【その18へ戻】
正に信じ難い光景が目の前に在りました。
巨大ロボットの攻撃にもビクともしなかった堅牢なシェルターが、身長120㎝にも満たない少年に軽々と持上げられているのです。
両手で高くピラミッドを掲げた少年は、クルリ反転して魔女の方を向くと、涼しい顔で尋ねました。
「ナミーー!!持上げたぞーー!!これからどうするーー!?」
「そうねェーー…じゃあ軽くトス上げてェーーー!!!」
ホール端からナミが、口に手を当て大声で返します。
「おーし!!!解ったァーーー!!!」
返答を聞いたルフィは、リクエスト通りボールをトスする要領で、両手で軽々ポーンポーンとピラミッドを跳ね上げました。
「ギャアアア~~~~!!!や、止めてェェ~~~~!!!!」
ピラミッドの中から凄まじい悲鳴が起り、同時に――ガラガラガッチャン!!!という派手な衝撃音が聞えました。
恐らく缶詰や瓶等が転げ回って奏でてるのでしょう。
「次は思い切りシェイクシェイクシェイク!!!」
再び出されたリクエストに応じ、ルフィがピラミッドを上下左右に、激しくシェイクします。
「嫌ァァ~~~~お願いっっ!!!もう許してェェ~~~~!!!!」
――ガラガラガチャン!!!!――ガチャガチャガラン!!!!
「そこで止めの殺人アタック!!!」
三度出されたリクエストに、ルフィはピラミッドを高々と投げると、飛上って必殺のアタックを決めました。
「んぎゃあああああ~~~~~~…!!!!」
――ガラララ…ガチャチャン!!!!――ズドォォーーン…!!!!!!
ホールにまるで隕石が落下した様な衝撃が木霊します。
もうもうと煙る中現れたピラミッドは、頂上部を下にして、床にめり込んでいました。
「………なんてェ怪力だ……敵に最も回したくねェ男だな…。」
非常識な力を目の当りにしたウソップは身震いし、少しだけ老婆に同情を抱いたのでした。
横に立ってたナミが、傷付いたホールをゆっくり歩いて、ピラミッドに近寄ります。
壁をコンコン!!と叩くと、恐らくは虫の息であろう老婆に話し掛けました。
「どお?ちょっとは1人で生きてく事の大変さ、思い知った?」
「………。」
老婆から返事は有りません…が、取敢えず生きてる気配は感じられました。
「何が起きようと誰にも守って貰えず、助けも来ない…『引篭もる』ってのは、そうゆう事よ!」
「…………。」
「水も食料も誰が用意してくれたの?
誰があんたを生かしてくれた?
今迄誰にも守られず生きて来れたと断言出来る?
――『引篭もり』をナメんじゃないわっっ!!!」
ホールに響くナミの叫びに、信者全員が拍手喝采、駆寄って来て歓声を上げました。
口々に「ざまあみろ」、「胸がスカッとした」、「もっと苦しめてやれ」等々と囀ります。
それを耳にしたナミは、不機嫌露に振返りました。
怒りを宿してギラリ輝く金の瞳で睨まれ、信者達はいっぺんに息を呑み黙ってしまいました。
「あんた達も反省したらっっ!!?
婆ァの言う通り上辺に騙されるからいけないのよ!!!
こいつの何処が魔女に思える!?
もっとよく見て聞いて、考えなさい!!!
そもそも年を取り、何時か死ぬ運命の人間に、未来を読む力なんて無いわ!!!
その事をよく覚えておいて…!!!」
瞳を潤ませ放たれたナミの言葉に、かつての信者達は一様に首を項垂れます。
暫く重苦しい静寂に包まれましたが………1人の信者がおずおずとナミの前に出て言いました。
「…確かに人間には、未来を読む力なんて無いかもしれない…けど、それでも知ろうとするのは、愚かだろうか…?」
それはかつて老婆の側近だった大男でした。
「…恐ろしい災難を避ける為に……先んじて知ろうと思うのは愚かな事だろうか?
……不老不死の魔女で在る君には、理解出来ないかも知れないけど……。」
――君には解らないよ、ナミ。…千年前、『絶対の生』を手に入れ、死なない道を選んだ君には解らない…!
――死なない君なら、道を間違えても、何度だってやり直せる…羨ましいよ…ナミ…。
ナミの胸に、かつての友人の言葉が蘇りました。
言葉を失くして黙りこくるナミを前に、囁く声は数を増して行きます。
「…そうさ…自分は未来を読めるからって…」
「…よしんば災難に遭ったとしても、死ぬ事は無いのだから…」
「…死ねばお終いな俺達人間はどうしたらいい?…予め知ってるか知らないかの差が、生死を分けるかもしれないんだぞ…」
「…知ろうとしなきゃ死んじまうかもしれないのに…それでも愚かな考えだと笑うのか…?」
「――別に知ろうとする事は愚かじゃないと思うぜェ!」
突然、佇むナミと群集の間に、ウソップが割り込んで来ました。
呆気に取られる人々の前で、ゴホンと1つ咳払いをします。
そうして後ろに立つナミに向い、『俺に任せろ!』と目でアピールすると、自信満々演説を始めました。
「人間には未来を読む力は無ェ!
けど、長年に渡りデータを蓄積、分析する事で、それに匹敵する力を持つ事が出来る!
今、俺はより高度な『地震予知メカ』を考案、開発中だ!
時間は掛かるが、何時か必ず実現してみせる!
そうすりゃ少なくとも大地震を前に、避難する事は可能になるさ!」
「……地震予知メカァ?」
「…こんな子供が?……それこそ嘘だ…!」
突拍子も無い計画を披露され、聞いてる人々の口から失笑が零れます。
しかしウソップは怯まずに演説を続けました。
「絶対に完成してみせる!!
親父で在るヤソップの名に懸けても!!
巨大ロボット見たろ!?…あれは俺と優秀な弟子3人の手で造った物なんだぜ!!」
「…あの『発明王ヤソップ』の息子!?」
「そうか!それなら造ったって、おかしくない…!!」
「多少頼り甲斐は無さそうだったけど、あのロボットの威力は凄かった!!」
『発明王ヤソップ』の名前を出した途端、見詰る人々の目は急激に温かい色へと変りました。
次第に好感度がアップしている事を察し、ウソップは得意満面胸を張ります。
…しかしふと懸案に気付き、僅かばかり焦りを含ませ、愛想笑いを見せました。
「…ただ…なァ~~…造るには先立つ物が必要っつか…願わくば資金援助をと…」
「資金なら此処に有るじゃねェか!」
長い鼻をコリコリ掻いて言い淀むウソップの背中に、何時の間にかピラミッドに寄り掛かり聞いていたゾロが声を掛けました。
抜いた刀の柄でコンコンと壁を叩き、にやりと笑います。
「こん中の婆ァがスポンサーに就いてやろうって申し出てるぞ!」
「…なっっ!!?そっっ…!??そんな事言ってなっっ…!!!」
中から、散々痛め付けられた割には元気そうな老婆の焦り声が聞えて来ました。
「またシェイクされたいかー?」
ルフィも、ゾロの隣にしゃがんで、ピラミッドをコツコツと叩きます。
「……!!」
壁を挟みながら、少年2人の脅しのオーラを感じ取った老婆は、ぐうの音も言えず黙ってしまいました。
ルフィとゾロがにんまりと笑い合います。
そうして立上るとナミの傍まで歩いて行き、彼女の背中や頭をポンポンと叩きました。
「一件落着…だな!」
横からルフィが白い歯を剥き出して笑います。
「ま…大団円じゃねェの?」
反対側からゾロも微笑んで言います。
2人の笑顔を見て、ナミは漸く顔の強張りを解きました。
その直ぐ前ではウソップが、尚も名調子で演説をぶっていました。
【その20へ続】
正に信じ難い光景が目の前に在りました。
巨大ロボットの攻撃にもビクともしなかった堅牢なシェルターが、身長120㎝にも満たない少年に軽々と持上げられているのです。
両手で高くピラミッドを掲げた少年は、クルリ反転して魔女の方を向くと、涼しい顔で尋ねました。
「ナミーー!!持上げたぞーー!!これからどうするーー!?」
「そうねェーー…じゃあ軽くトス上げてェーーー!!!」
ホール端からナミが、口に手を当て大声で返します。
「おーし!!!解ったァーーー!!!」
返答を聞いたルフィは、リクエスト通りボールをトスする要領で、両手で軽々ポーンポーンとピラミッドを跳ね上げました。
「ギャアアア~~~~!!!や、止めてェェ~~~~!!!!」
ピラミッドの中から凄まじい悲鳴が起り、同時に――ガラガラガッチャン!!!という派手な衝撃音が聞えました。
恐らく缶詰や瓶等が転げ回って奏でてるのでしょう。
「次は思い切りシェイクシェイクシェイク!!!」
再び出されたリクエストに応じ、ルフィがピラミッドを上下左右に、激しくシェイクします。
「嫌ァァ~~~~お願いっっ!!!もう許してェェ~~~~!!!!」
――ガラガラガチャン!!!!――ガチャガチャガラン!!!!
「そこで止めの殺人アタック!!!」
三度出されたリクエストに、ルフィはピラミッドを高々と投げると、飛上って必殺のアタックを決めました。
「んぎゃあああああ~~~~~~…!!!!」
――ガラララ…ガチャチャン!!!!――ズドォォーーン…!!!!!!
ホールにまるで隕石が落下した様な衝撃が木霊します。
もうもうと煙る中現れたピラミッドは、頂上部を下にして、床にめり込んでいました。
「………なんてェ怪力だ……敵に最も回したくねェ男だな…。」
非常識な力を目の当りにしたウソップは身震いし、少しだけ老婆に同情を抱いたのでした。
横に立ってたナミが、傷付いたホールをゆっくり歩いて、ピラミッドに近寄ります。
壁をコンコン!!と叩くと、恐らくは虫の息であろう老婆に話し掛けました。
「どお?ちょっとは1人で生きてく事の大変さ、思い知った?」
「………。」
老婆から返事は有りません…が、取敢えず生きてる気配は感じられました。
「何が起きようと誰にも守って貰えず、助けも来ない…『引篭もる』ってのは、そうゆう事よ!」
「…………。」
「水も食料も誰が用意してくれたの?
誰があんたを生かしてくれた?
今迄誰にも守られず生きて来れたと断言出来る?
――『引篭もり』をナメんじゃないわっっ!!!」
ホールに響くナミの叫びに、信者全員が拍手喝采、駆寄って来て歓声を上げました。
口々に「ざまあみろ」、「胸がスカッとした」、「もっと苦しめてやれ」等々と囀ります。
それを耳にしたナミは、不機嫌露に振返りました。
怒りを宿してギラリ輝く金の瞳で睨まれ、信者達はいっぺんに息を呑み黙ってしまいました。
「あんた達も反省したらっっ!!?
婆ァの言う通り上辺に騙されるからいけないのよ!!!
こいつの何処が魔女に思える!?
もっとよく見て聞いて、考えなさい!!!
そもそも年を取り、何時か死ぬ運命の人間に、未来を読む力なんて無いわ!!!
その事をよく覚えておいて…!!!」
瞳を潤ませ放たれたナミの言葉に、かつての信者達は一様に首を項垂れます。
暫く重苦しい静寂に包まれましたが………1人の信者がおずおずとナミの前に出て言いました。
「…確かに人間には、未来を読む力なんて無いかもしれない…けど、それでも知ろうとするのは、愚かだろうか…?」
それはかつて老婆の側近だった大男でした。
「…恐ろしい災難を避ける為に……先んじて知ろうと思うのは愚かな事だろうか?
……不老不死の魔女で在る君には、理解出来ないかも知れないけど……。」
――君には解らないよ、ナミ。…千年前、『絶対の生』を手に入れ、死なない道を選んだ君には解らない…!
――死なない君なら、道を間違えても、何度だってやり直せる…羨ましいよ…ナミ…。
ナミの胸に、かつての友人の言葉が蘇りました。
言葉を失くして黙りこくるナミを前に、囁く声は数を増して行きます。
「…そうさ…自分は未来を読めるからって…」
「…よしんば災難に遭ったとしても、死ぬ事は無いのだから…」
「…死ねばお終いな俺達人間はどうしたらいい?…予め知ってるか知らないかの差が、生死を分けるかもしれないんだぞ…」
「…知ろうとしなきゃ死んじまうかもしれないのに…それでも愚かな考えだと笑うのか…?」
「――別に知ろうとする事は愚かじゃないと思うぜェ!」
突然、佇むナミと群集の間に、ウソップが割り込んで来ました。
呆気に取られる人々の前で、ゴホンと1つ咳払いをします。
そうして後ろに立つナミに向い、『俺に任せろ!』と目でアピールすると、自信満々演説を始めました。
「人間には未来を読む力は無ェ!
けど、長年に渡りデータを蓄積、分析する事で、それに匹敵する力を持つ事が出来る!
今、俺はより高度な『地震予知メカ』を考案、開発中だ!
時間は掛かるが、何時か必ず実現してみせる!
そうすりゃ少なくとも大地震を前に、避難する事は可能になるさ!」
「……地震予知メカァ?」
「…こんな子供が?……それこそ嘘だ…!」
突拍子も無い計画を披露され、聞いてる人々の口から失笑が零れます。
しかしウソップは怯まずに演説を続けました。
「絶対に完成してみせる!!
親父で在るヤソップの名に懸けても!!
巨大ロボット見たろ!?…あれは俺と優秀な弟子3人の手で造った物なんだぜ!!」
「…あの『発明王ヤソップ』の息子!?」
「そうか!それなら造ったって、おかしくない…!!」
「多少頼り甲斐は無さそうだったけど、あのロボットの威力は凄かった!!」
『発明王ヤソップ』の名前を出した途端、見詰る人々の目は急激に温かい色へと変りました。
次第に好感度がアップしている事を察し、ウソップは得意満面胸を張ります。
…しかしふと懸案に気付き、僅かばかり焦りを含ませ、愛想笑いを見せました。
「…ただ…なァ~~…造るには先立つ物が必要っつか…願わくば資金援助をと…」
「資金なら此処に有るじゃねェか!」
長い鼻をコリコリ掻いて言い淀むウソップの背中に、何時の間にかピラミッドに寄り掛かり聞いていたゾロが声を掛けました。
抜いた刀の柄でコンコンと壁を叩き、にやりと笑います。
「こん中の婆ァがスポンサーに就いてやろうって申し出てるぞ!」
「…なっっ!!?そっっ…!??そんな事言ってなっっ…!!!」
中から、散々痛め付けられた割には元気そうな老婆の焦り声が聞えて来ました。
「またシェイクされたいかー?」
ルフィも、ゾロの隣にしゃがんで、ピラミッドをコツコツと叩きます。
「……!!」
壁を挟みながら、少年2人の脅しのオーラを感じ取った老婆は、ぐうの音も言えず黙ってしまいました。
ルフィとゾロがにんまりと笑い合います。
そうして立上るとナミの傍まで歩いて行き、彼女の背中や頭をポンポンと叩きました。
「一件落着…だな!」
横からルフィが白い歯を剥き出して笑います。
「ま…大団円じゃねェの?」
反対側からゾロも微笑んで言います。
2人の笑顔を見て、ナミは漸く顔の強張りを解きました。
その直ぐ前ではウソップが、尚も名調子で演説をぶっていました。
【その20へ続】