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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

桃山ー天下人の100年@東京国立博物館(平成館)

2020-10-28 18:00:40 | 好きなもの・美術館や展覧会

前日に急にシゴトが休めそうだとわかったので、その日の朝、
ラジオで聴き齧った桃山ー天下人の展示を、24日土曜日に
観に行ってきました。

 


今までだったら、わざわざ出かけるほどではなかったのですが、
『風神雷神』を読み終えたところだったので、狩野永徳
洛中洛外図屏風の本物を観ることが叶うなんて!と、金曜日の夜は
軽く興奮しました(笑)。

これから原田マハさんの物語を手に取る方にはネタバレに
なってしまいますが‥少年期の俵屋宗達が信長の命を受けて
永徳に弟子入りをし、信長が上杉家に贈ったのとは別の、新たな、
洛中洛外図屏風を師匠である永徳とともに描く、という場面があるの
です。描いたのは狩野永徳と記されていても、もちろん一人で
下絵から色付けまでするわけではなく、下準備や下絵を用意する
弟子がそれぞれいるわけで、あんな大きなものに、あんな仔細な絵を
描き入れていくためには、足場を組んだりする必要もあり‥
とにかく大変は情熱と時間が注ぎ込まれているわけですが、
小説の中のその場面に出会うまで、そんなこと考えたこともなかった
私は、とても驚き、はじめて屏風絵というものに思いを寄せたという
わけです。(小説の中では、「新たな」屏風絵を永徳と少年宗達が
描いたという設定での描写でしたが、きっと同じことが当時行われて
いたに違いないと思ったのです)

お目当ての屏風の他にも、書や焼き物や人物を描いた絵や甲冑や刀等々
があることは事前に知っていましたが、90分程度での拝観を、とサイトに
記してあったので、そのくらいの時間で観ることができるくらいの分量
なのだろうと思っていました。

ところがやはり、博物館。しかも入場料2400円だけのことはあったなーと
へんな感心の仕方をするくらい笑、たっぷりと用意がございました。
屏風絵だけでもいくつあったことかー。
(比べてみても、やはり永徳作の洛中洛外図はその細かさといい、色の
美しさといい、素晴らしかったです)

今から数百年も前に、こんな大きな絵に取り組んだ絵師がいたことや、
それを依頼した「天下人」の存在‥信長、秀吉、家康の直筆の書を
観ることで、本当に生きていたという事実に、たとえその時だけでも
想いを馳せるのは、得難い貴重な時間だという気持ちになりました。
(甲冑や陣羽織、家康が着たという小袖、家康が娘の婚礼の際に
持たせたお道具を入れる箱などなど、どれも人の手で作り使われて
きたものなのですよね‥)


90分ではとても観おわらず、その倍の3時間近くかかってしまい、
外へ出たら、もう月がのぼっていました。


暮れてからの上野公園もなかなかよいですね。


※洛中洛外図屏風の展示は前期のみで、後期はポスターになってた
唐獅子図屏風が展示されるようです。


 

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工房からのそよ風

2020-10-27 14:49:42 | 好きなもの・工房からの風

今年は通常開催ができなかった代わりに、「工房からのそよ風
題して、一日だけ、鎮守の杜のお庭で工房からの風が開催されました。

訪れる側は、たとえ一日だけであってもいろんな制約があったとしても、
やってくれただけで有難いし嬉しい気持ちを抱いて楽しみにその日を
待っていただけでしたが、主催者側はここへ至るまでにさぞ色々悩み
考え、葛藤の連続だったことでしょう。

ほんとうにお疲れ様でした、そしてありがとうございました。


一日順延された日曜日は、予報をはるかに上回る良い天気。

いつもの「風」を知っている方は驚きのすかすか具合(でしょ?)

でもお庭がほんとに美しくて‥いつも通りの感じで庭人さんが
お手入れを続けているのも、とても自然でよかったです。
 

 

出展者は5組だったのですが、風人さんのデモンストレーションや作品販売なども
あってたっぷり2時間くらい楽しみました。

ななみさんのデモを熱心に見つめる、夫と娘。
店長のブログには他の方のデモンストレーションの写真も載ってます)


今年の「おみやげ」は‥

庭人さんが集めたミックスシードと、曽田さんのガラスの花瓶と
Anima uniさんのフェンネルの輪という名前がついたピアス。


 それと、RIRIさんが「全部染め」を
していたテントの近くで拾った桜の葉。

ハロウィーン仕様にしました(笑)



お話したある出展者の方は、ともに集まれなかった出展者の方々を
思い、ある風人さんは、細くても微かであっても「次」に繋がっている
何か(証のような灯りのような‥)を残せたことが何より嬉しいと教えて
くれました。

そういう清々しさが、集まっている「風」だから、自分の内側も
浄化されてピュアな気持ちに戻れるのだと、今年も思いました。


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運命なのか、奇跡なのか

2020-10-22 16:34:02 | 好きなもの・音楽や本

図書館で長い間予約待ちして、上巻と下巻のあいだも3か月
くらい待って、やっと読み終えることができました。

 

風神雷神図屏風

歴史の教科書で、必ずだれでも目にしたことがあるこの絵が、
そのままタイトルと表紙に使われている物語って?
という好奇心で、図書館に予約を入れました。

原田マハさんの美術や絵画を巡る物語は、舞台が外国であっても、
まるでその時代を今自分が生きているかのように思わせてくれる
ところが魅力の一つだと思うのですが、このたびの「物語」は、
そこに壮大な謎解きが加わり、さらに面白く読み進むことができました。


京都国立博物館研究員の望月彩が主人公。彼女は幼い時から俵屋宗達の絵
に魅了され続けています。そんな彼女の前に、マカオ博物館の学芸員が現れ、
箱に収められた古文書と1枚の絵を彼女に見せるのですが。
古文書の署名は天正遣欧使節団の一員であった原マルティノ。
文中には、俵屋宗達の文字。そして「風神雷神」が描かれた西洋絵画‥。

使節団の中心であった4人は当時まだ13歳~14歳だったそう。
史実の中の「出来事」ではなく、3年もの年月をかけて、遥かかなたの
ローマを目指した少年たちの生き生きとした姿と、揺るぎない信仰心が
まぶしく、そこに当時の「大殿」であった織田信長や、京の絵師たちが
関わってくる上巻は、とても読み応えがありました。

船旅が終盤を迎える下巻では、これを運命と呼ぶのか、それとも
神が起こした奇跡なのか、という「出会い」が描かれますが、そこへの
道しるべを、すでに読者である私たちは手渡されていたので、上巻ほどの
勢いは(私には)感じられず、ああこれでこの物語は終わっていくの
だなと、すこし寂しくなりました。


それにしても、16世紀。京のみやこにさえ行ったことがない少年たちが
マカオやインドのゴアを経て(よい季節風が来るまで何か月もその場所で
風待ちをして)、アフリカ大陸の喜望峰を通り、ポルトガルまで辿り
着いたのち、スペイン国王に見え、ローマ教皇に謁見を果たしたなんて、
本当にものすごい旅であり冒険です。
(しかも、4年の歳月をかけて、ちゃんと帰国を果たしているのですから!)

一度も考えてみたこともなかった、彼らの旅に思いを馳せることができた
のも、この本のおかげだと思っています。






 

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2020年10月半ばに思ったこと

2020-10-15 16:53:59 | 日々のこと

自分の手から何かを生み出すことができないので、
せめて、ひとつの物事や、気になったことを、自分の頭で
一生懸命に考えようと思った。

みんながそうしているからと安易に決めてしまうのではなく、
ほんとうにそれでよいと「自分が」思ったのかどうか。
考えること、考え続けることは苦しい気持ちや重い気持ちに
なることが多いけれど、そこから逃げることがないように。

作り手に憧れているだけではなく、すこしでも近づきたいと
思うなら、自分の頭で、ココロで、いろんな側面から、深く
時に浅く軽やかに。



***   ***   ***


この版画は昨年の「工房からの風」のブローチと対をなす
一点もの。美しいです。似合う額に入れて飾りたいと思いつつ
もうすぐ1年たってしまいます。

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いつか行きたい夢の旅

2020-10-13 15:28:44 | 好きなもの・音楽や本

今年は遠くへの移動が叶わない年なので、せめて気持ちだけでも
どこか遠くへ、と思い、外国の街の本屋さんや図書館が載っている
本をなんとなく探していて見つけました。



他にも似たようなタイトルの本が数冊見つかったのですが、
試しにこちらを読んでみようと思ったのは、画像が写真ではなく、
(時間がたっても古びた印象にならないようにと)イラストにした
と書いてあったことと、作者が6次元ナカムラクニオさんだったから。

ナカムラさん。6次元の店主になる前は、テレビのディテクターとして
世界中を取材で旅していて、その際に、本屋さんを訪れていたことが
元になって出来上がった本とのことでした。


アジアの本屋さん
ヨーロッパの本屋さん
アメリカの本屋さん

の3章からなっていて、本屋情報だけでなく、現地でお勧めの本とか、
本屋さんのオリジナルバッグとか、各地域で有名な作家とか、
図書館も本屋さんの「仲間」として紹介されていて、読みどころ満載
でした。

全世界的な傾向としては、電子ブックの台頭と、書店と
他業種との融合‥書店+カフェとか、書店+レストランとか、
書店+ホテルのような‥新しい形態の誕生でしょうか。

紙の本から電子書籍へ移行することで、書店の倒産は
どの国どの地域でも免れないことですが、なかには、広大な領土を有する
ロシアのように、電子書籍が広まることで、今まで本や書店というもの
が身近になく縁がなかった人も、手に取りやすくなったということも
あるようで、紙の本を愛する自分としては、つい電子書籍を疎んじて
しまうのですが、よい側面も十分にあることを認識しました。

読んでいて、いいなあと思ったのは、台湾の無人図書館。
地下街、公園、空港など、どこでも気軽に本の返却や貸し出しが
行えるシステムができているそう。
デンマークでは、実際の図書館を利用して、性的マイノリティの方などを
「生きている本」として、貸し出し、立体的な「読書」を通じて偏見を
乗り越えようという試みがあるそうです。

驚いたのは、パプアニューギニア。先住民が暮らす村に電話会社が
アンテナをたてたことで、急速にスマートフォンが広まり、それまで
先祖代々の物語を口伝えで語り継いでいたような人々が、フェイスブックに
夢中になっているという話。


世界最古の本屋さんとか、美しい本屋さんとか、世界で一番高い場所に
ある図書館とか‥。
本屋さんや図書館にまつわるはなしは本当にどれも面白かったです。




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まかてさんのデビュー作

2020-10-10 18:48:47 | 好きな本

図書館の文庫の棚を見ていたら、まかてさんのデビュー作が
あったので借りてみました。



何冊か(も?)まかてさんの作品は読んでいますが、行きりあたり
ばったりというか、興味の向くまま、図書館の在架状況の偶然に
よったりだったので、書かれた年代は時に意識していませんでした。


主人公は表紙のお二人。江戸向島で花師をしている新次と女房のおりん。
「なずな屋」というのは二人のお店です。

花師というのは、ただのお花屋さんでも、植木職人でもなく、
野や山から植物を採取して育てたり、品種改良や時には交配させ新種を
売り出したりと、いうようなこともする仕事。

物語は、タイトルにある「花競べ」‥三年に一度の「祭」の中での、
技の競い合い‥を中心に、新次とおりんを取り巻く周囲の人から繋がっていく縁や、
新次の昔の縁まで、広がりを持って描かれ、「繁盛記」という言葉が連想させるような、
日々の細々とした悲喜交交では、語りきれない大きさと深さを備えています。


「職人小説」と、紹介されていましたが、いいですねー職人もの笑。

植木の一つ一つに、その特徴や、水のやり方などのお手入れ方法を記した紙を
付けようと考えついたのは、元は手習の先生をやっていた、女房のおりんなんです。
そんなふうに、色々工夫していくって、きっと楽しかっただろうなあ。



まかてさんの本、もっともっと読みたいけれど、未読のものがなくなって
しまうのは寂しいので、少しづつ「挟んで」いこうと思います。




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詰め込まれていた

2020-10-02 14:41:39 | 好きなもの・音楽や本

雪と珊瑚と』が面白かったので、梨木さんの作品が
もっと読みたくなって、図書館の文庫の棚にあったものから
1冊選んできました。

 タイトルは知っていたのですが、
未読だと確信してました。(文庫になって表紙が変わったから‥?)

でもブクログに登録しようと思ったら、9年前にすでに登録
していたことがわかり‥ってことは、すでに一度読んでいたんだーと
なったのですが、ストーリーの片りんすら思い出せませんでした。


染色家の叔父さんが出てきたり、町の中でかつて富裕な農家だった
土地と屋敷を護っている親友が居たり、ヨモギ団子を作った時の
エピソードがあったり‥ココロにひっかかりを残していそうな箇所は
いくつもあるのに、なんでだろう?と自分の記憶力のはかなさに
やれやれという感じでしたが‥ゆうべ布団の中で、親友のユージンが
学校に行くのをやめることにした理由が明らかになる場面を読んでいて、
この箇所を自分の頭の中からすべて消去したかったから、ココロが
覚えていることを拒否したから、まるで記憶に残っていないのでは?と
思いました。それくらい、その箇所で描かれている担任教師の
偽善的教育者ぶりと、その授業内容は(私にとって)いたたまれない
ものでした。

主人公のコペルも、コペルの親友のユージンも、ユージンの従妹の
ショウコも皆14歳。
ユージンの家で過ごす「とある一日」の中に、14歳でも容易に想像
できること、14歳の手には負えないもの、14歳に考えさせるには惨いの
ではと思えること、苦い後悔や、少し先の光りまで、あらゆるものが
ぎゅっと詰まっています。
どこをとっても、自分の頭で考えていかなければいけないことばかり。
(私が相当嫌悪した先にあげた教師のエピソードもその一つ)

詰め過ぎじゃないですか、梨木さん、と言いたい気持ちは、きっと
自分の甘さなのだろうなあと思いつつ。


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それは秘密のやりとりだったのかー

2020-10-01 14:40:32 | 好きな本

先日ギャラリーらふとでのクロヌマさん作品展の時に、
この本の装丁の秘密(?)を知ったので、早速図書館から
借りてきて読みました。




クロヌマさんにお目にかかった時に、今読んでるところです、
って言えたらよかったし、自分が読了してたなら、「クロヌマさんも
この本読みましたか?」と是非とも訊いてみたかった内容でした。



表題作の『口笛の上手な白雪姫』をはじめ、全部で8編の短編が
収められています。

『先回りローバ』
『亡き王女のための刺繍』
『かわいそうなこと』
『一つの歌を分け合う』
『乳歯』
『仮名の作家』
『盲腸線の秘密』
『口笛の上手な白雪姫』


小川洋子さんの作品を読むのはとても久しぶりでしたが、
ああそうこういう感じだった、と程なく思い出しました。

吃音癖があり、思うようにしゃべることができない僕の前に
箒と塵取りを持った「お婆さん」が現れる『先回りローバ』。

廃線が危ぶまれている、通称「盲腸線」に、毎日乗りに行く
曾祖父とひ孫だけが知っていた『盲腸線の秘密』。

赤ちゃんの愛らしさ、赤ちゃんと呼ばれる時期だけが備える
みなぎる生命感が、その物語の、静かに生きる女性と対照的な
『亡き王女のための刺繍』と『口笛の上手な白雪姫』。

感受性豊かな少年期にだけ「見える」『かわいそうなこと』と
『乳歯』。


見えるものと見えないもの、生きている人(もの)と
もう生きていない(もの)の境目を、そもそも境界線など
始めからなかったかのごとく、それぞれの物語の登場者は
越えていきます。それはなぜ?

本の終盤、『口笛の上手な白雪姫』の中にこんな文章がありました。

自分を必要とする客がやって来るとすぐさま察知し、
控えめな視線だけで、もしよろしければどうぞご遠慮なく、
という合図を送った。(中略)ただ小母さんを求める人々との
間にのみ行き交う、秘密のやり取りだった。

こちら側とあちら側(あるいはわたしとあなた、あるいはAとB)で
秘密のやり取りがあったから。

やり取り‥すなわち交換であり交感が存在していたのだと思うと、
それまでに読み終わった短編の諸々が、胸の内側にきれいに収まって
いったのでした。


表紙の白鳥たち。好き勝手な方を向いているようでありながら、
交感されたものをひっそり反芻しているように見えてきませんか。


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