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「プリンセスチュチュ」ファンページ

『金冠町』はこれから桜の季節

2013-04-07 03:41:33 | 二次小咄
ベタですが (^^;)、アシュトンの「春の声」(ヨハン・シュトラウスII)を見てて、「これはあひるちゃんでしょう!」と思ったので。
ふぁきあ君には激しく似合ってないんですけどね...
捏造設定:本編その後話です。
なお、振付は「作者の都合」により大幅に改定されております(笑)
(というか、私が設定してる時代にはまだこのバレエは作られてない...)

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Frühlingsstimmen


・・・眩い光の中、花びらが舞い落ちる。・・・



あひるが踊っている。
すらりと伸びた手の先から、無数の花びらを振りまきながら。
あひるの指先と同じ、仄かな淡紅色の小片が
はらはらと、しなやかな腕の周囲を舞い、細い躰に纏わる白い薄衣と戯れ、そして・・・
あひるをリフトしている彼の顔に降り懸かる。

次の瞬間あひるは舞い降り、
ふわりふわりと、ポワントで地面に触れるか触れないかのジュテで、空中を跳ね飛んで行く。
無論、それは、彼が支えているからこそなのだが、なぜかその彼にも、まったく重さが感じられない。
それを不思議だとは、どういうわけか、思わないが、わけもなく胸がざわめく。
まるで彼の助けなど無くても、あひる自身が、重力に縛られぬ者として生まれた存在のようで・・・

さっとあひるを引き降ろして、腕の中に仰向かせ―いつかもこんなことがあった―稚い丸顔を覗き込むと、
柔らかな春の空色がぱっときらめき・・・真っ直ぐに、彼に笑いかける。
その笑顔から伝わる幸福感に―それとも己の胸に湧き上がった感情か?―不意を衝かれ、
(彼には決してありえないことに)次の動きを忘れて立ち尽したとたん、
抱いていたはずの温もりが、ふっと消えた。

ほっそりした背を見せ、アッサンブレ・ボレで跳んで行くあひるの周りに、鮮やかな春の野辺が広がる。
薄雲越しの太陽のためらいがちな微笑みはかえってまぶしく、
軽やかにピルエットするあひるの姿を、幻のように霞ませる。
心地良い東風の緩やかな吐息と、ほんのりと香る花の媚薬に
幻惑された心地で伸ばした彼の手は、小鳥のように素早いシソンヌ・フェルメでかわされた。

・・・あひるはこれほどバレエが上手かったか?
透ける衣装の裾を翻して春の精さながら跳ね回るあひるを、むきになって追いかけ、
いくぶん乱暴に手首を捉える。
湧き上がる原始的な悦びに戸惑いを覚えながらも、伸ばした両腕で後ろから抱きすくめるように持ち上げ、
くるりと回って、二人を包む軽快なしらべに身を委ねる。
そうして二人はなめらかに音楽と溶け合い、欲求も迷いも、すべてが解け、一つになり・・・

完璧な左右対称でのアティテュードから、重なってアラベスク、
会話するようにお互いの動きを追いかけたかと思うと、
高さもタイミングもぴたりと一致して、回り、跳ぶ。
まるで一つの有機体のように、お互いの息さえ共有している。
揃ってパ・ド・ヴァルスを踏む二人の足元で、降り積もった花びらが舞い上がる・・・

誰かと踊っていて、こんなにまで心浮き立ったことが・・・歓びに満たされたたことがあったか?
顔に笑みを浮かべて踊るのが、これほど簡単だと思えたことが?
春の声が、芽吹き始めた希望を謳い、ときめく心が真実を突き付ける。
甘い苦しさが胸にこみ上げ、踊らずにはいられない。
・・・踊らずにはいられないからこそ、こんなふうに踊れるのだと。

小さな手がそっと彼の肩に添えられ、
その場所に、ありえないほどの熱を感じる。
つかず離れずで踊っていたあひるとの距離が次第に縮まり、
踊っているせいにはできないほどに鼓動が早くなり、

二人の上に、花びらと、光が、降り注ぐ・・・



あひるは、かわらず、彼の傍らにいた。
黄色くふわふわした羽毛に包まれた小さな体を丸め、
「ピンクの雪!」と評した花びらの山に、半分埋もれるように顔を沈めて。
どんな夢を見ているのかは知る由も無かったが、
その夢の『王子』が自分でないことだけは、痛いほど分かっていた。

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