ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

イスタンブールの夜

2011-06-24 03:34:28 | イスラム世界


 ”Sözyaşlarım”by Deniz Seki

 Deniz Seki は1970年イスタンブール生まれのトルコの歌手、ということで。元は女子アナをやっていて途中から歌手に転進した、なんて軽そうな経歴が信じられないくらい濃密な歌を、ここでは聴かせている。まあ、転身といったってその後、もう十数年歌手稼業をやっているのだからね。

 古代の農民が行なった神に捧げる地鎮め踊りのステップの面影を宿す、みたいな東地中海独特ののた打つような重苦しいリズムが打ち込まれる。ギリシャの民俗弦楽器ブズーキやトルコのサズなどが哀感に満ちた妖しげなフレーズをまき散らす。
 エレキギターやシンセの類も使われているのだが、表面に印象が出てくるのは、素朴な弦楽器のつまびきや、ほんのちょっと吹き鳴らされる民俗管楽器の響きである。そして打ち鳴らされる、地霊を揺り起こさんばかり呪術的リズム。

 伝承曲っぽい構造ながら、その中央に濃厚な歌謡曲の匂いを宿すマイナー・キイの哀歌群を、ピンと張り詰めた発声で情感込めて歌い上げる。暗いメイクに黒いドレス、漆黒の薔薇の花束を抱えて。
 明るい曲調の歌など一曲も収められていない。どれも、古い宿命の星からの知らせにがんじがらめになった、血と悲恋の恨みつらみを闇に向って呻くように歌い上げる、濃厚な歌ばかり。暗さも、ここまで徹底すると、むしろ爽快な気さえしてくるのだが(?)

 長いこと聴いていると、喉の奥に鉄の棒一本、押し込まれたような気になってくる。むしろこのこの重苦しさはギリシャ音楽みたいだ。
 実は彼女が何年か前に出した、トルコの懐メロばかりを歌ったアルバムを持っているのだが、そこでのお茶目で明るい印象とは、まさに裏表の印象。アルバムの企画に合わせて性格を演じていたのか、それとも、歌手稼業を続けているうちにこんな性格に彼女は成長していった人なんだろうか。なんとも分からないけど。