夕立の、時折雷鳴轟く隅田川、御殿女中が恋に目覚め憧れる一景です。
もとは、1865年初演の「白浪五人女」(河竹新七ー後の黙阿弥作)の中の余所事浄瑠璃だけに、幕末の江戸の
艶かしく粋な情緒ある曲です。今回は師匠の衣装を使わせていただき、女の純な心と大人の色気を表現できれ
ば嬉しいです。
(夕立の雨も一降り馬の背を 分けて涼しき川岸に 柳の枝の寄り添いて いつしか色に鳴神の 音さへ遠き
筑波東風)
残る暑さを川水へ 流す上手の帰り船 草の葉に宿りし月も小夜風に 憎やこぼれてばらばらと 露か雫か雫
か露か 濡れて色増す野辺の色 粋なお方につり合わぬ 野暮なやの字の屋敷もの 十の歳からお小姓を 勤
め通しておそば役 はたちは越せど色恋は 掟厳しく白玉の 露にも濡れし事はなく 後はいらへも長づとの
油香りてなまめかし 初の御見に手を取られ 飛び立つ程の嬉しさは 蚊帳より胸に波打ちて 紅麻うつる顔
の色 また一しきり降る雨に 仲を結ぶの雷や こわさに抱きおほ川の 深き契りぞ(かはしける)