千の天使がバスケットボールする

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「カッコウの卵は誰のもの」東野圭吾著

2010-12-07 22:27:47 | Book
今週号のAERAの表紙はフィギュアスケータの小塚崇彦さん。
今男子スケート選手の中でも、次期オリンピックでメダルを狙える注目の選手。彼のお祖父さまはフィギュアスケートのチャンピオン。また、両親ともフィギュアスケートの選手で、特にお父様がグルノーブル・オリンピックでは日本代表として参加。彼は所謂日本フィギュアスケート界のサラブレット。家庭環境にも恵まれているが、スケート選手としてのDNAにも恵まれていると思われる。育ちのよいお坊ちゃま風のルックスが、雑草の如くたくましく成長してきた高橋大輔選手の野性味と対照的である。両親の系列から優れたDNA(素質)をもっていると誰もが考える小塚さんと、家族からたったひとり大活躍するスポーツ選手が誕生した大輔さん。DNAも重要だが、そればかりでもないのがスポーツの世界か。

スポーツ選手がその才能を開花させるには、トレーニングや家族の理解などの育った環境も重要だが、遺伝子を研究して、そこからそれぞれのスポーツに恵まれた才能のある選手を発掘して、本人にあった訓練(調教か)をさせてオリンピック選手にさせる。一歩間違えれば、ナチズム的な優生学に傾斜しそうな危険性も孕んでいるが、こうしたことは現実的に充分に起こりうることだと考える。

元オリンピック選手だったスキーヤーの緋田宏昌にとって、妻を若くして亡くした後、父と同じく世界的なスキーヤーをめざすひとり娘の風美は生きがいでもある。幼い頃からスキーを教えてきて、今や全日本選手として期待されている。そんな父親に、スポーツ科学研究所に勤務している研究者の柚木洋輔から、運動能力の高い父と娘の遺伝子を分析してあるパターンが存在していることを確認したいという依頼がもちこまれた。柚木としては、スポーツ選手にとっては、育った環境以前に遺伝子が重要なファクターを持っているという考えがある。優秀な遺伝子を発掘できれば、後は、彼らに適した練習と環境を与えればオリンピック選手が育つというのだ。
ところが、緋田には柚木の依頼にどうしても応えられない事情があった。19年前、緋田が海外に遠征中に出産したと思っていた妻は実は流産していて、同じ病院から新生児が連れ去られるという事件があったのだった。風美を守るためにも、緋田は事件の真相を調べようとするのだが、風美を中心とした様々な思惑が浮かび上がっていく。。。

本書はDNAを問題にしながらも、東野圭吾らしくミステリーという謎解きをからめた親と子の情愛にテーマがおちつく。最近、両親の実子でないことが判明した男性と両親が出生先の東京都立墨田産院でほかの新生児と取り違えられたとして、都に計3億円の損害賠償などを求めた訴訟が起こった。結局、東京高裁は都に計2000万円の支払いを命じたが、取り違えられた事実を知って両親も男性もどんなにか衝撃を受けただろうか。とても気の毒だとは思うのだが、血が繋がっていなければ家族でなくなるのだろうか。結婚して愛情を育てて本物の夫婦となるように、DNAよりも育てられること、育てることで、親と子になっていくようにも思える。最近、すっかり売れっ子になってしまったのか、多少、安易な展開の部分もなきにしもあらずだが、彼の最大の持ち味であるヒューマン・ストーリ的な部分は決して失われていない。

■アーカイヴ
「容疑者χの献身」
「新参者」
「使命と魂のリミット」
「ダイイング・アイ」
「夜明けの街で」


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