いつどなたのブログで目にしたのか忘れてしまいましたが、
赤い表紙がとてもかわいいし、題名も、絵本の『ちいさいおうち』と一緒なので
気持ちのどこかに残っていたのだと思います。
そして先日、リアルシトロンを訪れたときに、赤い表紙が目に留り、そうだわたし
この本を読みたいと思っていたのだと、思い出しました。
米寿も過ぎた主人公のタキさんが、昔むかし、女中として働いていた頃の
回想録を、ノートに綴っていく、という形で話は進んでいきます。
読み始めたときまず最初に思ったのは、女中のタキさんが、使っていた言葉の
美しさです。
奥さまに教えてさしあげる、とか‥丁寧な日本語って、それだけで気持ちが
いいものだと感じました。
山形生まれのタキさんが上京したのは昭和5年とありましたから、私の両親だって
まだ生まれていなかった頃で(笑)‥女の人は皆が皆、日常的に着ものを着ていた
時代でしょうか‥。
玩具会社の常務のお宅の女中さんなので、普通の家よりも、暮らしむきは
ずっと上流だったでしょうが、それでも、タキさんの目を通して再現される
(いわゆる)戦前の、東京の町はとても興味深く、しだいに戦争へと進んでいく
世の中も、庶民の目からはそういう風に見えていたのかと、前のめりで、
読んでいきました。
庶民の昭和史的側面からだけでも、私は楽しく読んだのですが、なにしろ題名が
『小さいおうち』 です。
坂を上ったところに建っている赤い屋根の、この家がなくては、この小説の
本来のストーリーも、作者の意図も、展開していきません。
この家の「時子奥様」にとって、家がとても大事だったと同じくらいに、
時子奥様の再婚時に一緒に「お嫁にいった」タキさんにとっても、この家は
たいそう特別なものでした。
たった2畳の自分の部屋がどれだけ愛おしいものであったか。
「小さいおうち」の玄関、庭先、応接間、台所、ステンドグラス‥細やかな描写から
タキさんの、「小さいおうち」に対する気持ちが溢れだし、それは読んでいる
私を、せつなくさせるほどでした。
時子奥様とタキさん、奥様と板倉さん(旦那様の会社のデザイン部の男性)‥
太平洋戦争前の、赤い屋根の小さいおうちで繰り広げられた人間模様に
大きく踏み込んで書いてしまいたいところですが、そこはぐっとこらえることにします・笑。
物語は終盤、大きなカーブを上手に周り、絵本の『ちいさなおうち』との繋がりまで
見せてくれますが、私はそこへ辿り着く前の、タキさんのこの一言に、涙がこぼれました。
どう言ったらいいのだろう、そこは、平井家のお勝手だった。
つまり、わたしにとっては、唯一無二の自分の場所だったのだ。
‥私は、自分の場所、帰る場所、ということばにすごく敏感だなーと
思いながら、本を閉じました。