千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  TB&コメントにも☆

「クラシック音楽は『ミステリー』である」吉松隆著

2010-03-02 23:11:09 | Book
冬季オリンピック開催中は、あちらこちらで「カラフ王子と中国の王女の物語」をオペラ化したプッチーニの「トゥーランドット」の名曲中の名曲!、『誰も寝てはならぬ』(Nessun dorma)のアリアを耳にした。この音楽を聴くと、パバロッティの王子役にしては巨体の体ではなく荒川静香さんのイナバウアーが脳裏に浮かぶのは、逆らえない時代の波だろうか。
ところで、romaniさまの「ETUDE」の記事で見つけたのが、作曲家の吉松隆さんの本書「クラシック音楽は『ミステリー』である」。あのromaniさまがあまりにもおもしろくて二回も読んだとおっしゃる本であれば、早速、私めもお試ししなければ、、、と思うのである。

吉松探偵がミステリー解明に挑んだ事件簿は5つ。中でも一番頭を使って読み込まなければついていけないマニアックな謎は楽譜に仕込んだ暗号のプロファイリングなのだが(さわりがromaniさまの記事に掲載あり)、それは兎も角、かのショスタコーヴィチが「ファースト」の音符に、実は密かに恋をしていたと思われる女性ピアニスト兼作曲家の名前を暗号化していた疑惑事件で、ご友人の”それはムッツリすけべという奴”という感想を読んで、ついつい笑ってしまった。確かに、ショスタコーヴィチのご面相は女性の目から見てもはっきり言って”ムッツリすけべ”そのまんま・・・だよね。また、モーツァルト「ドン・ジョバンニ」殺人事件の吉松探偵の鋭くも深い考察ぶりは、金田一探偵にも負けず、その話芸はもはや名人芸。作曲家と言えば、池辺晋一郎さんも親父ギャグの駄洒落はブーイングだが文章もうまく、N響アワーの司会者である作曲家の西村朗さんもなかなかお話上手。音符を組み立てる人は、言葉の組み立ても上手なのだろうか。作曲家と言えば、これまであんなに複雑でしかも美しい音楽をつくる凡人にはその頭の中身を想像できない天才とばかり思っていたのだが、現代の作曲家は意外と?作品とは別にお茶目な人柄が想像される。

中でも最も私的にウケタのは、最後の「トゥーランドット」への考察に及んだ王子calafのプロファイリングである。

・誰も解けなかった3つの難問をすべて解いたのだから、少なくとも「頭は良い」
・しかし、皇女に人目ぼれをして舞い上がったあたりは、「血の気」が多い性格と言わざるをえない
・父王や召使、三大臣たちに反対され諭されても、全く聞き耳をもたずにやると決めたらテコでも動かないあたりは相当「頑固」である
・父や召使に再会し、謎を解いた状況で、調子にのって自分の名前に命をかけるあたり「お人よし」と言えなくもない

大変申し訳ないのだが、私はあるcalafさまのお顔が浮かんだ。そして、もしかしたら吉松探偵のcalaf王子性格分析は、けっこう当たっているかも、、、と思った次第である。
最後に吉松探偵は、父や自分に献身的に尽くした奴隷リューが自分の名前を隠すために命を捨ててまで守ってくれた現場に立会いながら、それはそれとして一目ぼれをしたトゥーランドット姫に邁進するcalafに、「人間的にどうよ」と感じているそうだ。

著者の吉松氏は、坂本教授のように幼い頃から音楽の英才教育を受けて藝大に進学したエリート?作曲家とは異なり、一般の大学に進学したもののそのままフェードアウトして作曲家として今日の地位を築いた異色のタイプでもある。もっとも過去の偉大な作曲家には異分野参入して大成功した例は推挙にいとまないのだが、著者の”成り上がった”立場の複雑な心境がのぞけるミステリー追求シーンもある。クラシック音楽は難しいとよく言われるが、実際、それは知れば知るほどわかってくる奥の深さだと思う。だが、世間的な高尚なものというレッテルは、本書を読めば少し違うかもとお気づきになるのではないだろうか。一度は本書で吉松探偵の話術にのってみては如何。損な既成概念を壊すためにも。