――訳有って本日2回目の更新(汗)、前回の続きです。
「……ナミ……迎えに来てくれたのか!!?有難うって…――お前何だその薄着はァァァ!!!?」
目の前に立っているナミは、何時着替えたのか、肩剥き出し薄地の青いワンピースを着ていた。
「ババ馬鹿お前こんな寒ィ冬の土砂降りん中何考えてやがんだよ!!?早くこの下入れ!!!濡れちまっだろが!!!!」
「土砂降り?濡れる?……何言ってんの?雨なんて降ってないじゃない。」
「………………へ……?」
トンネルを抜け出し、外へ出る。
仰ぎ見た空には雲一片たりとも浮かんでなく、鈎針の如く細い月、そして星が一面に瞬いていた。
足下に敷かれた煉瓦も、何処も濡れていねェ、乾き切ってる……どういう事だ…?
「…ね?素敵な星降る夜じゃないv」
笑いながらナミが、くるりと裾翻して回転する。
闇夜に白く仄めく左肩に、奇妙な模様が描かれてる事に気付いた。
「…お前…何だ?その左肩に入った模様は…。」
「…左肩…?刺青の事??」
「刺青ィィ!!?い何時そんなの入れたんだよおめェェ!!?」
「何よ今更…もう随分前から入れてたじゃない。」
……そそそうだったか!!?
いいや此処数年じっくり見ちゃいなかったが、言われてみればそうだったようなそうじゃなかったような???
それに右腕にチカリと光るブレスレット…は兎も角として、丸っこい磁石みてェな物嵌めたのは何だ??
「その…右腕に嵌めてる丸まっちいヤツは??」
「丸まっちいって…『ログポース』の事?あんたまさか『ログポース』の事忘れちゃったのォォ!!?」
「ログ……ボーズ???」
「『ログポース』!!!記録指針よ!!!グランドライン渡ってくのに必須の物じゃない!!!あんた脳内でまで迷子になっちゃったの!!?しっかりしなさいよ!!!」
ナミは真剣だ、怪訝そうな面持ちで俺を見詰てる。
駄目だ…!!マジ頭が混乱して来た!!
何で雨が止んでんだ!?何故道が乾いてる!?どうしてこいつは夏服着てんだ!!?
どういう事だよ!!?全く解んねェ!!!誰か説明しやがれっっ!!!!
「薄着だとか何とか……自分だって結構な薄着じゃない!」
呆れた様に溜息吐いて、ナミが言う。
「…薄着…?俺が…!??」
言われて身辺見回す………驚いた…出掛けに着てった筈のダウンジャケットなんて跡形も無ェ…っつか…――何だ俺のこの格好はァァァ!!!?
「……何で……!?何時の間にこんな腹巻とか親父シャツとか!!センスの無ェ格好しちまってんだよ…!!?」
「はァァ??それこそ今更!!緑の腹巻白の親父シャツ、黒バンダナを左腕に締め左耳には三連ピアス。…そのノーセンスファッションこそ、あんたじゃないの!!」
「誰がノーセンスだよっっ!!?…いやそんな事より…やけに右腰が重てェなと思ったら……何で…何で俺は3本も真剣差してんだよォォォ!!!??」
「………ゾロ……あんた…本当に大丈夫…?剣士の命まで忘れちゃったの…?」
――お前もきっと会うぞ。
「……剣士の……命…?」
――俺が見たんだから、お前らだってそりゃ見るさ♪
剣の柄に、触れてみる。
黒い柄、赤い柄、白い柄。
――向うの世界でのおめェは、三刀流の使い手だった。
黒い柄の刀は、『雪走』。
赤い柄の刀は、妖刀『三代鬼徹』。
白い柄の刀は、『和道一文字』。
……そうだ………何で忘れちまってたんだろうな…。
幼い頃の『くいな』との約束果たす為に……三刀流を極めて、世界一の剣豪になる為に……海へ出たんじゃねェか俺は……!!
最強の座で待つ『鷹の目のミホーク』に打ち勝つ為に……仲間と共に俺は…!!!
「悪ィな、ナミ……少し…ぼぉっとしてたらしい。」
「……ちゃんと、思い出せた?」
「ああ、何もかも、全部な。」
「そ、良かった!」
にっこりとナミが微笑む。
「早く船に帰ろう!皆待ってるわ!」
そして右手を俺に差し出して来た。
「…んだよ?この手は…?」
「手ェ繋いで行くのよ!もう2度と、迷子にならないように!」
「誰が迷子だってんだよっっ!!?出来るかっっ!!そんなガキみたく恥しい事!!」
「あんた1人で歩かせとくと、こっちが不安になんの!ほら、行くわよ!!」
無理矢理手を握られ、引き摺り出される。
自分と全く違う体温、柔らかさが掌に伝わって来る。
気恥ずかしくも、妙に安心した。
そのまま階段上って橋の上に出る。
「大体道に迷って下に潜るなんて愚の骨頂よ!そういう時は、見晴らしの良いトコまで上ってみんの!」
橋の上からは、星より眩く光る街灯や並木が、至る所に見えた。
ちょっと目を横に向けりゃあ、最初に辿って来た光の運河まで見える…なんだ、こんな直ぐ側に在ったのか……何で気付かなかったのか?つくづく不思議に思う。
手を繋いで道を進む、靴音響かせ石畳を歩く。
目の前に夕方ナミに連れて来られた、煉瓦造りのとんがり屋根した水門が、闇の中に灯って見えた。
「え…?私、こんな所まであんたと来たっけ?」
「ああ!絶好の景色が眺められるベンチが置いてあるってな!…行ってみるか!?」
手を引っ張り、駆け足で連れてく。
夕方来たみてェに、海を向くベンチに並んで腰掛ける。
大きく開いた窓から、星降る空と、灯りを映した鏡の海との、両方が見渡せた。
「凄い……空だけでなく、海面にまで星が瞬いてるみたい…。」
潮風が流れて来て、ナミの髪を揺らす。
目の前揺れてるヨットのマストが、また、物悲しい金属音を響かせる。
「さっきは曇ってて観えなかったが…やっぱり晴れてると良いな。満天の星だ…!」
「…曇ってた??別に今日は曇ってなんかいなかったわよ?」
「ん?…ああ…気にすんな。」
海面に映った灯りが、街が、ユラユラ揺れている。
ルフィが言ったみてェに、今飛び込んでけば、違う世界へと行けるだろうか…?
そんなメルヘンな思考が頭を過り、苦笑した。
「さ!そろそろ行こ!」
俺の手を握り、ナミが立ち上がる。
「未だいいじゃねェか。」
「名残惜しいけど、ルフィ達が待ってるもの。早く行かないと、御馳走全部食べられちゃうかもだし。」
「御馳走??」
「明日はこの島を離れるから、今夜はそれを祝って、甲板で盛大に宴開くんだって…朝からルフィ、張切ってたじゃない!」
「……ああ…そうだったかな…。」
水門を出て、手を繋いで、海岸沿いの道を歩く。
見上げれば星明り、左には街灯りを映した海、右には並木と煉瓦の街並み。
石積みの護岸に、絶間無くぶつかり、響く波音。
潮風が吹き鳴らす、哀し気な金属音。
道を行き、跳ね橋を渡り、港街へ入る。
広場前の海には俺達の船――羊顔のフィギュアヘッドを持った、『ゴーイング・メリー号』が繋留されていた。
「おっせーぞゾロォォ!!!何やってたんだよ!!?宴始めらんなくて皆迷惑してたんだからなァーーー!!!!」
フィギュアヘッドに、ゴムの体巻き付け噛付きながら、ルフィが叫ぶ。
頭の上には、トレードマークの麦藁帽子。
「悪ィィ!!!ちょっと道に迷っちまってたんだよっっ!!!」
船を見上げて思い切り叫ぶ。
「なァァ~~!?チョッパー!!俺様の推理通りだっただろォ~~!?――ゾロが姿を消した!!謎が謎呼ぶミステリー!!脳回路駆け巡り導かれる稀代の名推理…奴は今!街中で道に迷い難儀して途方に暮れているとォォォ~~~!!!!」
「すげ~~~!!!すげすげすっげェなァ~~~!!!ウソップは頭が良いなァ~~~!!」
見張り台ではウソップとチョッパーが漫才を繰広げていた。
尊敬の眼差し向けて感心するチョッパーに、ウソップがその特徴的な長鼻を得意気に鳴らして応える。
「なァにが名推理だ!!あのクソ馬鹿が迷子になってるなんざ猿でも解ける答えだってェの!!」
クソコックが甲板から身を乗り出し、如何にも人馬鹿にした様に見下す。
口から煙草の煙をプカプカ吐き出し、右手に掲げた皿にはチーズを満載して。
「誰がクソ馬鹿で迷子だよ!?くるぱー眉毛ェェ!!!」
「ふっふっふ…見縊らないでくれ給えよサンジ君!!嘗て俺はシロップ村1番の少年名探偵として近隣の島々にまで名を馳せた男!!見た目は子供!頭脳は大人!!人呼んで『江戸川ウソップ』!!真実は何時もひとォォォ~つ!!!」
「てめェ以外他に居るかってんだよ!?マリモンゴリアン!!!」
「……誰も聞いてないよ、ウソップ。」
「ナミさんもさァァ~~、あァんま馬鹿甘やかしちゃ駄目だよォォ~~!!でねェとそいつ何時まで経っても自立せずに、一生お守する羽目になっちゃうぜェェ~~!?」
「一理有るわねェ~、少しスパルタ式で臨んだ方が良いのかしら?」
「…っておいっっ!!」
「航海士さん、ログは明日の何時には溜りそう!?」
甲板からロビンが、相変らず淡々とした調子で叫び聞く。
「…そうねェ~、恐らく明日の夕方、5時ぴったりよ!!」
「名残惜しいわね…こんなに平和な街なのに!!」
「そうねェ~!!御飯も美味しかったし!!街に在るホテルも最高だったし!!何と言ってもこの素晴しい景観!!何なら1年は居たかったかしらァ~♪」
「そんなに1っ所に居たらあきちまうよ!!!また来りゃ良いじゃねェか!!!」
「ま、ルフィの言う通りだな!!平和過ぎて体が鈍っちまう!!」
「…そりゃあんたとルフィはそうでしょうけど。」
「んナミっすわァ~~んvv早く船に乗んなよォ~~vvチーズにパンにハムにソーセージにワイン!!どれも上等なの買い込んで来たんだぜェ~~vv――てめェもさっさと乗りやがれ!!勿体無くも美味い焼酎呑ませてやるぜ、このクソマリモ!!」
「んだとクソ眉毛!!?」
「ゾロもナミも早く上がって来い!!!明日の出航を祝って、今夜は宴だァァァーーー!!!!」
ルフィの雄叫びが天に轟く。
ナミが笑顔を向けながら、繋いだ手を引っ張る。
それに笑い返しながら、俺も船に乗り込もうと近付いてった――
「何処行こうってのよゾロォォ!!!」
声に驚いて、後ろを振り返る。
振り返った瞬間、また、ザーーーッ…!!!!と音を立てて雨が降って来た。
振り返ったそこには、赤のチェック柄した傘を差して、オレンジのダッフルコートを着たナミの姿。
前に向き直り見る…海に繋留されてるのは、ゴーイング・メリー号ではなかった。
イルミネーションが灯された、レプリカ木造帆船。
船に乗ってた皆の姿は、何処にも見えない。
手を繋いでた筈のナミも…掌に温もりだけ残して…消えていた。
「…あんた、何やってんのよ…!?それ以上行ってたら海落っこちてたわよっっ!!?」
右腰に手をやる…3本の刀は消えていた…身に着けてた腹巻も見当たらねェ。
緑のダウンジャケットに、冷てェ雨をたっぷり吸った黒ジーンズ…全部、元に戻っちまってる。
顔が冷てェ…体が、凍えちまいそうだ。
雨が叩き付けて、広場はびしゃびしゃに濡れていた。
「遅くにまた降るって言ったよね!!?私、言ったよねェ!!?馬鹿!!!何で1人で外出たのよ!!?方向オンチのクセして!!!どんだけ探し回ったか…お陰で観たいTV観られなかったんだからねっっ!!!どうしてくれんのよ馬鹿っっ!!!」
ナミが強く俺の体を揺さ振って来る。
濡れた顔に照明が反射して、何だか泣いてるみてェだなとぼんやり思う。
「………ルフィは……?」
――ウソップは?コックは?チョッパーは?ロビンは?…ナミは?……俺は?
「……ルフィ?コテージに残るよう言ったわよ!!この上あいつまで迷子になって二重遭難だなんて真っ平御免だもの!!…もしも0時回って、私とゾロが帰って来なかったら、そん時はフロント電話してって伝えてある…。」
「…なァ…雨……ずっと降ってたか…?さっきまで、一旦……止んでただろ……?」
空を仰ぐ……一面、真っ暗だ、星なんて1個も見えなかった。
「………何言ってんのよ…?10時過ぎ頃また降り出して…そのまま降り通しだったじゃない……。」
「……ああ……そうか……そうだったかもな……。」
「……しっかりしてよ…!!後少ししたら…私は、もう、迎えに来てあげられないんだからね…!!!」
笑って傘を差し向ける。
解れて濡れた髪が、その顔に貼り付いていた。
息が白い、触れて来る手が冷てェ…随分、長い間外に居たんだろう。
顔は笑ってても、泣いてる……寂しくて泣いてやがる…。
きっと、独り、雨ん中俺を探して泣いていた。
――あんた達2人共、迷子になって一生戻ってこなきゃいいんだ。
…………何で、てめェは……
……何で、てめェは……!!
「本当に言いたい事口に出して言わねェんだよ…!!!」
闇からざんざん雨が降る。
俺の叫びを遮るように。
見て来た全てを洗い流すように。
【その29に続】
何で私はこんな無駄に切ない話書いてんでしょう…?(汗)
済みません、意味不明にアレで恥しい話で済みません。(汗々)
取り敢えず、これにて『ゾロ編』、終了。
次回、『ナミ編』は2/7から…や、ちょっと2/1~2/3まで温泉行って来るんで。(苦笑)
【特別おまけ:その頃のルフィ】
写真の説明~、『フリースラント』~『ビネンスタッド』に架る橋、『ジョーカー橋』の下には、こんなベンチが有る。
通称『魚ッチングスポット』。(笑)
「……ナミ……迎えに来てくれたのか!!?有難うって…――お前何だその薄着はァァァ!!!?」
目の前に立っているナミは、何時着替えたのか、肩剥き出し薄地の青いワンピースを着ていた。
「ババ馬鹿お前こんな寒ィ冬の土砂降りん中何考えてやがんだよ!!?早くこの下入れ!!!濡れちまっだろが!!!!」
「土砂降り?濡れる?……何言ってんの?雨なんて降ってないじゃない。」
「………………へ……?」
トンネルを抜け出し、外へ出る。
仰ぎ見た空には雲一片たりとも浮かんでなく、鈎針の如く細い月、そして星が一面に瞬いていた。
足下に敷かれた煉瓦も、何処も濡れていねェ、乾き切ってる……どういう事だ…?
「…ね?素敵な星降る夜じゃないv」
笑いながらナミが、くるりと裾翻して回転する。
闇夜に白く仄めく左肩に、奇妙な模様が描かれてる事に気付いた。
「…お前…何だ?その左肩に入った模様は…。」
「…左肩…?刺青の事??」
「刺青ィィ!!?い何時そんなの入れたんだよおめェェ!!?」
「何よ今更…もう随分前から入れてたじゃない。」
……そそそうだったか!!?
いいや此処数年じっくり見ちゃいなかったが、言われてみればそうだったようなそうじゃなかったような???
それに右腕にチカリと光るブレスレット…は兎も角として、丸っこい磁石みてェな物嵌めたのは何だ??
「その…右腕に嵌めてる丸まっちいヤツは??」
「丸まっちいって…『ログポース』の事?あんたまさか『ログポース』の事忘れちゃったのォォ!!?」
「ログ……ボーズ???」
「『ログポース』!!!記録指針よ!!!グランドライン渡ってくのに必須の物じゃない!!!あんた脳内でまで迷子になっちゃったの!!?しっかりしなさいよ!!!」
ナミは真剣だ、怪訝そうな面持ちで俺を見詰てる。
駄目だ…!!マジ頭が混乱して来た!!
何で雨が止んでんだ!?何故道が乾いてる!?どうしてこいつは夏服着てんだ!!?
どういう事だよ!!?全く解んねェ!!!誰か説明しやがれっっ!!!!
「薄着だとか何とか……自分だって結構な薄着じゃない!」
呆れた様に溜息吐いて、ナミが言う。
「…薄着…?俺が…!??」
言われて身辺見回す………驚いた…出掛けに着てった筈のダウンジャケットなんて跡形も無ェ…っつか…――何だ俺のこの格好はァァァ!!!?
「……何で……!?何時の間にこんな腹巻とか親父シャツとか!!センスの無ェ格好しちまってんだよ…!!?」
「はァァ??それこそ今更!!緑の腹巻白の親父シャツ、黒バンダナを左腕に締め左耳には三連ピアス。…そのノーセンスファッションこそ、あんたじゃないの!!」
「誰がノーセンスだよっっ!!?…いやそんな事より…やけに右腰が重てェなと思ったら……何で…何で俺は3本も真剣差してんだよォォォ!!!??」
「………ゾロ……あんた…本当に大丈夫…?剣士の命まで忘れちゃったの…?」
――お前もきっと会うぞ。
「……剣士の……命…?」
――俺が見たんだから、お前らだってそりゃ見るさ♪
剣の柄に、触れてみる。
黒い柄、赤い柄、白い柄。
――向うの世界でのおめェは、三刀流の使い手だった。
黒い柄の刀は、『雪走』。
赤い柄の刀は、妖刀『三代鬼徹』。
白い柄の刀は、『和道一文字』。
……そうだ………何で忘れちまってたんだろうな…。
幼い頃の『くいな』との約束果たす為に……三刀流を極めて、世界一の剣豪になる為に……海へ出たんじゃねェか俺は……!!
最強の座で待つ『鷹の目のミホーク』に打ち勝つ為に……仲間と共に俺は…!!!
「悪ィな、ナミ……少し…ぼぉっとしてたらしい。」
「……ちゃんと、思い出せた?」
「ああ、何もかも、全部な。」
「そ、良かった!」
にっこりとナミが微笑む。
「早く船に帰ろう!皆待ってるわ!」
そして右手を俺に差し出して来た。
「…んだよ?この手は…?」
「手ェ繋いで行くのよ!もう2度と、迷子にならないように!」
「誰が迷子だってんだよっっ!!?出来るかっっ!!そんなガキみたく恥しい事!!」
「あんた1人で歩かせとくと、こっちが不安になんの!ほら、行くわよ!!」
無理矢理手を握られ、引き摺り出される。
自分と全く違う体温、柔らかさが掌に伝わって来る。
気恥ずかしくも、妙に安心した。
そのまま階段上って橋の上に出る。
「大体道に迷って下に潜るなんて愚の骨頂よ!そういう時は、見晴らしの良いトコまで上ってみんの!」
橋の上からは、星より眩く光る街灯や並木が、至る所に見えた。
ちょっと目を横に向けりゃあ、最初に辿って来た光の運河まで見える…なんだ、こんな直ぐ側に在ったのか……何で気付かなかったのか?つくづく不思議に思う。
手を繋いで道を進む、靴音響かせ石畳を歩く。
目の前に夕方ナミに連れて来られた、煉瓦造りのとんがり屋根した水門が、闇の中に灯って見えた。
「え…?私、こんな所まであんたと来たっけ?」
「ああ!絶好の景色が眺められるベンチが置いてあるってな!…行ってみるか!?」
手を引っ張り、駆け足で連れてく。
夕方来たみてェに、海を向くベンチに並んで腰掛ける。
大きく開いた窓から、星降る空と、灯りを映した鏡の海との、両方が見渡せた。
「凄い……空だけでなく、海面にまで星が瞬いてるみたい…。」
潮風が流れて来て、ナミの髪を揺らす。
目の前揺れてるヨットのマストが、また、物悲しい金属音を響かせる。
「さっきは曇ってて観えなかったが…やっぱり晴れてると良いな。満天の星だ…!」
「…曇ってた??別に今日は曇ってなんかいなかったわよ?」
「ん?…ああ…気にすんな。」
海面に映った灯りが、街が、ユラユラ揺れている。
ルフィが言ったみてェに、今飛び込んでけば、違う世界へと行けるだろうか…?
そんなメルヘンな思考が頭を過り、苦笑した。
「さ!そろそろ行こ!」
俺の手を握り、ナミが立ち上がる。
「未だいいじゃねェか。」
「名残惜しいけど、ルフィ達が待ってるもの。早く行かないと、御馳走全部食べられちゃうかもだし。」
「御馳走??」
「明日はこの島を離れるから、今夜はそれを祝って、甲板で盛大に宴開くんだって…朝からルフィ、張切ってたじゃない!」
「……ああ…そうだったかな…。」
水門を出て、手を繋いで、海岸沿いの道を歩く。
見上げれば星明り、左には街灯りを映した海、右には並木と煉瓦の街並み。
石積みの護岸に、絶間無くぶつかり、響く波音。
潮風が吹き鳴らす、哀し気な金属音。
道を行き、跳ね橋を渡り、港街へ入る。
広場前の海には俺達の船――羊顔のフィギュアヘッドを持った、『ゴーイング・メリー号』が繋留されていた。
「おっせーぞゾロォォ!!!何やってたんだよ!!?宴始めらんなくて皆迷惑してたんだからなァーーー!!!!」
フィギュアヘッドに、ゴムの体巻き付け噛付きながら、ルフィが叫ぶ。
頭の上には、トレードマークの麦藁帽子。
「悪ィィ!!!ちょっと道に迷っちまってたんだよっっ!!!」
船を見上げて思い切り叫ぶ。
「なァァ~~!?チョッパー!!俺様の推理通りだっただろォ~~!?――ゾロが姿を消した!!謎が謎呼ぶミステリー!!脳回路駆け巡り導かれる稀代の名推理…奴は今!街中で道に迷い難儀して途方に暮れているとォォォ~~~!!!!」
「すげ~~~!!!すげすげすっげェなァ~~~!!!ウソップは頭が良いなァ~~~!!」
見張り台ではウソップとチョッパーが漫才を繰広げていた。
尊敬の眼差し向けて感心するチョッパーに、ウソップがその特徴的な長鼻を得意気に鳴らして応える。
「なァにが名推理だ!!あのクソ馬鹿が迷子になってるなんざ猿でも解ける答えだってェの!!」
クソコックが甲板から身を乗り出し、如何にも人馬鹿にした様に見下す。
口から煙草の煙をプカプカ吐き出し、右手に掲げた皿にはチーズを満載して。
「誰がクソ馬鹿で迷子だよ!?くるぱー眉毛ェェ!!!」
「ふっふっふ…見縊らないでくれ給えよサンジ君!!嘗て俺はシロップ村1番の少年名探偵として近隣の島々にまで名を馳せた男!!見た目は子供!頭脳は大人!!人呼んで『江戸川ウソップ』!!真実は何時もひとォォォ~つ!!!」
「てめェ以外他に居るかってんだよ!?マリモンゴリアン!!!」
「……誰も聞いてないよ、ウソップ。」
「ナミさんもさァァ~~、あァんま馬鹿甘やかしちゃ駄目だよォォ~~!!でねェとそいつ何時まで経っても自立せずに、一生お守する羽目になっちゃうぜェェ~~!?」
「一理有るわねェ~、少しスパルタ式で臨んだ方が良いのかしら?」
「…っておいっっ!!」
「航海士さん、ログは明日の何時には溜りそう!?」
甲板からロビンが、相変らず淡々とした調子で叫び聞く。
「…そうねェ~、恐らく明日の夕方、5時ぴったりよ!!」
「名残惜しいわね…こんなに平和な街なのに!!」
「そうねェ~!!御飯も美味しかったし!!街に在るホテルも最高だったし!!何と言ってもこの素晴しい景観!!何なら1年は居たかったかしらァ~♪」
「そんなに1っ所に居たらあきちまうよ!!!また来りゃ良いじゃねェか!!!」
「ま、ルフィの言う通りだな!!平和過ぎて体が鈍っちまう!!」
「…そりゃあんたとルフィはそうでしょうけど。」
「んナミっすわァ~~んvv早く船に乗んなよォ~~vvチーズにパンにハムにソーセージにワイン!!どれも上等なの買い込んで来たんだぜェ~~vv――てめェもさっさと乗りやがれ!!勿体無くも美味い焼酎呑ませてやるぜ、このクソマリモ!!」
「んだとクソ眉毛!!?」
「ゾロもナミも早く上がって来い!!!明日の出航を祝って、今夜は宴だァァァーーー!!!!」
ルフィの雄叫びが天に轟く。
ナミが笑顔を向けながら、繋いだ手を引っ張る。
それに笑い返しながら、俺も船に乗り込もうと近付いてった――
「何処行こうってのよゾロォォ!!!」
声に驚いて、後ろを振り返る。
振り返った瞬間、また、ザーーーッ…!!!!と音を立てて雨が降って来た。
振り返ったそこには、赤のチェック柄した傘を差して、オレンジのダッフルコートを着たナミの姿。
前に向き直り見る…海に繋留されてるのは、ゴーイング・メリー号ではなかった。
イルミネーションが灯された、レプリカ木造帆船。
船に乗ってた皆の姿は、何処にも見えない。
手を繋いでた筈のナミも…掌に温もりだけ残して…消えていた。
「…あんた、何やってんのよ…!?それ以上行ってたら海落っこちてたわよっっ!!?」
右腰に手をやる…3本の刀は消えていた…身に着けてた腹巻も見当たらねェ。
緑のダウンジャケットに、冷てェ雨をたっぷり吸った黒ジーンズ…全部、元に戻っちまってる。
顔が冷てェ…体が、凍えちまいそうだ。
雨が叩き付けて、広場はびしゃびしゃに濡れていた。
「遅くにまた降るって言ったよね!!?私、言ったよねェ!!?馬鹿!!!何で1人で外出たのよ!!?方向オンチのクセして!!!どんだけ探し回ったか…お陰で観たいTV観られなかったんだからねっっ!!!どうしてくれんのよ馬鹿っっ!!!」
ナミが強く俺の体を揺さ振って来る。
濡れた顔に照明が反射して、何だか泣いてるみてェだなとぼんやり思う。
「………ルフィは……?」
――ウソップは?コックは?チョッパーは?ロビンは?…ナミは?……俺は?
「……ルフィ?コテージに残るよう言ったわよ!!この上あいつまで迷子になって二重遭難だなんて真っ平御免だもの!!…もしも0時回って、私とゾロが帰って来なかったら、そん時はフロント電話してって伝えてある…。」
「…なァ…雨……ずっと降ってたか…?さっきまで、一旦……止んでただろ……?」
空を仰ぐ……一面、真っ暗だ、星なんて1個も見えなかった。
「………何言ってんのよ…?10時過ぎ頃また降り出して…そのまま降り通しだったじゃない……。」
「……ああ……そうか……そうだったかもな……。」
「……しっかりしてよ…!!後少ししたら…私は、もう、迎えに来てあげられないんだからね…!!!」
笑って傘を差し向ける。
解れて濡れた髪が、その顔に貼り付いていた。
息が白い、触れて来る手が冷てェ…随分、長い間外に居たんだろう。
顔は笑ってても、泣いてる……寂しくて泣いてやがる…。
きっと、独り、雨ん中俺を探して泣いていた。
――あんた達2人共、迷子になって一生戻ってこなきゃいいんだ。
…………何で、てめェは……
……何で、てめェは……!!
「本当に言いたい事口に出して言わねェんだよ…!!!」
闇からざんざん雨が降る。
俺の叫びを遮るように。
見て来た全てを洗い流すように。
【その29に続】
何で私はこんな無駄に切ない話書いてんでしょう…?(汗)
済みません、意味不明にアレで恥しい話で済みません。(汗々)
取り敢えず、これにて『ゾロ編』、終了。
次回、『ナミ編』は2/7から…や、ちょっと2/1~2/3まで温泉行って来るんで。(苦笑)
【特別おまけ:その頃のルフィ】
写真の説明~、『フリースラント』~『ビネンスタッド』に架る橋、『ジョーカー橋』の下には、こんなベンチが有る。
通称『魚ッチングスポット』。(笑)
2月7日が待ち遠しいです。
でもこの時期の温泉っていいですねー。
楽しんできてね。
でもナミさんの格好に反応したり、自分の格好に違和感を感じるゾロは新鮮で笑わせていただきました(笑)
ナミ編も楽しみです。温泉いいないいな!
ああもう、あれこれ綺麗な風景の中で展開される向こうとこちらの逢瀬にドキドキしっぱなしですv(途中ゾロナミもあったし・笑)
7日のお帰りを楽しみにしていますね。
どうぞたっぷり充電して来て下さいvv
そうですねー、雪深い山奥に在る所なんで、交通が心配なんですが(汗)、行って来ます!
師匠…はい、お湯でもかぶって反省して来ます。(笑)
本当~はもっと明るく楽しい話にする予定だったんですがね~っつか、下手にストーリーモードにしちゃった事で、今纏めに苦労してるってトコです。(苦笑)
普通の世界の奴等はそれなりに普通の感覚してるって設定…だという事です。(笑)
真牙さん…どもども~♪
ねェ~?何故か無駄に切なく、何故かゾロナミ…んでも申し訳無いんすが、次回辺りから今度はルナミ的展開となる…予定。(焦笑)
まぁ、どの道曖昧でしょうが…自分が書いてるんじゃね~。(苦笑)
皆さんコメント有難う御座いました♪
んで、行って来ま~す♪
ゾロ編、しんみりと切なく終わっちゃいましたが、次へ引き摺ることなくスカッと歯切れの良いナミのレポが始まるのかなぁ?それとも・・・。次回ナミ編も楽しみでっす♪
写真。此処って、「水鳥とのふれあい」の近くですよね?
白鳥が翼を広げると、意外に大きく迫力があってビックリしました。(笑)
通称『魚ッチングスポット』。「ウォッチング」って読むんですってね。私的には「ギョッチング」と呼びたい。(笑)
お言葉有難う御座いますv
ナミ編…少~し引き摺るかもですが(汗)、でも暗く終らせようとは考えてませんので…あくまで楽しく、そんな中で少しの寂しさをっつうね。(汗)
楽しい旅であればある程、帰る時には寂しさが出て来るもので…そんな風に多分終る事になるんじゃないかな~と…もしも期待してらした通りに終らなかった場合は御免なさいです。(と先に予防線張っとく…)(焦笑)
そですそです!白鳥に餌をあげられるポイントの直ぐ横っすねーv
写真にも何羽か写ってますね。
あそこの白鳥達って、人に馴れ切ってるもんで、人見ると餌貰える思って付いて来たりします。(笑)
今回写真撮る為、ずっと橋の下通ってたんすが…お陰で白鳥ずらずら引き連れながらの移動となりましたっす…白鳥さん達、円らな瞳輝かせてずっと付いて来てくれてたのに、餌ちっともあげなくて御免ねー。(苦笑)
ギョッチング…何となくびっくりな感じがしてナイスかと!!(笑)
コメント下さり有難う御座いました~v