辺見庸『もの食う人びと』共同通信社、1994年
著者はもちろん作家ですが、この本を読んで同時に冒険家のように思いました。好んで危険なところに出向くからです。
バングラディッシュ最南端のロヒンギャ難民キャンプ、ミンダナオ島カガヤンデオロ市から南東のキタンラド山中、ブランデンブルク刑務所、カトウィッツ郊外のビエチョレク炭鉱、ソマリアのモガンディシオ、クロアチア共和国ザグレブ、ウラジオストクの艦隊基地、チェルノブイリ原子力発電所等々、といった具合です。
世界中の「食」を体験したルポルタージュが本書です。この旅の動機を著者は次のように書いています、「私は、私の舌と胃袋のありようが気にくわなくなったのだ。長年の飽食に慣れ、わがまま放題で、忘れっぽく、気力に欠け、万事に無感動気味の、だらりとぶら下がった、舌と胃袋。だから、こいつらを異境に運び、ぎりぎりといじめてみたくなったのだ。この奇妙な旅の、それが動機といえば動機だ」と(p.7)。
ダッカの残飯、ピター、猫用缶詰、ソムタム(タイ独特の大衆食品)、キャッサバ、ジュゴンの歯の粉末、スズメ、フォー(ベトナムのウドン)、バインザイ、ドイツの囚人食、ドナー・ケバブ、サチカオルマ(唐辛子、タマネギで味付けした羊肉の鉄板焼き)、ボグッラッチ(ポーランドの田舎スープ)、旧ユーゴ難民向け援助食料、アドリア海のイワシ、コソボの修道院の精進料理、聖なる水、ソマリアPKO各国軍部隊の携帯食、ラクダの肉と乳、インジェラ、塩コーヒー、バター・コーヒー、マトケ(料理用バナナを葉で包んで蒸しマッシュ、エンバ[ソース]をつけて食べる)、ロシア海軍の給食、チェルノブイリのボルシチ(汚染食品)、ラプーフ(フキ)、択捉留置場のカーシャ、ウハ・スープ、等々。
文章は、簡潔、豪胆、直截。鋭利な言葉の矢が、「世界の各地で起こっている苛酷な生活」に対しての感性がすっかり錆びついてしまっている読者(わたし)に向かって飛んでくるかのようです。
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