千の天使がバスケットボールする

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「レ・ブルー黒書」ヴァン・サン・デュリュック著

2012-08-07 22:22:55 | Book
オリンピックも終盤を迎え、猛暑の日本に毎日メダル獲得の報道が届いてくる。なでしこの快進撃に続けとばかりに、サッカー男子も4強を決めた。

閑話休題。
勤務先には、2年前のワールドカップの時には、治安が心配された南アフリカまで追いかけていった猛者(♀)もいた。レ・ブルーLes Bleus。フランスのサッカー代表の愛称だそうだが、この言葉を聞いてもまるでよくわかっていないサッカー無知の私でもうっすらと記憶に残る事件があった。2010年6月20日、その南アフリカのナイズナで前代未聞の事件が勃発した。ワールドカップの真っ最中の正念場で、選手たちがトレーニングをボイコットするという暴挙にでたのだった。きっかけとなる前哨戦は、17日の試合中のハーフタイムにレイモン・ドメネク監督をニコラ・アネルカ選手がロッカー室内で汚い言葉で侮辱にはずまる。通常は伏字で報道している罵詈を「レキップ」にそのまま報道され、同日中にアネルカは代表追放処分となった。1998年に優勝、2006年には準優勝に輝いた栄光のレ・ブルーにとって、ここまでの一連の事件だけでも充分にフランス人の理解を超えた衝撃的な”デキゴト”だったのだが、モグラ(密告者)探しに躍起になる彼らはトレーニングのボイコットというありえないチーム・プレーを行うことによって、フランス代表は空中分解して瓦解した。

その日、トリコロールが哭いた―。
国辱もののフランスサッカー界に残された汚点。その日、いったいレ・ブルーでは何が起こり、何が起こらなかったのか。「レキップ」誌で20年以上にも渡り報道してきた第一人者による事件の真相にせまるノンフィクションが本書である。

エレガントなプレーで人々を魅了するが、影響力絶大なオレ様ジネディーヌ・ジタン。頭突きをした人、、、と言った方が私にはわかりやすいが。長期政権で疲弊して統率力がなくなっていったドメネク監督、役不足のキャプテンを務めるパトリス・エバラ、ティエリー・アンリ、フランク・リベリらの行動や幼児性を、著者は容赦なく裸にしていく。痛烈なユーモアさえただようフランス人らしい冷静な皮肉に、実はサッカーに対する著者の愛情が感じられる。

サッカーというフィールドではあるが、そこには現代のスポーツ・ビジネスの真実が見えてくる。所属しているビッククラブでは、億単位の報酬をえる模範的な従業員が、ひとたび国を背負うとゴーマニズムを通そうとする有名選手たち。ファースト・クラスのうまみを知り尽くした協会のお偉い面々や指導力が失墜しても地位に固執する監督。権謀が蠢き、嫉妬や打算がうずまく滑稽でダークな世界。プロのサッカー選手が華麗で知性的なプレーをする人とは思えないくらい、実に幼児じみた生態の野蛮人の集まり・・・のように思えてくる。王国は、王国になればいつかは崩壊するものであり、そのきざしは少しずつ、しかし、確かに芽生えていたのだった。サッカーだけではないが、スポーツビジネスには巨額なマネーが動く。今さらスポーツマンシップなどと言いたくはないが、蝕まれた世界はいつかは衰退していくものだ。そして、ここに書かれたかって最強軍団と賞賛されたにも関わらず、崩壊したフランスのビジネス事情は特別ではない。

日本のサッカー男子は4強に入る快進撃だった。快挙と言いたくなるが、日本のプレーの質の高さから、世界ではこの成績を当然と受けとめられているようだ。
「本当に良いチームで、労を惜しまない勤勉さは見事だ。彼らはこの大会の評価基準であり、我々が追いつかなければならないスタンダードだ」。
英国代表の中心選手のクレイグ・ベラミーは、FIFAの公式サイトでこう賞賛していた。彼のような知性的な感性が、レ・ブルーには欠けていたのではないだろうか。

くだんのボイコットした練習場は、ホテル側が元はクリケット場だったのをレ・ブルーのために整備して待っていた施設だ。何十キロ四方にも渡る広大な私有地にもかかわらず、FIFAが負担した。その場所は「フールド・オブ・ドリームズ」と名づけられていた。