たちの姿など浮んでくるが、それらの後であまりにも有名なドボルザークの”帰郷”が歌われるのだから、実際、そのような意味合いのある選曲なのだ。
よくもこれだけ切ないメロディばかり集めたものだと思うが、すべて強力な郷愁の想いを含みつつ歌い上げられる。朝霧に包まれた、目覚めたばかりの北の森のイメージが広がる。歌の響く先、そこここに朝露が光り、生まれたばかりの世界を祝福する。音の向こうから漂ってくる深い森の緑の香りに、その緑の想いにむせ返りそうだ。
アルバムに織り込まれたあまりに強力な郷愁の想いに、こちらもつられてアイルランドの緑の丘に帰ってみたくなるのだが、いや、行ったこともない土地に、帰りようもないのだった。