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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

祈りのかたち

2016-10-29 14:59:51 | 好きな本

前回のログに書いた母なる大地、父なる空

話の舞台が紀元前七千年、氷河時代のアリューシャン列島、と聞いただけで、
想像の域をはるかに越えていて、未知なるセカイと思ってしまいますが。

この本の主人公、「黒曜石」という名前を持つ少女とその家族は、
海沿いの村に住み、主にアザラシを捕って生活していました。
アザラシの肉はごちそうであり、脂は火を灯すために使い、皮はなめして、男たちが
猟に出る際のアノラックに仕立て、胃袋は水を入れる袋にしたり、骨や腱は上手に
道具として利用しています。
まだ衣服にするほど植物から繊維はとれず(栽培はしていないので)、野生の草を刈って、
それでござのようなものを編み、土間に敷いたり、カーテンのように垂らして、部屋の
しきりに使っているようでした。
煮焚きのための鍋のような土器もなく、お湯を沸かすため、肉に火を通すために
石を直火で熱し、それを、水の中に入れておくというのもありました。

紀元前7000年!というとんでもなく大昔の人たちの暮らしが、なぜこのように詳細に
わかり、そして身近に感じられるのか、不思議な気持ちになりますが、
人の営みというのは、大きな大きな時間の流れの中では、微々たる変化に
過ぎないということなのでしょう。
もちろん、作者であるスー・ハリソンさんの、3年にもおよぶ調査研究(アリュート語を
含む6つの言語に加えて考古学、人類学、地理学など)と、さらに4年かかって書き上げた
力作なればこそ、だと思いますが。


大昔でも、すこし昔でも、現代でも、大勢の人間が集うところには、善い人もいれば
ずるがしこい人もいて。勇気がある人優しい人賢い人と同じ数だけ(それ以上に?)
残酷な人卑怯な人嘘つきな人がいて。
力の強さが優劣を決めるセカイでは男が威張っていて、女は虐げられているので、
暮らしぶりへの興味より、そちらへの憤りややるせなさの方が、勝ってしまい、
ページを繰る手が滞りそうになりました。

でも、上巻下巻最後まで読み通すことができたのは、自分の力が及ばないとわかって
いながらも、勇気と知恵で抗っていく「黒曜石」のけなげさと、彼女を応援し続ける
「古を遡る」という名を持つ老人の存在があったからだと思います。

「古を遡る」は、人や動物をほんとうに上手に、生きているかのように、木で
彫ることができる才能を持っていて、彼が彫ったものには魂が宿ると信じられ、それ故
老人であっても、畏敬されていたのです。

動物を殺し、その体をいただくということは、その動物が元来持っている力そのものを
自分の体の血肉にしていくことだと、このセカイの人は考えていました。
「古に遡る」の彫刻を身につけることで、守られていると感じたり、励まされたりするのは、
私たちとすこしも違わないというか、私たちが、その頃から何も変わっていないという
ことなのだと思いました。

身につけた(たとえば)ラッコに祈り、太陽に祈り、月に祈り、空を仰ぎ、
雲の行方を追い、山の力を感じ、海の力を感じ、大地へ感謝の気持ちを捧げる‥
すべて普遍のことなのです。



木を使う彫刻は、形をそのまま写すことができる分(アザラシやクジラやラッコの形、
赤子を抱いた女や槍をもつ男など)、わかりやすいけれど、たとえば女が決まった時に
口ずさむ歌や、刈った草から繊維をとりござを編んでいく作業、その後の織りものなど
手を動かし、気持ちを込めるものは皆それぞれの祈りのかたちだと言っていいのでは
ないかなあと、思ったりしています。
 

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振れ幅

2016-10-25 15:10:08 | 好きなもの・音楽や本

たとえ遠いところへ旅することができなくても、
本を読むことで、それと同じくらい(時にはそれ以上に)
気持ちが大きく解き放たれることがあります。
また、
自分ひとりではどうしても見つけられなかったにちがいない本を
偶然知ったときや、友達からの紹介で、新たなセカイが広がることもあって、
そのたびに「読書」って素敵だ!読書って大好きって思います。

1冊読み終わって余韻に浸るのもよし。積読本を次々に制覇してゆくのも
挑んでいる感じがして、なかなかよし、なのですが、このたびの読書は
あまりにも遠い所から、あまりにも遠いところへ‥でした。



夏に、木彫り作家さんの個展で、お気に入りの本を作品とともに並べていた
書棚から知った本。


タイトルも作者名も、初めて目にしました。

話の舞台は、紀元前七千年、氷河時代のアリューシャン列島






下巻を読んだあと‥
紀元前7000年!!の世界から、近未来のイギリスへ。
でもそれはほんとうにあってはいけないセカイ‥。



今年の初めから気になっていたこの本を、やっと手にしました。
(手にする勇気が持てた、という感じかな)

なぜ、表紙がカセットテープなんだろう、と思っていましたが、
読み終わった今は、この表紙があまりにもふさわしくあまりにも悲しいです。


この振れ幅の大きさに戸惑い、内容の濃さを噛みしめながらも
新たに手にした本はこちら。




3分の1近く読みましたが、今時の就活事情が描かれている「ここ」が
ある意味いちばん遠く、わたしの知らないセカイだったりして‥
と思っています。


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想い出の「ポニー」

2016-10-20 17:21:25 | 好きなもの・工房からの風

毎年の秋のお楽しみ、「工房からの風」。

カテゴリー内に好きなもの・工房からの風 作ろうかなーなどと思っていたら、
2015年、2014年はブログに何も書き残していませんでした。
(軽いショック。)
たぶん、フェイスブックでのやりとりが主になっていたのですね~

でも、気を取り直して、やっぱり作っておくことにしました。
初めて行ったのは何年だったのか、とか、あの時は何を買ったのか、とか
時々思い返してみたくなりますので・笑。


ところで、今年の「工房からの風」。

数年ぶりに、朝いちで、ワークショップに参加するという思ってもみない展開でした。

手縫いでつくるコインケース  先生はOhamaさん。


私は迷った末に、今年の「色」のレモンを選びました。

こんな形に切ってあって、ノリはついているし、目印もあらかじめ
付けてくれてあるので、あとは先生のおっしゃることを真剣に聞いていれば
私でも作れるかなーと。


専用の道具で穴をあけたところです。
木槌で、とんとんとんと3回くらい叩くと、きれいに穴があいていき、
革のやわらかな感じがとても気持ちがよいのです。

好きな糸を選び、いよいよ縫っていくのですが‥革作業は
縦にして縫っていきます、という先生の説明。

そう、ここに写っているこの木製のものが「ポニー」なんです。


こんなふうに「ポニーに挟みます」と言う先生。

ポニーというのが、この道具の名前???と思っていたら、
やっと疑問がとけました。
こんなふうに、動かないように固定させるために
「乗って」使うからなんですねー


お裁縫の時につかう絎台(くけだい)ような形で‥その平になってところを
椅子の上にのせて、その上にまたぐようにして自分が座るのです。
(この写真はワークショップ終了後に、証拠写真として?
座っている自分の足を撮ったところです)

このあとは、糸の両側に針をつけて、左右から交互に縫っていく
革の縫い方を教えていただき、めでたく完成となりました。




やってみたかった革作業ができたことも嬉しかったですが、
それ以上に、なんて言ったらいいのかな。
ワークショップに参加しようと思うことが、いつになく新鮮に思えて、
そういう気持ちの動き方が、「工房からの風」なんだなーって思うのです。

だから、風2016は、「想い出のポニー」、ふふふ、です。






こんな美しいお庭‥とても満ち足りた一日でした。


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りすでんわ他

2016-10-19 17:12:59 | ひらきよみ(読み聞かせ)

先週の金曜日は、読み聞かせ当番の日でした。
ペアで2年生のクラスへ行きました。

ペアさんは、私たちの会に1学期の終わりごろに入り、実際に
教室で読み始めたのは、2学期になってから。
かたや私、経験だけは10年越え(!)なので、そのプレッシャー
みたいなもの感じましたねー(笑)。


最初にペアさんが、この絵本を読んでくれました。
(私、初めて知った絵本でした、新鮮!!)



小さくなってしまった黄色いくれよんですが、靴に描かれたひよこや、
おもちゃのクルマ、道端の小石などをきれいに塗ってあげます。
そして、夜空に光る星を眺め、輝きの薄いものをきれいな黄色に
してあげようと、ぴゅーと空へ上っていくのです‥その場面が
きっと表紙の絵ですね。
あまりに献身的な話でちょっと驚きました。

子供たちの後ろに座って聞いていたですが、飛んでいったくれよんは
どうなるの?と心配の声があがっていました。
とともに、最後列に居た男子。
「星はほんとは地球より大きいんだぞ、だからあんなことはありえない」と
友達の肩を叩いて振り向かせ、そう教えていましたね~すごいです。


1冊目がお話の絵本だったので、2冊目にこの絵本を読みました。



椅子が、馬と椅子との共通点をあげていき‥だんだんと馬がその気になり
‥ほんとうだ ほんとうにそうなんだね
ぼくときみは おんなじだ

と言うと、椅子はクールに

いや おんなじじゃない
にているってことさ

で とりあえず
おまえは うま
おれは いす 
そういうこと
では
ごきげんよう

と、はぐらかされて、終わりになります。

それまで、馬と椅子の発言にいちいち反応し、そう思うとか
思わないとか口々に言ってた2年生も、最後の椅子の言葉に
あれれ、となったようでした(笑)。


3冊目は、教室で読むには、ちょっと小さいかなーと思ったのですが、
中ほどに出てくる月がとても印象的なので、季節的にちょうどよいと思い
読んでみることにしました。


ほんとかわいい絵で‥昭和生まれの私たちには、馴染み深い黒電話。

電話という便利なものがあるらしい、と知ったりすたちは、自分たちで
電話を作ってみることになり、せのたかいアケボノスギを でんしんばしら
みたて
 つるをあんだ ロープをわたして でんせんにし
そのさきに ねんどでつくった でんわきをとりつけました。

でんわの かいつうです!

(思わず、ちがうやろ、とつっこみたくなりますね~。)

そして、月のきれいな晩、りすのこどもが、おばあちゃんもこのきれいな月を
見ているかなーと心配になり、わからないながらにも電話を使ってみることに。

「そうだ!
こうするんじゃないかな」

りすのこは
でんしんばしらを
とととっと かけのぼると‥

「めざす ほうこうは 
あっち!」

かけだしました。

なにもかもかわいいです(笑)。


編み物をしていたおばあちゃんは、外を見ていなかったので月の美しさに
ちっとも気が付かず。なので、こりすが「でんわでおしえてくれた」ことを
とても喜びます。そしてりすのこは、帰り路はおばあちゃんに手をひかれて。

りすのこも
おばあちゃんも
「でんわって なかなか
いいものだなあ」
と おもいました。


小学2年生は、電話=黒 というイメージがつかめず、電信柱や電話線と
言う言葉も、あまり聞いたことがないかもしれないので、大人がにやりと
するようなおもしろさは感じられなかったかもしれないなあと思いました。
でも、おばあちゃんが喜んでくれて、月がきれいな夜、手をひかれて歩く
場面のじんわりとした嬉しさは伝わったかも、とも感じました。


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