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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

ミラルのものがたり

2021-12-29 12:05:11 | 好きな本

二度続けて『鹿の王』を読んだあと、今度はその続編とも
言える『水底の橋』の、二度目を読んでいます。

2人居た主人公のうちの、医術師ホッサルのその後の物語。
助手でありパートナーであるミラルとの恋の物語でもあります。


ホッサルはオタワルの貴人で高名は医術師、ミラルは
とても腕のよい医術師であり薬作りの名手でもありますが、
平民‥一般市民なので、ともに愛し合いそれぞれを
かけがえのない存在と思っていても、明るい将来は望めない
状況で‥互いにそれを知りながら、ホッサルはなるべく結論を
先延ばしにし、ミラルは「その日」への覚悟を決めている
ようでした。

オタワルの医術が、この現実世界では西洋医学だとしたら、
ツオル帝国の清心教医術は、漢方などを用いる東洋医学の
骨幹を清心教が支えている形で、さらに今回、その清心教医術の
源流を二人は知ることになると同時に、時期皇帝争いにも
巻きこまれてしまうのです。

二つの医術の対立や、二人の恋の行方‥そこへサスペンスの
要素も加わって、本当に読み応えがあるなあと思いつつ、
「水底の橋」って、何を意味していたのだろう?と一度目を
読み終えた後に思い、そうして二度目を読み始めたのですが。

今回登場するミラルの父親を、橋を専門に作る建築家、とした
ところがさすがだなーと感心し、父親がミラルに、かつて見た
橋の中で、自分が一番感銘を受けたのが、水底に沈んでいる橋
だったと話す場面が、さりげなくあるだけなのです。

でも、「橋」はホッサルとミラルの間だけではなく、二つの
相異なるよう医術の間にも架けられたのだ、と、ある時すとんと
私の胸のうちに落ちてきて、ああこれはやはりミラルの物語
だったのだ、と淡い光に包まれたような気持ちに満たされました。

ホッサルとミラルの物語、またいつか続きを読むことができたら、
とせつに願います。

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二度続けて読んでやっと「入ってきた」鹿の王

2021-12-04 15:21:58 | 好きな本

長い物語が読みたいと、自分の中の「読みたい本」リストを
探していて、まだこの本が未読だったことに気が付きました。

 

最初は図書館で文庫版の方を借りてきたのですが、1~4がすぐに
揃わないので、こちらの単行本に切り替えました。

一度目は、ストーリーを追うことに精一杯で、ラストまで辿り着くも
あの国とこの国の関係はどうなっていたのかーとか、この人は誰と
通じ合っていたのかーとか、思い出せないことがいくつもあって、
それらの箇所を探すよりは、もう一度最初から読みなおした方が
早いと思い、この1ヵ月、ほぼ『鹿の王』の毎日でした。


なんとも壮大な話なんです。
二人いる主人公のうちひとりは「欠け角のヴァン」という名で呼ばれた
元戦士で、大勢の奴隷が噛み殺された岩塩鉱の中で、彼と、後に
彼が引き取り育てることになる、幼い女の子だけが生き残るという章
から物語は始まります。

もうひとりの主人公は、ホッサルという名の若者で、彼は「医術師」。
別々の章で、ストーリーは交互に進んでいき、ホッサルたち医療関係者を
通して、彼らが属しているセカイでの病の状況を知ると同時に、
私たちが居るこの世界の、人の体とウイルスのしくみを学ぶことが
できるとても優れた医術小説となっているのです。

では、鹿は?なぜ鹿の王??なのだろう。
序盤での私の中の疑問は、この物語がどのようにタイトルに繋がって
いくのかということでした。
ヴァンたちが暮らしていた地方では、鹿と言えば「飛鹿」(ピュイカ)
のことで‥ファンタジーならではの、とても魅力的な動物が登場する
のです。

物語が終盤に近づいたあたりで、ヴァンの父親がかつて自分が見た、
ピュイカの<鹿の王>を、成人の儀を終えた息子たちに話すシーンが
印象的でした。

平地で山犬や狼などに群れが襲われて、逃げきれない仔鹿がいた
時に、群れの中から一頭の牡鹿が躍り出て敵と向き合った。
その牡鹿はもう若くもないのに、その敵の前に立ち、まるで挑発
するように跳ね踊る‥その牡鹿を、群れを守るために我が身を犠牲に
する<鹿の王>と英雄扱いするのは違っている、と言うのです。

「敵の前にただ一頭で飛び出して、踊ってみせるような鹿は、
それが出来る心と身体を天から授かってしまった鹿なのだろう。
才というのは残酷なものだ。」
「そういう鹿のことを、呑気に<鹿の王>だのなんだのと持ち上げて
話すのを聞くたびに、おれは反吐がでそうになるのだ‥」

この時の父の言葉が、ヴァンの中に深く強く残っているのだなーと
二度読み終えた今なら、よくわかります。


鹿の王
物語の世界観は果てしなく、ディティールも込入っていて、
とても読み応えがありますが、作者の言いたいことは、実に
シンプルなのではないかと、思いました。

与えらた命を、精一杯を尽くして生きていくーできれば自分が
愛し、自分を愛してくれる人たちとともに。
ヴァンが見つけ慈しみ育ててる女の子ーユナが、そこにあるだけで
美しい、命の象徴のようでした。




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