「好きな絵本」のちょうど80冊目(そして、このブログの満2歳の誕生日前最後の絵本)は、
この本になりました。
偶然そうなったのですが、偶然とは思えない偶然を感じてひとりで嬉しくなってます。
『たいようオルガン』
荒井良二 作
『たいようオルガン』のキーワードというか、ポイントというか、描きたかったことは
以下の3つだと、青山ブックセンターのトークショーで、荒井良二さんはおっしゃっていました。
たいよう+オルガン ゾウバス 橋
そして、試みのひとつとして、文章の中から助詞を削ること。それによってリズムが妨げられる
ことを防げるかなあと、思ったそうです。
たいようオルガン たいようオルガン
たいようがオルガンひいて あさがきた
ゾウバスはしる みちせまい みちほそい
確かにそうですよね? ゾウバスがはしる みちはせまい みちはほそい となるよりも
ゾウバスが懸命に走っていく様が、みちせまい みちほそい によく表れていると思います。
こんな箇所もありますよ。
たいようオルガン たいようオルガン
たいようがオルガンひいてる
くもでてきた くもりのくもでてきた
ゾウバスはしる いえ ちいさい いえ おおきい あっちこっち
のりたいひと てをあげて
どうぞ どうぞ のったり おりたり
ゾウバスは、こんなふうに、手を挙げている人たちを乗せて、その人たちの行きたい所まで
乗せていってくれるのです。
ある人は会社へ、ある人たちは大きな街へ。
ゾウバスのその姿は、なんとも健気で、なんともいえずかわいらしい。
大きな街へも、海辺の町へも、砂漠の道でも、夕方になっても、ゾウバスはずっとずっと
走り続けます。その姿に、自分自身の毎日を重ねることもできるだろうし、道で手を挙げている
誰かに、自分を重ねることもできるかもしれません。
ゾウバスが、ただ、てこてこと走り続けることが、この本のストーリーであり、この本の
(もしかして)すべてなのかな、と思います。
そして、ゾウバスが走って行く道の先が、橋によって、向こう側(向こう岸)へと繋がって
いくことが、ゾウバスにとっても、ゾウバスのストーリーにとっても、読み手の私たちにとっても、
忘れちゃならない大切なことのように、思えました。
こっち側と、あっち側。
それを繋いでくれる橋は、目に見える頑丈な建造物であると同時に、絆のようなものでしょうか?
「すっごく橋を描きたかった」と言っていた荒井さん。目に見えない橋も、画面の中に描き込んだに
ちがいないと思っています。
気がつかないだけで、太陽が音を出しているとしたら…?
その音に慣れっこになってしまったから聞こえないだけで、ほんとは音が鳴っているとしたら…?
それはどんな楽器だろうと考えて、オルガンにたどり着いたのだそうです。
ゾウバスの存在を知らなくても、ちっとも不便なことはないけれど、でも、ゾウバスが
雨の中も雷の中も、ひとりで、橋のこっち側からあっち側までてこてこ走って、誰かを
乗せたり下したりしている姿を、心の中に思い浮かべることができて、よかったと思います。
その「よかった」という気持ちは、たとえば、結果的に別れることになってしまったけれど
あなたに会えてよかった、という気持ちとおんなじところから、出ているような気がします。
ゾウバス はしのとちゅうで とまりまーす
たいようオルガン つきオルガン
※『たいようオルガン』の原画展は、丸善丸の内本店で下記の通りに。
開催期間:2007年7月2日(月)〜7月15日(日)
展示場所:丸善・丸の内本店 3F中央エレベーター前
原画の美しさは格別です。ぜひご覧になってくださいね。7月14日には
サイン会もあるそうです。