千の天使がバスケットボールする

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『愛する人』

2011-02-04 23:30:37 | Movie
今、ハリウッドで最もセクシーな女優と言えば、アンジェリーナ・ジョリーではないだろうか。夫のブラピが普通のおじさん路線に下降しつつあるのに、妻は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の親善大使を勤めながら、実子が双子を含めて3人、人種が違う養子が3人と合計6名のこどものおかんである。超多忙な身分で6人ものこどもをどうやって育てているのか、その秘訣を知りたいものだが、結婚、離婚をくりかえすのもハリウッド女優。万が一、ブラピと離婚という事態になったら、実子はともかく養子のこどもたちはどうなるのだろう、、、とこの映画を観て不図考えてしまった。

主人公の51歳になるカレン(アネット・ベニング)は、14歳の時に妊娠するが、母親の反対にあい、出産した娘を教会を通じて手離してしまう。その後、カレンは誰とも結婚せず、老いた母親の介護をしながら病院で勤務する。カレンは50代になっても美しい女性なのだが、狷介なタイプで好意をもってくれた男性ともうまく人間関係を築くことができない。本来のカレンの性格を閉じ込めているのは、娘を手離したことへの罪や後悔、母への恨みなどで複雑な内面を抱えている。映画では、カレンと同じようにミドルティーンで妊娠してしまった現代の少女たちが登場し、出産後に養子に出す里親を選ぶ場面があり、日本の事情とは異なる米国の養子縁組制度をわかっていく。

37歳のエリザベス(ナオミ・ワッツ)は、有能な弁護士として着々とキャリアを築き上昇志向をかなえていく。クールに仕事をすすめる彼女は、家族もなく友人もつくろうとしない。男性とのSEXも恋愛の先の行為というよりも、性的に満足するためにだけある。生涯独身を貫くつもりの彼女は、こどもを望まないために避妊手術もしていたのだったが、思いもかけずに妊娠してしまう。そして、ルーシー(ケリー・ワシントン)は、裕福な夫と順調に家庭を営んでいるが、こどもができないことが最大の悩み。どうしてもこどもが欲しい彼女は、夫とともに教会に行き養子の斡旋を依頼するのだったが。。。

映画を観始めて、すぐにカレンの娘がエリザベスだと誰もが気がつくだろう。ふたりの人生は一度も交差することなく、娘を知らぬ母として、そして母を知らぬ娘として、それぞれに不幸で哀しみとともに人生が流れていく。母と娘の共通点は、他者をよせつけず人間関係を築けないこと。その原因に、母と娘の理不尽な別離にあるのだが、カレンが怒りをぶつけたい対象の母はもうすっかり老いてしまい、介護が必要な弱い人となってしまったことや、エリザベスが本音をぶつけられる養父母も亡くなり、実母もいない状況が、益々ふたりの心をかたくなにしていく。

ノーベル賞作家の息子であるロドリゴ・ガルシア監督は、中年のラテン系のりっぱなおっさんなのだが、日常生活からふたりの女性の機微を繊細に描いていく。女を描くのがうまい監督だ。エリザベスのSEXも自立した女性の性的快楽にみえて、実は、男には頼らないが心が砂漠のように愛情に乾いていて、自覚しないまま乾きを癒す水を欲するような行為だと感じていく。原題は文字通り「MOTHER AND CHILD」になるのだが、米国の事情には和風”母と娘”には多少の違和感があり、他人を自分の中にふみこませることを拒否していた母と娘が、少しずつ変化していくところが観どころなところから、むしろ「愛する人」という邦題が一番しっくりする。3人の女性を演じた女優がそれぞれに美しいのだが、黒人のルーシー役を演じたケリー・ワシントンはなかなか魅力的だった。姿勢、服装から、健康的で自分をよりよく見せるポシティブな若い女性を好演していた。

女性映画と一言で敬遠せずに、男性にも鑑賞していただきたい映画だ。ところで、監督の次回作も19世紀、アイルランドのダブリンを舞台に生きていくために男装して働く女性の物語のようだ。

監督:ロドリゴ・ガルシア
2009年米国・スペイン製作

■シンガポールから、現在カルフォルニア在住の有閑マダムさまの記事です。⇒『愛する人』
この映画を全く異なる視点で感想を述べられていて考えさせられました。