ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

我が心はハイランドにあり

2007-02-23 03:46:34 | ヨーロッパ


 先日、ブログ仲間の”まーさん”が日記に書いておられた。「セルティックは元々は、サッカーで得た収益をアイルランド移民に救済として寄与するためにできたサッカーチームなんです」と。その一言に、あっ、そうだったのかと膝を叩いた私だったのでありました。

 そうか、チーム名のスペルだって、”Celtic Football Club ”だものな。とっくに気がついているべきだった。

 セルティックとは、あの中村俊輔が所属している、スコットランドはグラスゴーを本拠地とするサッカーのクラブチームですね。検索してみると、確かにカトリック系やアイルランド移民の支持が多いなどの記述に出会います。セルティックは、英国連合が孕む政治的、民族的、宗教的な問題をある種象徴するチームなのですねえ。

 それにしても”アイルランド移民の救済目的”とは。

 ”大英帝国”の隣りに位置し、貧しい島国としてさまざまな辛酸を舐めてきたアイルランド。そして、古くからの”宿敵”たるイングランドに、英国島の主導権争いで敗れ、併呑されて”大英連合帝国”を形成する羽目になったスコットランド。

 そんな辛苦の歴史を刻んできたスコットランドとアイルランドはまた、失われた幻の民族たるケルトの血を引く”同胞”でもあるわけで。
 海峡を挟んで向かい合った”ケルトの末裔”たる両国が扶助の心を持って結ばれた証の一つがセルティックなるサッカーチームである。ああ、これは心中に熱いものが湧き上がる話であります。

 と、ここで、スコットランド人の心の故郷とも言うべき詩人のことなど思い出してみる次第です。ロバート・バーンズ。スコットランドの国民的詩人です。スコットランドの民謡を愛し、37年の短い生涯に書き残した多くの詩は、今でもスコットランドの人々の心に生きています。
 我々日本人に親しい話題としては、「蛍の光」「麦畑」などの原詩は、このバーンズによって書かれた、あたりでしょうか。

 冒頭に掲げたジャケは、そのバーンズ作品をスコットランドのトラッド界を代表する名歌手、アンディ・M・スチュワートが歌ったアルバムです。
 簡素な伴奏にのって、アンディ・M・スチュワートの暖かい歌声が描くバーンズの詩世界に心遊ばせ、ひととき、スコットランドの空を思う冬の日、なんてのがあってもいいですな。

 スコットランド北部に位置する山岳地帯、ハイランド (Highlands)は、ケルト民族の言語や慣習が残ることで知られています。スコットランドの人々の心のふるさとであるようです。最後に、ロバート・バーンズによるハイランドに捧げる詩などご紹介。

☆我が心はハイランドにあり

我が心はハイランドにあり,我が心は此処にあらず。
我が心はハイランドにありて鹿を追う。
野の鹿を追いつつ,牡鹿に従いつつ,
我が心はハイランドにあり,我何処へ行くも。
いざさらばハイランドよ,いざさらば北の国よ。
剛勇の生地よ,価値ある者の国よ。
我何処を彷徨うも,我何処を漂泊うも,
ハイランドの山を我永遠に愛す。

いざさらば山々よ,高く雪におおわれたる。
いざさらば渓谷よ,また下なる緑の谷よ。
いざさらば林よ,また生い茂れる森よ。
いざさらば急流よ,どうどうと流るる川よ。
我が心はハイランドにあり,我が心は此処にあらず。
我が心はハイランドにありて鹿を追う。
野の鹿を追いつつ,牡鹿に従いつつ,
我が心はハイランドにあり,我何処へ行くも。

中村為治 訳 「バーンズ詩集」 (岩波文庫)より