my favorite things

絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

2024年5月 読書の記録

2024-07-08 15:43:30 | 好きなもの・音楽や本

5月って、ずっとずっと前みたいな気がします。。。
読み終えた3冊は(偶然)、ドラマ化や映画化された作品を
最初に観て、それから「じゃあ、原作も」ってなった本
でした。


6人の女性作家によるユーミンの曲から題を得た短編集。
発売されたのは4年7月で、そのままになっていて‥
そしてこの中の3編がドラマ化されたのを2月だったか
3月だったかに観て、なかなかおもしろかったので
原作も読んでみました。



1 あの日にかえりたい  小池真理子
2 DESTINY  桐野夏生
3 夕涼み  江國香織
4 青春のリグレット  綿矢りさ
5 冬の終り  柚木麻子
6 春よ、来い  川上弘美


ドラマ化されたのは、4,5,6
私が好きな曲は、好きな順に、3,2,4
(夕涼みはダントツに好きな曲)

ドラマの時の感想は、4がとても苦く厳しい
ストーリーだと思い、5は、主人公の設定が
スーパーマーケットのパートさんというのが
斬新だった。6は宮崎あおいはじめ、キャスティング
がとてもよかった‥。


小説としておもしろかったのは「夕涼み」と
春よ、来い
(もともとふたりとも好きな作家で、読みなれているから
なのかもしれないけれど‥。)

夕涼みの歌詞から連想される男女間のはなしではなく
小説の設定は姉妹で‥姉がかつて住んだことがある
ポルトガルのとある町でのおんなたちの「夕涼み」を
こんなふうに思い出し、結婚が決まった妹を思いやる‥。

花はまたあの夏の夜を思いだす。
暗い山道で夕涼みをする老女たち。壁にもたれて、
一列にならんで。花は、彼女たちの沈黙の重みを、
妹が理解する日が来ないことを願った。(中略)
あのころの花が無敵だったように、妹が無敵であり
続けることを願った。どんなに叶わぬ願いだとしても。



春よ、来い は、他の作品よりも長く、構成的にも
とても読み応えがあり、私的には「別格」だった。
ドラマで観ていたように、それぞれ別の場所で暮らす
3人の、それぞれの物語が進み、ちょっとだけ交わる。
ドラマではそれがペンションだったが、小説では、
それがユーミンの苗場でのコンサート。
実際に言葉を交わしたり、顔見知りになったりする
わけでななく、ただ遠くから、気になった人として、
その人の幸せを願う。それによって、死にたいくらい
重いものを抱えていた人は、私は大丈夫と思える
ようになる‥。

まったく知らない人の幸せを願えるくらいの、キラキラ
したオーラが、ユーミンのコンサートには溢れていたの
だろうなあと想像でき、あの歌から、こんな物語を
作り出した川上弘美の力量に深く感じ入りました。



WOWOWでオリジナルドラマ化されているのに気づき、
喜んで観始めたものの、どうしてかあまり馴染めず、
2話の途中でやめてからちょうど1年くらいたった頃、
図書館で偶然文庫を見つけて、原作だったらどんな感じ
なのだろう、面白いと思えるだろうか?と借りてみました。



読んでみた結果、(やはり)伊坂作品らしさが随所に
あって面白く、ドラマも原作の雰囲気を損なわずに
むしろうまくキャスティングしているのかも??と
再考し、続きから最後まで全部観終えました。

解説までたどり着いてわかったのですが、この作品は
太宰治の『グッドバイ』へのオマージュというか、
遺作となった作品の続きを、という依頼から、続きは
無理だが、元彼女に別れ話をしにいく男の話‥という
モチーフを借りてできた。
しかも「ゆうびん小説」という形体で発表された。
‥ということ。
(選ばれた読者にだけ、郵送で「新作」が届けられる!
って、すごく斬新な企画だったのですね~)

ところで、タイトルの「バイバイ、ブラックバード」は
どこから来たのだろう?と気になってました。
そしたら本文270ページにこんなやりとりが‥。

少し経ち、佐野さんが歌を口ずさみはじめた。〈中略〉

「佐野、それ何の曲なの」有須睦子も驚いたから、
やはり珍しいことなのだろう。
「『バイバイ、ブラックバード』という曲です。
知ってますか?
悩みや悲しみをぜんぶつめこんで行くよ。
僕を待ってくれているところへ
ここの誰も僕を愛してくれないし、わかってくれない
って、訳すとたぶん、そんな感じです」

〈中略〉

「ブラックバードって不吉というか、不運のことを
指してるみたいですよ。バイバイブラックバード
君と別れて、これから幸せになりますよ、と、
そんなところですかね」

ここらへんを読んでからラストに向かうと、なるほど~
って感じで、なんか切ない気持ちになりますね。





映画を観たのは今年の2月で、そのあとにすぐに原作も、
と思っていたのに、数か月経ってしまいました。



映画の方がよかった!と言い切った人も
周りに居ましたが、私は‥うーん、どっちかな。
なんとなく、原作の方がよいかも、と言いたい
気持ちになりました。

映画は、よくこんなに考えたと感心するレベルで
練られていて、小説のエッセンスや重要な設定は
すこしも変えずに、でも、広がりとビジュアル面で
観る側を満足させる仕上がりになっていて、とても
素晴らしかった。(特にプラネタリウムの場面)

原作の(映画より)よかったところは、自転車
とのかかわり方かな。藤沢さんが整備して、山添君に
持っていってあげるのもよかったけど、山添君が
自分の意思で、思い切って自転車という方法を
選んだのはとてもよかった。彼の回復への兆しが
ペダルをこぐ力強さとともに感じられてきて。
そして、映画にはなかった、クィーンの曲を聴く
場面。ここも好きなところ。

小説のあとにもう一度映画が観たくなって、
映画を観たら、またきっと本が読みたくなる‥。
いつかきっと夜は明けるのだ、夜明けのほんのすこし前
に、二人は居るのだと信じることができる清々しい
結末を、小説も、映画もそれぞれ持っていることが
素晴らしい作品でした。











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2024年4月 読書の記録

2024-05-23 18:04:11 | 好きなもの・音楽や本

4月に読み終えた本は4冊ありました。

『チェコの~』は2月に友人と行った【出久根育展】で、
迷いに迷ったすえに購入した本。
でも、ずいぶん前に図書館で借りて読んでいたことが
あとからわかり‥でも、まったく覚えてないので、
ま、いいか、というか、今回読むことができてよかったです。



偶然出会った方から、チケットが余っているからと
誘いを受けて音楽会へ行ったり。
雪景色を描くために、山へ行ったり。春を祝うお祭りに
参加したりしている出久根さんと、季節や街の様子を
自分なりに思い浮かべ、楽しみました。





次の本はなににしよう、と探していた時に、2月に
角野さんの映画を薦めてくれた友人が、読んでいた本を
思い出し、借りてみました。
(表紙絵が植田真さんだった!ことに何か偶然の繋がりを
感じたりして‥)

内容は中学生女子2人と男子ひとりの物語。
おもしろくない日常から逃れるために、ネットのセカイに
逃げ込みそこから帰って来られなくなる、かも?
主人公以外の二人はすでのそこに居るの、居ないの??

結びの文

何が本当なのか‥苦しい日々だった。
境い目なしの不気味な世界。そこのいたのは、この
私だったのかもしれない。

あとがきで角野さんは、中学生ぐらいの年頃を
回想し、「子どもと大人の境い目に居るのに、
気持ちには境い目がない」と書いていて‥それに
いまどきのスマホやSNSを絡ませていって出来上がった
ストーリーでした。







角野栄子さんのデビュー作。

2月に観た【カラフルな魔女】の中で、この本のモデルに
なった(かつて)の少年‥ルイジンニョと再会する
シーンがあり、とても感動的でした。

本は事実とは異なる箇所もあり、子ども向けにわかりやすい
ように仕立てなおされているのが、かえって読みにくく(笑)、
なかなかページが進まなかったけれど、後半はいっきに
読み終えることができました。

ブラジルという未知の場所の魅力を、作者から丁寧に
教えてもらっているような気持ち‥。


106ページ

ブラジルは広い。日本の22.5倍もあります。その広い大地が
ドクドクとみんなのからだの中にながれているのです。
きびしいしぜんとたたかってきた、むかしのことをけっして
わすれていないのです。
てんでん、ばらばらに世界じゅうからあつまった人たちが、
顔の色や文化のちがいをのりこえて、なかよくやってこられ
たのも、たすけあわなければ生きられなかったブラジルの
きびしいしぜんがあったからだと思います。そしてそこから
よろこびやたのしさや、やさしさがどんなにたいせつなもの
かということを知るようになったのです。







長いこと図書館で順番待ちをしているうちに、どーして
この本に興味を持ったのかを忘れてしまって(笑)。

たしか、美容院で読んだ雑誌に載っていたからかー。
斬新なタイトルに惹きつけられたからかも‥?


作者の稲垣さんは、50歳で新聞社を辞め、それまでの
高収入とともに住まいも多くの持ち物も、最初は
しかたなく手放し‥しかし慣れていくにつれ、現在の
生活スタイルがとても心地よいものになっていったと
言っていて‥。

何しろ狭い住居は収納スペースがない。(江戸時代の
庶民の長屋住まいを手本にするほど)
服はもちろんのこと、調理器具や用具をしまっておく
場所もないので、捨てざるを得ない。すると、難しい
料理を作ることができない。ならば、質素、簡素を
モットーに、けれどそれが(負け惜しみではなく)、
体によいばかりではなく、とても美味しいのだそう。

こうなってほんとうによかったと心から思っている
ので、本に書いたのでしょうね~。

私にいちばん響いたのは、途中、老いて認知症を患った
母のことを書いた箇所。ナンスタディ(ココに説明あり)
に言及し‥

集団の中で、自分のできることはしっかりと行いながら、
環境の変化の少ない暮らしを何十年も続けている

本文では、母もそんなふうに暮らしていれば、認知症に
苦しむこともなかったかも、と作者は書いているのですが。
要するに大事なのは‥

自分のできることを自分でしっかりと行う。
変化の少ない暮らし=自分の手で行えるシンプルな
暮らし、ということなんだ!と思った次第です。

そして。
娘が使っていた部屋を自分の部屋にすべく、あれこれ
揃えたいものを考えていたのですが‥その前に、本棚の
なかの本の整理からはじめよう‥自分の手の届く範囲で
気持ちの良い空間づくりを心掛け、それから、本当に
買う必要があるのかどうかを考えよう、と、自分の気持ち
が変化していたことに気が付きました。これも読書の
おかげです。















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2024年3月 読書の記録

2024-04-19 17:04:53 | 好きなもの・音楽や本

3月に読み終わった本は3冊でした。

すこし前に映画が公開されてましたよね。
その時に観に行こうかどうか迷っているうちに
終わってしまったので‥図書館の棚で見つけたので
読んでみることにしました。



前知識ゼロで‥でもたしか映画のコピーに
観る前の自分にはもう戻れない的なことが書いてあって。
どういうことなのだろう?とそれで興味を惹かれたのですが。

誰のものかわからない(もちろんあとからわかるが)
とても厭世的なモノローグから物語は始まり、
いよいよ、とページを繰ると、そこには児童ポルノで逮捕された
3人の男の名前と事件の内容が、新聞記事のまま載っていて‥。
やっと長い(と思われた)プロローグ後に、また別の
男性が語り手になる物語が始まり‥別の場所で別の語り手
による物語の進行がやっと、読み手の私の中で理解できたとき
にはもう夢中で読んでいました。

LGBTQだって、名前も持っている(付けて貰えてる)
時点でそれはすでにマジョリティだと言い、自分の中にある
「傾向」をひた隠しに生きていくことのつらさ。
それから逃げようとして「偽装結婚」に辿り着く二人‥。
そのつらさをわかることはできないから、安易な発言は
慎むべきだけど、この二人をとても真面目だと思いました。
(好きという感情で繋がっているはずの夫婦でも、
すべてを信頼しあっているわけではないのだから‥)


331ページ

「いなくならないで」
佳道も声に出してみる~中略
いま抱いている安心感は、この同居のようにひどく不安定で
一時的なものかもしれない。だけどそうだとしても、
そういう時間をつないでいくことでしか乗り越えられない
時間だらけの人生だった。

373ページ

「いなくならないからって伝えてください」







たまたま図書館で見つけたので借りてみましたが、
伊坂作品の中で、わたしの好きランキングの上位に
入りました。

隕石が8年後に地球に落ちてくることがわかり
世界的なパニックから5年が経過した仙台の街が舞台の
短編小説集。それぞれのタイトルがおもしろく、
微妙に話が繋がっているという伊坂スタイル。

終末のフール
太陽のシール
籠城のビール
冬眠のガール
鋼鉄のウール
天体のヨール
演劇のオール
深海のポール

どれも面白かったし、興味深かったし、感動もした。
が、一番好きな話は2番目の「太陽のシール」
何年も子どもができなかった夫婦に、あと3年で世界が
終わる今になって妊娠がわかる。妻の美咲は再開した
スーパーマーケットで働き、富士夫は高校時代の同級生に
誘われて草サッカーを始める。二人はきっと子供を持つ
ことを選び、大切に育てるだろうなー最期の日まで。

ラストの「深海のポール」もよかった。
最後の最期まで、隕石が落ちて、大洪水が起きてすべてが
深海にのまれても、ポールの一番てっぺんに、自分の娘を
1秒でも長く生き続けさせるために足掻き続けるだろう、と、
ビデオ屋をやっていた渡部は思う。それが(すべての)親の
願いで、そんなギリギリのところで無様にもがくのが
生きるということなのだ、きっと。





だいぶ前に西荻窪のギャラリーショップ「もりのこと」で
買った本。タイトル通り、小さな生き物と暮らした日々を
ショップオーナーで木工作家でもあるサノアイさんをはじめ
計15名の方が綴っています。

購入したときにすぐに読んで、でも内容は忘れてしまったのか、
途中まで読んでそのままになっていたのかー。
いずれにしても、今回はその語られている内容に、自分の
気持ちがじんわりと溶けていくような感じをおぼえました。
再び手にとって、よかった。





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2024年2月 読書の記録

2024-03-30 12:00:48 | 好きなもの・音楽や本

2月に読み終わった本は4冊でした。

『首折り男~』は1月の終り頃図書館で見つけて、
なんとなく借りた本で‥読み終わったのは2月の初め頃。
まだ2か月も経ってないのに、だいぶ前のことのように
思えます。


特に繋がっているわけでもない、7つの短編が
おさめられていて‥最初に掲載された雑誌もばらばらで
書き終ろし作品もなし。

「首折り男」がキーワードだが、ほんとにゆるくゆるく
繋がっているだけで、読み終わったあとも、いつもの
ような、あーそういうことだったのか!の、カタルシスは
少な目でした。でも、合コン会場のレストランにも
首折り男は出没していたし、クワガタの飼育箱を操作する
夜中の作家の「手」のような、「神さまのいたずら」?
あるいは「神さまのたわむれ」?のような出来事がちらほら
起こり、たしかに人生ってそんなものかも、と思い
楽しい気持ちにもなりました。おなじみの黒澤が随所に
現れるのもおもしろかった。






ずっと前から図書館に予約していてやっと順番が
まわってきた本。

表紙のイラストと、タイトルの付け方で、だいぶ
部数を伸ばしたのでは?と思いました。
ワインの仕事で、30年近くイタリアへ通っている
作者の実感を、うまくまとめたエッセイのような
読み物で、前半のビジネスの部分が私にはおもしろく
読めました(後半は食卓のマナーとか家族の場面とか
想像が付きやすかったので)。

そして作者の言いたかったことは、すべて「はじめに」
に要約されていたような。時間配分のこととか、分業の
こととか、譲れないなーと思った点もあったけど、今を
楽しむ型の人生を忘れてはならない、という点で見習い
たいと思った箇所を。


不測の事態はおこりうるのだから、解決策を見出すことに
全力を尽くすほうがよほど大切。そしてそうなったときも
あきらめずになんとかする能力がイタリア人にはある。
なぜならこどもの頃からそういう場面に慣れていて
対応力が高い‥

どんな状況でもしぶとく愉しみを見つける。
好き嫌い、美しいか醜いかで物事を判断する(実用性より
美しさ、直観をはたらかせる)。

地図なしで人生を進む勘を持つ。







時々、よしもとばななさんの本が読みたくなって。
薄いし、簡単に読めるだろうと、図書館の棚で見つけて
借りてみました。

見知らぬ人からのメールに、返事を書くことを仕事
(ボランティア)としてやっている、どん子ぐり子
という(ふざけた)名前の姉妹が主人公。

どんぐり姉妹宛に送られてくるメールの内容と、その
返信が、物語を作っていくのだと思っていたが、実際に
紹介されたメールは3通くらいで、しかもそれがストーリー
をひっぱっていくわけではなく。なかなかのシリアスな
展開は、やはり、ばななはただものではない、と
ページが進むほどに思わされました。

喪失感をかかえて生きてきた姉妹が、その喪失感を
自分の一部に抱えつつ、でも生きていくぞーって感じで
しょうか。ラストが近づくにつれ、もう誰も死んだり
しませんように、と祈るような気持ちでしたよ。


だれもが人々の心でできた大きな海のどこかに
確かにぽつんと存在している。その度合いもきっと同じ。
それでも私たちは人それぞれの個別の色を持った
悲しみをおぼえる。

これは妹、ぐり子の気持ち。

そうか、ずっといっしょにいられない人といるのは
中毒みたいなものなんだ。魔法がとけないまま
別れるのはなんて甘美なものだろう。好きじゃない
わけじゃない、ただ一番好きでいられる方法が
これなんだ。

これは姉どん子の恋愛を、ぐり子が考察してるところ。








2月12日に吉祥寺で出久根育さんの個展を観た後に
なんか、たかどのほうこさんとのコンビの本を
よみたくなって‥。

表紙に居る女の子の、ひとりの名前が「育ちゃん」
なので、読み始めから楽しくなりました。

画廊が入っているような、古いビルへの短期間の引っ越し。
部屋のクローゼットに残されていたパッチワークで作られた
帽子(表紙の女子がかぶってます)。ちょっとかわった
服を着た女の子とのビル内探検‥。
これはファンタジーなの? ありえない話なの??と
思いながら読み進めているうちに、淡くやさしい気持ちが
胸に満ちているのに気が付き‥よい物語だったなあと
思いました。





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2024年1月 読書の記録

2024-02-22 17:53:08 | 好きなもの・音楽や本

1月に読み終わった本は3冊でした。

 去年(こぞ)の雪

久しぶりに江國さんの本でも読もうかーと昨年のうちに
図書館で借りてあった1冊。表紙も素敵だったし、
お正月休みの間にさくさく読み進めると思いきや、意外に
時間がかかってしまった。

‥100人を超える彼らの日常は、時代も場所も生死の
境界をもとびこえてゆるやかにつながっていく‥

と、文庫本の後ろの説明にある通り、2ページくらいで
登場人物は現れては消えていき、名前を覚える間もなく、
その「物語」も消えていくので、そういう展開というか、
その仕様に頭が慣れていくのが大変だった。

が、後半くらいになると、やっと面白くなってきて、
こんなに多くの人を書き分けられ、こんなにたくさんの
場面を生み出す作者の力量を感じました。

平安時代に生きる人がたびたび出てくるのも、
今年から始まった大河ドラマとリンクしているように
勝手に思ったり。
シャボン玉や飲み残しのコーラが、別の時代を生きてる
人たちに「発見」される「しくみ」も楽しかった。

印象に残ったのは279ページ。
「一度発生した声はどこに行くのだろう。
ずっーと空中を漂っているのかな」

もちろん消えていくのだけれど、別の時代の、まったく
関係のない人の声がふとした時に「聴こえる」人が
物語の中に時折居て、それは「消えたあとの声」を
耳にしているのではーと自然に思えた。







不思議な能力(自分が念じたことを相手に
喋らせることができる)を持った主人公加藤「兄」が
どんなところに行きつくのかを知りたくて、
どんどん読み進めた。

ムードに流される大衆の中に紛れることなく
自分の力を信じて青くさく戦っている主人公「兄」に
対して、フツーの弟で、ただの語り手に過ぎないと
思っていた潤也。しかし、2篇目の【呼吸】を
読むと、実はこちらの、潤也の物語の方が面白いかも、
と思ってしまった。

読み終わって解説を読むと、加藤潤也は50年後、かなりの
資産家になって『モダンタイムス』に登場している、とあった。
じゃんけんに負けない、という能力を駆使して、大金持ちに
なっていたのだった。
そういえば、兄が主人公の【魔王】に死神の千葉が
登場していた。(読んだばかりだったので、そのくだりは
とても楽しめた)伊坂本の楽しいところ。

兄にしと弟にしろ、そんな特別な能力を持った人ばかりが
居るはずはないと思いながらも、ある種のリアルさを伴って
ストーリーは進んでいき、全部をひっくるめて読者は
小説セカイを楽しみ、虚構と現実の境目はぼやけてゆく。
どちらのセカイに居ても、試されるのは己の信じるもので
あり、勇気の量なのだ、とここでも言われている気がした。







友だちに薦められ、長らく順番待ちをして
やっと読むことができた本。(本屋大賞受賞作だと
全然知らなった)

読み始めは、なんで今第二次世界大戦時の独ソ戦の
話を(しかもこんなに厚い本を)読もうとしている
のだろう?と思っていた。が、当時のソビエト連邦のこと、
狙撃兵のこと、戦争の状況などなど知らないことばかりで
気が付くと、のめり込んでいたし、現在の世界情勢や
戦争紛争地域のことと重なり合わせて思っている自分が
いた。(薦めてくれた友は、今こそ読んでおくべき本
という言い方をしていた)

表紙に描かれている少女セラフィマが家族も村もすべて
失い、女性兵士イリーナに狙撃兵として「スカウト」される
ところから話は始まり、戦場での熾烈な戦いや友情や、
終戦後の彼女たちの人生まで描かれるとても読み応えの
ある物語でした。

同志少女よ、敵を撃て
彼女たちの「敵」は、戦場で戦っているナチスドイツ軍
ではないの?そうではない敵は、どこにいるのだろう。
終盤に近付くにつれ、タイトルが示しているのはどんな
ことだろうと気になり‥ああその人がセラフィマの
「敵」になってしまったのか、と驚かされた。


::    ::    ::    


この本を読んでいた時に、『バビロン』も観たので、
まるで描かれている世界が違うのに、なぜか自分の中で
印象が重なっているところがあって。
個人の意思などまるで通じない、大きなもの(その時代)に
望むと望まないとにかかわらず「巻かれていく」主人公たち。
彼らのひたむきに生きる(生きた)姿勢が、どこかで繋がって
いるように感じたからかもしれない。










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2023年12月 読書の記録

2024-01-29 17:51:58 | 好きなもの・音楽や本

同僚が「久しぶりに感動して泣いてしまった」
というので、貸してもらいました。



互いの連絡先も交換せず、いまどきでは考えられない
くらいむかしのやり方=アナログで始まった主人公二人の
「ピュア」な関係。男性方の二人の親友と、女性の背景が
ミステリアスなことが物語を牽引していき、最後はきっと
こんなふうではないかなーと読者が想像できる終わり方を
迎えるのですが‥。
アナログな関係だった二人が、相手を支えるために、
思いっきりデジタルなものを取り入れざるを負えなくなる
という「変化」がいちばん面白かったかなーと、思って
しまいました。

同僚は、映画も観に行き、映画ヴァージョンは美しい
映像と、ドラマチックなラストで、さらによかったと
教えてくれました。(予告動画を観た感じでは、親友役の
二人のキャスティングが〇、と思いました)



また、図書館で借りてしまいました。


PK
超人
密使

3つの短編が繋がっているような、別々のような、
わかりにくい構造だったので、他の作品ほどには
入り込めないなと思っていましたが、2回目を読んでいた
ときに、妙に「ひっかかり」を覚え、今まで読んだ伊坂本との
共通点を探している自分に気が付きました。

時空を越えたり、世代が繋がっていたり‥
いろんな手法を試みながら、このセカイの不条理に
作者は迫ろうとしているのだなと思えてきて‥。
不条理な世の中に対抗し得るのは、何度か言葉をかえて、
物語の中で「大臣」が言うように、己の中から湧き上がって
くる勇気なのだ、きっと。と強く思いました。

「たとえば勇気の量を」

決断の瞬間に試されるのは、判断力や決断力ではなく、
勇気なんだと思う。決断を求められる場面が人には
突然訪れる。勇気の量を試される。


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2023年11月 読書の記録

2024-01-28 17:10:56 | 好きなもの・音楽や本

1月も終わっていこうとしているけれど、
11月に読んだ本を。

11月は読書の方も進まず、読了本は結局1冊だけでした。



10月に続けて読んだ伊坂本の余韻が消えず、
図書館の棚で見つけてつい借りてしまい、一度だけでは
よくわからない箇所もあり、二度目も、といういつもの
パターンでした。

死神

千葉という名前が(一応)あるが、調査対象によって
姿かたちを変えてやってくる。
「仕事」をしに来ると、人間界はいつも雨降りか曇天。
ゆえに晴れがどういうものなのか、青空がどんなものなのか
知らない。
フツーの人間に素手で触ると、失神させてしまう。
(だから触る必要があるときは白い手袋着用)
微妙にずれている会話とユニークな視点。
そして(死神は皆)ミュージックが大好き。

死神は死の前触れとしてやってくる?
死神を見た人はもうすぐ死んでしまう、となんとなく思って
いたので、この物語のようにただ「確認」し、今か先延ばし、
かを「判断」して伝える役目を担っているだけ、というのは
とても新鮮でした。そして何よりミュージックが大好き!
なところが。

物語は6つの短編の集まりのようでいて、あ、こんなところに
繋がっていたのか‥でした。

「死神の精度」
「死神と藤田」
「吹雪に死神」
「恋愛で死神」
「旅路を死神」
「死神対老女」

最終章の、対老女の中での印象的な会話

「人間というのは、眩しい時と笑う時に、似たような表情になるんだな」
老女は一瞬きょとんとしたがすぐに、そうだねと答えた。
「言われてみれば、意味合いも似ているかも」
「意味合い?」
「眩しいのと、嬉しいのと、似てるかも」
「何だそれは」
老人の言うことの意味が分からなかった。
ほんと、眩しいね、老女が弾むような声で言うのが聞こえた。



物語の中に、『重力ピエロ』の春と思われる人が出てきたのが
わかり、そのあとに読んだ『魔王』に千葉が出てきて、なるほどね
と思い‥。私の伊坂ステージが一段階上がったようで、
そんなことも嬉しかったです。





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2023年10月 読書の記録

2023-11-28 18:20:32 | 好きなもの・音楽や本

10月に読み終わった本、思いのほかありました。



7月にマティス展を観に行ったので、その余韻と、
今年5月に出たばかりの本と知ったので、図書館で
借りてみました。もちろん、観たことがない絵も
たくさんあったし、その解説もよかったのですが、
一番驚いたのは、著者である、国立新美術館主任研究員の
米田尚輝さんという方が1977年生まれだったこと。
40代の若さですごいなあと感心しました。
来年2月からの、国立新美術館での展覧会がさらに
楽しみになりました。





伊坂氏の新刊が出てたんだ~!と知った時に、
私に伊坂本の面白さを教えてくれた会社の同僚はすでに
読み終えていて‥「よかったら貸しますよ」と持ってきて
くれました。

「天道虫」と呼ばれている、運の悪い殺し屋、七尾の
新しい物語。高層ホテルで、通常では考えられないほど
次々と「業者」が殺されていく。当初は嫌な奴、悪い奴、
だと思わされていた人が本当は良い人で‥のパターン。
いろんな階で色々起こるので、最初は戸惑い気味だが、
テンポがあるのでどんどん読んでしまう。そして、
ところどころに挟み込まれる妙に沁みる言葉。

「人をうらやんだときから不幸が始まる」
「恩知らずは運にみはなされる」

最後は、すっとうまくおさまるので、読者は読んでよかった、
面白かったーと素直に思える。マクラとモウフの二人組が
今回はとてもよかった。あとソーダも。





『777』の後に、カポーティの本に戻ることができず、
図書館で2冊一緒に予約して借りてしまった。。。

読み終えたから知ったが、作者はじめての短編だった
らしい。でも、それぞれの話は連作になっていて、
作者曰く「短編のふりをした実は長編」とのこと。

(今更だけど)え?何この人??と周囲がいったん引く
ような変わった登場人物の設定がとても上手い。
今作ではもちろん、陣内。
銀行強盗の人質になる中、果敢にも歌ってみせるし、
解放されたとき、カウンターにあった数十万をちゃっかり
持ってきてしまったり。
人質となったことで知り合えた永瀬という全盲の青年、
彼のガールフレンドの優子、盲導犬のべス、も、とても
よかった。







『チルドレン』の続編。こちらは長編。
陣内は家庭裁判所の調査官(しかも主任)になっていて
武藤という部下まで居る。武藤の担当案件が、過去の
陣内が担当していた事件にも繋がっていて、とても
読み応えあり。

タイトルの『サブマリン』はどこに繋がっているのだろう
と思っていたら‥文庫本224ページに、

せっかくの人生の大事な年月を、光の届かぬ深海でじっと
するように負のことを考えることで費やしてきたのだ。

また、264ページには、

「そうとは言い切れないよ」
僕の言葉はもちろん彼を楽にしない。
彼の起こした事故は、十年経っても消えることがなく、
姿が見えない時もどこか、視界の外に潜んでいる。
水中の潜水艦の如く。そしてことあるたびに、急浮上し
若林青年に襲い掛かるのだ。


モダンジャズに少年事件をなぞらえて話す陣内は
(そう陣内にしゃべらせた作者は)すごいと思った。

モダンジャズとは正々堂々と「けんか」ができる
場所を共有すること。

「いいか、もう二度と弱い奴を狙うなよ、というか
狙わないでくれ」
「もし、むしゃくしゃしたら曲でも作って、演奏しろよ」


読み終わったあとで、ほんとうに月並みだなーと思い
ながらも‥わたしはわたしの毎日の中で、適当に済ませたり
見てみないふりをしたり、とかはやめて、精一杯を尽くそう
と思うのでした。


 

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2023年9月 読書の記録

2023-10-31 17:59:11 | 好きなもの・音楽や本

友だちのインスタで見つけて、印象的なタイトルと
表紙に惹かれてー。8月の終り頃から読み始めて、
9月1日に読了。



なんとも言えない後味の悪さを感じながら、表紙を
見返えして‥あ、と気が付く。
この絵にミスリードされていたに違いない、と。

物語は「わたし」の一人称で、ジェイクのことばかりを
語って進んでいく。ジェイクの両親に会うために
彼がかつて住んでいた農場までの退屈なドライブ。
その車の中で、「わたし」は「もう終わりにしよう」と
何度も何度も頭の中で言い続ける。

両親の住む農場→不穏
帰り道で突然レモネードを買おうとジェイクが言い出し、
その紙コップを捨てるためにわざわざ近くの学校へ寄る
→不穏増幅

一人で車に残された「わたし」、一人で校内へ入って
行ったジェイク‥。本編の途中、太字で何度か記されていた
会話は、最後のシーンの悲惨さを表していたのだと、
読者(=私)は知らされ、そして不完全燃焼の苦い気持ちの
まま表紙をじっと見て、やれらた、と思ったのでした。
「わたし」=ジェイクだったんだよ、きっと。

ジェイクの孤独に同情するよりも、変な話だったという
気持ちの方が強いけれど、読後2か月くらいたった今も
なんだか気になってしかたがない小説なのは確か。
いつかこの作者の別の本も読んでみよう。





この本もインスタから「仕入れた」情報で。
ヨーロッパを代表する漫画家
マヌエレ・フィオールの恋愛漫画ついに初邦訳
とあり、作者の名前をどこかで見たような‥と思ったら
図書館で偶然見つけて借りた『クリスマスを探偵と』の
イラストを描いた方でした。


まず、タイトルが素敵です。

書名の『秒速5000km』は、オスロ(ノルウェーの首都)と
エジプトの発掘現場の物理的な距離=5000kmと、
国際電話のタイムラグ=1秒に由来して いるとのこと。

主要人物は一人の少女と二人の少年。
イタリアで出会った三人は、その後ノルウェー、エジプトと
場所を変えながら、20年の歳月を経てまたイタリアで
再会する‥。

説明の文章はなく、すべてセリフで構成されている
大人のコミックス。面白かったよ、と娘にすすんで勧めて
よいのかどうか迷う描写あり(笑)。




こちらの美しい表紙の本も9月に読み始めてはいるのですが、
どうにも進まず。やっと主人公が目的の家に辿り着いたところ
でとまっています。






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2023年8月 読書の記録

2023-10-11 17:15:24 | 好きなもの・音楽や本

もう10月も半ば近くになりというのに、8月の記録も
アップできないまま‥となんかひとりで焦っています。

この本は、友だちがインスタで感想を書いていたのを
読んで、そんな本があるんだーと、図書館で探しました。



話は、大学時代に主人公の二人が作った映画が賞をもらった
ことがきっかけで、一人は名のある映画監督の元で働くすべを
得て、もう一人は自分の撮りたいものを漠然と探っているうちに、
YOUTUBEと配信動画のセカイへなんとなく入ることになり、
それぞれの仕事と生活を描くことで、対照的な二つのセカイを
読者も自然に知ることができるようになっていて。
(たとえば映画館上映にこだわる監督の気持ちとか、たとえば
YOUTUBEで生活している人のしくみとか‥)
知らないことがたくさんあったので、感心しながら面白く
読みました。

映画に限らず、音楽も、たぶん文学(というか文章書くこと)も、
同じような葛藤とジレンマを抱えているのだろうなーと思い、
こだわりだけではやっていけないし、今に乗ることばかりでも
「今」は先へ先へと進んでいくから辛くなるし。
結局送り手側は受け手のことを思いながら、心をこめて
ひとつひとつ作っていく、という当たり前で、でも一番難しい
ことを真摯にやってゆくしかないのでしょうね。。。


タイトルの「スター」。
いつになったら「スター」が出てくるのだろうと思いながら
読んでいて‥。
でも、主人公二人の大学の後輩が、中盤過ぎたあたりで、
二人は大学時代、賞をとったことでスターだったじゃないですか、
みたいなことを言うところがあったので、そうか、そういう意味での
「スター」なの?と一時は納得しかけたのですが。
最近、何かで、この「スター」というタイトルはレビューとかで
簡単に評価される ☆☆☆☆☆ のこと、と書いてる人が居て‥
あー!そうか、きっとその意味もかぶせてあるよねー、となったのでした。
(☆の数にもう惑わされるべきではない、という会話が、ラスト近くに
あったなあと思い出しました)



久しぶりの伊坂本。
友だちが「難しくてよくわかんない」と言っていたので、
では私はどうかなーと思って読み始めました。



活劇風のイラストが、挿絵というよりも、もっと
重要な役目を持っている、面白い趣向の小説。

コロナ禍以前に書かれていたのに、まるで予言のように、
鳥インフルエンザが蔓延後のパンデミックを描いていること
にまず驚き、「クジラアタマの王様」とは一体誰のこと?
いつになったら現われるのかなーと、考えながら
読み進めました。

現実と夢。リアルと非リアル。
夢の中での戦いが現実世界とリンクしていたら‥?
まったくありえない設定なのに、全然、変とか不思議
とか思わなくなってきたのは、伊坂ワールドにそれだけ
馴染んできたから??と思ったりして‥とても面白かったです。

ハシビロコウ。

そうか、そうだよね、ハシビロコウから始まった物語
ですものね。




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2023年7月 読書の記録

2023-08-24 16:58:13 | 好きなもの・音楽や本

7月に読み終えた本も3冊でした。
3冊とも、予備知識や事前予約なしで、図書館の棚で偶然
見つけた本でした。




6月に読み終えた『ビブリア古書堂の事件手帖』
同じ作者。ビブリア~の続きを読んでみようかなーと
探しに行って、なんとなく題名に惹かれて借りてみました。



1930年代に建てられた、当時の最先端アパートメントを
舞台に、そこから70年(!)続く、主人公八重と、
八重の大切な家族の思い出が、年代を行きつ戻りつ
しながら描かれています。

プロローグは、八重の最後の記憶。
年老いて、死へと向かうとき、人はこんなふうに、かつて
愛した場所や人や場面を思い出すものなのでしょうかー。

本文9ページ
 それから耳元にそっと囁いた。
「いきなさい」
あなたはまだ、ずっと先まで。
たちまち娘の姿は消えて、老いた女が一人きりで
立っていた。わたしはここでおしまい。

それと、ひとくくりに「家族」といっても、微妙に
合う、合わない、という人は(きっとどこの家族にも)いて。
それは好き嫌いとはまた別の感情というか、感覚で‥、
がんじがらめの家族よりも、素直にそういう気持ちで、
「代官山アパート」を通して繋がっている関係は
いいなあと思いました。






なんとなく、たまに、ばなな本でも読んでみようかー。
という気持ちになって。文庫の棚から今回はこちらを。
(ライフワーク長編で全4冊あるそうですが、まずは、
その1 アンドロメダハイツ)


カウンセリングができるおばあさんとの暮らしから、
山のこと、草のこと、薬草茶の作り方などを覚えた
雫石(しずくいし)は、おばあさんがマルタへ移住して
行った後、生まれて初めて一人で町へ降りて行く。
そこで、「先が見える」特技?を持つ楓(かえで)の、
アシスタントのような仕事を得るが、彼が海外に居る
あいだ、その留守を預かることになるー。

お伽話のようでもあり、長いながいプロローグが
やっと終わり、さて、第1章が始まる!と思ったところで
「その1」はおしまいになった。
序盤の、アパートの隣の部屋に住む男女の、なんでも
ないと思われた描写が、最後の大事な場面に生きてきて‥
おお、ばななさんはやはり、上手いなと思ってしまった。

本文133ページ
 この時の幸福なイメージを私はきっと長い間心に
とどめておくだろう。
 もうすぐ終わってしまうありふれた日常の風景の中に、
花のようにか細く開いた、淡いせつなさがあった。




水にまつわる本を集めたコーナーがあって、そこで目に
ついた本。著者は赤瀬川源平さん。


源平さんは、モネに代表される、印象派と呼ばれる
人たちの絵が、絵画のなかの「頂点」であると言い切り、
なぜ今でも多くの人々に印象派の絵は愛されているのかを
「水」という切り口で、実際の絵を見ながら、話すように、
教えてくれます。

印象派の画家たちは、描き表すのが難しい「光」を画面に
入れることに心を砕いているとばかりと思っていたので、
そうか、「水」だったのか、と新鮮な驚きとと共に楽しみました。

本文94ページ
 抽象絵画は表現の自由の天国あるはずなのだけど、何故か
自由の嬉しさが感じられないのはどうしてだろう。むしろ
自然描写に結びついた印象派の絵の筆触(タッチ)の方に、
自由の嬉しさを感じるのは何故だろうか。自由というのは
与えられると消えてしまう。印象派のタッチにはみずから
それをつかもうとする力が放つ輝きがあるのだ。

本文103ページ
 ~でも絵の輝きが印象派を上回ることはない。後を追う
ものには、技術の有利さがあるのだけど、技術だけ積み重ね
ても輝きを得られないのは、芸術の不思議なところだ。
「グローバル」になってしまった現代の人間は、水や緑を
率直に賛美する資格をすでに全員が失っている。印象派の
絵の輝きは、かつての時代に生きた彼らの特権であり、
その絵は、ぼくらには得難いものとなって残されている。




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2023年6月 読書の記録

2023-07-28 16:58:31 | 好きなもの・音楽や本

6月に読み終えた本は3冊でした。


原田マハさんの本は美術館や画家を題材にしたものが
好きで、そればかり読んできましたが、友人が
「あまりに良すぎて、借りて読んだあとに結局購入した」
と言っていたので、それならばと‥。



スピーチライター という職業、初めて知りました。
物語の設定がオバマ元大統領が最初に当選を果たす前くらい
だったので、記憶にも新しいし、リアリティも感じられ、
主人公周りの設定のちょっとした違和感を埋めてくれました。
(主人公のおばあちゃんが高名な俳人とか、幼馴染の
父親が有名な代議士とか‥まあ、代議士が出てこないと、
スピーチライターの話は展開していかないのですが‥)

マハさんの作品、前半の盛り上げりのわりには、後半は
わりとあっさり、というか、もう少し続きがあったら、と
思うことが何度かあったのですが、美術関連や歴史に
関係ない今回のような物語は、そのあっさり加減が
ちょうどよいな、よい終わり方だったなと思いました。






図書館でなんとなく棚を見ていたら‥どなたかが以前に
面白かったと言ってたのは、この本だっけ? となり、
借りてみました。


美しい古本屋の店長さん、その名も栞子。
普段は人前で話すのはとても苦手なのに、本に関連したこと
だと別人のようになって、鮮やかに「謎」を解き明かして
いく‥。続きも何冊かあるようなので、また時間をおいて
借りてみよう思いました。





作者の名前になんか引っかかって‥なんでだろう?と
考えたら、5月に観た『流浪の月』の方の作品でした。



出だしはそれほどでもなかったが、途中から‥各章に
付けられたタイトルと呼応する箇所があると気が付いてから、
どんどん引き込まれていきました。

たとえば。
「あの稲妻は」は、茨木のり子詩集の中のこんな一節。

けれど歳月だけではないでしょう
たった一日っきりの
稲妻のような真実を
抱きしめて生き抜いている人もいますもの

「ロンダリング」は、何だろう、何を意味しているか
わからない、と思っていたら。
マネーロンダリングとか、洗濯渦の、laundering のことで、
たしかに元カレと別れた直後はまさに「渦中」だったと
わかり妙に納得。


マンションの屋上にある神社を管理しながら、元妻の
忘れ形見を引き取って暮らす統理と、友人でゲイの路有。
マンションの住人の桃子さんや桃子さんが好きだった坂口君の
弟の基‥。フツーとは少し違う、緩いつながりの中で、
それぞれのココロが無事を取り戻していく‥

本文中にあった「無事を取り戻す」。
心が平穏とかよりも、しっくりくるし、いつでも自分の
ココロは無事で居てほしい、と思い、面白くてよい本を
読んだなあという気持ちになりました。
こういうゆるい疑似家族の話、好きだなと思いながら。


とても好きな箇所、忘れたくないので、ここにー。

なにかを捨てたからといって身軽になれるわけじゃない。
代わりになにかを背負うことになって、結局荷物の
重さは変わらない。
だったらなにを持つかくらいは自分で決めたい。












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2023年5月 読書の記録

2023-07-06 17:10:12 | 好きなもの・音楽や本

5月に読み終わった本は2冊。

職場の人イチオシということで、早く読んで感想を
言わないと‥と思っていましたが、『街とその不確かな壁』
にどっぷり浸っていた
ので、なかなか開くことができず。

ストーリーはどんどん進んでいくので、面白いといえば
面白い‥のかな。
が、正直な感想。(街と~のあとにどんな本を読んでも
これは面白いのかな??と思ってしまうに違いないので)

大きな疑問点はこの表紙。これはいったい何かを暗示?
していたのでしょうか‥。ちなみに「小麦」は主人公の
名前で、職業は弁護士。






友だちがインスタで紹介しているのを読んで、すぐに
図書館で予約して借りた本。
私が卒業した大学にも美術学科があり、変わっている人たちの
宝庫のような学部内でも、特に美術学科の方々は目立っていた
ような‥? 「美術学科っぽい」って言われたことがあって‥
その時はなんか嬉しかったな(笑)。

あとがきによると‥。
この研究室は実在のもので、そこを取材しレポとして本に
することもできたが、「あえて」小説のかたちにしたとのこと。
(もしレポだったら私は手にしてなかったかもしれないので、
小説でよかったです)

なので4人の主人公に纏わるあれやこれやはお話の中のこと
ですが、「仏様」に関することや、その修繕方法などは
すべてほんとうこと。

自己主張こそ命的な芸術大学なので、「あえて」仏様の修繕を
しようなんて思う学生は希少中の希少なわけで‥4人それぞれの
背景(背負っているもの)がとても興味深く、そしてそもそも
この研究室を立ち上げた教授が、その4人が卒業するときに
贈ったスピーチに打たれました。

命のバトン同様、芸術品の価値を認め、同世代で最高の知性と
技術をもって、そのバトンを次世代にわたす。それがここに
居る君たちの役目なんだ‥。

今度から、仏像を観るときにこれは何時代に、どんなふうに
作られたものなのかなーとか思って、じっくりよーく見てみよう
と思いました。

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2023年4月 読書の記録

2023-05-25 17:45:32 | 好きなもの・音楽や本

図書館で見つけて、3月に読んだ『約束された移動』
『砂漠』とともに借りてきていた、伊藤比呂美作
『たそがれてゆく子さん』
婦人公論に連載していたらしい。

伊藤本は未読のものが見つかるたびに読んできたので、
作者の人生を、よく知っているような気になっていて‥
どんな人と結婚して、ポーランドに住んでいた
こともあって、いつの間にか離婚していて、今度は
年の離れたアメリカ人と結婚して(入籍はなし)、
その人の子どもも産んで、熊本には年老いた両親が居て、
介護でたびたび日本に帰ってきてたけど、その両親も
亡くなって‥そしてこのたび(この本で)、アメリカ人の
夫も年老いて、ついに死んでしまったことを、彼女の
文章によって知ることになった。

読み進めていくうちに、そうそうこうだった、こういうふうに
この人はすべてを語り尽くしていくのだった‥と思っていたら、
次女のサラ子のことだけは、どうしても書くことができなかった
と知り、ものすごく驚いた。
伊藤さんは文中でこんなふうに振り返っている。

いつだってサラ子は、人前に立つと表情がなくなった。
棒みたいに突っ立っているばかりだった。それを引き取りに、
何度も何度も、小学校や中学校や(高校のときはマシだった)
大学に行ったもんだ。ああ、苦労した。苦労した。
貝がむき身で太平洋の荒波をわたるような、ジェットコースター
でシートベルトなしに振り回されるような、そんな苦労だった。
(中略)
サラ子については、あたしはそれを書けなかった。それほど
悩み抜いていた。あたしがそうなんだから、本人はどれだけ
苦しんだろう。
わかっている。こんなところに連れてきて振り回した親のせいだ。

このあとは、三女トメの結婚式で、立派に人前で挨拶をした
サラ子と、それを見て泣いた伊藤さんの描写が続き、読みながら
私も一緒に泣きました。

渡米を決断した理由のひとつに、コヨーテを見てみたかった
とあり‥。
大きな犬と共に、果てしなく広いカリフォルニアの大地を
毎日歩いている伊藤さんを思い浮かべることができ(そこでは
遠吠えのコヨーテの声も聞こえて‥)この本に出会えて、
よかったと思うのでした。








あのこは貴族
映画化作品を@WOWOWで観て、原作は読んでなかったのですが、
娘のiBOOKとシェアできることがわかり、電車の中で、と自分に
限定して読んでみました。
映画は原作に基づいてとても丁寧に作られていたし、キャストも
本の雰囲気にぴったりだったとわかりました。

都内に実家があり、閉じられた環境で守られながら育ってきた人が
「貴族」だとして‥地方からの「上京組」は何をしても太刀打ち
できないという構図とともに、女性の敵は女性であり、敵対する
ように仕向けられているので、賢い女はそれに乗せられては
ならない‥がさらりと語られていてよかったです。







4月には楽しみにしていた春樹氏の新刊が届きました。
街とその不確かな壁

ここ数年はラジオ番組を続けているし、その流れで企画した
ライヴコンサートの進行役で顔出しもしているし、
もしかしてもう小説は書いていないのでは???とひとり
思ってました。が、こうしてきちんと仕事をしていたのですね。

春樹作品を読んできた人なら、「街」と「壁」と聞けば

 
『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』の
「世界の終り」で語られてきた街を思い浮かべるはずで、さらには、
その元になったかつて文藝誌に掲載された『街と、その不確かな壁』
を思い出していたはず。(もちろん私もそうです)

何が同じで、何が違うのか‥謎を解くような、間違い探しの絵を
見比べるような気持ちもどこかにありつつ、読み進めました。
(今までは新刊が出ると、早くその物語が知りたくて、先へ先へ
と急いだものでしたが、今回は3週間くらいかかりました)

読後最初の感想は、とても長い話だった、です。
主人公は高校生だったのに、いつのまにか中年と呼ばれる年齢に
なっていたので、その人の半生を駆け足で見たような気持ちに
なったかと思えば、「壁」の内側の「街」に居たときは、日々同じ
ことが繰り返されるばかりで、人も季節もどこへ向かって進んで
いるのかわからず‥。私は自分自身の時間をも、いつの間にか
含めて読んでいたので(20歳の頃から春樹作品を読んできた
その思い出)、その結果「長い話」と感じたわけです、きっと。

街、壁、影、深い穴(時には枯れた井戸)10代で出会った女の子、
図書館や図書館で働く人‥。
春樹作品におなじみのモチーフが続々と現れ、それは何かの
メタファというより、作者のココロの奥底にいつでも「ある」
もので、作者は、『街とその~』の何人かの登場人物のように、
「そこ」と「ここ」を無意識のうちに行ったりきたりしているの
ではないかと思ったりします。
そして、↓に記したような美しい文章も、そんな無意識下から
うまれてくるのではないかな。

 そこに一人で立っていると、私はいつも悲しい気持ちになった。
それはずいぶん昔に味わった覚えのある、深い悲しみだった。
私はその悲しみのことをとてもよく覚えていた。それは言葉では
説明しようのない、また時とともに消え去ることもない種類の
深い悲しみだ。目に見えない傷を、目に見えない場所にそっと
残していく悲しみだ。目に見えないものを、いったいどのように
扱えばいいのだろう?
 私は顔を上げ、川の流れの音が聞こえないものかと、もう一度
注意深く耳を澄ませた。しかしどんな音も聞こえなかった。風
さえ吹いていない。雲は空のひとつの場所にじっといつまでも
留まっていた。私は静かに目を閉じ、そして温かい涙が溢れ、
流れるのを待った。しかしその目に見えない悲しみは私に、
涙さえ与えてはくれなかった。




また近いうちに二度目を読み始めると思います。

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2023年3月 読書の記録(後半)

2023-04-14 17:01:52 | 好きなもの・音楽や本

なぜこの本、というか詩集のことを知るようになったのかは
うろ覚えですが、2月の始めに悲しいお別れがあって‥
さよならは仮のことば という文字がPCの画面から突然
目に入ってきたのです。吸い寄せられて、すぐに調べてみたら
谷川俊太郎さんの、新潮文庫オリジナル詩集のタイトルでした。

そうか、「さよなら」は永遠の言葉ではなく、あくまでも
「仮」なのだから、さようならの状況をわたしたちはこんなに
つらく(深く)受け止めなくてもいいんだよ、仮なんだもの。


さよならは仮のことば

夕焼けと別れて
ぼくは夜に出会う
でも茜色の雲はどこへも行かない
闇にかくれているだけだ

星たちにぼくは今晩はと言わない
彼らはいつも昼の光にひそんでいるから
赤んぼうだったぼくは
ぼくの年輪の中心にいまもいる

誰もいなくならないとぼくは思う
死んだ祖父はぼくの肩に生えたつばさ
時間を超えたどこかへぼくを連れて行く
枯れた花々が残した種子といっしょに

さよならは仮のことば
思い出よりも記憶よりも深く
ぼくらをむすんでいるものがある
それを探さなくてもいい信じさえすれば








図書館にあった伊坂作品。タイトルだけみるとそんなに
面白いの?と思っていたが、レビューではつねに上位に来ている
ので読んでみようと‥。

東北大学(と思われる)の学生仲間5人のはなし。もちろん場所は仙台。
春、夏、秋、冬、ときて、春がまためぐってくるので、1年間の話
ではなく、彼らの大学時代4年間の出来事だとわかる。(というか
途中で気が付いた)
その4年の中で、「プレジデントマン」と空き巣強盗という大きな
「社会的」な事件があり、彼ら5人も意図せずそれに「個人的」な
かかわりを持ってしまう。

殺し屋が主人公になるような伊坂作品を続けて読んでいたせいで、
語られる事件は解決するのかしないのか、5人のうちの誰かが
命を落とすようなことがさらに起こるのかーと気になりつつ、
でもどっちもなかなか起こらないので、これはもう、彼らの
青春の思い出話を読んでいるだけ、という冷めた気持ちで、
この本は面白い?と自問するときも、正直あった。
けれど読み終わってみれば、彼ら5人から去りがたい気持ちが
確かにあって、それは一人ひとりの4年という時間を知ることで
親近感を覚えたせいと、かつて大学生だった自分と、その周りに
流れていたものを思い出してしまったからかもしれない。

タイトルの『砂漠』は、砂漠にだって雪が降るかもしれない
じゃない、という理屈屋の西嶋のことば。

映画だけ観て、未読の『ゴールデンスランバー』も、こんな
元大学生が事件に巻き込まれていったのかなーと思ったら、
読んで確かめてみたくなった。



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