千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  TB&コメントにも☆

『東京五人男』

2012-09-06 22:29:30 | Movie
今年も終戦記念日がやってきた。ヒロシマ、ナガサキに原子爆弾が投下され、日本は敗戦国として、国民も国土も徹底的にうちのめされた。昭和20年8月15日。
ところが、この年、そんな状況にもかかわらず!、斎藤寅次郎監督によって『東京五人男』という映画が製作されてお正月映画として年末に公開されていたのだった。しかも、この『東京五人男』はブラック粒胡椒をちょっぴりふりかけたコメディなのだ。

戦時中は地方の軍需工場で働かされていた5人の男たちが、終戦とともに家族のいる東京にようやく戻ってきた。懐かしい我家、、、とみれば今にも崩れ落ちそうなバラック小屋。ここが昔の67年前の日本の東京かっ。どうやら家では葬儀の最中らしい。誰が亡くなったのかといぶかしむと、なんと死んだのは自分らしい。じいさんたちにまじってぼやけた自分の遺影が貧しい貧しい我家の部屋をかざっている。そうか、、、とうとう俺も成仏したか(涙)・・・、なんてわけがないっ!

登場する五人の花より男子は、横山エンタツ、花菱アチャコ、古川緑波、柳家権太郎、石田一松。
エンタツ、アチャコは、都電の運転手と車掌になった名コンビ。セリフがなくても、彼らのパフォーマンスのひとつひとつで、お笑いのセンスが一流であることがよくわかる。現代のお笑い芸人と呼ばれているひとたちの笑えない”芸”よりも、はるかにおもしろいのには実に感心した。

石田は「のんき節」を歌いながら、自転車で配給所に通う毎日。(あののんき節は、いつものんき者といわれていた私のことかいな。)お役所仕事につきものの、書類、手続きの残念ながらのんきではない煩雑さに、切実に物資を求める人には必要な配給物が届かない現状に彼は怒る。ロッパは、疎開先から帰ってきた息子のために、田舎の農家に買出しにでかけていくが、すでに米と交換した時計や着物をたっぷりともっているためにまったく相手にしてくれない農夫があるかと思うと、気の毒がって俵でお米を譲ってくれる農夫もあり。権太郎はといえば、国民酒場で働くことになったが、名前とは裏腹にごうつくばりな店主はメチルアルコールをお酒にまぜて客に売り、その一方で、金持ちや権力者にはヤミで売って私腹をこやしていた。

戦後の混乱期とはいえ、こんなことでは日本に未来はない!、と思ったのだろうか、彼ら5人組は不届きものの悪事を暴き、疲弊している庶民のためにも東京の復興をめざすようになった。

あらすじをたどると実に素朴な内容になるのだが、彼ら5人の怒れる男たちのそれぞれの持ち味がうかがえる行動とヒューマンな笑いがあかるい。斎藤寅次郎という監督は当時「喜劇の巨匠」と言われていたそうだが、それもあながち誇張ではないと思えてくる達者な芸ぶり。現代では、映画の製作技術は飛躍的に向上し、脚本、演技、脚色も洗練されている。まるでこども相手の紙芝居のような映画を観ていると、しかし、映画の原点や本質は時代の流れにゆるがないものがあると、最近、この映画だへではなく古い日本映画を観ていて感じる。

ところで、この映画を録画して鑑賞したのは、終戦当時の東京の焼け野原の映像が記録されている”映像文化遺産”としての価値があると解説されていたからである。本当にあたり一面焼け野原なのである!そこにわずかにかろうじて建っているのが、バラック小屋のようなふけば飛ぶようなあまりにも貧しく小さな家。資本家の家庭では、新品のおしゃれな犬小屋があるというのに。こんな何もない荒れ果てたところから、日本は勤勉にひたすら走り見事に復興していき、東京オリンピック、大阪万博へと高度成長期を迎えたのだと思うと感慨深いものがある。
日本は、日本人はまだまだ大丈夫。日本の底力を感じてちょっと元気になった。

昭和20年 東宝製作