千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  TB&コメントにも☆

「生命保険のカラクリ」岩瀬大輔著

2010-03-21 16:19:50 | Book
今さら「セイホ」の本である。著者の岩瀬大輔氏は、74年ぶりに独立系セイホ会社「ライフネット生命保険株式会社」を設立した76年生まれの若造。しかし、この若造がただ者ではないのは、大学在学中にすでに司法試験に合格。ま、ここまではそこそこいる。せっかく司法試験に合格しながらも著者は、卒業後は外資系のコンサルティング会社に入社し、その後ハーバード・ビジネス・スクールにご留学。という嫌味なくらいの類型化したエリート街道を驀進しつつ、最後の決め技は日本人で4人目だというBaker Scholarを受賞する。そんな彼が参入したベンチャー企業の業界が「ザ・セイホ」か。(ちなみにこの世界共通言語の「ザ・セイホ」の発信者は、同社代表取締役社長の出口治明氏だそうだ。)ネットというさして目新しくもないツールを使って、そんな超優秀なビジネスマンがチャレンジする業界が旧態依然としたセイホとは。今さら?
本書を読んでまいったのは、疑問をもちつつも安易にとりあえずの契約をしていた私が、”今さら”本書でご教示いただいた生命保険のカラクリの実態である。そして、旧態依然としたマンモスな今さらの業界だからこそ、新規参入のビックチャンスがあることを。

現在、勤勉で真面目な国民の日本人の9割の世帯が、生命保険に加入している。この加入率は世界一の裾野の広さである。もしかして、あのユニクロのヒートテック保有率を上回るのではないか。国民が払っている年間保険料の総額は40兆円。これは我が国のGDP550兆円の7~8%に該当する。この数字だけで、私には充分にインパクトがあった。小売業全体の売上が年間133兆円だから、日々のお買物の3分の1を生命保険料として私たちは支払っているのだ。確かに毎月の引き落としだからそれほどの実感はなかったが、一日にならすと毎日毎日パン代をはるかにこえる金額をお財布から支払うことになる。住宅に次ぐ、うっかりすると1000万円近いお買物になってしまう人生で二番目の高額なお買物にも関わらず、生保レディのおばちゃんにすすめられるがまま、おされるがままに加入してきた生命保険・・・、そんな方が多いのではないだろうか。日本の生命保険は、義理(G)・人情(N)・プレゼント(P)からなる「GNPセールス」と呼ばれているそうだ。 著者自身の亡くなったおばあちゃんも、そんなセイホ・レディのひとりとして働き、病弱な二番目の夫やこどもたちを養ってきた。

かっては、戦争で夫を失った女性や離婚や死別によって寡婦となった女性がこどもを養える職業があまりなかった。専業主婦を主体とした日本の女性の社会進出の遅れが、生命保険の加入をすすめ、欧米には見られない「女性セールスを中心とした販売モデル」がそれを後押しした。離職率50%ながらも、ある意味、女性の雇用の場を提供したセイホの役割は、それはそれで社会に貢献もしてきたと思う。しかしながら、3年前に発覚した大手生保会社各社の保険料不払い事件は、生命保険の根源をゆるがす不祥事!高い離職率の営業職員に、厳しいノルマを課せて誰も理解できないような複雑な商品を押し込む業態自体にそもそも無理があると著者は述べる。つまりそこには、非効率な市場があるということだ。市場のゆがみはいずれ正される、合理的な経済人はグローバル化をそう考える。

もともとこの国の公的医療保険は充実しており、民間の医療保険はそれを補完できる範囲で、また不幸にも稼ぎ頭が亡くなっても「遺族年金」も支払われる。安くてお得な保険はありえない、と率直に述べる著者のライフネット生命は、付加保険料率を全面開示をしている。生保カイシャからいただくグッズを見る度に、どれだけのオマケを保険料で負担しているのだろうという疑問も本書で解決できる。著者は賢く保険に入る7か条を挙げている。

1死亡・医療・貯金の三つに分けて考えよう
2加入は必要最小限、を心がけよう
3死亡・医療・貯金の三つに分けて考えよう
4医療保障はコスト・リターンを冷静に把握して、好みにあったものを選ぶ
5貯蓄は金利が上がるまで、生保で長期の資金を塩漬けしてしまうのは避けよう
6すでに入っていても「解約したら損」とは限らない。見直そう
7必ず複数の商品(営業マンではない)を比較して選ぼう


最後に本当に賢い消費者は・・・、最も私が本書で衝撃を受けた方法が最後のページに記載されている。
ご興味をもたれた方は、文藝春秋社の協力をえて、4月15日までPDFが無料で全文公開をしているのでこちらをご参照ください。今さらが、本当は遅かったこともわかる。