トリエステを初めて訪れた二十年前に読んでいったのが須賀敦子さんのエッセイ「トリエステの坂道」だった。そこに出てくる彼女が泊ったホテルに一週間滞在しても、その当時そこに書かれていた事をそれほど理解していなかった。
彼女がミラノに住み、夫の属する団体を通じて、ユダヤ人やウンベルト・サバに興味を持ち、彼が住んだ港町トリエステを訪れた時の話なのである。
サバという詩人は今でこそイタリア屈指の詩人とされるが、第二次大戦後の晩年までそれほど評価されてはいなかったようだ。評価されない作品を造り続け、出版し続けるというのは辛いことだ。彼が店主をしていた古本屋は今でも古本屋として存在する。トリエステを訪れるならそこは一度訪れておいて損はない。
昨夜からずっとこの地方で「ブラ」と呼ばれる強風が吹いている。そのおかげでからりと晴れあがった11月の空。
19世紀に整備された港に面したエリア ヴェルディの死に際しその名前が冠された劇場内装はミラノのスカラ座を設計したのと同じ人物が手掛けているのだそうだ。ミラノのスカラ座が爆撃されたのにくらべこちらはオリジナルを見ることが出来る、と、ガイドさんがほこらしげに語る。
整然と区画された一角にサバの店はあったこの場所を探しにやってきた須賀敦子さんもこんな風にみていたのだろう。
また、二階に住んだアイルランド人作家ジェームス・ジョイスも同じ視覚を持ったにちがいない。ジョイスはサバと一つ二つしか年齢差がない。サバよりも少し早く名声を確立させたジョイス。二人にどんなかかわりがあったのか。「サバは自分の作品をジョイスに評価してもらって、とても勇気づけられたそうよ」と、現地ガイドさん
すぐ近くで散歩するサバに出会った かれもこんな「ブラ」の吹く日に、身を縮ませて歩いていたのだろう。
町並みの間から、サン・ジュスト聖堂がある丘が見える港へもどるともっと風が強くなった
**
今日はこれからイストラ半島へ向かい、トリュフ農家で昼食をいただく予定(^^)