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瀬戸際の暇人

今年も休みがちな予定(汗)

『何度も廻り合う』その32

2006年02月10日 23時02分41秒 | 桜トンネル(ワンピ長編)
前回の続きです。】






風車の建つ岸辺越しに、キンデルダイクの花畑を眺めた。



キンデルダイク程の華やかさは無いけど、そのキンデルダイクの3基の風車とワッセナーの家並みまで入れられて、写真を撮るには結構良さ気かもしれない。

裏通りに在るから人があんま通らないのも良いわよね、隠れた撮影ポイントだわ。


「これで風車の周りに花でも咲いてりゃ、最高なのになー。」


同じ事を考えてたのか、風車の周りをグルグル廻りつつルフィが言った。


「春には咲くらしいわよ!七色のチューリップが一面に!」

「七色!?本当か!?虹みてェだな♪♪」

「そう!秋に埋めといた球根が、3月下旬頃になると一斉に開花して、風車の周りにまるで虹の様な花畑が出来上がるでしょうって、ホームページに出てたわよ!」


赤白黄色、ピンクに紫、オレンジに紺色したのも咲くかしら?

風車を取巻く様に咲揃って、岸辺を埋めて。

春風にゆらゆらふわふわ、靡いて揺れる。

運河を挟んで後には、同様に咲揃ったキンデルダイクのチューリップ畑、そして風車が重なり観えて。

きっと此処は、場内でも有数の春のスポットになるわね。


「春か~~、春も良いよなァ~~~、花がきれーでポカポカあったかで♪」

「夏も秋も冬も、どの季節も綺麗よ此処は、きっと!」




そろそろ店が開く頃かと、ミステリアスエッシャーの建つ通りからニュースタッドへ入る。


休憩場所に考えてたチョコレートハウスは、丁度開店の準備をしてる最中だった。




なら待ってようかとその間、出入口前に在ったキャンディショップ『ドロピエ』に入る事に。


黄色でポップい店ん中には、観てるだけでも楽しくなる位、色も形も味もバラエティに富んだキャンディが、どっさりと売られていた。


時季に合せてリースやツリーやブーツの形した物も売ってる……へェェ、全て量り売りなんだ…可愛いから買っちゃおうかなァァ。


「イチゴにメロンにオレンジにチョコにコーヒーにミルク…お!エダムチーズ味だと!どんな味すんだろなァー??」

「そりゃエダムチーズの味がすんじゃないのォ?エダムチーズ味なんだから。」


選んだキャンディを篭に入れ、量りに乗せながら応える――あ、ちょっとオーバー!


「…そーいやよー。エッシャーの横で何か行列出来てただろー?あれって何の行列だったんだろぉなー。」


ミステリアスエッシャーの右横、アムステル運河に面した辺りには、ベンチが数個置かれ、この街では珍しく長い長い行列が出来ていた。

その殆どが家族連れ、寒い外に在りながら結構な賑わいで、近くを通り過ぎてく人の目を集めていた。


「ああ!あれは多分、乗合馬車だわ!エッシャーの建物の裏に、花で飾られた小さいログハウスが在ったでしょ?あそこが受付になってて、そっから馬車乗ってニュースタッドをくるんと1周するイベントみたいよ。」
「馬車!!?なんだよ早く言えよォ~~~!!!俺、馬車乗りてェ!!!乗りに行こうぜ!!!」

「駄目よ!!!時間無いんだから!!!…あの長い行列見たでしょ!?今から並んだら30分以上は絶対待たされるわ!!!」
「え~~~~!!?そんなァァ~~~~!!?だったら何でもっと早く教えてくれなかったんだよォォ~~~~!!?したら真っ先にここ駆けつけて1番乗り出来たかもしんねーのに!!!」
「だからっっ!!!そんなされたら時間潰れちゃうから教えなかったのっっ!!!…そりゃ私も馬車乗りたかったけどさ。あんなに人気有るんじゃちょっと考えちゃうわよ。有料だし。」


諦め付かないルフィは、尚も不平を鳴らす。



そうこうしてる間に、既に前のチョコレートハウスは開店してたので、何とか宥め賺し脅して引き摺り連れてった。


連れてってる途中で間の悪い事に、カッポッカッポッと馬の蹄の音が道に響いて来た。


艶の有る黒い毛並みした2頭の馬が、数人のお客を馬車に乗せて牽く光景を目の当たりにしたルフィは、更にギャンギャン騒ぎ、店に入るまで煩い事この上無かった。


「ナミのアホォォ~~~~~!!!!チョコレートなんて東京にだっていっぱい売ってて珍しくも何ともねェだろォォ~~~~~!!!?」

「けど、チョコレートの滝はあんま無いんじゃないの?」
「ええっっ!!!?チョコレートの滝っっ!!!?」


聞いた途端、我先にと扉を開いて、店内に入ってく。


……………扱い易いと言うか。




扉を開いて店内に1歩入ると、チョコレートの甘ァ~い匂いが鼻腔を擽った。


出入口正面には天井まで届かんばかりの高さから、チョコレートが3段にトロトロと流れ落ちてる『滝』が在った。


うわっっ美味しそう…これはちょっと指突っ込んで舐めたくなるかも。


「な!なァ!!これ…なめて良いのか…!?なめて良いんだよな!??そうだよな!??」


瞳キラキラさせ、後数㎜で触れるトコまで指近付け、ルフィが聞いて来る。

バックに『うずうず』という書き文字でも入れたくなる様な表情だった。


「いや…駄目よ…舐めちゃ駄目よルフィ!!指を入れないでって書いてあるわ…気持ちは解るけど。」
「なめちゃダメなのか!!?じゃ、何の為に置いてあんだよこれ!!?」

「そりゃ多分……店のシンボルなんじゃないの…?」


『目の毒』って語句を、ストレートに実現させたよなシンボルだわよね。


「今日の日付が入った看板が前に置かれてる。此処で記念撮影して下さいって意味みたい。」
「記念さつえい!!?……うああああ!!!…バカだ…俺って大バカだ…!!何でカメラ忘れちまったんだァァ~~~~!!!」


忘れて写真が撮れない事がよっぽど悔しいらしく、床に蹲って頭を抱えてる。


「まー、確かにあんたは大馬鹿だと思うけどさーー。」
「やっぱりひとっ走りしてカメラ取って来る!!!ここで待ってろナミ!!!」
「だからしなくて良いってばっっ!!!寝てるゾロの邪魔しちゃ悪いでしょ!!?」


言うが早いか扉開けて飛び出して行きそうなルフィの腕をがしっっと抑えて止める。

どうにも撮る撮る煩くて仕方なかったんで、滝の前で2人並んで私の携帯で写真を撮った。




店内は右が喫茶、左が売店と2部に分れていた。


中心奥には硝子張りの工房が在って、店員さんがチョコを製作してく過程を見学出来る様なっていた。


売店フロアにはチョコ専門店の名の通り、多種多様のチョコがいっぱいに陳列されてる。

チョコだけでなく、紅茶やアイスやクッキーまで…正に甘党天国、甘いの好きな人には堪んないわね。




喫茶コーナーもやっぱりメインはチョコメニューだったけど、カレーやパニーニなんかの軽食も置かれていた。



ルフィと2人でテーブル席に向おうとした所、先ずカウンターで注文してお金払ってからだと店員さんから説明を受ける。


「んじゃあ…ホットチョコレートを2つ頼むって事で…」
「ナミナミ!!あいつら食ってんの何だ!?」


ルフィが指す先を見ると、右の窓際角の席で、私達より早く入って来てたカップルが、仲良くチョコレートフォンデュを突っついて食べていた。


「チョコレートフォンデュ??」

「生クリーム入れて溶かしたチョコの中に、フルーツやマシュマロやパンを浸して食べんの。美味しいんだってェ~~!」
「ぜひそれを食おう!!!!」
「駄目。却下。だって2,600円もするってんだもん。」
「い~~~いじゃんかよォォ~~~~!!!!ちゃんと俺も半分払うからさァァ~~~~!!!!」
「だったら借金の方先に払え!!…第一、あれは予約しないといけないって、このメニューに書いてあるもの!」
「えええ~~~~~~!!??」


結局2人共、500円の『ホットチョコレート』で落ち着いた。

ルフィは生クリーム付、私はマシュマロ付。



暫し待たされトレーに載って出て来たのは、白い空のカップ・スプーン・絵入の小さ目ポットにたっぷり容れられたホットチョコレート・小皿に盛られたチビマシュマロ数個等々…ルフィの方の小皿には生クリームがこんもり。


2人して1番奥の窓際の席に座った。


ポットからカップにチョコを注ぐ…湯気がほわわわんと立上り、甘い香りが辺りに漂った。

マシュマロを2、3個抓んで中に浮べ、スプーンで掻き混ぜて飲む。


――美味しい……甘ァい…!!カカオが利いてるvv


疲れが取れるわァ~~~!!(←運転してないからちっとも疲れてないけど)


「え!!?お前、マシュマロなんか入れて飲むのか!!?」

「…当り前でしょ?それ用に出されたもんなんだから。マシュマロは熱い飲み物の中に入れると、クリームみたいに溶けるのよ。」

「そそそうなのか!??全然知らなかった!!!俺、ツマミで食えって意味かと思ってたぜ!!!」

「……まァ、抓んで食べても良いのよ、別に。」


前に座ったルフィは、豪快になみなみとカップに注ぎ、皿に盛られた生クリームを、一気にどっぷりと浮かべて飲んだ………甘そうっっ、溢れてるしっっ。


「うあぢっっ!!!あぢっっ!!!――けど美味ェし甘ェ!!!…俺、飲むチョコなんて、ここ来て初めて飲んだ。ココアに似てっけど…やっぱチョコみてェな味すんなァ~~~♪」

「そりゃホットチョコレートだし。」


ルフィは余程気に入ったらしく、熱いと言いつつご機嫌で啜る。

ウソップと2人、生来からの甘党だもんね。

気に入ると思って連れて来た甲斐が有ったわァ。


「ゾロも来りゃ良かったのになァ~。こぉぉんな美味ェもん飲めたのによォ。」


「……むしろ居たら来なかったわよ。甘いの苦手で、誘っても嫌がっただろうし。」

「こぉぉんなに美味ェのにかァ~~??」


熱くて中々飲めないのか、フーフー息吹き掛けつつ聞いて来る。


「居なくて助かったわよっっ!!!居たら此処には入れなかったからっっ!!!……いっそ旅行自体来なきゃ良かったのよ!!来たくなかったんならっっ!!!」

「来たくなかった??……別にんな事は無ェと思うけどなーー。」
「どう見たってそうゆう態度だったじゃない!!!何処行って観ても、何食べたり飲んだりしても、『へェ』とか『まァまァだな』なんて、どーでもいーよーなさ!!!いちいちいちいち人に文句付けて反抗して挙句の果て1人別れてコテージでゴロ寝!!ざけんじゃないわよ!!!何様の積りよ!!?そんな嫌だったんなら何で付いて来たのよあの馬鹿っっ!!!!」


喋ってる内に段々興奮して来てつい、バンッッ!!!とテーブル叩き付けて叫んでしまった。


零されちゃ困るとばかりにルフィが、自分の分の載ったトレーを持上げ避難する。


「……そりゃやっぱ……俺とナミの2人だけで、旅行に行かせたくなかったんじゃねェかァ?」


「……………は?」


「だから、俺とナミを2人っきりで行かせたくなかったんだろ、ゾロは。」


思わず目が点になった様な気がした。


いきなり何を言い出すんだ、こいつは??


天井見上げてのほほんとチョコを啜る表情からは、皆目真意が読み取れない。


「……だったら…今は何で2人っきりにしてる訳!?矛盾してるじゃない!!」


「あーー……これは多分……ゾロなりに、気ィつかってるっつぅか…。」


「気を…遣ってる!??」

「俺じゃすぐケンカになっちまって、甘えさせてやれねェから~~……とか何とか……昨夜俺に言って来た。」

「甘えさせてやるゥゥ!!?何その偉そうな言い分!!?私が何時甘えさせてなんて頼んだっつうのよ!??」

「俺に聞かれてもなァ~~~~。」


ズズズズーーーッと音を立てて飲み切る。


「素直じゃねェからなァ、あいつも♪」


にかっっ♪と歯を剥き出し満面の笑顔、2杯目をカップに注いでまた啜る。


「……何それ?全っっ然、意味不明だわっっ!!」

「ナミは鈍感だからなァァ~~~~♪」
「あんたに言われたくないわよっっ!!!」


怒鳴ってもルフィはニマニマ笑って流す。

その笑ってる瞳から、明らかに愉快がってるのが見て取れた。


……何だかもう、真剣に取り合ってるのが馬鹿みたいに思えて来たんで、いいかげん話を打ち切った。






その33に続】





写真の説明~、ニュースタッド、チョコレートハウスの横の並木。


毎年クリスマスに合せた様に、赤い小さな実をどっさり付ける。

…何て木でしょうね…?聞いた筈なのに忘れてしまった。(汗)


馬車は楽しいですよ~、車体が高いから、結構見晴らし良いんだ~。

有料ったって500円位だし…ただ、回転が悪いので、割かし行列待ちしてる場合が多いのが難点。


はいはい、書いててもう恥しいの何の…多分読んでる方も恥しいかと……御免なさい。(苦笑)
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『何度も廻り合う』その31

2006年02月09日 23時14分19秒 | 桜トンネル(ワンピ長編)
前回の続きです。】





「クリスマスリースって俺達の泊ってるトコだけでなく、全部のコテージに飾ってあったんだなー!!」


建ち並んでるコテージの周囲を、自転車で滑る様に巡る。


湖に面して建ってる全戸のドアには、松ぼっくりと銀色の飾りが付いた、小振りなクリスマスリースが…

…と思ったら赤い花飾りの付いた物まで有る…並びによってリース変えてんのかしら?


「良いわよねェ!!こういう、季節を感じさせてくれるサービスって!!」

「今度またクリスマスシーズンに泊る時はよー!!ケーキ買ってパーティーしようぜ!!俺、とうの下にケーキ屋見付けたんだ!!シャンパンやツマミも必要だなー、全部ここで売ってたよな!?そん時はウソップもサンジも今度こそ連れて来て、全員で朝までワイワイ騒ごーぜ♪♪」

「………今度のクリスマスって!?来年の!?再来年の!?…戻って来る保証有る訳!?」

「う~~~~ん……来年は無理かもしんね~なァ~~~~!!まァ~~~でもいつか……今度だ!!」



――そんなあやふやな口約束で信じられるかっっ。



「ん??今何か言ったかナミ!??」
「あー幻聴でしょ!幻聴!!」




悔いを残さぬ様にとフォレストパークをさんざ周回した後、坂道をだーっと下ってまた港街に戻った。



今度はパレスへの坂道、レンブラント通りを上ってく。


幅広い道の両側には、紅葉した並木。

風が吹く度、紅い枯葉がヒラヒラと舞い落ちて来る。


なだらかに見えても長く続いてる分結構きついのか、今迄バイク並のスピードで走ってたルフィのペースが落ちた。

白い息を立続けに吐いてる、聞えて来る呼吸が大分荒い…ちょっと疲れて来たのかも。(でも降りてやんない)


ゆっくりと背後に流れてく、並木や花壇を振り返って見送る。


電飾で金色に煌く夜も素敵だけど、朝昼の侘び寂び溢れる表情も良いものね。


「パレス正面の門まで来たら、Uターンして道戻ってね!!」

「…え!!?このまま…ヘッ!…パレスの庭まで…ハッ!…入ってくんじゃねェのかよ…!??」

「残念ながらパレス内は自転車乗入れ禁止なんだって!!」

「…んだよもォ~~~!!!…ハッ!…だったら…ヒッ!…最初っから上らすなよなァ~~~~…!!!」

「まァまァvvその分帰りは下りで爽快よォvきっと!!」


坂道を上がる度、煉瓦造りの宮殿が、少しづつ姿を見せてく。



鉄製の門の前まで来た所で、ルフィはさっき同様前輪部分を思い切り持上げ、ぐるり180°車体の向きを変えて、道を戻った。

丁度側歩いてた親子連れが、驚いて目を見張る。

見ていた小さな女の子は、拍手までして喜んでいた。

…本当、こいつ、パフォーマーの才有るわ。




行きとは反対に、自転車は下り坂をハイスピードで滑り落ちてく。

当って来る風でオデコは全開、ルフィのジャケットが目の前でバタバタと鳴り、私のコートまで見事に捲れ上がって寒い。


「あ~~~の~~~さ~~~!!!ブレーキ位ちゃんと掛けてくんない~~~!!?」

「何言ってんだっっ!!!下り坂じゃブレーキ禁止!!!法律でそう決められてんだぞ!!!」

「無いわよそんな法律!!!前から車走ってきたらどうすんのよ!?事故っちゃうでしょ!?」

「大丈夫だ!!そく横飛びのいてやっから安心してろ!!!」
「安心出来る訳有るかっっ!!!」

「それよか今度はどこ行くんだー!?もうすぐ坂下りきっちまうぞォー!?」

「次右折!!バス停横抜けてまた右折して!!」


下り坂で加速したスピードのまま、連チャンで右折してく。

曲がった時ガクン!!!ガクン!!!と物凄い衝撃が車体から伝わって、少し怖かった。

……朝で通行人が殆ど居なくて良かったと思う。




港街のフェルメール通りを進み、海辺に佇むホテル・デンハーグ横まで来た。


「お!!!あの船だ!!!――ちょっと降りて、観て来て良いか!!?」


答えも聞かぬ間に、ルフィが自転車を停める。

そして前に繋留されてる大きな木造帆船目掛けてひた走り。


早朝、私が日の出を観に来た桟橋に繋留されてた帆船、『観光丸』だった。


「何度観てもでっけー海賊船だよなァ~~~!!!」
「海賊船じゃなくて『観光丸』!!オランダから江戸幕府に献上された、日本初の帆船を復元した物だって、何度言えば解んのよ!!?」

「まー細かい事は良いから♪♪今日はこれに乗れんだろ!?いつ乗るんだ!?」

「帰る前に乗るっつったでしょ?だから…4時の回に乗船しようかと考えてるわ。」
「えーー!!?そんな遅くなのかァ~~~!!?ちょうど側まで来たんだから、今乗っちまおうって!!!」

「どの道12時からじゃないと出航しないわよ。その証拠にお客さん、1人も待ってないでしょ?」


…生憎の曇天だけど、航海するにはむしろ日焼の心配無くて良いかもしんない。


波が幾分高くて気にはなるけど…運休するって事は……多分、無いわよね…?

桟橋脇に立てられた、フラッグのはためき具合を見ていて、少し不安になる。

雄々しく空高く聳え立った太いマストまで、強風に煽られてゆらゆらと揺れていた。



「やぁぁっぱ海は良いよなァァ~~~♪♪」

「そうねーー…って、あんたがそこまで船や海が好きだったなんて、ちっとも知らなかったわ。」

「ここに来て好きになった!!こぉぉんな広くてどこまでも続いてて、圧倒されちまうじゃんか!!」

「……まー…確かにね。」


海を見てるとちっぽけな自分が良く解るとか、寄せては引く波に無常を感じて寂しく思うとか…演歌みたいなフレーズが実感出来るわよね。


「なァ!!こっから船乗ってどこまで行くんだ!?また別の島か!?」

「ん~ん、大村湾を40分程クルージングして戻って来るわ。」

「……なんだ、どこにも行かねェのか…つまんねーな。」

「甲板で帆張りとかロープの結び方の実演とか、色々アトラクション有るらしいわよ!…パスポート使って乗れるんだから贅沢言わない!!」




暫くルフィと2人、桟橋寄っ掛って海を呆ーっと眺めた後、また自転車乗って海沿いを走ってった。


端まで行ってまたUターン…垂直になるまで前の車体を持上げ、ぐりんと向きを変えて道を戻る。


「…ルフィ、あんた……もォ~~し世界1周しててお金に困ったら、こういう大道芸して稼げば良いと思うわ!!」

「えーー!?大道芸って、昨日観たショーみたいなのか!?…そうか!!あーいうの観せて金かせぎゃ良いんだな!!」


私の思い付きに、ルフィは満更でもない様子で、しきりに頷いている。


「あんた元々芸人体質だもん!!世界を股に掛けるパフォーマーとしてやってけるわよ!!きっと!!」

「そうかーー……じゃ、お代を入れてもらう用に、ボウシでも買ってくかなーー…!!」


ホテル・デンハーグ前を横切る、正面玄関の横には、海辺のホテルのカラーに似合った、蒼い色調のクリスマスツリーが飾られてるのが見えた。




海沿いをどんどん進む、冷たい潮風が顔に当って寒いけど、心地好い。



オレンジ広場まで差掛ると、今度は右横にデ・リーフデ号が見えた。


――と、自転車がまた急停止する。


「お!!また海賊船!!!」
「だから海賊船じゃないってばっっ!!!あれは『デ・リーフデ号』!!!日蘭交流の先駆けとなった船を復元した物なのっっ!!!」
「まー良いじゃねーか!!たいして違わねえって♪♪」
「全っっ然違うわよっっ!!!」
「あれにも乗れたら良いのになー。小っせェけど、俺、さっきの船よりもこっちのが好きだ!!俺達の船に似てるからな!!」

「…………またあの夢の話……。」
「夢じゃねーって!!!昨夜ゾロも見たって言ってたし…!!!」
「ハイハイ!いいから!!早く発進させて!!レンタル3時間過ぎたら延滞金発生しちゃうんだから!!」


綺麗な三角形したクリスマスツリーの飾ってある広場から、白い跳ね橋『スワン橋』を渡る。

中央広場の在るビネンスタッドへと入り、ホテル・アムステルダムに沿うようして道を進んだ。


「……なーー!!通る度になぞに思ってたんだけどよー!!この…右っかわずっと続いてる建物って何なんだ!?」

「ホテル・アムステルダムよ!!昨日ランチ・バイキング食べに来たでしょ!?」

「えええ!??あのホテルかァァ!!?ちっとも気が付かなかったぞっっ!!?」

「確かに…建物が軒を連ねてる様で、1棟のホテルとはとても思えない、面白い造りよね♪」


古い街並みが改修を重ねてく内に、1つの大きなホテルに変化してったというコンセプトで建てられたそのホテルは、一見しただけではホテルに見えない。

初めて宿泊しに来た人が出入り口を中々見付けられず、右往左往したりしたというエピソードが何処かで紹介されてたっけ。




ビネンスタッドバス停を通り抜けた地点で、バスから降りた数人のお客と擦違った。

時間にして10時ちょっと過ぎ…そろそろ少しは賑やかになって来る頃かも。


「しかしよ~~~!!店、全然開いてねェなァ~~~!!だから客もあんま歩いてねェんじゃねェかァ~~~!?」


無邪気な口振だが辛辣なルフィの言葉に苦笑してしまう。


「まァねー…場内の店の多くが10時過ぎに開店ってのは、私もどうかと思うわーー…。」

「レストランとかもっと早く開いてくんねーと腹減っちまって困るよなァ~~~!!」

「後少ししたら開き出すだろうから…そしたらどっか寄ってお茶でも飲も♪」




ミュージアムスタッドの運河沿いを通り、クリスタル橋を渡ってニュースタッド地区へ…また閑静な運河沿いの、ワッセナーの観える道を選び走って貰った。



風車の羽根が回る、小さな広場前で自転車を停めて、またちょっと休憩する。


「風車って、あの花畑に在るだけじゃ無かったんだなー。」

「そうよ、この地区には2基、フリースラントには1基、それとキンデルダイクに在る3基…他にも、ワッセナーの方にも1基在るみたいだから……少なくとも場内に7基以上在るって事じゃないかしら?」



風車の在る広場からは、それこそ花畑の如く色取り取りの童話調の家が、運河を挟んで整然と建ち並んでる様が観渡せた。


「良いよなーーー……いっぺん、あーいう家住んでみてーよなァーーー…。」

「意外ねー、あんたでもマイホーム願望なんて持ってる訳?」

「マイホームっつか、これって別荘だろ?遊びてェ時だけ来て暮らすなんて、何か良いじゃんか♪」

「ああ、そういう発想か。」

「1コ買っといてよ、年取ってから皆で暮らすのも良いよな♪」

「皆して……?」

「ナミやゾロやウソップやサンジや…ビビやロビン先生も呼ぶか!毎日皆で美味ェもん食って飲んで若ェ頃の冒険話とかして騒いで、夜になったら花火観て…そんな感じで面白おかしく暮らすんだ♪な!?良いだろ!??」


「………そうね…夢の様な老後の計画だわね。」

「1コ幾らぐれェすんだろーなァ~~~??皆でワリカンにするって事でよ~~~。」
「一戸建て3,713万円よりとか、何処かに書いてあったわよ。」
げっっ!!?そんなすんのかっっ!!?……10人くれェ集めて、1人371万くれェでェ~~~…。」
「10人で1軒の家住んだら流石に狭苦しいわよ、馬鹿。」

「まーー将来誰か宝くじ大当りすっかもしんねーし!俺が油田掘り起こすかもしんねーし!!夢はでっかく、前向きにけんとうしとくとしよう!!!」


「………そうね、その頃まで―――」



――あんたが忘れずに、覚えていられればね。



「…何を覚えてればだって???」



「………場所の事よ。」





その32に続】





ブレーキ掛けずに坂道下ってはいけません。(←そりゃそうだ)


写真の説明~、また一昨年のクリスマスシーズンの写真ですが…早朝のキンデルダイク。

人が居ないのは早朝だからです、何時もは人気撮影スポットなんでかなし人が居ます。(笑)


【07年1/4追記】…ホテル・アムステルダム横海沿いの道は、実は自転車交通禁止だったという事を知り、修正入れました…御免なさい。(土下座)
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『何度も廻り合う』その30

2006年02月08日 23時37分37秒 | 桜トンネル(ワンピ長編)
前回の続きです。】






すったもんだの末、一旦ゾロとは別行動を取る事になった。



12:30にコテージ玄関前での待合わせ、それまでゾロは服乾かしつつ、ひたすら寝てる積りらしい。

それならばと、当初は朝食後に送ってしまおうかとも考えてた、荷物の番を任せた。

また観て廻ってる間に、新たに増えるかもしれないし。



先に宿の精算だけは終らせとこうと、私とルフィはコテージを出て先ず、ホテル・ヨーロッパのフロントに向った。



精算を終えた証明書を発行して貰い、今度はパスポートを使って、スパーケンブルグ~ブルーケレン迄、クラシックバスに乗って移動する。


「ブルーベリーって陸の出入り口が在るって地区だろ?そんな端まで何しに行くんだ??」


乗車して素早く先頭席押えたルフィが、振り返って聞く。

開園間も無い時間故場内に人は少なく、バスに乗って来る客も私達以外居なかったんだから、そう急ぐ必要も無いのに…野生の習性ね、きっと。


「『ブルーケレン』だってばルフィ。3日目で足も疲れただろうし、今日は自転車で廻ろうかなと思って…で、レンタサイクル屋がそこに在るから行こうとね!」

「自転車かーー!別に足疲れちゃいねーけど、それで廻るのも面白そーだな♪」


石畳の車道をガタゴト揺れながらバスは進む。


10分程もして目的の場所、ブルーケレンに到着した。


間のバス停で待ってるお客さんが居なかったせいで、早く着いたらしい。

…まァ、この時間に出入国口方面向う人は、あんま居ないわよね。

場内ホテルをチェックアウトしたお客は、大概ホテル側の送迎バス使ったりする訳だし。



目指してたレンタサイクル屋『フィッツ』は、バス降りて直ぐ目の前、カナルステーション裏側に在った。


「うっはーーー♪♪♪自転車沢山置いてあっぞ♪♪♪――お!!前の車輪だけバカでけーのが有る!!!ほろ馬車みてーな形したのも有んなァーー♪♪♪よしナミ!!!これ乗ってこーぜ!!!」
「それは4人乗り用よルフィ!…2人しか居ないんだから、2人乗りで充分でしょ!」
「2人乗り!?2人乗りってどれだ!?どんなんだ!?」


すっかりトム・ソーヤーの瞳になっちゃってるルフィ引き摺って受付で尋ねる。


直ぐに「いらっしゃいませ!」と、オレンジのジャンパー着た、気さくそうな小母さんが出て来た。


「2人乗りですね?3時間で2,000円。それとは別に保証金として500円…この500円は返却時にお返し致しますので。」


説明しながら小母さんは、自転車がズラリ並んで置かれてるフロアから、黄色い縦長の車体した自転車を、担いで出して来てくれた。

外の道に置いて貰った自転車には、成る程2人で乗って運転出来る様、ハンドル・サドル・ペダルが前後に2人分設置されている。


「じゃ、私が1,000円、ルフィが1,500円出すって事で。」


受付で借用証書にサインしながらルフィに言う。


「えええ!!?何で俺が500円よけいに出さなきゃなんねーんだよ!??」

「大丈夫よ。保証金だから、返却時何も問題無ければ返って来るわ。」
「だったらナミが払えよ!!!戻ってくんなら構わねーだろォ~~!?」

「あんた達の借金肩代わりしてて、尚余計に払わされるのは癪に障んの!」


借金の一言が効いたのか、ルフィが渋々と1,500円払う。


手続きを済ませてからも小母さんは、更にキーの掛け方外し方サドルの高さの調整の仕方まで、親切丁寧に説明してくれた。


一通り教わった所でルフィが前に、私は後部のサドルに跨り、ハンドル握って出発進行。

2人してペダルを思い切り漕ぎ出す。


………が、上手く前に進んでくれないっっ。


のたーりのたーり亀並のスピードで、数㎝も漕いだかなって所で敢無くぱったりと倒れてしまった…。


「ルフィ!!!あんたペダルしゃかりきに漕ぎ過ぎ!!!もっとこっちに合せてよ!!!」
「ナミがもっと早くこぎゃいいだろォ!!?んなトロくこいでちゃ全然つまんねーよ!!!」

「もっとお互い息を合わせなくちゃ!!『イチ!ニ!』って声出しながら漕ぐと良いですよ!!」


見かねた小母さんが、苦笑しながらアドバイスをくれる。


掛け声に合せて漕いでみる……トロトロとではあるが、自転車は何とか前進し出した。


「「イチ!!ニ!!イチ!!ニ!!イチ!!ニ!!イチ!!ニ!!イチ!!ニ!!イチ!!ニ!!…」」

「イチ……あ~~~~!!!!もォォやってらんねェェェ~~~~~~!!!!!ナミ!!!おまえこぐな!!!!!俺がこぐ!!!!!


「……………ルフィ…!」


ペダルから私の足を離す、と同時にスムーズに自転車は走り出した。


速度を次第に上げながら、青赤白黄色とカラフルにパンジーの咲揃うキンデルダイクを抜け、バスチオン橋を渡り、あっという間にフリースラント地区の並木道へと入ってった。


「や~~~っとサイクリングらしく、楽しくなって来たなァ~~~♪♪」

「……そりゃあんたはさぞかし楽しく御機嫌で御座いましょうよ。」

「やァァっぱこう…肩で風切って進むっつうの!?トロっちいんじゃカッコ付かねーよなァ~~~♪♪」

「………すいませんね、馬力足らずで足引張ってトロくして。」


――突然、キキキーッとブレーキが踏まれ自転車が停止する。


珍しく神妙な顔付きして、ルフィが振り返った。


超の付く鈍感野郎でも、少しは私の背後漂うマイナスオーラに気付いたらしい。


「……ナミ……ひょっとして、楽しくねェのか?」
「この顔が楽しそうに見えるか!?」


ルフィに向け、ぐっと顔を突き出す。


「うわっっ、鬼みてェな恐ェ顔。噴火5秒前だな。」
「あんたねェ!!これじゃ私乗っかってるだけじゃない!!ただのお荷物扱いじゃない!!!それでどうして楽しくして居られるっつうのよ!!?」


……こんなんだったら1人用のを別々に借りるんだったわ。

「漕ぐな!!!」だなんて、まるきし足手纏いの邪魔者みたいじゃないのさっっ。


ぶちぶち不平垂れてる前で、ルフィが困った顔して考え込んでる。

ちょっとは反省したのかしら?だとしたら良い傾向だけど。


「んじゃよォ!俺が運転担当で、ナミはナビ担当って事で!!」

「……ナビ担当!?」

「いやほら…何か今前見たら…この先通り抜け禁止っつう感じで行止りになっちまっててよォ…ひょっとして、道、間違えちまったのかなァァなんてな♪」


決まり悪さ気に指し示してる前を見ると、確かに「この先立入禁止」なる感じに、通行止めが置いてあった。


見回せば並木どころか、木が密集して林にすらなってて、観光客1人も歩いてない此処は一体何処なのよ!?


「ひょっとしてじゃなくて、明らかに道間違ってるわよ馬鹿っっ!!!」
「悪ィ♪悪ィ♪…という訳でナミ!ナビ担当に任命する!!宜しく頼むぜ♪」


にかっっと歯を剥き出して、何時もの屈託無い笑顔。

…誤魔化されてる気もするけど、こいつなりに気を遣ってくれてんのよね。


「…了解!それじゃあ早速、Uターンして道戻んのよ運転手!!」
「ラジャー!!!」


掛声と同時に地面蹴り上げ一気に前輪を持上げる――自分の体が仰向けにされる。

後輪だけ地面に付けぐりんと向き180°変換、ガシャンと車体を前に倒して、来た道を逆走してく…パフォーマーもびっくりだ。


ゾロといい、この運動能力には昔から憧れるのよね。




道を戻り、薄桃色のコスモスに縁取られたアムステル運河の横を行く。


石畳の上だとガタゴト振動して腰が痛くなるので、なるたけ煉瓦の敷き詰めてある道の方を渡る様言った。


この辺りの並木道は幅が広く、サイクリングするにはお誂え向きよね。


「これで右の広場に何か飾ってありゃ良いのになー!!土ばっかりですっげさみしい!!」

「春になれば百花繚乱!!綺麗な花々が咲乱れる予定らしいわよ!!それこそ迷路の様な庭園を造る予定なんだって!!」

「へー!!花で迷路かー!!それもきれーで面白そーで良さ気だよなー♪♪春にもまた来てみてーよなー!!」

「ゾロと2人、また迷子にでもなりたい訳ー!?」
「迷子じゃねーよ!!ゾロと一緒にすんな!!しっけーだなっっ!!!」

「他人から見たら五十歩百歩よ!!――あ!!そこ!!右折して橋渡って!!」


ジョーカー橋を渡りビネンスタッド地区へ…赤茶色した煉瓦の街並みが、並木が、道を歩いてる人が、どんどん後ろへ流れてく。

早い早い♪楽ちん楽ちん♪…漕いで貰ってると、景色ゆっくり楽しめて、或る意味得かもね。



ドムトールンを横目にハーフェン橋を渡れば、そこは潮風吹き抜ける港街スパーケンブルグだ。


「この次、右の道行ってくれる!?せっかくだからフォレストパークも1周しとこう!!」


賑やかなクリスマスデコレーションされてるホテル・ヨーロッパの横で、ルフィに叫んだ。


「ふぉれすとって…ひょっとして俺達が泊ってるトコかァァ!?」

「そうよォ!!フォレストヴィラ宿泊客でないと入り難い区域だからね!!悔いを残さないよう1周しとこう!!」



右折してえっちらおっちら坂道を上る。(←ルフィが)

風に煽られルフィの髪が踊り、首筋に汗が光って見えた。


紅葉した樹木に囲まれた道を上り切る。

目の前にはウェルネスセンターの白い建物が在った。

その出入口前に立つ一際のっぽの紅葉樹には、白・赤・銀色のクリスマスの飾りが枝いっぱいに吊るされてる。


「ここにもこんなでっけークリスマスツリーが在ったんだなー!!」

「…そうね、食事会場位しか行ってなかったから気が付かなかったわ!」



枯葉舞い散る湖畔の周囲を廻る。

途中、湖の中に浮ぶ島まで架った木の橋を渡って行く。


橋の上から観る景色があんま綺麗だったんで、自転車を停めて貰ってルフィと暫く眺めていた。


赤に黄色にと色付いた木の葉…ひっそり建ち並んだコテージ…湖がそれらを鏡面の様に反射して、まるでモネの描く風景画みたいに観える。


「…ね、カメラ出してくんない?ルフィ。」

「お?…悪ィ、忘れた♪……荷物朝全部送っちまうとか言ってたから、つい全部バッグにまとめてしまっちまって♪」
「あんただから何の為にカメラ持って来たりしてる訳!!?」
「何なら今コテージ戻って、取って来てやろうか?どうせすぐ側なんだから!」

「……別に取りに戻るまでしなくても良いわよ。寝てるゾロの邪魔しちゃ悪いし。」

「起して3人で写真とるとか。」
「怒られるわよ、ゾロに。」
「自転車乗ってるトコ見せてうらやましがらせよう。」
「羨ましがる訳無いでしょ!?あいつが自転車位で!!」
「…うらやましがると思うけどなァァ♪」


にしししっ♪と何だか意味深に笑う。

その笑い方がちょっと癇に障ったんで、頭をペンと叩いてやった。




取敢えずはまた2人で自転車に乗り、後1周湖の周りを走る事にした。


シャーーーッと軽快な音立てて自転車が進む。


前で立って漕いでるルフィの赤ジャケットが、風を受けてバタバタとはためいてる。


その背中が幼い時分に見てた頃より随分と広く逞しく見えた。


「……あのさ……ルフィってまた…身長伸びた…!?」

「…しんちょう??おーー!!伸びた伸びた♪♪今172cmまで行ったぞ!!」


…………高校1年までは、私の方がずっと身長有ったのになァァァ…。


ゾロと私とルフィで、丁度大・中・小の並び順。


一緒に登下校してると、必ず何人かに「兄弟?」って聞かれたもの。


「見てろよ!!その内ゾロだって抜かしてやるさっっ!!!」

「ゾロは幾ら何でも無理なんじゃないのォォ!?あいつ、178㎝も有んだからさァァ!!」
「エースはもっと高ェぞ!!!だから!弟の俺だってそんくれェ高くなるかもしんねェじゃねェか!!!」

「……成る程、一理有るわね。」


妙に納得しつつふと右を見ると、見覚えの有るお城の様な煉瓦の建物。


…なんだ、そっか…パレスハウステンボスって、フォレストパークの横に在ったんだ…!

なら、フォレストパークからも行ける様にして貰えると助かるのに。

パレス前の坂道ってなだらかに見えて、駆け足で上ると結構きついのよねェ。



「……ねェ!!私、重くない!?何なら運転交替しようか!?」
「あー!?別にちっとも重かねーよ!!大丈夫だって!!」
「だって2人分も乗せて漕いでんだから…いいかげん疲れたでしょお!?」


キキィッッ…!!とブレーキ音響かせ自転車が停まる。


「…なら、試しに1人でこいでみて、どんだけ負担有るか確かめてみるわ!」


そう言って私を降ろし、ペダルをまた漕ぎ出す。

――ばひゅん!!!と一気に自転車は前に進んだ。


「おおおおっっ!!?すっげェェ!!!!軽ィ!!!ペダルも何もかも軽ィぞナミ!!!!」



そのまま私残して湖を1周―――1分も経たない内に戻って来た。



「いや~~~~もすっっげ快調!!!!ペダルが軽ィのなんのって!!!!ナミィィィ~~~お前、ずいぶん重かったんだなァァァ~~~~♪♪♪♪うはははははははははうはははははははははうはははうはうはははは…♪♪♪♪」



――ガンッッ…!!!!!!



オデコにウェストポーチを思っ切し投げ付けて、自転車ごと地に沈めてやった。(←中の携帯無事だと良いけど)



「………あんた、本っっっ当に失礼…!!!!!」






その31に続】





…ああ…何だかとっても青春話している…。(赤面)

2人乗りは人気が有って、午前中で無くなっちゃう場合も有りです。


『8/20追記:写真の説明』…紅葉するフォレストパーク。

…勝手ながら『その9』と写真取替えた…済みませぬ。(汗)
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『何度も廻り合う』その29

2006年02月07日 22時21分09秒 | 桜トンネル(ワンピ長編)
前回の続きです。】





早朝、『観光丸』の繋留された桟橋を1人で歩いた。


細く長く、海に突出た木の桟橋。


灯台の在る端まで、近付けるだけ奥まで歩く。



見渡す限りの海って、こういうのを言うんだなと思った。


前後左右どっちを向いても海、まるで海上に1人取り残されたみたいで心細い。



……そう感じるのは、自分が置かれた現状からかもしれないけど。






11月29日         書いた人:ナミ






昨日同様、3人で早朝の散歩に行こうと思ってたのに…

あいつら生意気にもしっかり学習してて、部屋に鍵掛けそのままバックレ寝に出るなんて…!!

いっくらドンドン扉叩いて喚いても、ウンともスンとも言いやしない。

鼾すら掻かずって事は……ありゃしっかり起きてたわね。



どんよりと薄暗く空を覆ってた雲に赤みが差す。

雲間から零れた光が、細波立つ海面に一筋の道を作った。

たった1つの光が世界を一瞬にして輝かせるなんて本当に不思議。

30分前までの夜の名残はもう何処にも無いんだから。



「せめてカメラだけでも、昨夜の内にルフィから借りとくんだったわ…。」


携帯じゃ朝陽は上手く撮れそうに無い。

昨日も試してみたけど駄目だったし。

せめてビビやロビン先生にメルして観せてあげたっかったのになァ。


あの馬鹿あの馬鹿あの馬鹿あの馬鹿あの馬鹿あの馬鹿あの馬鹿あの馬鹿あの馬鹿あの馬鹿あの馬鹿あの馬鹿…!!

何よたったの3日位、こっちに合せてくれたって良いじゃない。

子供の頃から散々人トラブルに巻き込んどいて。

自分達ばっか好き勝手やって挙句の果て仲間放っぽってどっか行くだなんて不公平甚だしいわ。


行けば良いんだ、世界の果てまで何処までも。

私やウソップやサンジ君の知らない所で、きっとまた新しい仲間見付けて、楽しく宜しくやるんでしょ?

知らない場所で知らない仲間に囲まれて…何時かこちらの事なんて遠い記憶の彼方?


あんた達、何で何時も道に迷うか解ってる?

前しか向いてないから、後ろを向こうとしないからよ。

自分の来た道辿って帰りたくとも、振り向かず見てもいないんじゃ、帰り様が無いじゃない。



2人共、迷子になって泣けば良いんだ。



何時か人も通わぬ未開の地でも行って、帰って来れずにずっと独りで寂しく泣いてりゃ良いのよ。




ポチャンと、目の前で水音が響いてはっとした。

手摺から身を乗り出して、じっと音のした方を見詰る。

朝まで降り続いてた雨のお陰で手摺は冷たく濡れていた。


海面には波紋が浮んでる…それもそこかしこに。


またポチャンと音がして魚が跳ねた。

それをさっと海鳥が咥えて遠くへ飛び去ってく。


ああそうか、飛魚だ、此処の呼名で『あご』は大村湾の名産だもんね。

浮んだ波紋を数えるに相当居るわ、道理で漁船も沢山見掛ける筈ね。

ルフィが見たら大喜びで海飛び込んで捕まえ様としたかもね…カナヅチのくせに。




……我ながら底意地の悪い考えだわね。

そもそもあいつら、独り残されたって泣きゃしない。

何が有っても涼しい顔して立ち向ってくんだから。



むしろ残されて泣くのは………きっと私だ。




――本当に言いたい事口に出して言わねェんだよ…!!!




……言える訳無いじゃない。


そんな事言ったら、あんた達が困るでしょう?


困って…惑って…行きたい道真直ぐ行けないかもじゃない。




陽はすっかり昇り、海を白く眩く照らしていた。


曇ってはいるけど、この風向・風速は天気回復の兆し。

良かった、傘も荷物に入れて送れそう。

何だかんだで花火は二夜とも観られたし、行きと帰りが晴ならば、先ず先ずのお天気運だったって事よね。



…遠くで繋留されてるヨットのマストが風で擦れて鳴ってる。

何だかすすり泣いてでもいるみたい。


精神衛生上、今聞くには良くない感じだわ。


独りで海見てるなんて歌謡曲じゃあるまいし…今朝も無事日の出を拝めた事に満足して私はコテージに戻った。





「ひひょーひひひょうほはへひゅうはわっへふひょはっっ!!ひょうはひゃわんふひひょははぼひゃほふはひひょはふへへはほっっ!!」


…「微妙に昨日とはメニュー変ってるよなっっ!!今日は茶碗蒸しとか南瓜のフライとか増えてたぞっっ!!」と…多分、言ってるのだろう。

相変らず口いっぱい食い物詰め込んだままルフィが喋る。

喋ってる時は食べなきゃいいのに、その間も惜しくて出来ないらしい。

まったく……こんだけ食ってて何で太んないんだろ??

こいつの胃腸こそパラレルワールドにでも繋がってんじゃないかと思うわ。


「増えたメニュー6品位有るよな。カンパチの照焼に茶碗蒸しに白菜と茄子の炒め物に南瓜のフライ、おでんの具も変ってたし、蒸しパンにココア味が加わってたろ?まァ替りに無くなったメニューも有るが…ヒジキのおにぎりは残しておいて欲しかったよな。粥も好きだけどよ。」


隣に座ってるゾロがルフィに応える。


私の言付けを守って、全メニューを1盛りづつ皿によそって来たルフィと違って、こいつは和食中心だ。

見るからに地味ぃぃで渋ぅぅい色合い、まるきし年寄り染みた選択。

主食が粥だから病院食にも似た感じ、洋食中心の自分の皿とは正反対。

同じ環境に育ってて、どうしてこうまで三人三様好みがバラバラになるんだろう?





コテージに戻った私は朝食に行こうと、熟睡してる筈の2人の寝室の扉をノックした。


程無くして、さっきあれだけ煩く叩いても起きては来なかったルフィが瞳輝かせてひょっこりと、その背後からは眠たそーに欠伸しつつもしっかり身繕い整えたゾロが、寝室から出て来た。


………やっぱさっきはタヌキだったのね……。


「偶々だ。腹減ったんで起きた頃、丁度てめェが帰って来たんだよ。」


食後の日本茶を啜りながら、いけしゃあしゃあとゾロが言う。


「ひょおひょお!!はわはわば!!はばへっはわーほぼっはほひはひひんぶぼふわびははへっへひはわへばっっ♪♪」


持って来た6種類のパン抱えて1度に噛付きながらルフィが言う。


「……ああそう、計った様にナイスタイミングで帰って来れてラッキーだったわァァ。お陰で直ぐ様朝食会場に向えたし。」



昨日と比較して、朝食会場のトロティネは、席がスカスカに空いている。

やっぱり平日、火曜の朝というのは人が少ないものなのねと、入って来た時思ったわ。


なのに、何故か案内された席は店内奥、最も料理から遠くに離された窓際隅っこ。


…好意的な意味で取るなら、「窓の外広がる湖畔の景色を眺めながらお食事して下さいませよ」っつう風では有るけど……そう素直に取って良いものかしら…ねェ…?

とは言えルフィが行っても別に料理隠すでもなく、にっこり笑顔でサービスして下さるなんて、流石サービス業のプロフェッショナルだわと感心しちゃう。



「んじゃ食べたままでまた聞いてて!今日の予定話すから!…先ずは荷物纏めて帰る用意をして――」
「ああ俺今日は午後から参加させて貰う。午前中は2人で適当に観て廻ってろよ。」


私の言葉を遮り、いきなりゾロが口を挟んで来た。



「……午後から参加って……どうしてよ!?じゃあ午前中はあんた、何処で何してるって訳!?」


仏頂面で私に向い、ちょいちょいと自分の腿を指す。

「触ってみろ」って意味らしい…触れてみるとゾロの履いてるジーパンがしっとり湿ってるのが解った。


「昨夜の雨のお陰でな……未だ生乾きなんだよ。」

「………替えは?持って来てないの…?」
「無ェ。これ1着っ切りだ。」
「何で1着しか持って来てない訳!!?普通持って来るもんじゃない!!!」
「煩ェ!!!冬だってのに着替え3日分持って来てるてめェのがこっちから見たら異常だっつの!!!」
「異常!!?おかしいのは何時だってルフィやあんたの方じゃない!!!大体人の忠告聞かずに昨夜散歩に出るから…そうよ!!自分で勝手に濡れに行った様なもんじゃない!!!それこそ異常な行動だわ!!!」
「濡れに行った訳じゃねェ!!!しょうがねェだろ不可抗力だっっ!!!」
「ちょっと濡れてる位何よ!!!そんなん気合と根性で乾かしなさいっっ!!!大丈夫よあんた体温平均値より高いから!!!着たまま歩いてりゃ昼前には乾いてるわよっっ!!!」
「無茶苦茶言ってんなっっ!!!俺に風邪引かす気かよてめェはっっ!!!?」
「引きゃしないわよゾロは風邪なんて!!!現にあんだけ頭から降られたのに風邪引いてないじゃない!!!最終日なんだから3人で一緒に廻って――」
「我儘もいいかげんにしやがれナミ…!!!!」


――バァァン!!!と、物凄い剣幕でテーブルを叩かれた。


一斉にレストラン内の視線が、私達の席に集中してるのが解る。



ゾロが本気で怒ってる。


元より凶悪顔で凄まれて、悔しいけど、少し怯んだ。



「1時チェックアウトまで、俺はコテージ戻って寝てる。12:30頃、玄関前で待ってっから、そこで合流すりゃ良いだろ?」

「………賭けで負けたら、私の決めたスケジュールに従うって決めたじゃない。約束、破る気なの…?」

「……だから午後から大人しく従ってやる。昼食場所にも文句は付けねェ。」

「…まさかそれ狙ってわざと服濡らしたんじゃないでしょうね?」

「そんな狡い真似するかよ。妙な勘繰りすんな。マジで怒るぞ。」

「………解ったわよ…!!私とルフィだけで楽しく観て廻るわよ!!!あんたなんかそのまま寝込んで風邪引いちまえ!!!迎えにだって来てやんないわ!!!そのまま置いてきぼりよっっ!!!!
「おー、そしたら滞在費は当然てめェに請求する様頼んどくから宜しく頼むわ。」


両腕を頭の後ろで組み、椅子の背に踏ん反り返って、アカンベしながら言う。

置いてけっこねェよなァァといった、憎たらしい程余裕たっぷりの態度。

ああもう本当に置いてってやりたいっっ。


「12:30にちゃんと玄関外まで出てなさいよ!!!中入って呼びになんて絶っっ対行ってやんないんだからっっ!!!」


憤然として前に向き直る。



前の席ではルフィがのほほんと皿を抱えて、こんもり盛ったコーンフレークをスプーンで掬い食べながら、愉快そうに観客に徹していた。

お皿を抱えてんのは多分、テーブル叩かれた衝撃で中味が零れないようにだ。


「…ははひはふいはほは??」

「ああ、後はてめェの希望を聞くのみだ、ルフィ。」


「……ルフィは…私と…一緒に行くよね…?」



――行ってくれるよね……?




ずずずずっと皿に口付け、残ってた牛乳とフレークを呑込む。

それからゴシゴシと袖で口元拭い、にかりと笑ってこう言った。




「おう!!もちろんだ!!!」






その30に続】








…という訳でナミ編開始~。

大体11話位?そろそろ終り意識して書いてかんとね~。(汗)

またどぞ宜しくです。(礼)


写真の説明~、観光丸と朝陽。




おまけの週刊ジャンプ、ワンピ感想~。


今回涙々の展開でしたが…

何とはなしに缶コーヒー『ボス』の元CM、『世界を敵に回したしんちゃん』を思い出した自分は「非情」っつかつまりは「情けない」っつか…。(汗)


だってだって――

「皆がニコの事悪い女だって言うの…」
「ロビンちゃんは悪くないよ!!」
「そう言ってくれるのは貴方達だけv」
「僕等は何時だってロビンちゃんの味方さvたとえ全世界を敵に回そうとも!」

――ほら、ぴったり!

是非、皆で缶コーヒー『ボス』を不敵に呑みながら、世界政府に立ち向って欲しい。(不謹慎で御免なさい)
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『何度も廻り合う』その28

2006年01月30日 23時14分27秒 | 桜トンネル(ワンピ長編)
――訳有って本日2回目の更新(汗)、前回の続きです。






「……ナミ……迎えに来てくれたのか!!?有難うって…――お前何だその薄着はァァァ!!!?


目の前に立っているナミは、何時着替えたのか、肩剥き出し薄地の青いワンピースを着ていた。


「ババ馬鹿お前こんな寒ィ冬の土砂降りん中何考えてやがんだよ!!?早くこの下入れ!!!濡れちまっだろが!!!!」

「土砂降り?濡れる?……何言ってんの?雨なんて降ってないじゃない。」

「………………へ……?」


トンネルを抜け出し、外へ出る。


仰ぎ見た空には雲一片たりとも浮かんでなく、鈎針の如く細い月、そして星が一面に瞬いていた。


足下に敷かれた煉瓦も、何処も濡れていねェ、乾き切ってる……どういう事だ…?


「…ね?素敵な星降る夜じゃないv」


笑いながらナミが、くるりと裾翻して回転する。

闇夜に白く仄めく左肩に、奇妙な模様が描かれてる事に気付いた。


「…お前…何だ?その左肩に入った模様は…。」

「…左肩…?刺青の事??」

「刺青ィィ!!?い何時そんなの入れたんだよおめェェ!!?」

「何よ今更…もう随分前から入れてたじゃない。」


……そそそうだったか!!?

いいや此処数年じっくり見ちゃいなかったが、言われてみればそうだったようなそうじゃなかったような???


それに右腕にチカリと光るブレスレット…は兎も角として、丸っこい磁石みてェな物嵌めたのは何だ??


「その…右腕に嵌めてる丸まっちいヤツは??」

「丸まっちいって…『ログポース』の事?あんたまさか『ログポース』の事忘れちゃったのォォ!!?」

「ログ……ボーズ???」
「『ログポース』!!!記録指針よ!!!グランドライン渡ってくのに必須の物じゃない!!!あんた脳内でまで迷子になっちゃったの!!?しっかりしなさいよ!!!」


ナミは真剣だ、怪訝そうな面持ちで俺を見詰てる。


駄目だ…!!マジ頭が混乱して来た!!

何で雨が止んでんだ!?何故道が乾いてる!?どうしてこいつは夏服着てんだ!!?

どういう事だよ!!?全く解んねェ!!!誰か説明しやがれっっ!!!!


「薄着だとか何とか……自分だって結構な薄着じゃない!」


呆れた様に溜息吐いて、ナミが言う。


「…薄着…?俺が…!??」


言われて身辺見回す………驚いた…出掛けに着てった筈のダウンジャケットなんて跡形も無ェ…っつか…――何だ俺のこの格好はァァァ!!!?


「……何で……!?何時の間にこんな腹巻とか親父シャツとか!!センスの無ェ格好しちまってんだよ…!!?」

「はァァ??それこそ今更!!緑の腹巻白の親父シャツ、黒バンダナを左腕に締め左耳には三連ピアス。…そのノーセンスファッションこそ、あんたじゃないの!!」
誰がノーセンスだよっっ!!?…いやそんな事より…やけに右腰が重てェなと思ったら……何で…何で俺は3本も真剣差してんだよォォォ!!!??


「………ゾロ……あんた…本当に大丈夫…?剣士の命まで忘れちゃったの…?」




――お前もきっと会うぞ。




「……剣士の……命…?」




――俺が見たんだから、お前らだってそりゃ見るさ♪




剣の柄に、触れてみる。

黒い柄、赤い柄、白い柄。




――向うの世界でのおめェは、三刀流の使い手だった。




黒い柄の刀は、『雪走』。

赤い柄の刀は、妖刀『三代鬼徹』。

白い柄の刀は、『和道一文字』。




……そうだ………何で忘れちまってたんだろうな…。


幼い頃の『くいな』との約束果たす為に……三刀流を極めて、世界一の剣豪になる為に……海へ出たんじゃねェか俺は……!!


最強の座で待つ『鷹の目のミホーク』に打ち勝つ為に……仲間と共に俺は…!!!




「悪ィな、ナミ……少し…ぼぉっとしてたらしい。」

「……ちゃんと、思い出せた?」

「ああ、何もかも、全部な。」

「そ、良かった!」


にっこりとナミが微笑む。


「早く船に帰ろう!皆待ってるわ!」


そして右手を俺に差し出して来た。


「…んだよ?この手は…?」

「手ェ繋いで行くのよ!もう2度と、迷子にならないように!」

「誰が迷子だってんだよっっ!!?出来るかっっ!!そんなガキみたく恥しい事!!」

「あんた1人で歩かせとくと、こっちが不安になんの!ほら、行くわよ!!」


無理矢理手を握られ、引き摺り出される。

自分と全く違う体温、柔らかさが掌に伝わって来る。

気恥ずかしくも、妙に安心した。




そのまま階段上って橋の上に出る。


「大体道に迷って下に潜るなんて愚の骨頂よ!そういう時は、見晴らしの良いトコまで上ってみんの!」


橋の上からは、星より眩く光る街灯や並木が、至る所に見えた。

ちょっと目を横に向けりゃあ、最初に辿って来た光の運河まで見える…なんだ、こんな直ぐ側に在ったのか……何で気付かなかったのか?つくづく不思議に思う。


手を繋いで道を進む、靴音響かせ石畳を歩く。




目の前に夕方ナミに連れて来られた、煉瓦造りのとんがり屋根した水門が、闇の中に灯って見えた。


「え…?私、こんな所まであんたと来たっけ?」

「ああ!絶好の景色が眺められるベンチが置いてあるってな!…行ってみるか!?」


手を引っ張り、駆け足で連れてく。


夕方来たみてェに、海を向くベンチに並んで腰掛ける。

大きく開いた窓から、星降る空と、灯りを映した鏡の海との、両方が見渡せた。


「凄い……空だけでなく、海面にまで星が瞬いてるみたい…。」


潮風が流れて来て、ナミの髪を揺らす。

目の前揺れてるヨットのマストが、また、物悲しい金属音を響かせる。


「さっきは曇ってて観えなかったが…やっぱり晴れてると良いな。満天の星だ…!」

「…曇ってた??別に今日は曇ってなんかいなかったわよ?」

「ん?…ああ…気にすんな。」


海面に映った灯りが、街が、ユラユラ揺れている。

ルフィが言ったみてェに、今飛び込んでけば、違う世界へと行けるだろうか…?

そんなメルヘンな思考が頭を過り、苦笑した。



「さ!そろそろ行こ!」


俺の手を握り、ナミが立ち上がる。


「未だいいじゃねェか。」

「名残惜しいけど、ルフィ達が待ってるもの。早く行かないと、御馳走全部食べられちゃうかもだし。」

「御馳走??」

「明日はこの島を離れるから、今夜はそれを祝って、甲板で盛大に宴開くんだって…朝からルフィ、張切ってたじゃない!」

「……ああ…そうだったかな…。」


水門を出て、手を繋いで、海岸沿いの道を歩く。

見上げれば星明り、左には街灯りを映した海、右には並木と煉瓦の街並み。

石積みの護岸に、絶間無くぶつかり、響く波音。

潮風が吹き鳴らす、哀し気な金属音。


道を行き、跳ね橋を渡り、港街へ入る。

広場前の海には俺達の船――羊顔のフィギュアヘッドを持った、『ゴーイング・メリー号』が繋留されていた。




「おっせーぞゾロォォ!!!何やってたんだよ!!?宴始めらんなくて皆迷惑してたんだからなァーーー!!!!」


フィギュアヘッドに、ゴムの体巻き付け噛付きながら、ルフィが叫ぶ。

頭の上には、トレードマークの麦藁帽子。


「悪ィィ!!!ちょっと道に迷っちまってたんだよっっ!!!」


船を見上げて思い切り叫ぶ。


「なァァ~~!?チョッパー!!俺様の推理通りだっただろォ~~!?――ゾロが姿を消した!!謎が謎呼ぶミステリー!!脳回路駆け巡り導かれる稀代の名推理…奴は今!街中で道に迷い難儀して途方に暮れているとォォォ~~~!!!!」
「すげ~~~!!!すげすげすっげェなァ~~~!!!ウソップは頭が良いなァ~~~!!」


見張り台ではウソップとチョッパーが漫才を繰広げていた。

尊敬の眼差し向けて感心するチョッパーに、ウソップがその特徴的な長鼻を得意気に鳴らして応える。


「なァにが名推理だ!!あのクソ馬鹿が迷子になってるなんざ猿でも解ける答えだってェの!!」


クソコックが甲板から身を乗り出し、如何にも人馬鹿にした様に見下す。

口から煙草の煙をプカプカ吐き出し、右手に掲げた皿にはチーズを満載して。


「誰がクソ馬鹿で迷子だよ!?くるぱー眉毛ェェ!!!」
「ふっふっふ…見縊らないでくれ給えよサンジ君!!嘗て俺はシロップ村1番の少年名探偵として近隣の島々にまで名を馳せた男!!見た目は子供!頭脳は大人!!人呼んで『江戸川ウソップ』!!真実は何時もひとォォォ~つ!!!」
「てめェ以外他に居るかってんだよ!?マリモンゴリアン!!!」
「……誰も聞いてないよ、ウソップ。」

「ナミさんもさァァ~~、あァんま馬鹿甘やかしちゃ駄目だよォォ~~!!でねェとそいつ何時まで経っても自立せずに、一生お守する羽目になっちゃうぜェェ~~!?」
「一理有るわねェ~、少しスパルタ式で臨んだ方が良いのかしら?」
「…っておいっっ!!」
「航海士さん、ログは明日の何時には溜りそう!?」


甲板からロビンが、相変らず淡々とした調子で叫び聞く。


「…そうねェ~、恐らく明日の夕方、5時ぴったりよ!!」
「名残惜しいわね…こんなに平和な街なのに!!」
「そうねェ~!!御飯も美味しかったし!!街に在るホテルも最高だったし!!何と言ってもこの素晴しい景観!!何なら1年は居たかったかしらァ~♪」
「そんなに1っ所に居たらあきちまうよ!!!また来りゃ良いじゃねェか!!!」
「ま、ルフィの言う通りだな!!平和過ぎて体が鈍っちまう!!」
「…そりゃあんたとルフィはそうでしょうけど。」
「んナミっすわァ~~んvv早く船に乗んなよォ~~vvチーズにパンにハムにソーセージにワイン!!どれも上等なの買い込んで来たんだぜェ~~vv――てめェもさっさと乗りやがれ!!勿体無くも美味い焼酎呑ませてやるぜ、このクソマリモ!!」
「んだとクソ眉毛!!?」

「ゾロもナミも早く上がって来い!!!明日の出航を祝って、今夜は宴だァァァーーー!!!!」


ルフィの雄叫びが天に轟く。

ナミが笑顔を向けながら、繋いだ手を引っ張る。

それに笑い返しながら、俺も船に乗り込もうと近付いてった――




「何処行こうってのよゾロォォ!!!」




声に驚いて、後ろを振り返る。



振り返った瞬間、また、ザーーーッ…!!!!と音を立てて雨が降って来た。



振り返ったそこには、赤のチェック柄した傘を差して、オレンジのダッフルコートを着たナミの姿。



前に向き直り見る…海に繋留されてるのは、ゴーイング・メリー号ではなかった。



イルミネーションが灯された、レプリカ木造帆船。



船に乗ってた皆の姿は、何処にも見えない。



手を繋いでた筈のナミも…掌に温もりだけ残して…消えていた。



「…あんた、何やってんのよ…!?それ以上行ってたら海落っこちてたわよっっ!!?」



右腰に手をやる…3本の刀は消えていた…身に着けてた腹巻も見当たらねェ。


緑のダウンジャケットに、冷てェ雨をたっぷり吸った黒ジーンズ…全部、元に戻っちまってる。


顔が冷てェ…体が、凍えちまいそうだ。


雨が叩き付けて、広場はびしゃびしゃに濡れていた。



「遅くにまた降るって言ったよね!!?私、言ったよねェ!!?馬鹿!!!何で1人で外出たのよ!!?方向オンチのクセして!!!どんだけ探し回ったか…お陰で観たいTV観られなかったんだからねっっ!!!どうしてくれんのよ馬鹿っっ!!!」



ナミが強く俺の体を揺さ振って来る。


濡れた顔に照明が反射して、何だか泣いてるみてェだなとぼんやり思う。



「………ルフィは……?」



――ウソップは?コックは?チョッパーは?ロビンは?…ナミは?……俺は?



「……ルフィ?コテージに残るよう言ったわよ!!この上あいつまで迷子になって二重遭難だなんて真っ平御免だもの!!…もしも0時回って、私とゾロが帰って来なかったら、そん時はフロント電話してって伝えてある…。」



「…なァ…雨……ずっと降ってたか…?さっきまで、一旦……止んでただろ……?」



空を仰ぐ……一面、真っ暗だ、星なんて1個も見えなかった。



「………何言ってんのよ…?10時過ぎ頃また降り出して…そのまま降り通しだったじゃない……。」



「……ああ……そうか……そうだったかもな……。」





「……しっかりしてよ…!!後少ししたら…私は、もう、迎えに来てあげられないんだからね…!!!」





笑って傘を差し向ける。



解れて濡れた髪が、その顔に貼り付いていた。



息が白い、触れて来る手が冷てェ…随分、長い間外に居たんだろう。



顔は笑ってても、泣いてる……寂しくて泣いてやがる…。



きっと、独り、雨ん中俺を探して泣いていた。




――あんた達2人共、迷子になって一生戻ってこなきゃいいんだ。




…………何で、てめェは……




……何で、てめェは……!!




「本当に言いたい事口に出して言わねェんだよ…!!!」




闇からざんざん雨が降る。



俺の叫びを遮るように。



見て来た全てを洗い流すように。





その29に続】





何で私はこんな無駄に切ない話書いてんでしょう…?(汗)
済みません、意味不明にアレで恥しい話で済みません。(汗々)
取り敢えず、これにて『ゾロ編』、終了。
次回、『ナミ編』は2/7から…や、ちょっと2/1~2/3まで温泉行って来るんで。(苦笑)

【特別おまけ:その頃のルフィ

写真の説明~、『フリースラント』~『ビネンスタッド』に架る橋、『ジョーカー橋』の下には、こんなベンチが有る。

通称『魚ッチングスポット』。(笑)
コメント (6)
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『何度も廻り合う』その27

2006年01月30日 22時49分44秒 | 桜トンネル(ワンピ長編)
前回の続きです。】






コテージの建並んでる地区を抜けて適当に歩いてく内に、紅白イルミで一際派手にツリーの装飾を施した、ホテル・ヨーロッパの前に出ていた。

その右横には迎賓館、そのまた右横には光る塔…周囲の電飾林と合せて、多分此処界隈が場内で最も賑やかな区域に違いねェ。


塔を前にして、橋から下を見下ろす。

クルーザー上から目にした時同様、運河は無数の灯火を水面に映して揺らめいていた。


暫くぽけっと眺めてる内、橋の脇に下方へと向う階段が在る事に気付く。

どうやらそれ使って岸まで降りられるらしい。




降りてみて驚いた。

岸辺がちゃんと道になってやがる。

橋下に通行用のトンネルが掘られていて、潜り抜けて運河沿いをずっと歩いて行ける様だった。


しかも御丁寧にあちこち休憩の為のベンチまで置かれてやがる。

試しに1つのベンチに座ってみた。


…へェ…こりゃあ良い……真ん前に迎賓館が良く観える。

運河に映り込んだイルミネーションまでばっちりだ。

撮影するにもベストポジションなんじゃねェの?




――今迄景色良いから撮ろうと思った場所には、必ずベンチが置かれてたし。




…成る程、ナミの考え通りって訳か。


ルフィからカメラ借りて来るんだったな。

映像残しとく事に興味は無ェが…ルフィは勿論、ナミだって知らねェ場所だろう。


何なら明日連れてってやるか?

いや、明日の午後には帰る予定だ…となると、この見事な夜景は観せらんねェ訳か…。


一旦戻って連れて来るか?

…いや、観てェTV番組が有るとか言ってたからな…付き合わねェかもしれねェ…。


行こか戻ろか思案する、思案しながら眼鏡橋下を潜り、ドーナツ橋をも渡り……って気が付きゃ、何時の間にか塔が遠くに見える位置まで来ていた。


少し、焦る…。


いやいや焦るな、あのチカチカ光ってる塔を目印に、元来た道辿りゃあ良いだけだ。

大丈夫だ、地図は頭に入ってる。


後ろを振り返ると、橋下のトンネルにベンチが置かれているのに気が付いた。


…つって最初気付かず通り過ぎちまうなんて、呆れる程間抜けだぜ俺。


照明まで点されてて、さながら恋人用のラブベンチだ。

何とはなしに腰掛けてみる……中々落ち着いた雰囲気だ。

やっぱり戻って呼んで来るべきだったかと後悔したりする。


ふと目の前に、『運河で生息する生物』なんてのの、写真が紹介してあった。

へェーー、鯛や蛸や雲丹まで棲んでんのかーー…って、河にかよ??

目を凝らして水中を覗く。


居る…確かに居る…ライトに寄って来てんのか、水面ギリギリまで、うようよ魚が泳いでんのが見えた。

網でも持って来るべきだったか…いや、勝手に獲っちゃ拙いだろうなァやっぱ。

惜しく思いながらも席を立った。


見廻せば此処だけじゃなく、周り中ベンチだらけだ。

左隣にベンチ、対面してる岸にもベンチ、間に架るドーナツ橋上にまでベンチ、しかも花壇付で。

よくも此処まで造りこんだもんだと感心しちまう。


どうやら運河のライティングは、今居る橋の所で終ってるらしかった。


さて、どうするか?


ルフィじゃねェが、幾つも橋を潜り抜けて探険してくのは、結構楽しかった。

せっかくだから行ける所まで行ってみようじゃねェか。

何処まで行けるか探っておいて、明日あいつらにも教えてやろう。



……この思い付きが仇となった。




何処をどうしてどう行ってこうなったものか、気付けば俺は、3基の光る羽根した風車の建つ、花畑の中に立っていた。


流石に焦り出す。


俺の記憶が確かなら、此処は出入国口の近く、場内のほぼ端近く。

左に嵌めた腕時計を見る……後少しで10時を回りそうだ。

やべェ、かなりやべェ、遅くに雨が降るってナミから言われてたってのに…とうに周囲の建物は店仕舞、人影も全く見えねェ此処らで降られちまったら逃げ場が無ェ。




――大丈夫なのかァ~~??道とか、1人じゃ解んねェだろォ~~??




先刻のルフィの、能天気な声が頭を過った。

冬だってのに、じんわりと背中から、汗が噴出して来る。


大丈夫だ!あの遠くで瞬いてる塔目印に、元来た道辿りゃあ…そうさ、慌てる事なんて無ェ…!!

己に言い聞かせながら、回れ右して来た道戻る。


そうさ、迷路じゃあるめェし…大丈夫大丈夫、大丈夫だ…!!




何処をどう行きこうなったものか…気付けば俺はまた、3基の光る羽根した風車の建つ、花畑の中に立っていた…。




――心配だなァァァ~~~。




「煩ェ!!!大丈夫だっつってんだろっっっ!!!!」


浮んだ言葉に向って声を荒げる。

……みっとも無ェ……つくづく周りに人が居なくて幸いだった。(いやむしろ居た方が幸いだったのか?)


そうこうしてる内に、ポツリ、ポツリと、頭に冷てェ水が当るのを感じた――瞬間、どざーーーっっ!!!!!と頭からバケツで水引被らせる様な豪雨が降って来た。


…………泣きっ面に蜂だ。


此処まで不運だといっそ清々しく、笑いたくさえなって来るってもんだが……呆然としてても事態は好転しねェしなと、何とか気力奮い起こして、また元来た道を辿って行った。

大丈夫大丈夫、塔を目印にして進みゃあ何とかなるさ。


気のせいか照明疎らな物寂しい道入ってくが、気のせいだ。

気のせいか周回しちまってる様に思えるが、気のせいだ。




何処をどう行きこうなったものか………俺の前には3基の光る羽根した風車が、ひっそりと佇んでいた。


雨は時を増すごとに激しくなって来、バシャバシャと煉瓦の道に叩き付ける様降っている。

幸いダウンジャケットを着てたお陰で、冷てェ雨が滲み込む事は無かったが、ジーパンの方はすっかりぐしょ濡れ、水吸っちまって重てェ。

明日まで乾くだろうか?着替えを持って来るべきだったなと、途方に暮れつつ後悔した。


煉瓦の道同様、ライトに煌々と照らされた可憐な花畑にまでも、雨は無情にも叩き付けて来る。

おめェらもさぞかし寒ィだろうなァと、情けなくも同情の念が湧き起った。


ひょっとしてこのパークにはアレか?

青木ヶ原樹海みたく、方向を狂わす力でも働いてんじゃねェだろうな…?




――これは脅しじゃないわ。『テーマパーク初の遭難者』として名を轟かせたくなければ…




「轟かせてたまるかバカヤロォォ…!!!!!」


また、天に向って叫んだ。

そんな俺の言動に腹でも立てたか、倍増した雨量がドサドサ顔に浴びせ掛けられる。


寒ィ…マジ凍える…産れて此の方風邪すら引いた事無ェが、今回ばかりは引くかもしれねェ。

ひたすら気が萎えてくが……こうして居たって始まんねェんだし……何とか灯りを目指して街へ入ってけば……そうだ、この街灯を頼りに進みゃあ良いんじゃねェか…!?

街灯を辿ってより明るい方角へ進んでけば、何時しか自然と賑やかな街へと入って行け…!!




――その刹那、フッ……と、風車に取り付けられた灯りと、街灯が消えちまった。


同時に俺の胸に灯った微かな希望も消え、そして辺り一帯闇に呑込まれた……




何処をどう行きこうなったのか…………気付けば俺は、真っ暗な橋の下で雨宿りをしていた。

腕時計で時刻を確かめる…既に11時を過ぎていた。


厄日か…?天中殺でも重なってんのか…??


完全に場内の照明が消されてる訳じゃねェが…今迄歩いて来て誰1人にも出くわさねェ。

電話かけたくとも何処に在るのか皆目見当付かねェし…そもそも財布持たずに出て来ちまったから、見付けたとしてもかけらんねェ。




――携帯、持ってりゃ良いのに。むしろ必需品だわ。




……まさかこのまま野宿する羽目になるんじゃねェだろうなァ…?


バシャバシャと派手に音立て運河に降り注ぐ雨を見ていて不安が募ってく。


冗談じゃねェぞ!大体何で此処はこんなにも広大なんだよ!?

たかがテーマパークの分際で生意気だっつの!!逆切れるぞ終いにゃ!!(←もう手遅れ)


せめて…せめて少しでも小降りになってくれれば…。

振り仰いだ空は漆黒そのもので、際限無く降る雨だけが周囲の街灯を反射して光っている。


もしもこのまま、ずっと止まなかったとしたら……?


……今頃、心配してやがるだろうなァ。

ひょっとしたら、俺を探して場内探し回ってるかもしれねェ。

警備員に知らせて、捜索隊出動させてるとか。




――迷子になって一生戻って来なきゃいいんだ。




………心配……してくれてるよ……なァ……?


情けねェ…こんな他力本願思考……ほとほと情けねェってのっっ。




「そんなトコで何やってんのよ、ゾロ?」



声がした方振り向く………トンネルの外には、ナミが立っていた。






その28に続】





写真の説明~、キンデルダイクの『光の風車』。

この付近は11時にはライトが消えます。(全部じゃないけど)


…散歩してて怖かった…。(笑)


今日は訳有ってこの次編も更新有り。(いや、1回で終了しなかったんで)(汗)
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『何度も廻り合う』その26

2006年01月28日 19時42分59秒 | 桜トンネル(ワンピ長編)
前回の続きです。】





「タイミング良く花火の時間に晴れてくれて、ラッキーだったわよねv」
「本当だな!まったくきせきだよな!!」
「よっぽどコイツの睨みが恐ろしかったんじゃねェのォ?天の神様も。」
「そうか!すげーなナミ!!神様にガン飛ばして勝っちまうなんて!!」
「誰が天にガン飛ばしたってェのよゾロォ!!?」
「あ…まァアレだ!!あァんな物凄ェ豪雨がピタリと止んじまうなんて、まったく奇跡的っつうか…!!」
「そうだよなー!!なんなら昨夜みてーにまた夜の散歩しよーぜェ~♪」
「馬鹿ルフィ!!余計な事フッてんじゃねェっっ!!!」

「残念だけど、今夜は止めておいた方が良いわね。多分また夜遅くに降って来るから。……花火の時だけ止んでくれるなんて、出来過ぎてる程ラッキーだったと思うわ。」





また荒れるっつうナミ予報が出てくれたお陰で、コテージに真直ぐ帰る事が出来た。



やれやれ、後は風呂入り直して寝るだけだと考えてた俺だが、そこにナミの非情な割込みが有った。


「ゾロはさっき入ったじゃない。次は私が入るわ!」
「ってあのな……お前らが急かしたお陰で、俺はゆっくり温まり切れなかったんだよ!!っつかマジ寒ィって!!風呂出て即寒風当ったから完全に湯冷めしちまったじゃねェか!!早く入らねェと風邪引いちまうかもしれね…」
「駄目よ!!…大体ゾロ、昨夜だって勝手に1番に入っちゃったじゃない!!ジャンケンの順番から言ったら、今夜は私から入るのが筋でしょ!!」
「だから筋がどうとかでなくだなァ~!!濡れた体で外出たお陰で凍えそうなんだっつうんだよ!!俺に風邪引いて欲しいのかてめェはっっ!!?」
「大丈夫よ、ゾロならvだって『馬鹿は風邪引かない』って言うでしょ?」

「………って、おいっっ!!!」

「私ね、10時から観たいTV番組有るのよ。でも、それ観終ってから入ったんじゃ、寝るの遅くなっちゃうじゃない?だから今の内にお風呂入っておきたいの!OK!?」
「OKじゃねェよ!!!んだァ!?その自己中な理由はァ!!?ふざけてんじゃねェぞおいっっ!!!?」
「まァまァv…お詫びに温か~いほうじ茶淹れてあげるから、それ飲んでルフィと待っててよv」




……この後も色々押し問答続いたりはしたんだが、結局は俺が折れて、ルフィと共にリビングでお茶飲んで待つ事になった。


腹立ちはするが口喧嘩であいつに勝てた例無ェし…そもそも女相手に本気で喧嘩するなんて、男として自分が空しくなるだけだ。



仕方なく自分の指定席にしてる長ソファの上でゴロ寝する。


前ではロッキングチェアに座ったルフィが、ブランブラン揺れながら貯金箱弄って遊んでいる。


ナイフ弄って遊んでると、ナミから没収されるんで仕方なく…なんだろう。


お互い特に喋らず、点いてるTVをただぼーっと眺めながら、そこに居た。




「……ひょっとしたら、また、会えるかもしんねェと思ったんだけどなァ。」



脈絡も無く、ポツリとルフィが呟いた。


「…会える?……誰にだよ?」


「向うの世界の、皆にだ。昨夜の花火ん時、俺、会ったんだ。」



……って何が言いてェのか、全然解んねェし。



ちゃんと話が見えるよう喋れと言ってやる。



したら曰く――昨夜自分は、此処とは別の、もう1つのパラレルワールドを覗いた。


その世界では、ルフィは海賊王を目指してて、目下6人の仲間達と共に、波乱万丈な航海をしている最中だったそうだ。


俺は剣士で、ナミは航海士で、ウソップは狙撃手で、眉毛がコックで、ロビン先生は考古学者で、チョッパーっつうのが医者でと…中々バリエーション豊かな人材を揃えているなとの感想を持てた。



「向うの世界でのおめェは、三刀流の使い手だった。」

「……三刀流?右手と左手に握るとして、もう1本は何処で握るんだよ??」

「後1本は、口にくわえてた。」

「…………そりゃ常識的に言って無茶だろう。」

「お前もきっと会うぞ。もちろん、ナミもだ。」

「何故、そう言い切れる?」

「俺が見たんだから、お前らだってそりゃ見るさ♪」

「……ちっとも根拠になってねェよ。」

「ナミには『ただの夢』だって言われちまったけどな。俺の今の願望が出たんじゃねェかって。」



成る程…朝方言ってたのは、この件の事でか。


脳裏にあの時のナミの、険を含んだ顔が浮んだ。



「けど俺は、夢だったとは思っちゃいねェ。第一、俺はこっちで海賊になりてェなんて望んじゃいねェ。だからナミの言う『ただの夢』であるわけが無ェんだ!」


自信たっぷり、歯を剥き出しにして笑う。



「…そのナミの件なんだがな……あいつ、此処へ来てから、少し様子がおかしかねェか?」

「おかしいって、何がだ??」

「だから、普段とちょっと違うなァとか……感じたりしなかったのかよ??」


俺のこの言葉に暫しルフィは、珍しく眉間に皺寄せて悩む。

椅子の上で胡坐を掻き、貯金箱持ったまま腕抱えて、「うー」とか「むー」とか唸っている。

…のは良いんだが、椅子をブラブラ揺らしてだから、今一真剣味が感じられねェ。



「や、ちっとも!」
「馬鹿!!!んなわきゃ無ェだろ!!?しきりに俺に突っ掛って来たり、我儘放題言ってみたり、かと思えば一転優しくして来たり…!!!」

「ナミがゾロにつっかかったり、俺達にわがまま言ったりすんのはいつもだろ?普段と比べて何もおかしいとは思わねェけどなァ。」
「だから幾らなんでもその頻度が…!!!」



大体普段通りのあいつなら、ウソップと眉毛置いてまで旅行に行こうだなんて言いやしねェ。

誰よりも仲間の和を重んじるヤツだ、その為なら率先して我を捨てる様なヤツだ。


我儘だが、状況弁えず押し通す女じゃあねェ。

仕切り屋だが、他人の意見を聞かずに仕切る女でもねェ。



あいつは、俺やルフィに―――甘えてんだ。



ウソップが此処に居てくれたらな、と思う。


平和主義のあいつは、俺とナミが喧嘩しようものなら、体張ってでも止めてくれる。


クソ眉毛でも良い、レディを守る騎士を自称する奴だ、言い争ってりゃ必ずナミ側に付く。


何れにしろ、割って入ってくれてた筈だ。



ルフィは、俺とナミが喧嘩してても絶対に止めねェ。

割って入っても来ねェ。


だから何時までも平行線のままだ。


切が無ェ、互いに落ち着いて、本当に言いたい事が言えねェんだ。




「……解ったぞ、ゾロ…!!」


いきなりルフィが、嘗て見た事無ェシリアス顔して口を開いた。


「何が解ったんだよ…?」

「これを見ろ…!」


ひょいと椅子から飛び降り、さっきから弄んでた貯金箱を、俺の座ってるソファの前…テーブルの上にカタリと置いた。


「……貯金箱だな。」


ソファから身を起して応える。


「そうだ!入れた金が小っさく縮んじまう貯金箱だ!…よく見てろよ?種も仕掛も無ェ、ただの十円玉を入れるだろ…」


チャリーン♪と音を立てて、十円玉が箱の中に落ちる。


長方形した箱の中には、更に正方形した小っせェ箱が有り、その中に入った十円玉は、成る程一回り以上も小さく縮んで見えた。


「……小さくなっちまったな。それで…?」

「そうなんだ!確かに小っさくなっちまったように見えっだろ!?だけどな、こうやって傾けると……」


俺に見えるように向けながら、貯金箱を下に傾ける。


入れられた十円玉は前に寄り、縮んだ筈のそれが、元の大きさに戻って見えた。


「…どうだ?元のサイズに戻っちまっただろ…?」

「……ああ、不思議だな。」

「つまりだな…この中に入った金は、本当に小っさくなっちまってるわけじゃねェんだ!こーみょーに仕組まれたトリックでそう見せてるだけなんだよ!!――びっくりしただろ!?」


「…………ああ、大発見だ。」



こいつとは、それこそ物心つく前からの付き合いだ。

だけど未だに判断が付かねェ。


物凄ェ馬鹿なのか?

それとも、物凄ェ天才なのか?



「まァ~、トリックだったとしても、不思議は不思議だけどな♪…やっぱ分解してみねェと解んねーかなァ~。」



…けどナミは、こいつを誰よりも信頼している。


ルフィもナミ以上に信頼してるヤツは、恐らく居ねェ。


天衣無縫を通り越して傍若無人な奴ではあるが、ナミの言う事には有る程度まで素直に耳を傾けた。


「ナミはこう言った」、「ナミが言うなら確かだ」、「ナミの指示通りなら間違い無ェ」……傍から見てて、まるで母と息子の姿みてェだった。



けれども真実は……ナミこそ、ルフィに縋っていたんだろう。


幼馴染の、弟の様な男友達っつう立場を越えて、父親としてまでも―――




カップに残った茶を飲干し席を立つ。


ハンガー掛けてたジャケットを引っ被り、そのまま玄関に直行する。



「…何処行くんだー、ゾロ?」


「散歩だ。」

「今夜は止めとけってナミから言われただろォ?夜遅くにまた雨が降るだろうからって。」

「そんな遠くまでうろつきゃしねェよ。30分もしねェ内に戻って来るさ。…その頃にはナミも風呂から出るだろうしな。」

「大丈夫なのかァ~~??道とか、1人じゃ解んねェだろォ~~??」

「心配すんな。いいかげん、地図は頭に入ってる。」

「心配だなァァァ~~~。」
「心配すんなっつってんだろがっっ!!!」





ドアを開けて外へ出た。


雨は未だ降っちゃいねェ。

見上げた空に星は見えねェが、まァ、暫くは大丈夫だろう。


暗闇に、軒を連ねたコテージの外灯が光っている。

雨に濡れた石畳の道が、外灯を反射して浮び上がっている。


白く息を吐き出しつつ、俺は外灯と光る道を頼りにして歩いて行った。





その27に続】





次回、漸く『ゾロ編』最終回!多分!(←けど『ナミ編』が未だ有るし…しかも多分って…)(汗)


写真の説明~、フォレストヴィラ1階リビング、真ん中の肘掛ソファは『ナミ椅子』って事で。(笑)

んでその左横に有るソファは『ゾロ椅子』、右横には『ルフィ椅子』が有ると思って下さい。(笑)

実はもう1つ、ナミ椅子の前に、背凭れの無い椅子が有ったりします、ゴージャス~♪


テーブルの上に出てるアレコレ色々な物は、ホテル側が用意してくれたまんま…パンフレット類やらカップやら会員サービスのフルーツセットやらで御座います。
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『何度も廻り合う』その25

2006年01月26日 22時29分25秒 | 桜トンネル(ワンピ長編)
前回の続きです。】





「予想通りとはいえ、一気に降って来たわねェ。」


雨が盛大に湖へと降り注がれる。


湖面に引切り無しに波紋が浮ぶ。


窓越しにそれを見詰めていたナミが、如何にも残念そうに溜息を吐いた。


「まるで真夏の夕立。ひょっとして雷まで鳴るかも。」
「幾ら何でもこの時季に雷は無ェだろ。」


―――ッッ…ドォォォォ……ン……!!!!


「―って本当に鳴りやがったァァァーー!!!!」
「嫌だァ!!!ピカッて光ったァァァーー!!!!」


ザブザブ音を立てて降る雨、闇を劈く雷光、雷鳴…こりゃ本格的に嵐の様相っつか。


「…大丈夫かしら?万が一此処に落ちて停電とか…。」
「そりゃ無ェだろ。落ちるなら恐らくあの塔にだ。」
「それもそうね。どう見ても避雷針はあれよねv」



なんて、呑気に窓寄っかかってナミと談笑してた直ぐ後だ。



突然、フッ……と灯りが消え、真っ暗になっちまった――



「ほ、本当に停電しやがったァァァ~~!!!?」
「い~~やァ~~~!!!!!誰か蝋燭懐中電灯早くゥゥゥ~~~!!!!!!」


「うはははははははははははは♪なんちゃってェ~~♪ビビったかビビったか!?うははははははははははははははは♪」



玄関からルフィが馬鹿笑いしながら入って来た――右手にはキータッグをしっかり握り締めて。



「うははははははははははははははは♪……どうしたァ2人とも??んな恐い顔して??」




――げし!!げし!!げし!!げし…!!


「ちょっっ!!待っ!!ナミ!!す!すびばせん!!もう!!もうしばぜん…!!から…ぶっっ!ぐえェ!!!止め!!足ふみ止め…!!!」

「うっさァァい!!!!まったくあんたは!!あんたは!!あんたって人はァァ!!!やって!!良い事と!!悪い事の!!区別を!!いいかげんに!!覚えろと!!何度言えば!!解るのォーー!!!?」


――げし!!げし!!げし!!げし…!!



「………ま、馬鹿は死ななきゃ治らんっつうからな。」




雨は間断無く降り続ける。


8時を回っても、勢いが沈静化する気配さえ見えなかった。


「こりゃあ夜のショーは全部中止だな…。」
「えええーーー!!?花火中止しちまうのかァーーー!!!?」
「未だ判んないわよ!!雲が激しく動いてるし、一旦は上がるかもしれない。」


諦め付かねェナミが、開け放した窓から、空をじいっと凝視している。

屋根伝って落ちる雨水で、バルコニーまでびしょ濡れだ。


…雨風が部屋ん中まで吹き込んで寒いから、早いトコ窓閉めて欲しいんだが。


「『ゴスペルライブショー』、昨夜観といて正解だったなァ。…今日来て明日帰んなくちゃいけないお客さん、可哀想に…。」
「そうだな!!観といてラッキーだったよな俺達♪コンサートは観れなかったけどな♪」

「……誰のせいで観られなかった思ってる訳…ルゥ~~フィ~~??」
「あ、やべっっ。」
「藪から蛇突いて出しやがったな、ルフィ。」
「で、でもこんだけ降ったら花火の時間までに水尽きちまって止むかもな!うん!!」
「天の水瓶は利○川ダムみたく簡単に尽きやしねェと思うがな。」
「もし止まなくても、余程の荒天でない限りやるわよ!此処の花火は1年に2回しか中止になんなかったってんだから!!」
「へェ~~2回だけ~~!?根性有んなァ~~!!」

「その2回の内に今日が当ったかもしんねェじゃねェか。流石にこんな雨中でやったら花火湿気ちまうよ。残念だが諦めって事で……俺、風呂入って来るわ!」
「ちょっとォーー!!未だ判んないでしょォーー!?」
「そうだゾロ!!あきらめたら人生そこで終りだ!!」
「『人生諦めが肝心』とも言うぜ?…って訳で入って来るわ!1時間もしたら風呂から上がっから、ほうじ茶でも用意しといてくれよナミ!」

「良いけど……ルフィは何が飲みたい?」
「俺はミルク紅茶が飲みてェェ!!!」
「じゃ間を取って珈琲ね。」
「「だから何の間だよそりゃ!??」」




鼻歌交じりで体を洗い、湯船に浸かる。

冷えた肌にじわじわピリピリ沁みて堪んねェ~、やっぱ1日の〆は風呂だァな。

伸ばした背筋からペキパキポキと音がした。

然もありなん、昨日から引き摺られ通しの疲労溜り捲りだからなァ。


ナミには悪ィが『恵の雨』ってか、正直降ってくれて助かった。

いっそ明日の朝まで降り続けてくれねェもんか。

残り1日、出来れば朝寝がしてェ…せっかくのチェックアウト1時、有効に活用しねェと損だと思うしな。

まァ今夜はどうやら早寝が出来そうだ、雨様々、まったく有難ェ。


湯気が風呂場いっぱい立ち籠めてて眠りを誘う。

既に瞼も重く、大欠伸をしたその時だった。



――ドドドン!!ドドドドン!!



風呂場の硝子戸が激しく叩かれる。

驚いて振り向いたそこには、ルフィとナミのシルエットが――っていきなり何だよっっ!!?


――ドドドドドン!!ドドドン!!


「ゾロ!!朗報よ!!!」
「やったぞ!!!雨が止んだ!!!」
「それでフロントに電話して問合せたら予定通りやるって!!後5分!!早く上がって!!!」


「………マ!マジかよっっ…!!?」
「おお!!大マジだ!!きせきが起きたんだ!!!」


…………奇跡っつうか、こいつらの執念雲をも通すっつか……どっちにしろ俺にとっちゃ悲報だよ……。


湯船ん中で天を見上げる。


「兎に角早く出て来て!!!後5分して出なかったら中入ってって引き摺り出すわよ!!!」


――ぶっっ!!……ちょっっ!?待てっっ!!!


「お!!?後4分だ!!!4分したらここ開けっからな!!!」
馬鹿止めろ!!!――そこ鍵閉めてねェんだからなっっ!!!ってかてめェらそこどけ!!!居たらむしろ出らんねェだろがっっ!!!」


今にも扉開けそうな気配が伝わって来る。


俺は焦って取っ手を押えた――





昨夜程ではないが、花火会場には大勢の客が詰掛けていた。


こいつらもルフィやナミ同様、『此処の花火は殆ど中止になった事がない』っつう噂信じて、今迄待っていたのかねェ?

だとしたら偉いっつかご苦労さんってトコだな。



花火会場の広場は、さっきまで降ってた雨のお陰で水浸しだった。


そこに照明が反射して光ってて結構綺麗だ。



開演を伝えるアナウンスが響き、曇って星の見えない夜空にレーザーの光が映った。


ドン!!ドォォン…!!!とイルミの点された帆船バックに、花火が打上げられてく。


レーザーの描く波ん中、光が四方八方に飛び散ってった。



「うはは♪♪きれーだなァ~~~~~♪♪」
「中止にならなくて良かったァ~~~~♪」
「気のせいか昨夜の花火よりきれーに観えるよなァ~~♪」
「言われてみればそうねェ……曇った空に光が反射して映り込んでるからじゃない?」
「成る程、天上の巨大なスクリーンって訳か。」
「やっぱ花火は良いよなァァ~~~♪」
「しかし考えてみれば昨夜も同じの観てる訳だし…何度も観なくてもなァ…。」
「良いの!!!花火は何度観ても飽きないんだから!!!」


空高くに打上げられた華が開く。


港街に光が降りしきる。


……そりゃ…まァ…1度や2度で飽きるもんじゃねェとは俺も…思う。


「ねね!海面見て!!花火が映ってる!!…まるで海中でも花火打上げてるみたいで素敵ねェ…v」
「おお~!!本当だ!!海中でも花火大会やってるみてェだな♪♪」
「へェ…反射して中々綺麗だな。」

「まるで俺が買った絵みてーだな♪」

「…絵?」

「エッシャーの絵だ。1枚の絵に3つの世界が在るヤツ。」

「ああ、あの、木と水面浮ぶ枯葉と水中の魚を描いて、3つの世界を同時に表した絵ね。」

「実はあの海ん中にもおんなじ世界が広がってたりして、海ん中入って行けたりしそうな…そんな気がしねーか??」

「馬ァ鹿!カナヅチが入ったら溺れるだけだ。」

「まるで『鏡の中のアリス』ね。……でも、ルフィらしい発想v」




夜の暗い海面がまるで鏡の様に、街の灯と花火とを反射させている。


確かにルフィの言う通り、此処と同じ世界がもう1つ、海中にも在る様に観える。



水辺の街っつうのは、風情が倍加して良いもんだなと思った。






その26に続】





写真の説明~、フォレストヴィラ1階リビングに有る『ゾロ椅子』って事で。(笑)

マジ寝心地良く、思わず寝そべりたくなりまするv
コメント (4)
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『何度も廻り合う』その24

2006年01月25日 22時39分56秒 | 桜トンネル(ワンピ長編)
前回の続きです。】






『ギヤマン・ミュージアム』を諦め、次に予定してたカナルクルーズをする事となり、3人して船着場の在る『ユトレヒト』地区に向う。



途中横切った広場のステージ前に、人集りが出来ているのが見えた。

野次馬根性の強いルフィが、それを見て足を止める。


「な!な!広場で何かやってるみたいだぜ!?ひょっとして美味ェもん配ってんじゃねェか!?行ってみよぉぜェ~♪」

「ああ、あれは昨日観た『ライティング・セレモニー』を待つ観客よ。」
「あれか?街の点灯式か?…今日は観なくても良いのか?」
「サンタが街に明りをパーーッて点けるヤツだろ!?きれーだったよなァ~~♪何ならまた観てっても良いぞ!?」

「…観て行きたいのはやまやまだけど、急がないと雨中のクルーズになっちゃうもの。残念だけど1度観てんだし、諦めよ!」
「雨中のクルーズってのも風情が有って良いと思うがな。少しくれェ濡れたって気になんねェし。」
「少し位で済みそうにないの!雲と風の動き見るに、集中して降って来ると思う。」
「土砂降りか。そりゃ困るな、傘持って来て無ェし。」
「さっきのポセイドンアドベンチャーくれェ降るのか!?」
「…『ホライゾン・アドベンチャー』だって、ルフィ。」
「俺はそれくれェ降っても全然構わねェけどな!むしろ面白ェよ♪」
「私はお断りよ。こんな寒い日に雨当ったら風邪引いちゃう。……2泊でこんな広いトコ廻るのも大変よねェ。せめて3泊ならもっと余裕持って廻れるんだろうけど…。」
「3泊出来る程、金も暇も持ってねェっつうの、馬鹿。」




船着場に着くと、丁度船が出ちまったばかりだった。


仕方なくその場に用意されてたベンチに並んで腰掛けて待つ。


隣でルフィが、買ったナイフをクルクル投げて回して、暇を潰している。


「ルフィ!危険だからナイフ持って遊ぶの止めて!」
「え~~~~!?良いじゃんかよ、ヒマなんだからさァ~~~~~!!」
「良くない!場内注意でも『危険物は持ち込まないで』って有るんだから!」
「持ち込んだんじゃねェじゃん!!ここん中で買ったんだからな!!」
「大体常識的に見て、子供ならいざ知らず、イイ年した男が刀振り回してるなんてまるで狂人じゃない!!」
「ゾロォ~~~~!!ナミがあんな事言ってるぞォ~~~~~!?」
「って何でこっちに振るんだよ?俺が振り回してるのは竹刀だろうが。」
「言う事聞かなかったら没収よ!!没収!!」
「ゾロォ~~~~!!何とか言ってくれよォ~~~~~!!」
「おめェが悪ィ。大人しく仕舞え。」
「…お客さん、船来たから早く乗ってくれるぅ~?」




クルーザーが到着し、中からゾロゾロと人が降りて来る。

夜って事で、クルーザーにもライトが点き、船体前には天使の形に電飾まで点いていた。


そろそろ寒くなって来たし船内行かねェかと言ったが、ルフィが頑として首を振らず、結局また船外デッキに座って行く事になった。




エンジン音が響き、クルーザーが動き出す。


さっき観た迎賓館や桜並木を通り過ぎ、運河をのんびり進んで行った。


「まだ明り点いてねェなァ~~。」
「後10分位で昨日みたく一斉に点くわ。半周して戻って来る頃、丁度綺麗にライトアップされてると思う。…タイムリーな時間に乗れたかもね♪」


全員後ろ振り向いて塔に注目する――未だ時間来てねェんだから点く訳無ェんだがな。





乗船してから3つ目の橋潜った頃だ。


「お!!!点いたぞー!!!!」
「やたッッ!!!綺麗ェェ~~vvv」
「…ジャスト、6時、と…!」


点いた瞬間、思わずパシパシ手ェ叩き合って喜んじまった。

ナミなんか拍手までして、ルフィなんか万歳して口笛ヒューヒュー吹き鳴らしまでして。


チカチカ瞬く高く細い塔は、こっから観ると蝋燭に似て観える。




4つ目の橋潜った所で、今度は右側に3基の風車が、ライトアップされて観えた。



一旦此処でクルーザーが停まり、俺達以外の船内に居た数人の客が降りてく。


新たにこの『キンデルダイク』から乗り込む客は居なかった。


「今から入国するお客ってあんま居ないだろうし。大概はショー観に行っちゃってるだろうからね。」




俺達だけを乗せてクルーザーがまた動き出した。


ナミの言った別荘地区を左に観ながら、運河を滑る様に進んで行く。


「別荘はライティングしてねェんだなァ~~~。」
「当り前でしょ?観光区域じゃないんだから。」
「右観てろよルフィ。街灯点いた煉瓦の街並みが綺麗だぜェ。」
「こっから先、ビネンスタッド入ったトコから益々綺麗になるわよォ!良く観ててよね!」



別荘地を抜け、2つの市街に挟まれた運河に入る。


大分街並みが賑やかになって来たなと感じた時だ。



「お!!前の橋が光ってるぞ!!あれくぐってくのか!?」

「そうよ、こっから先続く橋から迎賓館まで…名付けて『光の運河』♪」



ナミが言った通り、船は光ってる橋の下を潜り抜けて行った。



抜けた途端―――パァッ……と眩い光に包まれる。



両岸に掛けられた光の簾、光の橋のアーチ、電飾された並木までが全て水面に反射して、運河その物が光り輝いてる様に思えた。



「…………綺麗。」
「きれーだなァァァ~~~~!!!」
「ああ………見事だな。」

「昨夜みたいに道の上から見下ろすんじゃなくて、水面近い高さから見上げてってのも、また違った美しさを発見出来て良いわよねv」




光の河を漂い、クルーザーは進む。


前方には闇の中照らされた光の塔。


1つ、2つと、光のアーチを潜り抜けながら、ゆっくりと近付いて行く。




最後の光のアーチを潜り、クルーザーが停められた。



目の前には点灯したホテル・ヨーロッパと迎賓館が静かに佇み、運河にその光を落としていた。





船から降りて塔2階に在る『楼蘭』っつうレストランに行く。


ナミが言うには台湾料理の店だっつう事だった。


3人しか居ないってのに、しかも他に席空いてたってのに、何故か個室に案内される。


いやこっちは気兼ね無く寛げるから良いんだが……けど、何故だ!?


まァ兎に角、渡されたメニューを見て何食うか考えた。


「で、此処では何がお勧めなんだよナミ?」

「う~~~ん…私も此処のお勧めについてはよく知らないんだけど…」
「じゃ、何で夕食此処に決めたんだよ??」
「せめて1,000円台で食えるトコにしてくれって、あんたが言ったんじゃない。だからよ。」
「餃子食いてェなァ~~、チャーハン食いてェなァ~~、ラーメンも食いてェしなァ~~、全部食いてェェ~~~~!!」

「…ならこの『老季セット』ってのにしたら?水餃子に炒飯、ラーメン、杏仁豆腐までセットで、1,500円だって。」
「おおっっ!!!すげ良い!!!――よし!俺はそれに決定だ!!!」
「んじゃ、俺もそれにしとくわ。」
「ならゾロ、あんたの杏仁豆腐、私に寄越して!」
「はっっ?…何でだよ??」
「だってあんた、甘い物苦手でしょ?…私、昼のバイキングが未だ効いてて、あんま食べられそうにないから、ミニ炒飯だけにしとこうかと。」

「……………で?」

「でもデザートは食べたいのよねェ。だから私に頂戴v」
「ざけんなてめェ。食いたきゃちゃんとてめェの金で注文しやがれっっ。」
「良いじゃない。甘いの苦手なんだから。」



注文前にサービスでお茶が来た。


中国茶……烏龍茶だろうか?ポットごと各人に持って来てくれたのが有難かった。



出て来た料理も、どれも結構美味かった。


炒飯とラーメンには、メニューん所に『ミニ』だと説明が有ったが、考えてたよりもずっとボリュームが有った。(ルフィは足りねェ言ってたが)


特に俺は水餃子が気に入った。


皮はモチモチ、噛むと肉汁がジュワッと出て来る。

タレとラー油をたっぷり付けて戴いた。


炒飯もラーメンも中々イケた。


全体的に薄味だな、それはそれであっさりしてて良かった。


ってか此処来てから、この手のくだけたもん食ってなかったからなァ。


この点だけでも結構喜んで食った。


結局、杏仁豆腐はナミに横から半分盗られちまったけどな…。


「んめェな!!このアンニンドウフ!!とろっとしてて口ん中入れるとスッとアイスみてーに溶けちまうみてーだ♪♪」

「本当v巷でよく売られる牛乳羹もどきじゃないのが良いわよねェv注文した甲斐有ったわァ~v」
「…ってそりゃ俺が注文したもんだろがっっ。」




全員食い終わったトコで即、ナミが帰ろうと言って来た。


もちっと一服してから、お茶のお代り貰ってからにしたらどうだっつったが、どうにも天気が心配らしかった。


「クルーザーから見てた時からもう雨風だったもの…恐らく後30分もしない内に凄い雨になるわ!」


大袈裟なとは思ったが、天候はこいつの領分、積み重ねられた信頼っつうもんが有る。


素直に従い、精算終らして店を出た。




駆け足で急ぎ、港街に入る。


夜になって此処ら界隈の人通りが増した。


夕食時間って事も有り、主に料理屋の前に長い行列が出来てたりする。


立ち止まってライトアップされた街並みを撮ってる奴も多かったから、それらを避けながら進むのは結構難儀だった。




港街を抜け、更に階段上って、コテージの在る地区に入る。


……こういう時、中心から離れた場所泊ってると不便だよなァ。



コテージの建ち並ぶ付近は、市街地とは打って変って静寂に包まれていた。


外灯照らされた石畳の道に、自分達の靴音が響く。


似た様なコテージが並ぶ中、ナミは迷う事無く、その内の1つの扉を鍵で開けた。




後を追って来た俺とルフィが玄関入ったと同時だ。



――突然、ドザーーーーーーーーーッ!!!!と物凄ェ勢いで雨が降って来やがった。



「……ね?間一髪だったでしょ?」



得意気に、ナミが笑う。



「………………ああ、危機一髪だったな………助かったぜ。」
「すっっげェ~~~なナミィ!!!また1つ伝説が出来ちまったぜ!!!!」





俺は、此の世に恐ろしいもんなんて何も無ェ。



けど、今は少しばかり、こう思う。




――こいつの存在が、空恐ろしい、と。





その25に続】




…いや、ナミさん、子供だって刃物振り回すのは危険ですって。(汗)


写真の説明~、『光の運河』、ユトレヒト地区~ビネンスタッド地区へと架る橋、『トールン橋』の下。

眼鏡橋っぽくて綺麗ですv


ゾロ編も、後3回……の予定です。(汗)
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『何度も廻り合う』その23

2006年01月24日 22時24分19秒 | 桜トンネル(ワンピ長編)
前回の続きです。】





重ねて運の悪い事に、誰もこのバス停に立ち寄ろうとはしなかったし、バスも来なかった。


反対側の『出入国口方面行き』バス停には結構人が寄ったりバスも来たりするんだが、こっちの『港街方面行き』には何故か来ねェんだ。




結果として俺とナミ2人だけ…妙に気まずい雰囲気ん中で、黙ってベンチに隣合っていた。



ルフィは未だ戻って来ねェ――何やってんだよ!?そんなに気に入った物が有んなら店ごと買占めろよっっ!!




「……で?結局話は有る訳無い訳??無いならビビと話の続きしたいんだけど。」

「ああいや有る事は有るんだが…」
「じゃ、さっさと言って。」

「あーー……ええと…………あ!見ろよ!良い景色じゃねェか!」


左を向いて指差す、そこには昨日写真を撮った、背高ツリーと教会と塔の3点セットになって重なり見えていた。


「へェ、こっからだと3つ共纏めて観られるんだなァ~、知らなかったぜ♪」

「……そうね。」
「そろそろ点灯時間だろ!?此処座って待ってりゃァ、良い写真撮れんじゃねェか!?」

「………………点灯まで未だ40分は有るわよ?それまでこんな寒い中、座って待ってるの?」

「え?ああ…………そりゃあ……嫌だな。」

「それに確かに観覧席としてはベストだけど、撮影するには周りの街路樹が邪魔してて良くないわよ。」

「ああ…………そう……だな。」


ナミの言う通り、教会の在る広場の周囲には街路樹が植わってて、此処から全景を入れる為には少し邪魔になっていた。




また会話が途切れ、静寂が降りて来る。




「……あ~とその…………予定狂って残念だったな。」

「ん?まァ…しょうがないわよ。明日って日も有るし……あんだけ喜んじゃってるトコ、邪魔して無理矢理引き摺って連れてくのもねェ。」


……って此処まで散々人引き摺って来といて今更とは思ったが、話拗らすのも何なので茶々を入れずに置いた。


「ギヤマン……何つったか?何時に閉館しちまうんだ?」

「『ギヤマンミュージアム』よ。8:15に閉館だって。」

「じゃ、未だ全然余裕じゃねェか。」
「駄目よ。そしたら他に予定してんのどんどん狂って来ちゃうもの。この後は飛ばして、カナルクルーザーで場内1周しようと思ってる。」

「クルーザー?」

「天気がね……どうも思ったより早く悪くなって来てんの……恐らく7時過ぎたら一気に荒れるわ。だからそれまでに夜の運河を1周しときたいのよ。せっかく今年からナイトクルーズ用に橋や護岸をライトアップしてんのに、観ずに帰っちゃったら勿体無いでしょ?」



空を仰ぎ見る……ナミの言う通り、一面分厚い雨雲が覆っていた。


「確かに……あんな天気好かったのに、何時の間にか曇ってるな。」


――まったく、大した見立てだよ、こいつのは。


「ルフィが戻って来たら即カナルクルーザーに乗船。その後『楼蘭』で夕食。……こんなトコかな。」

「雨って事は、今夜の花火は中止だな。」

「それはどうかなァ。雲の動きを見る限り、通り雨っぽいし。だとしたらやるかも。」
「悪天候じゃ普通はやらねェだろうよ。」

「此処の花火は余程じゃなきゃ中止にならないんだって。去年なんか2回位しか、なんなかったらしいわ。」

「……ってそりゃ随分根性有り過ぎだろうがっっ。」

「周り中海で、民家も近くに無いからね。……そだ!!」



いきなりナミがベンチから立ち上がった。



「どうした??」

「近くに綺麗な景色観られるベンチ有るんだけど……行ってみない?ゾロ!」

「…………は?」


返事も聞かずにナミは、そのままルフィの居る店に入ってった。

……と思ったら、また直ぐ出て戻って来やがる。


「ルフィに言っといたわ。私達が戻るまでそこに大人しく居なさいよって。――行こ!!」

「……大丈夫なのか?1人にしといて。」

「大丈夫じゃない?食べ物屋じゃあないんだしv」


にっこり笑って言ったその台詞に、ああそりゃそうだなと納得する。




そのままベンチの後の、尖った屋根した赤煉瓦の建物入ってくんで、後を追った。


これは……何の建物だ?……見張所か??


「水門、『ウォーターゲート~スネーク~』だって。」



建物ん中にはベンチが並べられ、四方2ヵ所づつ窓の様に開いてい、そこから周囲を眺められる様になっていた。



ナミが海側を向くベンチの1つに座る。

それに倣い、隣に腰を下ろした。



前に開いた窓からは、イルミが灯り出した港街、そして見渡す限りの海。



「ね?見晴らし良いでしょ?」

「ああ……こりゃあ、絶景だな……。」


吹いてる海風が、手前に並んだヨットのマストを揺らす。


揺れる度にマストは、物悲しい金属音を響かせる。


辛うじて山の端に残ってた朱色が消えると、空と海はすっかり濃紺に染められた。


「天気が好ければ、最高の夕暮れが観られたんだろうけどねェ。」

「いや、充分綺麗だって。」


ポツポツと点いた街の照明が、海に反射している。


見下ろした水面に、もう1つの街が映って揺れていた。



「良い眺めだ。まったく都合の良い場所にベンチが置いてあったもんだ。」

「元より意図して置かれてんだと思うわ。此処だけじゃなく、他に置かれたベンチの多くも。今迄景色良いから撮ろうと思った場所には、必ずベンチが置かれてたし。」

「そうだったか?ちっとも気付かなかったな。」

「『良い景色ですよォ、ちょっと座って休んでかれませんかァ?』……ひょっとしたらそんなメッセージが篭められてたのかもね。」

「『急がば回れ』、『そんなに急いで何になる?』……っつう事かねェ。」

「『重い荷物を置くのにどうぞ』とか、『撮影用にどうぞ』とか、『カップルの憩いの場にどうぞ』とか…。」

「確かに此処なんか良いデートスポットだよな。」

「なんなら私達も、ルフィ放っぽってデートでもしちゃおうか?」


――ブッッ…!!!!


「……何でそこで噴出すのよ?失礼ね。」

い!…いきなりそんな突拍子も無ェ事てめェが言うからっっっ!!!!――ってかマジかよ今の!!!?」


「冗談よ。」


――ゴン!!!!



………こ……この女っっ……。



「噴いたりベンチに頭ぶつけたり、落ち着き無いわねェ、さっきから。」

「煩ェ!!!!てめェが変な事ばっか言って来るからだろおがっっ!!!!!」

「ああゴメン、言い方悪かったわね。かなり本気に近い冗談って事で。」
「本気に近い冗談!??何だそりゃ!!?どっちかはっきりしろよっっ!!!」

「だから私、ゾロの事好きだし。デートする分には構わないっつってんの。」


――ガターン!!!!!



「…って今度はずり落ちるし。」


「……ル…ル…ル……!!!」


「………る???」


「…ルフィが好きだったんじゃねェのかてめェはっっ!!??」


「勿論ルフィも好き。」


――ゴガン!!!!!!



「さっきからアメリカンコミックショーでも観てる気分で楽しいわァ。…大丈夫、頭?煉瓦にぶつけちゃ痛いでしょ?」



「………結局てめェは、どういう意味で好きっつってんだっっ!!!?」


「ゾロも、ルフィも、ウソップも、サンジ君も、皆好きだって事よ、要するに。」

「………何でェ、ただの仲間としての友愛か。」

「仲間として付き合いたくない奴と、恋人になんかなりたいとは思わないけど?……正直、4人の中で1人でも『付き合ってくれ』って言われてたら……多分、そいつと付き合ってたかもしれないし。」

「…だったら眉毛と付き合ってやればよかったじゃねェか。暇見つけちゃあモーションかけてたんだからよ。」

「もうちょい重めに迫ってくれたらそうしたかもね。……でもやっぱり付き合わなかったかも。特に必要感じなかったし……私、仲間の中でのそれぞれが好きだったから。……ゾロ、あんただって、もし私が『付き合って』って言ったら……付き合ってくれてた?」


「それは…………断ったかもな。」


「ほら、一緒!………ま、そうしても何時か結局はバラバラになった訳だけどね…。」



ずり落ちたベンチに掛け直す。


横から見るナミは、ただぼんやりと海を観ているだけだ。



「世界一周するんだってな、ルフィの奴。あいつらしいと言うか。」

「そ!『20歳までは金を出してやるから自由に生きろ。20歳になったら生き方見付けて独立しろ。』……お父さんのこの教えに従い、20歳まで自由に世界を廻って遊んで来るんだってさ!」

「…って事は、20歳になったら帰って来る訳だ。」

「帰って来ないんじゃな~~い?お兄さんなんかもそう言って、結局帰って来なかったんだし。」

「放浪癖は血筋か。」

「他人事みたいに言って、あんただって似た様な道歩むんじゃないの?あ~んな北の果ての学校行っちゃうんだからさ!」

「しょうがねェだろ?倒してェ相手がそこに居るんだからよ!」

「ああ、くいなさんだっけ?」
「何でてめェがそいつの事知ってんだよっっ!!?」

「ルフィから聞いた。非公式の試合とはいえ、あのゾロが唯一負けた女だって。」



……………あんの馬鹿猿、端から知る度喋りやがってっっ…!!!



「傍に居てくれるのは、ウソップとサンジ君だけか。……あ~あ!本当にサンジ君と付き合っちゃおうかなァ!それとも他にブルジョアな男見付けて玉の輿狙うとか!」


「止めとけよ。んな理由からじゃ、相手の奴に失礼だ。」

「解ってる。する訳無いじゃない。馬鹿ね。」





振り向かずに、真直ぐ海を観たまま、ナミが呟く。



「あんた達2人共、迷子になって一生戻って来なきゃいいんだ。」




外は夜の闇にすっぽり包まれちまってた。



水門に灯った照明だけが煌々と、辺りから浮き上っている。




「……………何でてめェは………」



さっきから腹ん中に溜めてたものが口をつきそうになる。



「…何でてめェは………!」
「ゾロ~~~~~!!!!ナミ~~~~~!!!!ど~こ~に~行ったァァァ~~~!!!??」



「……ルフィ!!」

「…………あの馬鹿、今頃…!!!」




すっかり存在を忘れかけてた頃に、ルフィは戻って来た。


水門内のベンチに居た俺達を見付け、嬉々として走って来やがる。


手には刃渡り数10cmの短剣型ナイフが握られていた。



「見ろよ!!!このちょーかっけェ~~短剣!!!!」


ブンブンとチャンバラ劇宜しく回転しながら斬り付ける真似をする。

そして空に衝き立て片膝着いて決めのポーズ――って何のポーズだよそりゃ!?


「あんたまたそんな無駄遣いして!」
「無駄遣いじゃねェよ!!2,000円もしなかったんだからな!!」
「…つまり、2,000円近くは使ったんだ?」
「うっっ…あ、えっと…。」


柄に飾りのゴテゴテ付いた見るからに玩具、精々ペーパーナイフだな。


「ゾロが好きそうな長剣も有ったんだぜェ~♪も、すっげカッコ良いんだ!!――メチャクチャ高ェけど。」
「…玩具の刀なんかに興味持つかよ、俺が。」


玩具とはいえ、エモノを手に入れたルフィは有頂天だ。

俺の皮肉もナミの小言も全く通じねェ。


悩みの一切無ェ顔で、ひたすら剣の舞に興じてやがった。




ちなみにこれは後日談だが……このルフィの持っていたナイフが長崎空港でのチェックに引っ掛かり、お陰で帰りの飛行機の離陸が10分遅れる事となった――





その24に続】





……キャラの人間関係はフィクションですって事で(汗)…まぁ、あんま気に懸けないで頂きたいです。(苦笑)

それにしても恥しい話になったもんだ。(焦笑)


写真の説明~、『ウォーターゲート~スネーク~』を写した物…中にはベンチが置かれてて、海を観るにはベストスポットですv

ハウステンボス来ると、大概の人はベンチの多さに驚くんではないかと…。
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