千の天使がバスケットボールする

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渡辺玲子 無伴奏ヴァイオリン・リサイタル

2012-07-19 22:02:23 | Classic
昔のコンサートや演奏者の音楽批評を読んでいると、よく”バリバリ演奏する”という表現に出会う。
比較的、女性のヴァイオリニストに使われている感もするが、中でも、30歳で飛行機事故によりストラディバリウスを抱きながら亡くなったジネット・ヌヴーがこの言い回しの代表格であろうか。

さて、渡辺玲子さんの無伴奏のみを集めたヴァイオリン・リサイタル。会場は、サントリーホールのブルーローズ。久々に小ホールのこの部屋に入ると、隅々まで並べられたその椅子の数に思わず目が点になった。これまでブルーローズで聴いてきたコンサートでの席数よりも、2倍か3倍くらいもありそうだ。こんなにたくさんの椅子がご出勤することは、この部屋でもそうそうないだろう。”旬”という時期は過ぎたかもしれないが、渡辺さんがまさに油ののったヴァイオリニストとして人気の高さがうかがえる。そして、人気だけでなく、実力の高さも音楽ファンの間では定着しているという評価のあらわれだろう。

バッハのパルティータ第1番。ソ、レ、シ、ソの4つの音の重音ではじまるこの曲を聴きながら、あっ、”バリバリ演奏する”というのは、こういう演奏なのかと、瞬時に胸におちた。たっぷりとした豊穣な音の男前の演奏なのである。使用楽器は1736年製グァルネリ・デル・ジェス「ムンツ」とプロフィールには掲載されていて、やはりグァルネリかとため息をしながら、なんとなく新作ヴァイオリンのような気もしていたのは、それだけ、音に若い衆のような勢いがあったからだ。湿度が高いせいか、第1楽章では音程がなかなかさだまらないようで、少々ドキドキしてしまった。

続いて3番は、軽やかで優雅なバッハではなく、深遠で重く、いかにもバロック時代の雰囲気が伝わってくる。渡辺玲子さんの真骨頂であろう。
後半のヒンデミットは、「SOLO 渡辺玲子」のCDのタイトルにふさわしく、超絶技巧のこの曲を知的にアプローチしていく。音楽高校を中退して、単身で渡米、ジュリアード音楽院に全額奨学生として留学した群れることのない渡辺さんらしい選曲だと思う。
愛らしくて私の大好きな曲「夏の名残りのバラ」も、美しく可憐なバラな花束ではなく、渡辺さんの演奏にかかると堂々とした大輪の1本の真紅の薔薇になる。

時間の関係でCDを買えなかったのが、心残りだ。ついでながら、渡辺さんはスタイリッシュな方で自分に似合う服装と髪型をよくご存知で、ステージ衣装も7月らしい青みがかったグリーンで、小柄な体によく映えていた。

------------------------ 7月19日 サントリーホール ブルーローズ -------------------------

バッハ 無伴奏ヴァイオリンパルティータ第1番 ロ短調 BWV1002
バッハ 無伴奏ヴァイオリンパルティータ第3番 ホ長調 BWV1006
ヒンデミット 無伴奏ヴァイオリンソナタ Op.31-1
エルンスト 多声的練習曲 第6番 「夏の名残りのバラ」
エルンスト シューベルトの「魔王」による大奇想曲 Op.26

■アンコール
バッハ 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番より「サラバンド」

渡辺玲子(Vn)